今回は冷却塔 Cooling Tower の設計について取り上げます。冷水塔とも クーリングタワーとも言いますね。ケミカルプラントでもあちこちで見かけますね。冷却塔と言うくらいなんで、媒体 (この場合は冷却水) を冷却しますね。冷却水は、例えば コンデンサーなどの熱交換器においてプロセス流体を冷却し、自らの温度は上昇しますね。で、そのまま循環させただけでは温度がどんどん上がりますし、そうなると凝縮しなくなりますよね。なので、熱交換器において奪った熱量を、今度は冷却塔で外気中に放出する必要が有りますね。
冷却塔は下図のような構造ですね。冷却塔の本体があって内部には充填物が設置されてますね。図は向流形ですが、水は塔頂部から噴霧され充填物表面を流下します。一方、外気は下部から取り入れますが、ファンで吸引して充填物内の隙間を上昇しますね。ここで、気液(空気と水)が接触する事によって水の温度が低下します。空気と水が直接 接触し、その際に水の一部が蒸発して、その際の蒸発潜熱によって水が冷却されるんですね。
んで、ここでは ある前提条件における冷却塔の仕様を計算してみます。
湿り空気線図 Psychrometric chart
冷却塔の設計や性能解析においては湿球温度などの湿り空気についての性質を必要としますね。で、冷却塔の設計では一般的な湿り空気線図(h-x線図) では無く、t-h 線図を用います。
✔ 湿り空気 諸量 Humid Air Properties
湿り空気に関する諸量は以下のとおりです。
- 乾球温度 乾球温度計での測定値 t [℃]
- 湿球温度 湿球温度計での測定値 t' [℃]
- 絶対湿度 乾き空気 1[kg] に含まれる 水蒸気の量 x [kg/kg-DA]
- 水蒸気分圧 湿り空気中の水蒸気分圧 Ps' [kPa]
- 相対湿度 湿り空気中の水蒸気分圧と飽和水蒸気圧 Ps [kPa] に対する比率
- 比容積 乾き空気 1[kg] とそれに含まれる水蒸気が占める容積 v [m3/kg-DA]
- 比エンタルピー 乾き空気 1[kg] を基準にした湿り空気の全熱量 h [kJ/kg-DA]
✔ 比エンタルピー Specific Enthalpy
で、冷却塔の設計では 比エンタルピー h [kJ/kg-DA] が重要ですが 0[℃] の乾き空気のエンタルピーをゼロとして計算します。下記の式②とか③で計算出来ますね。乾球温度と絶対湿度が必要となります。式中の 1.005 は乾き空気の比熱、2500は水の蒸発潜熱、1.846 は水蒸気の比熱ですね。
✔ t - h 線図 t - h chart
温度に対して 湿り空気の比エンタルピーをプロットすると以下のようになりますね。この時、飽和状態の絶対湿度を用います。エンタルピーの値としては この程度になるんですね。で、この t - h 線図を用いて冷却塔の設計を行ないますね。
設計 計算式 Design equations
さて、ここからは冷却塔の設計に関する理論的な部分について見ていきます。正直なところ、結構 面倒くさいですね。やはり、物質移動が絡むのでどうしてもそうなるとは思いますが。
で、ドカーンと計算式を以下に示します。だいぶ端折ってるんでアレですけど。要は、気液接触における熱と物質移動を考えて、その際の駆動力であるエンタルピー差を算出するって事になるのかなと。それが、下図の t-h線図における □ABCD の面積となります(ピンク色部分)。これが NTU, Number of Transfer Unit 移動単位数であり、この値の大小が冷却塔のサイズを左右する事になります。
そして、冷却塔断面積 A を決めれば 高さ Z が求められますが、式⑩には Ka が含まれます。これは、エンタルピー基準 総容積熱伝達係数などと呼ばれます。単位エンタルピー差、単位容積当たり、単位時間当たりの熱移動量となってますね。何故、単位容積当たりかと言うと、冷却塔内部における気液接触面積を見積もる事が出来ない為ですね。充填物表面の水膜とか 空気中の水滴とかの表面積とか分かりませんよね。なので、熱伝達係数 K [kJ/m2 s (kJ/kg-DA)] に 単位容積当たりの表面積 a [m2/m3] を掛け算して Ka [kJ/m3 s (kJ/kg-DA)] としています。 別の例では、粉体の乾燥機とかでも容量基準の熱伝達係数を使ったりしますね。これもやはり伝熱面積を明確に決定出来ない為ですね。
計算例 example
では早速計算してみますが、以下の前提条件とします。外気 湿球温度は 27[℃] で、冷却水 出口温度は 32 [℃] です。なので、近寄り温度は 32 - 27 = 5 [℃] となりますね。この近寄り温度は冷却水 出口温度と湿球温度との差ですね。冷却水温度が限界まで下がっても、この湿球温度よりも下がる事は無いですね。
✔ 操作線 Operation Line
まず、 t-h線図を作成しそこに操作線を追加して、冷却塔の運転状態を表わします。下図のとおりです。
✔ NTU の計算 NTU calculation
さて、冷却塔内の運転状況が明らかとなったので、次に NTU を計算します。前述のとおり、NTU 移動単位数は上図中の□ABCD の面積となりますね。で、この面積を求める方法ですが、例えばチェビシェフ積分とか図積分とかが有りますが、最近では EXCEL で計算するのが普通でしょうから、EXCEL による数値積分を使用してみます。
下図の上段グラフが数値積分の結果ですね。式⑨中の Cpw × dtw / (hs - h) を温度に対してプロットしています。温度を5分割していますね。なので、5個の短冊状部分の各面積を計算して、それを合算しています。すると、NTU は 0.7549 と得られます。また、下段グラフは端っこの温度での Cpw × dtw / (hs - h) の値のみを用いて、平行四辺形の面積を求めたものです。まあ、図式積分って感じですね。この場合は NTU は 0.744 となるので、まあ同じですね。このような方法の他にも、冷却水入出の中間温度における比エンタルピー差を用いる方法もあるようですが、まあ今はEXCELが有るのでチャチャッと計算出来ますよね。
まとめ Wrap-Up
うーん、なかなか面倒ですよね。NTUの計算なども今回初めてやってみましたけど。最終的には充填物高さとかも計算してみたかったんですが、Ka 値がイマイチ不明なので やめときました。まあ、プラントで見かける冷却塔の高さを見ると、ストラクチャー等を含めても 10~20 [m] くらいでしょうか。リファイナリーにあるようなすごくデカい冷却塔だと、コンクリ製とかになるんでしょうかね。韓国に居た頃には見かけた事もありますね。
あんまり背が高くなるようであれば、いろいろとメンテナンスとかも大変なんでしょうから、幅とか奥行きとかを大きくして断面積で稼ぐ感じなんでしょうか。とすると、設置面積が増えるんで それはそれで大変ですね。冷却塔の底部はピットになってますが、ちょっとしたプールくらいに大きかったりしますね。また、昔は木製充填物の冷却塔とかもあったようですが、今は波板状PVC製プレートとかを積層して使うようです。んでも、ここらへんは冷却塔メーカーさんのノウハウ的な部分が多いんでしょうから、ネットで探してもなかなか見つからないですね。んで、冷却塔も大抵は開放系なんで使ってるうちに汚れてくるんですね。藻みたいなのが生えてきたりとか。そうすると、性能が悪化するようなんで清掃したりするみたいですね。
冷却塔の設計で一番重要なのは NTU 移動単位数の算定なんだと思いますが、 t - h 線図はまあすぐ作成出来ますし、冷却水条件とか外気湿球温度が与えられれば 操作線もすぐに描けますよね。であれば、EXCEL で比較的簡単に出来るのかな~と。んでも、そうじゃない大変な部分とかが有るんでしょうね。餅は餅屋ですよね。
※ 上記図中のラフタークレーン,作業者 3Dデータについては、CADデータ共有サイト CAD-Data.com よりダウンロードさせて頂きました。やはりクレーンは良いですね。
参考書籍・文献 References
- 「プラント・エンジニアリングメモ 第137回 冷却塔の設計」 化学装置 2019年 5月号
- 「改訂2版 クーリングタワー」 省エネルギーセンター 2003年刊
- 「化学工学便覧 第6版」 丸善 1999年刊
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