今回は撹拌槽 重合反応器のスケールアップについて取り上げます。参考にするのは主に2つの文献で、モノはメタクリル酸メチル Methyl Methacrylate、重合様式は連続バルク重合 Continuous Bulk Polymerization ですね。化学工学論文集に掲載されたのが 1995年なので もう28年も前になりますね。これを読んだ時は、「お~っ、なかなか面白い!」と思いましたね。ラジカル重合なら何にでも適用可能って訳では無いんでしょうけど、アプローチの仕方が巧妙と言うか。一応、実機化まで達成されているようなんで 机上の空論って訳でも無いですしね。
- 短寿命開始剤を用いるメタクリル酸メチルの連続バルク重合
- 撹拌槽重合反応器のスケールアップにおける混合
重合反応器のスケールアップですが、重要な問題が有りますね。と言うのも、液物性(特に粘度) はスケールに関係無く同じなんですが、反応器のサイズ自体は増加しますね。となると、ベンチスケールとかパイロットスケールでは 反応器内の流れは層流域ですが、実機スケールでは遷移域とか乱流域になりますね。層流域から乱流域へとスケールアップする事になりますが、これに例えば 一般的な 単位体積あたりの動力一定 Pv=const. を適用して良いのか? となりますね。と、この辺りをうまく解決しているのが 今回紹介する内容となりますね。
混合係数 Coefficient of Mixing
✔ プロセスフロー 及び 処方 Process Flow, Recipe
文献によれば ベンチスケールのプロセスフローは図のとおりですね。所定処方のモノマーをバッチ的に調合しておき、フィードポンプで反応器に供給します。この調合槽ですが窒素をバブリング出来るようになっています。と言うのも、MMA は酸素があると重合しませんね。なので、窒素を吹き込んで液中の酸素を追い出します。ついでに冷やしたりしますね。
重合反応器は竪型の完全混合槽でインペラは ダブルヘリカルリボン Double Helical Ribbon との事です。モノマーは連続的に供給され、同時にポリマー溶液がギヤポンプによって排出されます。ベンチスケールなんで反応器容量は小さいですね。なので放熱が大きいので、反応温度はジャケットの熱媒で維持する感じなのかな~と。まあ、反応器にはノックバックコンデンサーが設置されていて調圧出来るようにもなってますね。主要な仕様と処方は以下のとおりですね。モノマーはMMAですが、コモノマーとして アクリル酸エチル Ethyl Acrylate、分子量調整剤として n-オクチルメルカプタン n - Octyl Mercaptan を併せて使用します。 で、開始剤ですが 半減期時間の異なる4種類を用います。このうち、AIBN とか LPO は一般的な重合温度における半減期が非常に短いですね。
- 反応器 内容積 5.2 [Liter] 内径 155 [mm]、高さ 290 [mm]
- インペラ ダブルヘリカルリボン リボン径=ピッチ 147[mm]、リボン幅 15.5[mm]
- 処方(重量比) MMA : EA : OM = 90 : 10 : 0.34
- 開始剤 DTBPO、BPOIB、AIBN、LPO
各開始剤の 150[℃] 半減期は以下のとおりです。重合反応器の平均滞留時間は2時間とかなんで、 AIBN であれば 半減期は 1/2000 ですね。
- DTBPO Di-tert-butyl Peroxide 1800 [sec]
- BPOIB Tert-butyl Peroxyisobutyrate 20 [sec]
- AIBN 2,2'-Azobis(isobutyronitrile) 3.6 [sec]
- LPO Lauroyl peroxide 2.4 [sec]
✔ 重合速度論 Polymerization Kinetics
ラジカル重合速度式と完全混合槽型反応器 CSTR 1槽における転化率はそれぞれ以下の式で表わされますね。ラジカル重合ですが熱開始では無くて 開始剤開始です(式①)。この重合反応を完全混合槽型反応器 1槽で実施すると、転化率は 式③で表わされます。
で、この式に混合係数 α と ゲル効果係数 β を導入して 式④が得られます。この混合係数 α ですが、普通の開始剤であれば α =1 となります。ここで、半減期が短い、即ち すごーく分解しやすい開始剤(短寿命開始剤) を使うと、開始剤が混ざり終わる前に分解してしまうんですね。となると、混ざりが良いと (混合時間が短い) 開始剤はまあ有効に使用されますが、混ざりが悪い (混合時間が長い) と開始剤は全然使われないって事になりますね。となると、その影響が直接に転化率の大小となって測定されるんですね。つまり、混合の良し悪しをこの α の値によって 把握する事が出来る事になります。また、同時に ゲル効果係数 β も導入されています。これは、MMAのラジカル重合においてはゲル効果が発生する為ですね。で、両者の比率に開始剤効率 f を掛け算して F - value, F = f ・α /β とします。
✔ 短寿命開始剤の効果 Effect of Short - Lifetime Initiator
で、この 混合係数 α をスケールアップに使ってみるのが最終的な目標ですが、その前に 短寿命開始剤を量産反応器に適用するメリットは以下のとおりです。まあ、文献に書いているんですけどね。
- 高温になるほど転化率は低下するので、仮にホットスポットが発生しても暴走反応とはならない
- 反応液中の開始剤濃度はほぼゼロなので、下工程のトラブル等で運転を休止する場合、モノマー供給と開始剤供給を停止すれば 重合は即座に停止する
- 上記と関連して 開始剤濃度の精密な制御は不要となる
まあ、このとおりなんでしょうね。ただ、デメリットとしては 高価な開始剤をどか~んと供給する必要がある、となりますね。結構な量がただ単に分解してしまうんで・・・。加えて、AIBN は固体ですね。なので、予め MMA に溶解しておく必要が有るので これまた面倒ですね。一般的な開始剤であれば液体ですので、モノマーに溶解しておくのも 比較的に容易ですけど。
混合係数を用いたスケールアップ Scale - Up by Coefficient of Mixing
✔ 前提条件
さて、前述の混合係数 α を用いて撹拌槽重合反応器のスケールアップを行なってみる訳ですが、その前に 運転条件と液物性を整理しておきます。液粘度もそんなに低くは無いですが、そこまで高い訳では無いですね。
- 処方(重量比) MMA : EA : OM = 90 : 10 : 0.34
- 反応温度 150 [℃]
- 平均滞留時間 3 [hr]
- 転化率 60 [%]
- 液粘度 1.9 [Pa s]
- 液密度 990 [kg/m3]
✔ 反応器・撹拌機 仕様 Reactor, Impeller Spec.
次はベンチ、パイロット 及び 実機スケールの反応器・撹拌機仕様です。この文献では、ベンチスケールでは DHR を使用しており、パイロットスケールでは DHR と マックスブレンド Maxblend® 、実機スケールでは マックスブレンドを使用します。
マックスブレンドはワイドパドルタイプの先駆けとも言えるインペラで住友重機械工業の製品ですね。故 村上 康弘先生のお弟子さんが開発されたものと記憶していますが、このタイプではもはやスタンダード的なインペラですね。文献などにも数多く取り上げられており、ネットで検索すると沢山出てきますね。
スケールアップ比率ですが、液容積 基準でベンチから実機ですと 1,136倍ですね。そこまで大きくは無いですね。文献では年間生産量 6,000 Ton との事なのでこの程度でしょうか。これが 例えば 年間生産量 5万 Ton レベルとなると スケールアップ比率は 1万倍とかになりますね。となると、1万の1/3乗 = 21.544 なので 反応器 内径は 3340 [mm] 程度にはなりますね。
✔ 撹拌レイノルズ数範囲 Mixing Reynolds Number
✔ 混合係数 Coefficient of Mixing
参考書籍・文献 References
- 「短寿命開始剤を用いるメタクリル酸メチルの連続バルク重合」 化学工学論文集 第21巻 第3号 1995年
- 「撹拌槽重合反応器のスケールアップにおける混合」 化学工学論文集 第22巻 第2号 1996年
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