化工計算ツール No.70 粉粒体の混合 Powder Mixing

 今回は粉粒体の混合について取り上げます。混合と言えば、撹拌槽における液体の混合についてはこのブログでも何回か取り上げました。例えば、投稿 No.71 ワイドパドルインペラの撹拌性能ですね。で、混ぜるのは液体だけじゃなくて、粉ものを混ぜ合わせたい場合もありますよね。例えば、原料粉体同士を所定の比率で混ぜたい場合とか。まあ、数キロ程度で量が少ないのであれば、ぶっちゃけビニール袋とかに粉を入れて ガッサガッサと振ればOKですね。ですが、数十キロなど それなりの量となると人力では無理ですよね。となると、例えば V形混合機 所謂 V ブレンダーで混ぜたりしますね。実際、パイロットプラントとかには 小さめの V ブレンダーが有って たま~に動いてたりしましたね。更に量産プラントともなれば、より大型の混合機を使用する事になりますね。とまあ、そんな感じで粉粒体 混合機の混合性能について少し計算してみようかなと。





粉体の混合度  Mixing Degree of Powder

粉体の混合とは、「数種類の粉粒体を乾いた状態または少量の液体を添加した状態で、かき混ぜて均質化する」事ですね。で、どうなったら混合終了なのかを判定する為には、混合の進行度合いを表わす指標を明らかにしておく必要が有りますね。


✔ 混合の進行過程 Progress of Mixing 

混合機内における混合の進行過程は、標準偏差 σ と混合時間 t との関係で表わせますね (下図 参照)。で、粉体はミクロに動きながら かつマクロには層流的な動きをしており、現象から見ると 3つの運動に分けられるとされています。

  • 混合初期  マクロ混合 macro mixing
    容器の回転や回転翼 または気流により粉粒体が移動・循環して、重ね合わせ、折りたたみが繰り返し行なわれる

  • 混合中期  せん断混合  shear mixing
    粒子の速度差によりすべりや衝突、あるいは粒子が容器内壁や回転翼との間で圧縮・伸張させられる事による分散作用を含む混合

  • 混合終期  ミクロ混合  micro mixing
    近接した粉粒体相互の位置交換や粒子同士の融着、反応など 局所的な混合 


それで、どれくらい混ざってるのかな~を判断するのに用いるのが、統計学的に言うところの標準分散とか標準偏差なんですが、それぞれ 式①と式② で計算されますね。混合操作中の混合機内部からエイッとサンプルを採取して、そのサンプルの注目成分 濃度を測定します。端的に言えば、注目成分の粒子個数とかですね。で、仕込みの組成ってのは予め分かってるので、濃度測定値と仕込み濃度値との差異を求めて2乗します(これで必ず正の数となる)。で、この作業を n 回 繰り返します。であれば サンプル数は n個ですね。まあ、サンプル数は多いほうが良いですね。





で、全く混ざっていない完全分離状態の標準分散 σ0 が式③によって計算されます。図にあるように完全に分離している状態なんで、仕込み濃度のみから計算されます。そして、完全混合状態の標準分散 σr^2は式④で、標準偏差 σr は式⑤で計算されます。そして、混合指標ですが 参考書籍には以下のような指標が記載されています。完全分離がゼロ、完全混合が1とかであれば分かりやすいですね。




こうして見てみると液体の混合と似ていますよね。液体の混合過程でも、対流によるマクロ混合と拡散によるミクロ混合があるとされています。また、別の視点からは槽内全体の循環流れと局所的なせん断によって混合が進行すると言う捉え方も出来ますね。そう考えると、粉の混合も液の混合も同じなのかな~と思えますが、全然違う部分もありますね。

例えば、液同士の混合であればぶっちゃけかき混ぜなくても、ずーっと待っていれば 拡散によってそのうち混ざりますね(基本 無限大時間が必要ですが)。一方、粉粒体であれば容器に複数種類の粉をドサッと入れたとしても、何も起こりません・・・。必ず何かしらの外力を加える必要が有りますね。また、液体の混合においてはガーッとかき混ぜるほど混合が進行します。一方、粉粒体ではかき混ぜれば良いって訳では無くて、同時に分離も進行しています。上図において、混合が進行すると最終的に指標はほぼ一定値になりますが、上下に変動しています。これは、混合と分離が同時に起こっている為であるとされています(動的平衡状態)。これは液体の混合過程と大きく異なる点ですね。相互に溶解する液体同士であれば、分子レベルで混ざる訳ですが、粉粒体であればそうもいかないんですね。最悪、偏析という現象が発生したりもしますね。


粉粒体の混合操作  Powder Mixing Operation


✔ 粉粒体 混合機の種類 Powder Mixer Type


どれくらい混ざってるのかなと言う指標が明らかになったんで、実際に混合過程を計算してみようかとなりますが、その前に混合装置について触れておきます。粉粒体に外力を加えて混合する、と言ってもその方法にはいくつか方法が有りますね。参考書籍では以下のように分類されています。


  • 容器回転形 Rotary type mixer
    円筒、V型、二重円錐型などがあり、容器を水平軸で回転させ粉粒体を転動させる事で混合を進行させる。基本的には回分操作でクリーンアップが容易である事から多品種少量生産に好適である。一方、せん断力が弱いので凝集塊を作りやすい微粉や超微粉の混合には適さない。

  • 固定容器型 Stationary mixer
    固定された容器の中の粉粒体に撹拌翼による回転や振動を与えて混合を進行させる。水平軸回転型、垂直軸回転型、振動型などがあり、例えば水平軸回転型ではリボンミキサーが使用される。

  • 粉粒体運動型 Powder motion mixer 
    流動化型と重力流動型に分けられる。流動化型はジェットポンプによる混合作用によるもので、容器内に設置された揚送管下部からジェットノズルによって圧縮空気を吹き込み、管内を上昇する際に混合が進行する。重力流動型は貯槽内を重力流動する粉粒体を貯槽各部より定量的に取り出し、これを集合させる事によって混合物を作る。

容器回転型と固定容器型はパイロットでも量産プラントでも見たことが有りますし、多少は実務でも経験しましたね。粉粒体に動かすのに、容器そのものをグルグル動かすのか、それとも回転翼をグルグル動かすのかの違いですね。この辺りも液体の混合操作とは違いますよね。さすがに、槽をグルグル回して撹拌するってのは無いですよね、液体では。やれなくも無いんでしょうけど、シールの問題やらいろいろ面倒くさいですよね。まあ、粉粒体でも、また違った面倒くさい感じが有るんですけど。

3つのうち粉粒体運動型は所謂 サイロなどの貯槽における混合ですので、今回は扱いません。ポリマープラントでもペレットのブレンディングサイロとか有りますね。さすがにデカいサイロを動かす事は出来ないんで、ニューマティック Pneumatic な方法で混ぜると言う方法ですよね。


✔ 混合最適回転数 計算式 Optimum Rotation Speed Calculation Equation


さて、上図のような混合機における混合過程についてですが、正直 計算は難しいですね。いろいろと当たって見ましたが、コレだっ!と言うものには辿り着けませんでした。ですが、混合最適回転数についてはいくつかの参考書籍で言及されていました。なので、こちらを紹介します。まあ、液体混合のように一筋縄では行かないんだな~と思いますね。

以下にあるように無次元数 フルード数範囲となっているので、混合機 最大半径 Rmax が分かっていれば最適回転数 N を計算出来ます。ただし、これは粉粒体のホールドアップ比率が 0.3 程度で、混ぜようとする粉粒体の粒子径とか密度、流動特性が同程度である場合に適用可能とされています。まあ、極端に粒子径が違うとか、密度差がある場合には偏析しますよね。





計算例 examples


それぞれの混合機タイプについて、最大半径に対して最適回転数を計算してプロットすると下図のようになりますね。この結果から分かるように、混合機がデカくなると 最適回転数は減少します。まあ、液体混合においてもスケールアップすると 回転数は減少しますし。

回転数自体は最大半径が 10[cm] 程度であれば 50~100 [rpm] で、まあこれはこれで 結構 回してますよね。これが、最大半径 100 [cm] ともなると、15~30 [rpm] くらいです。


  • 直径 0.2 [m]  回転数 100 [rpm]   周速度 1.04 [m/sec]
  • 直径 2.0 [m]  回転数   30 [rpm] 周速度 3.14 [m/sec]


因みに、参考書籍によれば 容器固定型混合機のリボンミキサーでは、混合機内径が 100 [cm] では回転数 30[rpm] くらいですね。リボンの壁面掻き取り速度 (周速度) は 1.3 ~ 1.6 [m/sec] となるように設計されるんだとか。




※ 上記計算結果ですが、式⑩で回転数を計算してみると参考書籍に載っている実験結果のグラフと比べて大幅に異なる結果となりました・・・(大きくなる)。いろいろと試行錯誤して、最終的には参考書籍中のグラフでは半径となっているが、実はこれは直径なんだろうと判断しました。そうすると上記グラフの結果となり、参考書籍中のグラフとまあ合ってるかなと。で、グラフ中のオレンジ色破線はまた別の実験式で計算したものです。グラフ中に示してありますが、こちらは有次元式です。同じ参考書籍に載っているものですが、まあ同程度の結果となっているかなと。フルード数中の代表長さにどれを取るかによって、結果も結構異なりますよね。半径と直径では2倍も違いますから。


補足 supplements


 一応、混合過程の計算式についても分かっている部分までを以下に載せておきます。混合度の経時変化は 式⑪で計算しますが、混合速度定数 k1 が必要です。で、このk1 は式⑫で計算されるようです。なんですが、参考文献には定数値が全部書いてなかったので計算出来ませんでした。元文献とかも当たってみましたが、探しきれませんでした。

で、混合速度定数 k1 ですが、参考文献ではパイロットスケールだと 1~10 くらいで、量産スケールだと 0.1 ~ 1 となってますね。まあ、混合機によっても違いますけど。んでも、k1 が 仮に 1 だとすると、まあ 10分もあればだいたい混合は終了しますね。





まとめ Wrap-Up


ん~、何か中途半端な結果ですね。やはり粉ものは難しいですね。粉粒体混合機の性能については、面倒くさいですがメーカーさんに実際の粉を持ち込んでパイロットスケールでの実験を繰り返し、その結果に基づいて量産プラントにスケールアップするのが得策でしょうか。粒子径や密度の違いとか流動性の違いなど、混ぜ合わせる粉の組み合わせも千差万別でしょうから。また、同じ粉でも乾いているのか、それとも湿っているのかで全然違いますしね。それとも、混合操作には十分な時間をかければ、まあそれでOKなのかも知れませんけど。

で、この粉粒体 混合機ですが 混合と同時にそれ以外の操作に使ったりもしますね。韓国にいる時分にも経験しましたね。回分式ですが、内部を減圧して 熱媒ジャケットで加熱したりとか。まあ、パイロットプラント用なのでそれほど大きくは無かったんですけど。実機にしたらどうなるかとかは検討したりしましたね。粉粒体状樹脂の熱処理でしたが、均一化するように混合してましたね。容器回転型でしたが、回転数はそれほどには大きくは無かったですね。また、容器固定型についてもメーカーさんを訪問して、パイロット機での実験をやったりしましたね。まあ、混合そのものが目的では無かったんですけども、結局 採用には至らずって感じでした。混合自体が目的では無かったとしても、やはり混合機内の混ざりがよろしく無いってのはアレですよね。乾燥するにしても熱処理するにしても、粉粒体が均一であるのが好ましいですし。

また、J-Stage で最近の文献についても当たって見ましたが、例えば 離散化要素法 Discrete Element Method とかで計算するんですね。まあ、そういうのも学術的には意義が有ると思いますけど、ソフトウェアや計算機などの環境を準備する必要がありますので、誰でも出来るわけでは無いですよね。それよりも、EXCEL で計算出来るような 実験式とかの方が有用だな~と思いますね、個人的な意見ですけど。このブログでも何回と無く取り上げたように、液体混合であれば、もちろん何でもかんでもでは無いですけど 一般的なインペラタイプについては撹拌動力を計算出来ますし、そうすれば混合性能とか伝熱性能などの推定もある程度は可能ですよね。

粉ものの実験は何かと手間がかかる部分も多いですし、そういうのはやらないんでしょうかね~。それと、実験式になっていると この因子がこう変化すれば、結果はこれくらい影響を受けるとかの見通しが効くんですね。コンピュータでシミュレーションすると、ピンポイント的に答えは得られるんですが、 それがどう変化するのかまではなかなか分かりませんね。まあ、力技でどんどん計算すれば こんな傾向だなってのは分かるとは思いますけど。などと言ってるのは、昭和世代のおっちゃんエンジニアの愚痴ですね。






参考文献・書籍

  1. 「粉体混合プロセス技術」 色材 第77巻 第2号 2004年
  2. 「化学工学 II」 岩波書店 1963年刊
  3. 「各種混合機の混合性能および最適操作条件におよぼす粉粒体の密度と粒径の影響」
      粉体工学研究会誌 第11巻 第7号 1974年




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