今回は湿式分級 Hydraulic Classification について取り上げます。これまた粉体工学用語辞典から引用してみます。用語辞典では Wet となってますが、水を強調するのであれば Hydraulic となるんでしょうね。下記のとおり、気体(大抵は空気)中で分級を行なうのが乾式分級で 例えばサイクロンが有りますね。一方、湿式分級だと単純な沈降槽やスピッツカステンなどが有りますね。んで、分級ってのは 粒子径や密度によって分離する事ですね。
ここでは、理想的連続沈降槽を想定して いくつか計算してみます。
■ 湿式分級 Wet Classification
”液体の中で行う分級操作で,気体の中で分級を行う乾式分級の対語。液体には水が用いられることが多い。広い意味では湿式ふるい分け(湿式篩分け),浮選選鉱,重液選鉱なども含まれるが,通常は粒子の流体力学的挙動の違いを利用する湿式流体分級を意味する。液体の種類や添加する分散剤の選択によって,乾式分級よりも粒子がよく分散した状態で分級できる利点がある。分級操作の前後が乾式プロセスである埸合には固液分離や乾燥に余分なコストがかかる”
実務でも微粒子製造プロセスにおける湿式分級について検討した事が有りますね。その時は、回分の湿式分級でしたね。粒度分布の有る原料を分級処理して、所望の粒度の粒子を取り出すと言うものでした。ラボ用分級機を設計したり、それを使って分級したら どれくらいの収率になるかとか、いろいろ検討しましたね~。まあ、量産化は出来なかったんですけど・・・。
理想的 連続沈降槽 Ideal Continuous Sedimentation Tank
今回考えるのは"理想的”な連続沈降槽なので、槽内の流れは 全くの水平でかつ均一であるとします。また、粒子は自由沈降するので 粒子の沈降状態は、静止液中の場合と全く同じとなります。
✔ 沈降槽 仕様 Sedimentation Tank Spec.
沈降槽の構成は下図のようになりますね。角槽なので長さ L、高さ H、幅 W となります。ここに流量 Q [m3/s] で液体(水) を流します。 槽内には水平で乱れの無い均一な流れが形成されるとします。なので、平均流速 V [m/s] は槽断面のどこでも同じですね。槽の入口と出口には、一応 整流板が有りますね。何も無いと、水面付近だけを流れて 断面内に速度分布が形成されてしまいます。まあ、表面流分級機と言うのも有りますが、水面近傍だけが分級に使用されるので 同じ処理量であれば 分級機が大型化しますね、多分。
✔ 分離性能 Separation Performance
で、点 a から流入した粒子がちょうど 距離 L[m] の所で槽底部で捕捉されたとします。この時の 粒子軌跡は 点 a と 点 d を結んだ直線(赤色の実線) となります。 これに対しては式①が成立しますね。また、式②は体積流量Q についての式で、槽の断面積に平均流速を掛け算したものです。式①と②を組み合わせると 式③が得られますが、v0 は限界沈降速度ですね。この速度以上の沈降速度を持つ粒子は全部 分離されますね。じゃあ 限界沈降速度よりも小さい沈降速度を持つ粒子はどうなるかと言うと、捕捉されずに流出しますね (オレンジ色の破線)。で、この破線を傾きを保ったままで グイーっと 点 d まで平行移動させると (オレンジ色の実線) 、点 b が出来ますね。
そして、ある粒子径における分離係数 f は 式④によって計算されます。線分ac に対する 線分bc の割合なんですね。これは限界沈降速度に対する 沈降速度の割合で、結局 限界粒子径の2乗に対する 粒子径の2乗の割合となります。
とまあ、こんな感じで槽のサイズと体積流量のみから限界沈降速度は分かりますが、限界粒子径の値は不明ですよね。なんで、単一粒子の沈降速度式である Stokesの式 (式⑤) を使って、限界粒子径を求める式⑥が得られますね。
計算例 1. example 1.
✔ 限界粒子径 Critical Separation Diameter
限界粒子径と沈降槽 サイズについて計算してみた結果を下図に示します。式⑥からも分かるように、粒子・流体物性が一定で 流量も一定であれば 限界粒子径を左右するのは 槽長さ L と幅 W となります。両者の積である 投影面積 A と考えても良いですね。以下の条件では、限界粒子径は 50 [μm] と言った感じでしょうか。これよりも更に大きくしても 限界粒子径は頭打ちとなりますね。また、槽幅W を 2.0 [m] として槽長さ L を計算してみたのが下段のグラフです。長さとしてはこんな感じでしょうか。
✔ 沈降槽 サイズ
計算例 2. example 2.
前述の計算例では、沈降槽のサイズと限界粒子径との関係を計算してみました。まあ、それだけだと面白く無いので 参考書籍に載っていた例をご紹介しておきます。
✔ 前提条件
ある粒子径分布を持つ粒子群を分級処理する時、粗粒部(底部) と微粒部(溢流部)にどのように分かれるかを計算します。粒子径分布は下図のとおりで、残留百分率曲線となっています。その他の条件は以下のとおりです。
- 粒子密度 2650 [kg/m3]
- 粒子濃度 52.0 [wt%]
- 限界粒子径 347 [μm]
- 粗粒部濃度 74.0 [wt%]
- 分離係数 f = (dp/dpc)^(3/2)
実際の計算では、限界粒子径以下の粒子径をいくつかに分けて、その粒子径ごとに分離係数を用いて除去率が得られます。これで、その粒子のどれくらいが 粗粒部・微粒部に行くかを計算します。また、単純な沈降量に加えて、液中に懸濁している粒子についても考慮します。沈降粒子間には液があって、その液中にはオーバーフローと同じ量の粒子が含まれているものと考えます。とまあ、詳細は端折りますけど そんな取り扱いをする訳なんですね。
✔ 計算結果
結果は以下のとおりですね。微粒部の分布を見てみると 粗粒部がカットされているのが分かりますね。限界粒子径が 347 [μm] なので、それ以上の粒子はスパッと無くなってますね。粗粒部の分布については、本来であれば粒子径の大きな部分についてもプロット出来るはずですが、計算は限界粒子径以下についてのみ実施しているので 下図のようになっています。原料粒子群については、元々の分布が与えられているんでキチンとプロット出来ますね。
また、全体のバランスを見てみると 供給された粒子 100 [g] のうち、粗粒部に分離されるのが 67.02 [g] となり、微粒部に分離されるのが 32.98 [g] となります。この数値には少しカラクリがあって、単純に分離係数 f のみから計算すると 粗粒部は 55.85 [g] となり 微粒部は 44.15 [g] となります。この違いは何かというと、粗粒部において粒子間隙の液中に存在する粒子に起因しています。まあ、一緒に持って行かれてしまうんですね。まあ、結構な量ですよね。こういうのが有るんで分級効率が影響を受けるんだろうなと。まあ、確かにデカい粒子がグイーっと沈降していく際に、その近傍の小さい粒子が捕捉・同伴されて一緒に沈降してしまうってのは有り得るんだろうな~と思いますね。
まとめ Wrap-Up
で、粗粒と微粒の分離が大体終わった時点で、今度は流速を上げますね。すると、欲しい粒子が オーバーフローしてきますんで、それを捕集します。1回の処理でオーバーカットとアンダーカットが出来るんですね。何ですが、処理にすご~く長い時間が必要なんですね。数時間レベルでは無く、数日とかのレベルですね。なので、1回の処理に1週間とか掛かってましたね。まあ、数十ミクロンの粒子であれば 沈降速度は 毎秒 1ミリ も無いので流速もそうなりますね。となると、非常にゆっくりとした流れになるんで発達するのにもすご~く時間が掛るんですね。
参考文献・書籍
- 「化学工学 II」 岩波書店 1963年刊
- 「改訂6版 化学工学便覧」 丸善 1999年刊
- 「改訂 四版 化学工学便覧」 丸善 1978年刊
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