今回は自然対流熱伝達について取り上げます。高温の物体が低温の流体中に置かれていると、周囲流体に熱が伝わり温度が上がります。すると、流体は膨張して密度が小さくなります。結果、密度差による浮力が発生し物体中の流体は流動するようになります。これが自然対流 Natural Convection です。当然、熱伝達も起こっているので 自然対流熱伝達 Natural Convection Heat Transfer と呼ばれますね。
まあ、強制対流熱伝達と比較すると 熱伝達係数値は小さめな印象が有りますが、強制対流の周囲流速が小さい時には 相対的に自然対流の寄与が大きくなりますね。例えば、配管表面からの放熱量計算において JIS では 熱伝達係数値を 12 [W/m2 K] としますが、これは強制対流、自然対流 及び 放射の寄与を全て考慮したもののようです。このうち、自然対流の分は 3.11 [W/m2 K] なので 割合は 26% となります。まあ、無視はできませんね。
実務でも時々は計算してましたね。ポリマープロセスにおける高温部は 300[℃] になりますが、まあ大抵は熱媒配管ですね。その辺りの放熱量を計算してみたりとか。プロセス側流体が絡む場合はまず無かったように記憶しています。
自然対流熱伝達 計算式 Natural Convection Heat Transfer Calculation Equations
自然対流も流動現象なんで、層流から遷移を経て乱流になると言った流動状態の違いが有りますね。また、配管内とか閉空間内の自然対流も無い訳では無いですが、大抵は平板とか円柱の外側が一般的でしょうか。下図のような感じですね。これは高温物体の場合なんで浮力流れは上方に向かいます。これが、低温物体であれば負の浮力となるので流れは下方に向かいます。で、強制対流と同じ様に 物体表面には速度分布と温度分布が形成されます。熱伝達係数値については、温度分布の厚みが重要となります。
まあ、そんな感じで浮力方向の違い、物体形状の違い、層流・乱流の違い、更には一様温度とか一様熱流束と言った境界条件の違いなどが有ります。なんですが、全部取り上げる訳にも行かないので、「高温垂直平板と高温水平円柱」、「一様温度条件」について取り上げます。「層流・乱流」は大事なんでどっちも取り上げます。
✔ 垂直平板 Vertical Flat Plate
いくつかの参考文献には、下図のようなグラフが記載されていて 流動状態と熱伝達特性 (ヌッセルト数) との関係が概略的ですが分かります。流体は空気、水と高粘性油です。横軸はプラントル数とグラスホフ数との積であるレイリー数で、縦軸は粘度補正項の有るヌッセルト数です。で、このグラスホフ数ですが温度差を含みます。なのでグラスホフ数が大きいという事は温度差が大きいと言う事で、自然対流も強くなりますね。で、自然対流が強くなるとヌッセルト数も大きくなり、結果として熱伝達係数値も大きくなります。なので、両対数グラフ上では右上がりとなります。レイリー数の小さい領域は層流域で、大きい領域は乱流域となります。で、問題は遷移域で下図では 色付きの四角形で表示しています。つまり、このレイリー数で遷移するよ!と言う訳では無くて、この範囲内のどこかを通過して遷移するよって事になります。まあ、沢山の研究者が実験をしてみたけど、それくらいバラツキが有るって事なんだと思います、多分ですけど。なので、こういう整理になるのかなと。ここいら辺が自然対流の難しさと言うか面倒くさいところですね。
で、垂直平板の熱伝達係数 計算式ですが 以下の通りです。層流域と乱流域で分けていますが、前記のグラフを見るとレイリー数 10の10乗くらいが境目になるのかなと。微妙なところであれば両方で計算してみて、どちらか小さい方を選べば良いですね。
✔ 水平円柱 Horizontal Cylinder
計算例 Examples
✔ 垂直平板 Vertical Flat Plate
次に実際にどの程度の熱伝達係数値になるのかも計算してみます。温度 20[℃] の空気中に 壁面温度 200 [℃] の高温垂直平板があるとします。平板高さを変えて、層流・乱流 平均熱伝達係数を計算してみるとこんな感じです。平板が短いと層流なんですね。で、徐々に長くなってくると温度境界層が厚くなるので 層流 熱伝達係数は低下していきます。そして、ある長さからは乱流 熱伝達係数の方が大きくなります。ここで、層流から乱流へと遷移しているんですね。乱流域では熱伝達係数は増加していきますが、その増加割合は頭打ちとなりますね。
✔ 水平円柱 Horizontal Cylinder
まとめ Wrap-Up
また、自然対流の計算で少し面倒くさいのは 表面温度が熱伝達係数値に直に影響するって事ですね。グラスホフ数の中に温度差が含まれているので。今回の計算では表面温度一定条件なので、その点は楽です。ですが、例えば、円管内をある温度の熱媒油が流れていて大気中に放熱する場合では、熱媒油温度は与えられますが 円管表面温度は不明ですね。もちろん、表面温度は 熱媒油温度と大気温度との中間に必ず有るんですけども。大気温度が 20[℃]で 熱媒油温度 300[℃] とすると、その温度差は 280[℃]も有りますね。面倒くさいんで、表面温度 300[℃]とすると自然対流熱伝達を多めに見積もる事になります。一方、50[℃]くらいとすると 今度は低めに見積もってしまいます。
んじゃあ、どうするのか?と言うと、試行錯誤法で表面温度を計算する事になりますね。円管内側 強制対流熱伝達係数が計算出来て、円管厚みと材質が分かっていれば、それぞれの熱コンダクタンスが求まります。不明なのは円管外側の自然対流熱伝達ですが 表面温度を仮定すれば熱伝達係数値は計算出来ます。で、各熱コンダクタンスから総括伝熱係数を求めれば熱流束が得られます。そして、今度は熱流束を使って表面温度を計算し直すんですね。得られた表面温度が仮定した表面温度と同じであれば、仮定が正しかったとなって計算終了です。そうじゃなければ、表面温度を仮定し直して再計算しますね。まあ、実際には EXCEL のソルバー機能を使えば 比較的ラクに出来ますね。とまあ、実務ではそんな感じで計算していましたね。
参考書籍・文献 References
- 「大学講義 伝熱工学」 丸善 1983年刊
- 「伝熱概論」 養賢堂 1964年刊
- 「伝熱工学資料 第4版」 日本機械学会編 丸善 1986年刊
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