今回は円管内層流流れについてのハーゲン - ポアズイユの式を取り上げてみます。これはもう流体力学でも定番中の定番の式ですね。流体力学のみならず、化学工学関連のどんな書籍でも必ず載っていますね。で、ネットにもそれほど山のように紹介されていますけど。そして、この式の名前ですが、どちらも人名ですよね。Wikipedia には次のように書かれています。
- ゴットヒルフ・ハインリッヒ・ルートヴィッヒ・ハーゲン
Gotthilf Heinrich Ludwig Hagen 1797.3.3 - 1884.2.3
ドイツ人 技術者で専門は水理学 - ジャン=ルイ=マリー・ポアズイユ
Jean-Louis-Marie Poiseuille 1797.4.22 - 1869.12.26
フランス人医師で 物理学者、生理学者
この式を見出したのは、ハーゲンさんが1839年でポアズイユさんは1840年で、それぞれ独立に行なわれたんですね。そんな機運と言うか時代背景があったんでしょうか。ポアズイユさんは生理学者なんで、毛細血管内の血液の流れに適用しようとしたんだとか。なるほどですね。因みに、ポアズイユさんの名前は CGS単位系の粘度の単位 ポイズ Poise に使われていますね。
この式は非圧縮性流体の円管内 層流流れについて適用されますが、それってポリマー流れなんですよね。ケミカル エンジニアになってずっとネチョネチョしたポリマーを取り扱ってきましたんで、ポリマー配管の流れはもっぱら層流でした。そんな訳ですご~く馴染みが有りますね。
ハーゲン - ポアズイユ 式 Hagen - Poiseulli Equation
で、流体力学というと難解なナビエ・ストークス式が有って、ちょっとやそっとでは解けませんし、なので厳密解も得られませんね。ですが、この H-P 式は厳密に理論的に導く事が出来るんですね。
そして、下図にあるように円管内層流において微小要素を想定し、そこでの圧力、速度、せん断力のバランスを考慮すれば以下の式が得られますね。導出過程は端折ります (手抜きです)。定常状態における層流流れでは、壁面でのせん断応力によって流体のエネルギーが失われ、それが圧力の損失として観測されるって事ですね。で、失われた流体のエネルギーは最終的に熱となって散逸するんですね。
まあ、H-P式と言えば式④を思いつきますね。また、ポリマー配管の圧力損失を計算するには式⑥が重要ですね。また、式⑦を使えば特定の半径位置におけるせん断応力が得られます。 r = R とすれば壁面せん断応力となりますね。
計算例 examples
✔ 計算条件 conditions
さて、早速計算してみますが、せっかくなのでポリマー溶液の移送を想定してみます。温度は 140 [℃]、転化率 (=固形分濃度) 70 [%] とします。最終段の重合反応器から出てきたポリマー溶液となりますね。そして、移送配管仕様は SUS Pipe 150A Sch80 とします。移送流量は重量基準で以下のとおりですが、これは年間生産量 100,000 [Ton]、年間稼働時間 8,160 [hr] を想定しています。
- 配管仕様 SUS Pipe 150A Sch80 内径 146.24 [mm]
- 液密度 967 [kg/m3]
- 液粘度 138 [Pa s]
- 移送流量 17.5 [Ton/hr]
✔ 結果 results
円管内速度分布ですが、こんな感じですね。もっと細い円管の計算結果も併せて描いていますが、さすがに内径の小さい円管だとギューンと尖った速度分布形となりますね。
まあ、この速度分布形は放物線状ではありますが、実際には三次元的ですから放物面形状となってますね。
✔ 応用例 Application examples
応用例と言うほどでは無いですけど、実務で何回かやったのはポリマーバルブとかギヤポンプサクションにおける通過流量の確認でしょうか。下図を見れば分かるかなと。
ベッセル底部にポリマーバルブが設置されていますが、特に加圧などを実施しなければ 内液による静圧だけで流下してきますね。これはベッセル底部に直付けするギヤポンプでも同じですね。で、これを簡略化して考えれば垂直な円管内における重力流れ Gravity Flow となりますね。で、この時の流量ってのは前述の式⑥を用いて、ΔP = ρ・g・h とします。これは液の静圧ですよね。となると、この静圧に見合った分の流量が流下する筈ですよね。それを表したのが、下記の式⑧ですね。液面高さ h と円管長 L は同じなので相殺されます。
で、どんなふうに使うかと言うと 例えば円管内径、液密度、必要通過流量を与えると 液粘度が計算されます。これは、付与された条件において許容される最大の液粘度になりますね。つまり、この液粘度よりも大きな粘度だと 必要な通過流量を達成出来ないとなります。逆に、それよりも液粘度が小さければ全く問題無いとなりますね。まあ、実際にはベッセル内に有る液の静圧も寄与すると考えれば、だいぶ楽にはなりますが。設計においてはシビアな条件で実施しておいた方が後々安心ですので。あまりにもシビア過ぎるのもアレですけど。
で、前述のポリマー溶液 流量 17.5 [Ton/hr] を使って計算してみると以下のようになりますね。ポリマー移送配管は 150A とでもしておけば十分かなと思いますが、ポリマーバルブとかギヤポンプ サクション側については、配管よりも大きめにしておいた方が安心だな~となりますね。割りとまっすぐな流路形状であればあまり気にせずに計算してましたが、だいぶ屈曲してるようなポリマーバルブとかでは CFD で計算してみたりしてましたね。まあ、大抵は結果オーライだったんですけどね。やはり流速がだいぶ遅いので。
んで、まあ整理すると以下のような場合に適用可能ですね。管内径とか配管長を求めるのは機器仕様を求める所謂 設計型の計算で、一方 流量とか液粘度を求めるのは運転条件などを求める操作型の計算となりますね。
- 液粘度、配管長(液面高さ)、流量 → 管内径を求める
- 液粘度、管内径、流量 → 配管長(液面高さ)を求める
- 液粘度、配管長(液面高さ)、管内径 → 流量を求める
- 管内径、流量、配管長(液面高さ) → 液粘度を求める
まとめ Wrap-Up
実務においては速度分布形そのものが計算の対象では無くて、圧力損失値の大小が問題だったんですね。まあ、速度分布自体は計算しようとすればチャチャッっと計算出来ますけど。せん断速度がどの程度なのか?とかは計算した記憶が有りますね。で、ポリマー移送配管の圧力損失計算であれば、重要なのは実長と実揚程ですね。エルボとかの継ぎ手類の相当長とかも、考慮する必要が無いのでその点は楽ですね。何故ならば、平均流速が遅いからですね。実際、上記の計算例でも平均流速は 0.3 [m/sec] くらいとかなんで、普通の液体であれば慣用流速(標準流速) 3 [m/sec] と比べてすご~く遅いですね。まあ、液粘度が 10万倍も大きいので当然と言えば当然ですけど。そんな感じで、ポリマー移送配管の場合にはその都度 圧力損失を計算してチェックする必要が有りますね。慣用流速を使ってエイッと仕様を決めるって事はなかなか出来ませんね。まあ、同じような規模のプラントやポリマーであれば、ここの配管はこのくらいのサイズでってのが大体は決まってますけど。
また、ポリマープラントによっては、場合によっては移送配管を並行する2本にしたりしますね。配管1本だけだと圧力損失が大きすぎて、ギヤポンプの仕様が過大になるからなどの理由ですね、多分。配管の耐圧とかも問題になりますよね。昔は、それほどには移送容量の多いなギヤポンプは無かったと言うのもあるのか~なと思いますね。また、ギヤポンプ1基だけだと故障した場合に即 生産停止となりますが、2基であれば 片肺運転ってのも出来るのかなと。そんなリスク回避の側面も有るのかなと思いますけど。実際、最終段の装置から超高粘度の溶融ポリマーを移送するのに、並行配管でってのは有りましたね。まあ、確かにものすごく高粘度だったんで、「やっぱそうだよな~」とは思いましたけど。
下図は参考文献に記載されている図ですが、出口配管が2本有りますよね。フラッシュタイプの脱揮装置ですが、チャンバー底部に滞留したすご~く高粘度の溶融ポリマーは2つのギヤポンプと配管によって下流の造粒装置 Pelletizer へと移送されますね。1989年当時の文献なんですが、現在であれば 配管 1本で移送すると思いますね。結構 デカいギヤポンプとかも有りますし。と、思って調べてみました。例えば、って日本ではこのメーカーさんが代表的なんですが、島津産機システムズの ギヤポンプ SBJV タイプは以下のような仕様です。
- 吐出圧力 25 [MPaG]
- 吸入圧力 Full Vacuum - 1 [MPaG]
- 液粘度 0.1 - 20,000 [Pa・s]
- 温度 360 [℃]
- 吐出流量 Max. 25,150 [cm3/rev]
参考書籍・文献
- 「演習 水力学」 森北出版 1981年刊
- 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年刊
- ”Evaluation of the Performance of a Commercial Polystyrene Devolatilizer"
Bernard J. Meister and Alan E. Platt
Ind. Eng. Chem. Res. 1989,28, 1659-1664
web site
- https://www.shimadzu.co.jp/industry/product/gear/sbjv.html
島津製作所 真空機器/産業機械 液送ポンプ
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