化工計算ツール No.94 スプレードライヤー Spray Dryer

 今回はスプレードライヤーについて取り上げます。乾燥装置の一種で、噴霧乾燥装置とも言いますね。で、例によって 粉体工学用語辞典には以下のように記載されています。

「噴霧乾燥とは液、スラリー状材料、ペースト状材料を熱風中に噴霧して、瞬時に乾燥製品を得る乾燥法である。初期含水率が高いため、製品単位質量当たりの熱コストは大きいが、5 ~ 30 s で乾燥が終結し熱変性物質でも容易に乾燥できる。(中略) 噴霧乾燥は食品、洗剤などの乾燥に多用されている」


このブログでも乾燥機については取り上げましたけど、スプレードライヤーについては実務での経験は有りませんね。なんですが、処理量の割に装置がデカくなると言うイメージが有りますね。液をブワーッと微粒化して熱風中に噴霧するので、装置内径が小さいと乾燥する前に内壁にベチャっと付着しますね。なので、どうしても大きめにするのかな~と。とまあ、そんなところを計算してみようかなと。




スプレードライヤー  Spray Dryer

まずはスプレードライヤーについて見ておこうかなと。粉体機器とか乾燥に関する書籍とかには大抵載ってますね。で、参考書籍によれば 1865年には Lamont さんがヨーロッパでの特許を取得しているんだとか。ただし、工業的に噴霧乾燥が利用されたのは 1913年 Grey さんと Jensen さんによるもので、脱脂乳の乾燥に使用したそうです。んでも、何だかんだで100年以上も前なんですね。


✔ 用途 、特徴   Uses and Features

用途としては、被乾燥物が 液状・泥状で かつ大量に連続処理しようとすれば、ほぼスプレードライヤーしか選択肢は無いようです。粉状洗剤などはスプレードライヤーで乾燥されているようです。特徴としては まずは液を微粒化する事ですが、ノズルであったり回転ディスクが使用されます。微細な液滴となる事で蒸発面積が増加しますね。で、液の蒸発には熱量が必要ですが、これは別途装置に供給される熱風によって与えられます。なので、熱風受熱型乾燥器って事になりますね。微細化液滴が落下する間に加熱乾燥され底部に堆積します。なので、処理時間自体は短いですね。一方、伝熱容量係数 ha [W/m3 K] は小さいんですね。ノズルから飛び出した直後は相対速度も大きんでしょうけど、空気抵抗によるブレーキがかかって、気流との相対速度は低下する為でしょうか。結果、装置容積は大きめになるんですね。


✔ スプレードライヤー タイプ  Spray Dryer Types

で、微粒化装置が回転ディスクなのかノズルなのか、そして微粒化液滴と熱風が並流となるのか向流となるのか、によって下図のように分類されるようです。




✔ 微粒化装置   Atomization Device

そして肝心の微粒化装置ですが、ノズルと回転ディスクの2つに分けられますね。ノズルは所謂 スプレーノズルですが、液だけを供給する加圧ノズルと噴霧用空気や水蒸気を用いる 2流体ノズルが有ります。加圧ノズルでは液をノズルの渦巻室に導入し急速な回転を与える事によって液を微細化します。2流体ノズルでは、液と空気をノズル内部で混合して噴霧するタイプと、ノズル外部で混合して噴霧するタイプが有ります。一方、回転ディスクでは高速回転するディスクの中心に液を供給し、遠心力によって液が微細化されます。

構造は下図のような感じですね。液の出口が丸孔やスリット状だったり、ピン状だったりしますね。ここから液が噴出される際に微細化されるんですね。また、ケスナータイプでは伏せたお椀状になっていて、その内側に液膜を形成させ微細化します。ホントはもっと複雑な構造となっていますが、なかなか良く考えられていますね~。




設計方法  Design Method

正直なところスプレードライヤーの設計については参考になるような書籍や文献はあまり見当たりませんね。まあ、実際には専門メーカーさんにお願いする事になると思います。とは言いながら、ザックリこれくらいの処理量だとこれくらいの大きさになるんだよってのが計算出来るんであれば、事業化検討とかには使えますね。もちろん、だいぶラフなものにはなりますけど。今回は、「実用化学装置設計ガイド」化学工学会編 1991年刊の設計事例を参考にしてみます。


✔ 設計対象  Design Target


プロセスの機器構成は下図のとおりです。原料液は定量ポンプで微粒化装置に供給されます。一方、熱風は燃料炊き空気加熱器で所定温度まで加熱され、ドライヤーに供給されます。加熱乾燥され得られた粒子は乾燥室に堆積するので適宜排出されます。また、微粉は熱風に伴って乾燥室外に排出されますが、サイクロンによって捕集されるものとします。微粉が捕集され清浄となった熱風は系外に排出されるものとします。

そして、このスプレードライヤープロセスにおいて 知りたいのは以下の項目です。微粒化装置の仕様(粒子径とか円盤直径) は別途決めておくんですね。そうすると、乾燥室直径とかも得られますが、それだけでは乾燥室の高さは決まりません。なので、熱量から風量を求める事によって乾燥室容積を求めるんですね。乾燥室は円筒形なので直径と容積が分かれば、高さが決まります。乾燥室の下にはコーン部を設置しますけど 適当な高さになるようにしてやれば良いですね。常識的には 少なくとも製品粉体の安息角以上の傾斜角にする必要が有るのかなと。

  • 遠心式微粒化装置の回転数
  • 乾燥室直径
  • 乾燥に必要な熱量
  • 乾燥に必要な風量
  • 乾燥室直胴部高さ
  • 空気加熱に必要な熱量





計算式  Calculation Equations

参考書籍に記載されている計算式は以下のとおりです。式①は回転盤によって生成される粒子径 計算式です。式②ですが、生成粒子の99[%] なんでほぼ全部が この円の中に落下しますよって事ですね。半径なんで2倍すると直径になるんで、乾燥室の直径は少し余裕を見て大きめにすれば良いですね。

式③は乾燥に必要な熱量計算式です。顕熱分と潜熱分が考慮されています。そして、この熱量は全て熱風によって供給されるので乾燥室入口出口の空気温度差を与えれば 熱風空気量が式④で計算されます。式の分子には 1.1 が含まれていますが、これは放熱分10[%]との事です。で、話はこれで終わりでは無くて式⑤を使って空気加熱器の熱負荷を計算します。外気を取り込んで乾燥室入口温度まで昇温するのに必要な熱負荷です。最終的に式⑥で必要な燃料供給量が得られます。




計算例  Examples


✔ 計算条件  Conditions

参考書籍に記載されている以下の条件で計算してみます。


  • スラリー供給量   100 [kg/hr]
  • スラリー入口含水率 50 [wt%-WB]
  • スラリー出口含水率 0.5 [wt%-WB]
  • スラリー比重    1.2 [ - ]
  • 乾燥室入口熱風温度 200 [℃]
  • 外気温度      15 [℃]
  • 外気関係湿度    70 [%]
  • 外気絶対湿度    0.0074 [kg-H2O/kg-Dry Air]
  • スラリー温度    15 [℃]
  • 被乾燥物比熱    1.67 [kJ/kg K]

  • 乾燥後粒子径    100 [μm]
  • 回転盤直径     120 [mm]


✔ 乾燥室 サイズ  Dryer Chamber Size, Volume

計算した結果は下図のとおりです。せっかくなんで、処理量を変化させてみました。100[kg/hr] でも乾燥室はそこそこデカいですね。処理量が 300[kg/hr] となると 95[m3] くらいになるので、これは相当にデカいですね。


  • 乾燥室直径     3.5 [m] 余裕 5%を加えて切り上げ
  • 乾燥室高さ     2.8 [m] 余裕 50%を加えて切り上げ
  • コニカル部高さ   1.9 [m] 抜出し部直径 0.3[m]、壁面角度 50度 (水平面から)
  • 全内容積    33.6 [m3]  



熱負荷と空気量は以下のように増加します。まあ、そこそこ大きな値ですが、そこまでってほどでは無いですね。それと、熱収支計算では 熱風出口温度と製品出口温度が必要なんですが、これはそれぞれ 95[℃]、85[℃] と設定しています。この辺りは推定するのも結構難しいので、例えば 別途 パイロットスケールで乾燥実験を実施して そのデータを使うって事になるのかなと思います。粉の性状とか乾燥特性に影響されますよね。



✔ 乾燥室 比較  Comparison of Chamber Size

次に得られた乾燥室サイズで簡単に絵を描いてみます。処理量 300[kg/hr] ともなると結構 大きな~と思いますね。これに空気加熱器とかサイクロンとかブロワ類が加わりますんで、ストラクチャーもそれなりな規模になりますね。やはり、熱風受熱方式の乾燥器だと加熱源が空気しか無いので、どうしてもデカくなりますね。とは言え、含水率が結構高い状態から 一気に低いところまで持って行けるので、多少の大きさは許容しましょうと言う事になるのかなと。



まとめ  Wrap-Up

今回はスプレードライヤーを取り上げて乾燥室仕様を計算してみました。計算してみて、やはり粉ものは難しいと思いますね。まあ、一応は設計計算も出来ますが、乾きにくい粉とかだとこの限りでは無いのかなと。やはり、ラボやパイロットプラントで乾燥実験を繰り返してデータを蓄積する必要があるんだと思いますね。

で、このスプレードライヤーですが 参考書籍を見るともっとデカいのも有るんですね。処理量は 5000 [kg/hr] 以上ともなると、乾燥室内径は 10 [m] にもなるようです。味噌とかブドウ糖などの食品だとサイズが格段に大きいですね。それくらいの処理量にしないとコスト的に厳しいのか、それともこの乾燥方式に合っているのでどんどん大きくして行った結果なのかは分かりませんけど。また、樹脂関係だとフェノール樹脂とか PVC とかにも適用されています。セラミックス関係にも適用している例もあるようです。結構、守備範囲は広いのかな~と。

で、モノがデカいので運転するにもエネルギーコストがどうしても大きくなりますね。なので、微粒化に問題無い範囲で原料液を出来るだけ濃くする事、品質に問題無い範囲で熱風の温度差を大きくする事が好ましいとされています。濃い原料液だとその分 蒸発させる水分量が減るので、必要な熱負荷も低減しますね。また、熱風温度差を大きくするとその分 空気量は減りますね。それに加えて、排熱回収の検討なども必要だとされていますね。




参考書籍・文献  References

  1. 「実用化学装置設計ガイド」化学工学会編 1991年刊
  2. 「初歩から学ぶ乾燥技術」工業調査会 2005年刊
  3. 「改訂2版 乾燥装置」 財団法人 省エネルギーセンター 2004年刊 









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