化工計算ツール No.88 拡大伝熱面 Extended Heat Transfer Surface

今回は拡大伝熱面 Extended Heat Transfer Surface について取り上げます。まあ、フィン fin 付きの物体とかパイプとかですね。まず思い付くのはバイクのエンジンとかでしょうか。シリンダーヘッドとかには割と厚めのフィンが設置されてますね。鋳物とかなんでしょうか。また、下図にあるように パソコンの CPUクーラーは大抵フィン付きの構造になってますね。ケミカルプラントであれば、空冷式熱効率器 エアフィンクーラーとかが該当しますね。で、何で拡大伝熱面が必要なのか?ですが、バイクのエンジンにしろCPUクーラーにしろ フィンが設置されているのは 「空気側」です。ご存知のとおり、空気は気体なので熱伝導率の値は小さいですね。30 [℃] の水と空気の熱伝導率とプラントル数を比較すると以下のとおりですね。


  • 水  熱伝導率 0.618   [W/m K]  プラントル数 5.46 [ - ]
  • 空気   熱伝導率 0.0263 [W/m K]  プラントル数 0.72 [ - ]

つまりは、強制対流にしても自然対流にしても空気側が主な熱抵抗であり結果として伝熱のボトルネックになる、と言えます。これまたご存知のとおり、伝熱量 Q [W] は計算式 Q = U×A×ΔT で求められます。U [W/m2 K] は総括伝熱係数、ΔT [K] は温度差です。ΔT は運転条件などで決定されるので勝手に変えられません。U も流速を増加させてある程度は対応出来ますが、際限無く増やすのもなかなか難しいですね。となると、伝熱面積 A [m2] を増やしましょう!となります。で、それを具体的に実現しているのがフィンなんですね。とまあ、その辺りを計算してみようかなと。





拡大伝熱面 計算式   Extended Heat Transfer Area -  Calculation Equations


✔ 単一矩形フィン   Single Rectangular Fin


まずは単一のフィンについてですが、下図のような矩形のフィンを考えます。フィン厚みb[m] は長さ l (小文字のエル) に対して十分に薄いものとします。そして、温度 T0 [℃] の基板から温度 T∞ [℃] の周囲流体へと放熱しています。この時、フィン根元から先端へと熱伝導によって熱が移動し、そしてフィン表面の各位置から周囲流体へと対流伝熱によって熱が移動します。

んで、「フィン内部の熱伝導」と「表面からの対流伝熱」との熱収支を考慮すると、導出過程は省きますが、式①が得られます。これがフィン内部の温度分布となります。式②の m はパラメータですね。式①で x=l とおくと 式③となり、これはフィン先端の温度となります。そして、フィン根元を通過する熱量 (= フィン表面からの放熱量) は式④で求められます。そして、これが重要ですが フィンには「フィン効率」 fin efficiency というものが有り、拡大された伝熱面積の全てが有効に使用される訳では無いんですね。このフィン効率は 式⑤で表わされます。例えば、すご~く長いフィンにおいては フィンの途中でフィン温度=周囲流体温度になると想像されます。と言う事は、それ以上フィンを長くしても無意味となります。フィン効率の定義としては、「フィン温度が根元から先端まで全部 T0 である場合の放熱量」に対する「実際の放熱量」の割合となります。



 ✔ 拡大伝熱面  Extended Heat Transfer Surface

で、単一のフィンについては前述の計算式でいろいろと計算できます。が、それだけでは無くて 平板に複数のフィンを設置した時、放熱量はどれくらい増加するのかを知りたいですね。下図のようなフィン群を考えて放熱量を求める式⑥が得られます。周囲流体側の熱抵抗 1/ho にフィン効果を表わす項が追加されているのが分かりますね。で、見てみると フィンを設置するとフィン表面積 Af が増加します。するとフィン効果の項は小さくなります。で、結果として周囲流体側熱抵抗も小さくなるんですね。最終的には フィンからの放熱量が増加します。 





計算例 1.  Example 1.


まずは単一の矩形フィンについていくつか条件を変えて計算してみます。

✔ フィン長の影響  Influence of fin length

フィン長を変えて計算してみます。フィン長以外の条件は以下のとおりとします。熱伝導率の値から分かるようにステンレスです。空気の強制対流を想定して、熱伝達係数値はこんなものかなと。

  • フィン熱伝導率     16 [W/m K]
  • フィン表面熱伝達係数  10 [W/m2 K]
  • フィン厚み         2 [mm]
  • フィン幅        50 [mm]
  • フィン長        変化させる

上段グラフではフィン長に対して 先端温度と放熱量をプロットしています。この結果を見ると、あまり長くしても意味が無いことは一目瞭然ですね。絵も描いていますが、まあ 50 [mm] とかでも結構長く感じます。下段グラフでは、フィン温度分布の計算結果です。フィン長 200[mm] くらいになると、先端 1/3 くらいはほぼ周囲温度と同じになっています。なので、熱移動は起きませんね・・・。因みに、フィン長 50[mm] でのフィン効率は 0.979 ですが、200 [mm] だと 0.196 まで低下します。設置したフィン長の 約2割くらいしか有効に使っていないって事になりますね。



✔ フィン材質の影響  Influence of fin property 


フィン形状以外で重要なのが材質、特に熱伝導率の影響でしょうか。ステンレスだけでは無く、アルミとか銅とかだと熱伝導率が大きいので放熱量の増加が期待出来ます。前述のフィン形状と条件で、熱伝導率を変えて計算した結果が下図です。

結果から分かるように放熱量は増加しますね。ですが、それほどでは無いようにも感じます。ステンレスをアルミにすると放熱量は1.43倍にはなりますが、炭素鋼 CS をアルミにしても 1.12倍ですね。炭素鋼を銅にしてみても 1.14倍なので それほどには増加しませんね。




計算例 2.  Example 2.


次に拡大伝熱面としてのフィン群について計算してみます。単一フィンの形状は前述の計算例と同じにします。フィン厚み 2[mm] でフィン長 50[mm]でフィン幅も 50[mm] です。なので、50[mm] 正方形の平板にフィンを立てていきます。フィン数をエイッと決めると、フィンピッチとかフィン間隔は自動的に決まりますね。

下図 上段グラフはフィン数を変えて 面積と放熱量を計算した結果です。フィン数 3つと 13 では混み具合がだいぶ違いますね。このように 同じ面積に設置するフィン数を増加させると伝熱面積は増大し、そして放熱量も増加します。
下段グラフは、伝熱面積比率に対して放熱量比率をプロットした結果です。まあ、リニアには増加していますね。と言っても、伝熱面積が2倍になっても放熱量は2倍にはなりません。そもそも単一フィンにおけるフィン効率は 0.671 なんで、その制約が有るんですね。 実際には、様々な影響でフィン表面の熱伝達係数は低下すると考えられるので、この計算結果よりは低くなるのかなと。にしても、フィンを設置して放熱量が 数倍とかになるので、効果はすごく大きいですよね。フィンの加工・設置費用は必要にしても一考に値するのかなと。




まとめ  Wrap-Up

今回は拡大伝熱面として 矩形フィンを設置した場合の伝熱促進効果について計算してみました。まあ、実務ではやったことは無いですね。エアフィンクーラーとかの設計においてはだいぶ関係が有るとは思いますけど。日本企業に勤務していた時に1度だけ見たことが有りますね。蒸留塔の塔頂コンデンサーとして使われたいたように記憶しています。空冷なんで それなりに大きいですよね。もちろん、伝熱管はフィンチューブでした。で、上に結構ゴツいファンが載っかってましたね。

身近なところでは、やはり PC のCPUクーラーとかでしょうか。Pentium III (!) の頃には何かドカ~んと大きい感じでした。TDP とかも結構大きかったのかな、と言っても 30[W] くらいかなと。純正のクーラーも有ったように記憶していますが、わざわざフィンだけを購入して、そこに 5センチファンを2個とか設置して最高回転数でブン回したりしてました。ものすごくやかましいですよね・・・。まあ、当時はパソコン雑誌の記事でクロックアップ云々も取り上げられており、やれここのファブの石はクロックアップ耐性が良いとか悪いとか言ってましたね。

まあ、伝熱フィンの本来の用途ってのは エンジンの空冷とか、パワートランジスタの冷却とかなんでしょうけど。あと、柱上変圧器にも有りますし ケミカルプラントにある受電設備のデカい変圧器にもフィンは付いてますね。そこにCPUクーラーが加わったって感じなんでしょうか。




参考書籍・文献  References

  1. 「大学講義 伝熱工学」 丸善 1983年刊
  2. 「伝熱概論」 養賢堂 1964年刊
  3. 「伝熱工学資料 改訂4版」 丸善 1986年刊
















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