化工計算ツール No.77 撹拌翼 ブレード板厚の影響 Effect of Thickness of Mixing Impeller Blade

 さて、今回は撹拌翼 インペラブレードの厚みが動力特性に与える影響について取り上げます。傾斜パドル翼は何回と無く仕様を決定しましたけど、ブレードの厚みってのは考慮しませんでしたね。まあ、そもそも使っていた動力推算式には厚みの項が無いので・・・。ですが、無い訳でも無いですね。やはり、名工大 加藤 禎人 先生のグループによって提案されていますね。




ブレードの板厚ですが、単純に考えてブレードの強度に影響しますね。なので、必要かつ十分な強度を維持できる範囲内で板厚を薄くできれば軽くなりますよね。であれば、材料費も削減されますし加工も楽になりますね。また、これはメーカーの技術者さんから聞きましたが、ブレードを厚くして、その内部流路に流体を通液する例もあったんだとか。まあ、加熱若しくは冷却目的だとは思いますけど。となれば、一般的なブレードよりは分厚くなりますけど、その時の動力はどれくらいなのかを推定できればこれは便利ですね。



ブレード板厚の影響 Effect of Thickness of Blade 


参考文献には、フラットパドルと傾斜パドルについての撹拌所要動力について記載されています。どちらの場合にも既存の動力推算式を用いるんですが、その際にブレード厚みを考慮した値を代入するんですね。ただし、フラットパドルでは層流域での推算は良好に出来たようですが、乱流域ではうまく出来なかったと記載されています。一方、傾斜パドルでは層流域でも乱流域でも 良好に相関できるとの事です。なので、今回は傾斜パドルの動力について、ブレード厚みを変えて計算してみます。


✔ 傾斜パドル 動力推算式 Power Consumption Equations for Pitched Paddle Impeller


まずは、そもそもの傾斜パドル 動力推算式を以下に示します。相変わらず式が多いですね~。まあでもこれくらいじゃ無いと良い推算結果は得られないんですね。で、赤字にしてある箇所 bsinθ が重要なんですね。ここにブレード厚みを考慮した数値を代入するって事になります。




✔ ブレード厚みの取り扱い   Effective Blade Height


で、肝心のブレード厚みの影響についてですが、参考文献では以下のように取り扱っています。有効ブレード高さって感じでしょうか。例として、傾斜角 θ = 45 [° ] でブレード幅 b =50[mm] の場合、ブレード厚みを変えてみると有効高さは下図のように増加しますね。前述の動力推算式のいくつかには b sinθ が含まれていますが、これは傾斜パドル ブレードの有効高さなんですね。んでも、元々の式には厚みの影響は考慮されていません。なんですが、厚みが増えた事による高さの増加分を考慮し、これを使う事で動力の推算が出来るという事ですね。 

そして、下図の最下段に描いてあるのは有効高さに相当するブレード幅となります。ブレード厚みが大きくなるとその分 有効高さは大きくなりますね。で、その有効高さに相当するブレード幅ってのも計算出来ますね。例えば、本来のブレード幅が50[mm]で厚みが 1[mm] だと有効高さは 36.1[mm] となります。で、この有効高さを厚みゼロのブレードで達成するにはブレード幅は51.1[mm] となります。で、この 51.1[mm] は 本来の 50[mm] とほぼほぼ同じですね。一方、ブレード幅が 50[mm]で厚みが20[mm] の場合、有効高さは 49.5[mm] となり これを幅ゼロで達成するには ブレード幅 70 [mm] が必要となります。これは本来の 50[mm] と比較すると 1.4倍なので結構違いますね。

と、何でこんな事を計算する必要があるのかと言うと前述の動力推算式で使うんですね。具体的に言うと、式⑩と⑯には b×(sinθ)^1.6 と言う項があります。これは、ブレード幅 × sin(傾斜角) の1.6乗なんですが、ブレード幅 b については本来の値では無くて有効高さに対応した値を使うんですね。当初、これが分からなくて普通に 本来のブレード幅を代入して計算してましたが、ブレード厚みの影響が全然 無い結果となり悩みました。ですが、「あっ、そうか!」と気付いて計算してみたら それらしい結果となったんですね。やはり、こういうのも実際に計算してみないと分かりませんよね。




計算例  Examples


✔ 計算条件 conditions

では早速計算してみますが、計算条件は以下のとおりとします。槽径に対するインペラ径の比率 d/D 、槽径に対するブレード幅の比率 b/D は参考文献のものと同じにしています。また、ブレード厚みですが ブレード幅に対して 0.1 ~ 1.0 とします。


  • 槽径                 2,000 [mm]
  • インペラ径        1,080 [mm]
  • ブレード幅       220 [mm]
  • 傾斜角                  45 [°  ]
  • ブレード枚数       4 [ - ]
  • ブレード厚み     22 ~ 220 [mm] 
  • バッフル数          4 [ - ]
  • バッフル幅             200 [mm] 


✔ 動力線図  Re - Np Curve

下図が動力線図 計算結果となります。バッフル無しの場合とバッフル有りの場合です。また、ブレード厚みは 22 [mm] と 220 [mm] としています。ブレードが厚くなると層流域から乱流域の全範囲において動力数は増加しますね。そして、バッフル有りの場合には完全乱流域で動力数は一定となりますんで、以下のように比較出来ますね。

  • ブレード厚み   22 [mm]  動力数 1.471 [ - ]
  • ブレード厚み 220 [mm]  動力数 2.639 [ - ] 
 
動力数は約1.8倍増加しますね。なので、同じ液物性で同じ回転数であれば 撹拌動力も 1.8倍となりますね。

 


✔ ブレード厚みの影響  Effect of Blade Thickness


次にブレード厚みを変化させ、動力数がどの程度変化するのかを計算した結果が下図 上段のグラフです。ブレード厚みの増加に伴ってリニアに増加するんですね。
で、下段グラフは今回の計算条件における撹拌動力値 P [kW]と単位体積当たりの動力値 Pv [Kw/m3] の計算結果です。まあ、この程度の撹拌槽であれば 動力はこの程度ですね。




✔ 形状比較   Shape Comparison

ブレード厚みはこれくらいです、と言ってもピンと来ないので実際に図にして比較してみます。厚み 22[mm] であれば、まあ普通の傾斜パドルですね。で、厚み 220 [mm] ですが、下図を見ると分かるよう、「何じゃこりゃ」ですね。四角い塊がズゴーンと刺さっている様な感じですね・・・。さすがにこんなのは無いですよね。




まとめ  Wrap-Up

今回は傾斜パドルインペラのブレード厚みが動力特性に与える影響について計算してみました。ブレードが厚くなると、その分 撹拌動力が増加するという結果ですね。まあ、結構 影響を受けると言えば受けるので、どうしてもブレードを厚くしたい場合には 今回の推算式を使った方が良いですね。前述のようにブレード内部に流路を作って 冷やしたり温めたりしたい場合には、ブレードが弁当箱みたいに分厚くなりますしね。まあ、それ以外の一般的な傾斜パドルでは 強度的に問題無ければ薄くするんでしょうから、既存の推算式でも十分対応可能かなと思います。出来るだけブレードを薄くしたいけど、それなりに強度を持たせたい場合には、補強板 リブ Lib を設置する方法もありますね。このリブ設置の影響についても、名工大 加藤 先生のグループで検証されていますね。それによると、多少の影響はあるとの事ですね。





実務ではいろいろなインペラを見てきましたけど、ブレードがそこまで厚いってのは無かったですね。その中でも「これは厚いな~」と思ったのが、所謂 ファウドラー インペラだったでしょうか。まあ、量産スケールの反応器だったんで そうなるんでしょうけど、にしても厚い感じでしたね。で、ファウドラーと言えばグラスライニングを思い出しますね。グラスライニングを施工するインペラは厚い感じになりますね。ブレードが薄いと角の部分のアールが小さくなり、うまくライニング出来ないようですね。韓国に居る際には化成品のプラントの技術検討をしましたけど、そこそこ大きなグラスライニング反応器を設置するようになってました。インペラも当然グラスライニングするんですが、角張ったシャープな感じじゃ無くてずんぐりむっくりした感じですね。勿論、バッフルもフラットタイプじゃなくて、丸っこい ビーバーテール タイプ Beaver Tail type ですね。


参考文献  References

  1. 「撹拌所要動力におよぼす翼板厚さの影響」
    化学工学論文集 第41巻 第4号 2015年






コメント