化工計算ツール No.63 煙突・排気筒 Stacks

 今回は煙突・排気筒について取り上げます。まあ、ケミカルプラントであればスチームボイラーとか熱媒加熱炉が有りますが、そうなると煙突とか排気筒がドカーンと建ってますね。まあ、高いので目立ちますよね。これまでに いくつも煙突を見てきましたが、まあ自分で設計する事は無かったですよね、さすがに。ボイラーとか加熱炉の本体は専門業者が設計して建設しますが、煙突はそれに付随して設置されますよね。とは言っても、「ここに煙突を設置したら排ガスは建屋に影響するかな? 」とかは検討した事が有りますね。そんなに大きくは無い 熱媒加熱用のガス焚き貫流ボイラーでしたけど。また、重油焚き熱媒ボイラーとかもいくつか見たことが有りますが、ボイラー本体の上に煙突が直接設置されているタイプで これはこれでデカいですよね。

そんなこんなで、今回は煙突内排ガスの温度変化を計算し、その結果に基づいて通風力を求めてみたりしようかと。





煙突通風力  Stack Draft

加熱炉や燃焼炉では燃料を継続的に燃焼させる為に、まずは必要な空気量を流入させ、かつ発生した燃焼排ガスを煙突から排出させる必要が有りますね。で、その為には 煙突内の流動抵抗に打ち勝つだけの通風力が必要になります。特に自然通風の場合には、流動抵抗 < 通風力でなければ 正常な運転が出来ませんね。


✔ 通風力 計算式 Stack Draft 

煙突の自然通風における通気力は、排ガスと外気との密度差に起因する浮力によって発生します。式①で計算できますが、この場合の通気力の単位は [mmH2O] となりますね。密度と高さを掛け算すると その単位は [kg/m2] となりますが、これは [mmH2O] と同じですね。式②は 重力加速度を更に掛け算したものですが、これは [Pa] ですね。これは静水圧の計算式と同じですね。



✔ 排ガス温度 Gas Temperature

式①と②には密度が含まれていますが、排ガス組成が分かっていれば分子量が計算出来ます。気体の状態方程式 PV=nRT からガス密度が計算出来ますが、圧力と温度が必要ですね。圧力はほぼ大気圧として良いですね。それよりも影響が大きいのは温度ですね。なので、排ガス温度を計算して求める必要があります。

で、以下の式③で計算出来ますね。これは 投稿 No.4 「物体の冷却 媒体温度一定」で取り上げた式と同じですね。煙突の微小高さにおける熱損失を考えて、それを煙突全体で足し合わせれば 全熱損失となるので、その結果としてガス温度が求められますね。そして、排ガス 入口温度と出口温度の平均が 式④から計算されます。







計算例  example


✔ 計算条件


んじゃ、早速計算してみますが 煙突 仕様と排ガス条件は以下のとおりです。

  • 煙突 内径     500 [mm]
  • 煙突 高さ     5 ~ 30 [m]
  • 保温材       無し、有り 30[mm]
  • 排ガス       分子量 29 [g/mol]
  • 排ガス 入口温度  250 [℃]
  • 排ガス 流速    5 [m/sec]
  • 大気圧       101.3 [kPa]
  • 外気温度      15 [℃]



✔ 計算結果


まずは排ガス温度ですが、下図 上段グラフです。当然ですが、煙突が高くなれば放熱によって排ガス 出口温度は低下します。それと、保温材の効果ですが まあ 30[mm] ほどではそれほどでは無いですね。で、入口温度と出口温度との平均値から密度を求め、それを使って通風力を計算しますね。平均温度とすると、保温材有無の効果は更に小さくなりますね。

また、通風力は以下のような結果となります(下段グラフ)。通風力は煙突が高くなれば増加しますね。で、保温材の効果はやはりそれほどでは無いですね。ついでに煙突の圧力損失も計算していますが、煙突が高くなれば (=長い) その分圧力損失は大きくなりますね。ですが、結果を見る限りでは 通風力 > 圧力損失なので問題は無いですね。



✔  必要通風力

まあ、煙突の通風力については前述のように計算出来ますが、煙突自体の圧力損失はそれほど大きくは無いです。で、それ以外にも圧力損失の発生源があるんで それらがどれくらいなのかを見てみます。参考書籍は 「化学プラント建設便覧」です。それによれば以下の圧力損失を考慮する必要が有るようです。

  • バーナー圧力損失      6 ~ 10 [mmH2O]
  • 対流部加熱管群 圧力損失           5 [mmH2O]  裸管の場合
  • ダンパー 圧力損失           2.5 [mmH2O]  全開時
  • 煙突出口 速度損失       1 ~ 3 [mmH2O]


圧力損失を全部 合計すると、14.5 ~ 20.5 [mmH2O] となりますが、この値は 煙突高さ 30[m] における通風力 計算結果とまあ同程度ですね。とまあ、この辺りはボイラー屋さんがきちんと検討してくれるんだろうなとは思いますね。


まとめ

煙突の通風力について計算してみましたが、十分な通風力を有する様に煙突高さを決定する必要がありますね。さすがに低すぎる煙突ではアレですね。とは言っても、自然通風では無くて、押込み/誘引送風機などが設置されているのであれば この限りでは無いですね。となると、煙突高さは別の方法で決定されます。参考書籍には、大気汚染防止法による計算法や建築基準法による煙突高さ 計算法が有りますね。また、煙突にも慣用流速が有って 4 ~ 8 [m/sec] となるように内径を決定する事も出来ますね。

余談ですが、煙突では無いですが 似たようなものにフレアスタックが有りますね。オフガスを燃焼させる煙突ですが、麗水コンプレックスにはデカいリファイナリー Refinery (石油精製所) が有って、何本かこれまた高いフレアスタックが有りましたね。で、時々 ものすごい勢いで燃焼させてる時が有ったんですね。冬だと朝の出勤時にはまだだいぶ暗いんですが、フレアスタックの炎が辺りを照らすぐらいに燃えてるんですね。音も結構しますね、部屋の中に居ても分かるくらいにゴゴゴーっと。最初は面食らいましたけど、慣れると 「あ~、また燃やしてるな~」くらいに思ってましたね。で、フレームの色は大抵 明るいオレンジ色だったんですが、炭化水素の不完全燃焼なんですね、多分。まあ、リファイナリーのオフガスなんで そうなるんでしょうけど。








参考文献・書籍

  1. 「化学装置 プラント・エンジニアリングメモ 第127回」 2018年 5月号 工業通信
  2. 「熱媒システムハンドブック」 工業調査会 1996年刊
  3. 「化学プラント建設便覧」 丸善 1992年刊



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