今回は撹拌操作における 「気液分散」 Gas - Liquid Dispersion について取り上げます。撹拌槽の液中に空気などの気体を吹き込んで気泡とし、より大きな気液界面を生成させて物質移動を行なわせます。酸化や水素化を行なわせる反応槽や生物系の発酵槽や培養槽などにおいても使われますね。
まあ、一般的なのは撹拌槽の下部にスパージャーリングを設置し、沢山開けられている孔から気体をブクブクっと吹き込みますね。吹き込まれた気体は気泡になり 浮力によって上昇していきます。と同時にインペラで撹拌してますので、それなりの液流れも存在しています。となると、気泡は流れにのって槽内を循環しますんで その間に気液接触が起こりますね。もちろん、最終的には液面に到達して気相へと移行しますが。で、こんなインペラをこれくらいの撹拌回転数で回し、これくらいの気体流量であれば槽内の流れはこんな状況になっているのかな~?って事を知りたいですね。そして重要なのが気液界面積がどれくらいなのか?ですね。とまあ、そんなところを計算してみようかなと。
実務では気液分散についてはやってませんね。まあ、扱っていた潜熱除去方式の重合反応器ではブクブクというかボコボコしてますけど。しかも、酸化槽とか発酵槽とかでは一般的に低粘度液ですよね。やってたのは高粘度液なので液中の気泡挙動も大いに異なりますね。まあ、撹拌関連の書籍を見ると高粘度液の気液分散についての記載も有るには有りますけども。
気液分散状態 Gas - Liquid Dispersion Status
撹拌槽における気液分散状態ですが、撹拌回転数と気体流量とで分類出来るんですね。絵にしてみると下図のとおりです。下図上段のフローパターンを見てみると、気体吹き込み量が大きくて撹拌回転数が小さいと パターン a. になりますね。気体がスッポ抜ける感じです。この状態で気体吹き込み量を一定で回転数を上げていくと、e. の方にシフトします。液流れに乗って気泡が分散されていきますね。で、c. と d. の間に 完全分散回転数が NCD が有ります。そこから更に回転数を上げていくと 液面付近で気泡の再循環が発生し始めますが、これが NR です。
また、各パターンでの撹拌動力ですが 下図下段のような挙動となります。ゆる~く回転させた状態で気体を吹き込むと パターン a. のような状態となり 動力は低下しますね。で、吹き込み量は一定でどんどん回転数を上げていくとじわじわ動力は低下し ついには最小値となりますが、その時に気泡は完全分散 complete dispersion しているんですね。で、更に回転数を上げていくと動力は最大値となります。で、この時に気泡の再循環が始まるんですね。なんですが、再循環回転数 NR であっても 動力値は吹き込み無しと比較して小さいですね。
気液分散 計算式 Gas - Liquid Dispersion Calculation Equations
✔ 気液分散操作 撹拌槽 Agitated Vessel for Gas - Liquid Dispersion
さて、気液分散における各種計算式ですが前提としては 乱流撹拌槽とします。インペラは 6枚ブレード ディスクタービン 6-Blades Disc Turbine とします。バッフルについては、幅は槽内径の1/10 で 4枚 等配置とします。絵を描いてみると下図のようになりますね。参考書籍には、インペラやバッフルについて典型的なサイズ比率が記載されてますね。それと、縦長なんで インペラは2段 2-Stage にしています。
✔ 撹拌所要動力 Agitation Power
撹拌槽で気液分散操作を行なった場合の撹拌所要動力ですが、無通気時と比較して低下します。と言う事なので 無通気時動力との比率 Pg/P で整理されています。で、無通気時動力は別途 計算しておく必要があります。まあ、線図を見たり推算式を用いたりすれば良いですね。今回適用するのは 6枚ブレード ディスクタービンインペラの撹拌所要動力ですが、参考書籍によれば動力的な観点から見ると 6枚 ブレード フラットパドルと等価なんですね。まあ、確かに似ていますよね。真ん中の円板はあまり動力には影響しなさそうですし。なので、おなじみの名工大グループによる推算式が適用出来ます。一応、下記のとおりですね。面倒臭いので式の番号は省略しています・・・。
✔ 通気時の撹拌動力 Agitation power during Aeration
で、通気時にどれくらい動力が低下するかですが 例えば下記の式が適用されます。式①は無次元式で 通気時と無通気時の動力比率が得られます。一方、式②は有次元式で ディスク タービンの場合には以下のとおりです。
✔ 通気時の物質移動容量係数 Mass Transfer Volumetric Coefficient during Aeration
で、撹拌槽にエイッと気体を吹き込むのは反応させたいとか吸収させたいとか言う理由が有る訳で、となるとどれくらい物質移動が進行するのかを知りたいですね。ですが、御存知の通り 気泡が液中に分散した状態ってのは その挙動が複雑で、熱交換器の伝熱面積のように 物質移動面積はこれくらいです!とは言えませんね。そこで、物質移動係数 kL [m/s] と界面積 a [m2/m3] との積を 物質移動容量係数 kLa [1/s] としますね。で、通気時の kLa がどれくらいになるのかですが、例えば以下の推算式が有りますね。
で、冒頭に触れたように、槽内の気泡挙動は吹き込み量とか撹拌回転数の影響を受けますね。ざっくりと分割すれば、「撹拌支配領域」と「通気支配領域」となります。と言う事は 物質移動係数も撹拌と通気の影響を受けると考えられますね。式③が記載されている元文献をあたってみると、Pgv/Pav = 3.0 が限界点だと記載されています。因みに 式④も化工便覧に記載されていますが 元文献は分かりませんでした。後述する計算例では 式③を用いています。
計算例 Examples
では、早速計算してみます。参考書籍 (化学工学便覧 第6版) に記載されている例です。計算条件は以下のとおりです。そして、物質移動容量係数の値を 0.04783 [1/s] を達成する為に必要な回転数とその時の撹拌動力を求める、と言うのが標題ですね。
- 槽内径 490 [mm]
- 液深さ 槽内径の 1.5倍なので 735[mm]
- インペラタイプ 6枚 ディスクタービン 1段
- インペラ径 槽内径の 1/3 なので 163 [mm]
- ブレード幅 インペラ径の 1/5 なので 32 [mm]
- バッフル 幅は槽内径の 1/10 のフラットタイプを 4個設置
- 内容液 水 密度 1000 [kg/m3]、粘度 0.001 [Pa s]
- 通気量 空気 50 [L/min]
✔ 動力線図 Power Curve
何と言っても 動力線図ですね。名工大グループの計算式による結果は下図のとおりです。乱流域の動力数は Np=4.8 くらいでした。参考書籍では Np=5.15 なので まあ合ってますね。 と言う事は、名工大グループの動力推算式は十分使用可能なんですね。
✔ 物質移動容量係数 Mass Transfer Volumetric Coefficient
さて、次に物質移動容量係数の計算結果ですが 撹拌回転数に対してプロットすると下図のとおりです。所定の物質移動容量係数値を達成するには回転数 500 [rpm] が必要ですね。また、下段グラフは 回転数に対して撹拌動力をプロットしたものです。一応、通気動力もプロットしていますが通気量が一定なので 通気動力も一定ですね。んで、回転数をグーッと上げていくと投入動力はほぼほぼインペラによるものとなるんですね。単位体積当たりの撹拌動力は 1615 [W/m3] にもなりますが、液量自体が 0.14 [m3] と少ないので 動力は 224 [W] くらいですね。
こうしてみると、通気だけで内液を流動させるのはなかなか難しくて、やはり撹拌によって動力を投入するって事が重要なのかなと。まあ、通気量ってのは例えば培養液が必要とする酸素量とかで決まるんであって、勝手に大量にボコボコ吹き込むってのは考えにくいですよね。
まとめ Wrap - Up
今回は撹拌槽における気液分散操作について計算してみました。まあ、一応 何かしらの計算結果は出せるんで 設計とかも可能だとは思いますが。実際にはラボから一旦 ベンチスケールとかに持っていって いろいろとデータを採取して実機にするんでしょうね。上記の計算例では 500 [rpm] とか言ってますが、培養槽とか生物系であれば 細胞にせん断が掛かりすぎて死滅しちゃうとか不具合もありそうです。と、そんなところを何とかしようとして開発されたのが、マックスブレンドとかフルゾーンなどのワイドパドルインペラなんですね。ここいらも比較してみると面白いと思いますね、ここでは やらないですけど・・・。
通気時の撹拌については、相手が気泡という不定形なものなんで 取り扱いが難しいですね。サンプリングして気泡径を実測するって言っても、すぐに合一しますし。ガスホールドアップの計算式なんかも有りますけどね。また、今回はスパージャーから通気させる形式ですが、液面表面から吸収させるってのも有りますね。そうなると、撹拌軸周りにすごく強い引き込みを生じさせる必要がありますね。わざとボルテックス Vortex を生成させる感じでしょうか。多分、ディスクタービンとかでは難しいかなと。となると、やはりワイドパドルインペラになるのかな~と。表面ガス吸収についても書籍とか文献には載ってたりするんで、計算したら面白いと思いますね、やはりここではやらないですけど・・・。
参考書籍・文献 References
- 「化学工学便覧 改訂第6版」 丸善 1999年刊
- 「化学工学の進歩 42 最新 ミキシング技術の基礎と応用」 三恵社 2008年刊
- 「撹拌槽型気液接触装置の吸収効率」 化学工学論文集 第15巻 第4号 1989年
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