今回は横型粉体撹拌槽の撹拌動力について取り上げます。粉体を横型の槽に投入してブレードでかき混ぜるってのは、粉体撹拌槽ではもちろん、他にも乾燥機、加熱・冷却器でも普通に有りますね。ネットで粉体機器メーカーさんのサイトなどを見ても、結構いろいろと有ります。まあ、それぐらい需要があるって事でしょうか。で、この粉体撹拌槽ですが単軸若しくは 二軸が一般的でしょうか。加熱・冷却器では単軸でも良いとは思いますが、内部の粉体を積極的に混ぜたい場合には二軸にするのかなと。まあ、三軸とか四軸ってのも有り得るとは思いますがシール部分とかいろいろと面倒くさい事が多いのかなと。
実務でも似たような機器は検討した事が有りますね。確か乾燥機だったかなと。粉体を投入した後 スチームによるジャケット加熱で水分を飛ばします。ブレードが設置されているシャフトにもスチームを通して加熱してましたね。で、少し減圧してましたね真空ポンプで。で、更に粉体の混ざりを改善する為にグルグル回るブレード(可動部)に加えて、バッフル的(固定部) なものが突き出してました。マニュアルには Plow (鋤) と書いてありましたね。で、粉体自体は軽いものだったんで動力的にどうのこうのは無くて、内壁での伝熱がどの程度なのかを検討しましたね。伝導受熱型乾燥機なんで ジャケットから粉体への熱移動が大事なんですね。
撹拌動力計算式 Agitation Power Calculation Equations
参考文献は 九州大学 村上康弘先生グループによる 「固気系横型2軸撹拌槽の動力特性」です。この文献の緒言を見ると、パドルで粉体をガンガン巻き上げて流動化させるのが目的だと言及されてますね。単に「粉体撹拌槽」では無くて、わざわざ「固気系」と標題にあるのは そう云う事で、流動化して固気系反応装置として使おう!って事なんですね。流動化だったら流動層で良いんじゃないか?と思いますが、流動層だと流動化させるのにそれなりのガス量を使いますね。なので、反応に消費される量以上のガス量を供給する必要があります。で、それは勿体ないので流動化は撹拌でやりましょうって事なのかなと。
✔ 横型二軸粉体撹拌槽 Horizontal Twin Axis Powder Mixer
文献の内容を見ると、液体の撹拌と同じように動力数 Np を使って整理しています。ですが、少しアレンジしてますね(式①)。で、いろいろとブレード仕様とか粉体種別を変えて実験をしているんですね。そして、動力数を求める為の実験式④を得ています。この式にはフルード数が含まれています(式⑤)。フルード数は慣性力と重力との比率ですが、横型撹拌槽のような液面(この場合は粉体面) が存在する場ではやはり使われるんですね。で、式⑥は最大トルクですが、文献によれば パドルが粉体層に貫入・通過・離脱する過程でトルクは上がって最大値となりそして下がります。この過程が繰り返されますね。なんですが、そのトルク変動の平均値をとれば平均トルクとなるので、それを使って動力値が得られます。式⑦はトルクと動力との関係ですね。
横型撹拌槽仕様が有って そこに所定量の粉体を仕込むと粉体層高さが得られるんで、その高さによって 定数 b の値を決定します。ただし、槽の形状が四角形だと簡単ですが、下図のように円筒が結合したような場合だと少し面倒くさいですね。そして、粉体層内の掻き取り長さ l (小文字のエル) が有りますが、これはまた粉体層高さとバドル半径から求める必要がありますね。
んで、液体の撹拌であれば 傾斜パドルが1段だけ設置されていれば、普通に動力数を計算しますね。もし、2段であれば よほど隣接していなければ 1段分 動力数 × 2 とします。なんですが、この横型撹拌槽の場合はズラーッとパドルが並んでいます。こんな場合はどうするのかなと思って考えてみましたが、式①にはブレード長 W がありますね。つまり パドル1個の長さが決まっていれば、その長さ × パドル個数が ブレード長となるのかなと。
計算例 Examples
✔ 撹拌槽仕様 Vessel Size
では早速計算してみます。参考文献では実験で使用した槽の仕様が記載されています。図にしてみるとこんな感じですね。ラボスケールなんで それなりに小さいですね。で、パドルブレードについてはあまり詳細には記載されていませんが、4枚設置したとあるのでエイッと作図してみました。パドルブレードの径はいろいろと変えていますね。なので、クリアランスも変わります。そして、Vessel III は角槽になります。
✔ 粉体特性 Powder Property
で、粉体特性についても触れておきます。実験で使用した粉体は「付着性をもたず、流動性も比較的良好であった」と記載されています。粉体物性は下図のとおりです。粒子径と嵩密度に加えて、内部摩擦係数 tan Φi と壁面摩擦係数 tan Φw が記載されています。摩擦係数なんで、この値が小さいほど粒子同士がすべりやすいと言うか動きやすいと言う事になるのかなと思います。で、tan Φ となっているので Φ の値を計算出来ます。Φi は内部摩擦角、Φw は壁面摩擦角となります。で、調べてみると 角度 Φ は粉体を円錐状に積み重ねた際に得られる傾斜角だそうです。んじゃ、安息角なのでは? と思いますが、厳密には違うそうです。ただ、まあ一般的には 傾斜角≒安息角になるそうですね。で、下図には計算した角度も記載しています。安息角が小さいほど粉体の山は平べったくなり、それは粉体がサラサラして流動しやすいって事ですね。実際、実験で使用した粉体傾斜角は34度以下なんで サラサラですね。普通の砂とかだと安息角は 30度くらいだそうです。これが砂糖とかだと50度以上とかになりますね。
✔ 撹拌動力 粉体高さの影響 Agitation Power , Influence of Powder Bed Height
撹拌槽と粉体種別 及び 回転数は同じで粉体層高さのみを変えた場合のトルクと動力は以下のようになりました。因みに実験では軸1本当たりのトルクを歪ゲージ式トルク変換器によって測定しているので、下図のトルクと動力は軸1本分になると思います。なので、撹拌槽全体では軸2本なんで 2倍するのかなと。
まあ、以下の計算された動力を2倍しても200[W]以下なんで たかが知れてますね。それと、トルクも動力も粉体層高さの増加に伴ってリニアに増加しています。これは、ブレードが粉体層内を通過する長さがほぼリニアに増加する為ですね。
✔ 回転数の影響 Influence of Rotation Speed
今度は粉体層高さを一定にして、回転数を変えて動力を計算してみました。下図のとおりですがリニアに増加はしないですね。また、さすがに 400[rpm] でぶん回すと 動力は 250[W] にはなるんですね。これくらいになると、粉体の多くは撹拌槽上部空間に浮遊する感じになるんでしょうか、見てみたいですね。
しかし、こんなに高速でブレードを回転させるとポリスチレンとかだと破砕されて細粉が発生しないのかな~と思いますけど。500[μm] のポリスチレン粒子とブレードとのスケール感は下図のとおりですね。
✔ 量産撹拌槽 撹拌動力 Agitation Power of Commercial Scale Mixer
せっかくなんで、ドカーんとデカい量産スケール撹拌槽における撹拌動力を計算してみました。前述の計算例における撹拌槽寸法を全部 10倍しています。なので、10の3乗となるので内容積は 1000倍となります。まあ、処理量が 1000倍って事になりますかね。で、さすがに 400 [rpm] とかでは回せませんね。回転数はだいぶ下げる感じですが、ブレード先端速度が同じくらいになるようにしています。んで、撹拌動力は 200 [kW] くらいにはなるんですね。さすがに量産機ですからね。となると、電動機とか減速機とかゴツい感じにはなりますよね。更には、前述のようにトルクの変動が有るんで軸受とかの設計は難しそうだな~と思います。
更に、下図下段グラフでは 量産スケールとラボスケールでのフルード数と動力数の関係をプロットしています。両者は当然滑らかに接続されていますし、この文献による実験範囲内にも入っているんで まあそれなりに妥当な結果なのかなと。と言う事は、ラボ機でも量産機でも同じ計算式で撹拌動力を計算出来るよって事なんですね。つまりは スケールアップに適用可能って事になりますが、これが重要ですよね。
で、両者のスケールを比較するとこんな感じです。さすがに、寸法比で 10倍、容積比で 1000倍も違いますんで こうなりますね。粉体層容積は 2.63 [m3] なので アルミナであれば 重量 2,419 [kg] を処理出来る事になりますね。
まとめ Wrap-Up
今回は横型撹拌槽の撹拌動力について計算してみました。ラボだとそうでも無いですけど、量産スケールともなるとそれなりに動力が必要となりますね。まあ、実際 このような固気系反応装置が使用されているかは疑問ですが、粉体層における撹拌動力の推定にはまあ使えるのかな~と思います。参考文献でも言及されていますが、混合性能についてはいろいろと検討されていますが、実際に機器設計する立場から言えば 動力がどれくらいなのか?も重要ですよね。撹拌動力によって電動機容量が決まりますし。200 [kW] を超えるような電動機では相当なお値段にもなりますし、大きさも結構 有りますよね。
それと、今回の文献では サラサラした流動性の良い粉体については適用可能なんですね。前述の内部摩擦係数とか壁面摩擦係数が小さい場合ですね。これが例えばオカラみたいな湿潤粉体とかであれば、こうはなりませんね。撹拌するとググッと粉が締まる感じで、すぐにトルクオーバーで電動機がトリップする感じでしょうか。この辺りは実際に経験しましたね。日本の粉体機器メーカーさんで湿潤粉体を使った実験をしましたが、なかなかうまくは行きませんでしたね。まあ、そんな場合は別の方法や機器を考えた方が良いですね。なので、粉ものは難しいな~と言うのが基本的な認識として有りますね。まずは、小スケール実験機でどんな感じかを把握してって言うのが基本的な進め方になるのかな~と思います。まあ、うまく行ったら それはそれで達成感が有るんですけどもね。
参考文献 References
- 「固気系横型2軸撹拌槽の動力特性」
天田 次雄、小森 悟、村上 康弘 九州大学 工学部 化学機械工学科
化学工学論文集 第15巻 第1号 1989年
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