さて今回ですが、今回は「身のまわりの化学工学」シリーズの4回目として、「調理における熱伝導と拡散」について取り上げます。寒くなると温かい料理、例えばおでんとかが恋しくなりますね。なかでも味のしみた大根とかは美味しいですよね。このおでんはもちろん調理して作る訳ですが、要はだし汁で「煮る」と言う事ですね。ここで起こる現象は2つ有って、熱伝導によって大根の温度が上昇します(それによって軟化します)。と同時に、だし汁の成分(塩分やアミノ酸) が拡散によって大根内部にしみ込んでいきますね。なので、熱と物質の移動過程ですから、やはり化学工学的に考える事が出来るわけですね。
これは伊東 章先生の連載にも記載されていて、そこでは 「煮物は冷める時に味がしみる」の理由について、非定常熱伝導と拡散による計算結果が紹介されています。まあ確かに、煮てやわらかくなるのは割りとすぐですが、作ってすぐの煮物とかは全然味がしないな~とかは有りますよね。と言う事で、煮物の調理過程を非定常熱伝導・拡散と考えていくつか計算してみます。
非定常 熱伝導・拡散 Unsteady Heat Conduction and Diffusion
✔ 大根のモデル化 Modeling of Radish
上記イラストにある大根の非定常熱伝導と拡散を取り扱うのであれば、まずモデル化をする必要があります。その際に重要なのはその形ですが、短い円筒状の形状をしています。接液部表面の全てから熱が移動し、かつ物質が流入します。厳密に解くのであれば、この形状をそのまま取り扱うべきですね。となると厳密解でも数値解でも大変です。で、次善の策ですが 次元を下げればより簡単に取り扱えますね。
で、伝熱関連の書籍とかを見ると、熱伝導方程式には その座標系によって直交座標系、円筒座標系 そして 極座標系(球)があります。それぞれ 取り扱う物体にピッタリの座標系を使いますね。ざっくりとこんな感じでしょうか。
- 直交座標系 無限平板 有限 立方体・直方体
- 円筒座標系 無限円柱 有限 円柱
- 極座標系 球
✔ 極座標系 非定常熱伝導・拡散 Polar coordinate system Unsteady Heat Conduction , Diffusion
計算例 example
✔ 計算条件 conditions
- 大根 初期温度 20 [℃]
- 大根 初期濃度 0 [ - ]
- だし汁 温度 100 [℃]
- だし汁 濃度 1 [ - ]
- 温度拡散係数 1.47 × 10-7 [m2/sec] 水 100 [℃]
- 物質拡散係数 1.00 × 10-9 [m2/sec] アミノ酸分子 20 [℃]
✔ 結果 results
ですが、これって実は温度が違いますね。温度拡散係数は 100 [℃] の値ですが、物質拡散係数は 20 [℃] における値です。イメージとしては ガーッと煮込んで大根に火をとおして、その後は火を止めて 室温で放置するって感じでしょうか。
まとめ Wrap - Up
「煮物は冷めるときに味がしみこむ」の理由は、実は熱伝導と拡散に要する時間スケールが大きく異なるからなんですね。で、ざっくりとした計算ですが その辺りが再現出来てるかなと思います。また、これはおでんに適用するのは難しいですが、加熱調理時間を短くするにはとにかく食材を細かくする事が効果的ですね。カレーやポトフではゴロゴロ野菜はボリュームが有って食欲をそそりますが、調理時間はどうしても長くなりますね。一方、じゃがいもやニンジンなどを小さめの賽の目切りにすると調理時間は確実に短くなりますね。韓国企業に居た時は社員食堂でカレーライスが出ることが結構ありましたけど、具材は1センチ角ぐらいでしたね。まあ、大量に作るんでそうなるんですね。などと、社食でカレーを食べる度に思ってました。余談ですが、勤めていた会社の社食のカレーは全然 辛くなかったですねキムチはすごく辛いのに・・・。ホントにお子様向けカレーくらいに甘口でした。まあ、それでも辞める数年くらい前からは、そこそこ辛口にはなってはきましたけど。これは、スーパーとかで売られているレトルトカレーも同じで、大抵は甘口でした。一方、インスタントラーメンはすごーく辛いのが普通で、辛くないのはほとんど有りませんでしたね。何か理由があるのかな~とは思いますけど、不思議ですね。それと、韓国でも「おでん」は 오뎅 で発音もそのまま「おでん」です。で、基本 具材は練り物だけで串に刺さってたりしますね。味は薄味で全然辛くないので良いですね。
で、ネットなどで時短レシピなどを見ると「10分で味しみおでん!」とかが有りますね。どんなんかな~と見てみると、レンチンしてますね。しかも、大根の厚みは 15 [mm] 程度と厚すぎないようにして、かつ 十字に隠し包丁を入れておきますね。生の大根を皿に載せてラップをして 6~7分ほどレンチンします。この時点で火がとおるんですね。で、次にめんつゆ原液をかけて 2分ほど放置する、ですね。なるほど、めんつゆの原液を使用する事で大根表面の調味成分 濃度が高くなるので、濃度推進力が増大します。大根は厚くないので拡散距離は短めとなりますね。加えて 隠し包丁を入れている事で、そこにめんつゆ原液が入り込みますね。そうすると切れ目からも拡散が進行するので、表面積が増大するとか拡散距離が短くなるという効果がありますね。う~む、全てが理にかなっていますね。
こうして考えてみると、まさに調理ってのは伝熱とか拡散が同時に進行する現象なんですね。まあ、実際 家政学の分野では 調理についていろいろと研究されていますね。 J-Stage とかで検索すると結構な量の文献がヒットしますしね。参考書籍の3) にはこの辺りが詳細に記載されており、興味深いですね。例えば、「沸騰状態でいろいろな形の野菜を加熱するときは、野菜の種類や形によらず調味時間のほうが軟化時間より長い」とあります。その理由として、拡散係数の違いが挙げられていますね。軟化時間ってのは火がとおって軟らかくなるまでの時間ですね。加熱調理における調味時間とか軟化時間とかについてもまた別の機会で取り上げたいですね。大きさとか形が重要なんですよね。
参考書籍・文献 References
- 「身のまわりの化学工学 第3回 伝熱と拡散」 化学工学会誌 第73巻 第2号 2009年
- 「基礎式から学ぶ化学工学」 伊東 章 著 化学同人 2017年刊
- 「加熱調理のシミュレーション」 香西みどり 著 光生館 2013年刊
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