今回はエアスライド Air Slide について取り上げます。粉体輸送方法の一つですが、ベルトコンベアのような機械的輸送方式では無いですし、かといって所謂 空気輸送 Pneumatic Conveying とも違いますね。 まあ、流体力輸送方式の一種とされていますけども。で、そのエアスライドですが 少し傾斜した鋼製の凹み (トラフ) Trough が 多孔板 例えば 厚手のナイロンや木綿などのカンバス Canvas によって上下に分割された構造となっています。カンバスの上に粉体を供給し、カンバスの下には加圧されたエアを導入します。カンバスを通過したエアは 次に粉体層を通過しますが、ある程度の流速以上となると粉体が流動化します。そうすると、トラフは傾斜してますんで粉体が水のようにサーッと流れて行くんですね。で、参考文献によれば以下のような特徴が有るとされています。
長所 Advantages
- 可動部分が無いので取り扱いが容易
- 所要動力がきわめて少ない
- 設備が簡単で大きな輸送量にも対応可能
- 閉塞のおそれは無い
- 曲線的な輸送も可能
- 流動化空気によって加熱や冷却も可能
短所 Disadvantages
- 粒子径が大きく流動化しにくいものは適さない
- 水分が多い粉粒体は付着性が大きく適さない
- 吸湿性の著しいものや潮解するもの 空気で化学変化するものは適さない
- 上方には輸送出来ない
結構サラサラの微粉原料を輸送する設備でしたけども、実際に見た事がありますね。そんなに大規模では有りませんでしたけど。うまい事やるもんだな~と思いましたね。まあ、その辺りを計算してみようかと。
エアスライド Air Slide
✔ エアスライドの構造 Air Slide Structure
そのエアスライドの構造ですが下図のとおりですね。ホッパーなどの粉体容器から粉体が落下し、トラフの多孔板 (一般的にはカンバス) に供給されます。で、エアがカンバス下部に導入されているので上向きに吹き出します。そうすると、そのエアによって粉体が流動化されます。で、流動化された粉体はエアスライドの傾斜によって下流へと流れていきますね。参考文献・書籍によれば、傾斜角度や運転条件は大体以下のようです。
- 傾斜角度 3 ~ 8 [° ]
- 空気流量 1 ~ 3 [m3/min m2]
- 粉体速度 0.5 ~ 2 [m/sec]
- 空気圧力 ~ 500 [mmH2O]
見て分かるように エアスライド自体には可動部分は全く有りません。なので、メンテナンスなどの手間や費用がほとんど必要無いって事になりますね。突発的なトラブルとかも少ないですよね。外観は単なる矩形のダクトみたいなのが、少し傾斜が有る状態で設置されてるだけですね。また、エア圧力も相当に小さいですよね。これが高速空気輸送であれば配管の圧力損失が結構有りますね。ですが、エアスライドではあくまでも多孔板と粉体層を通過する際の圧力損失だけが必要となります。勿論、トラフを下流に向かって流れる際の圧力損失も有るには有りますけどエア流量自体がそこまで大きくは無いので、それほどでは無いですね。また、ところどころでベントからエアを系外に放出すれば トラフ内の流量は低く抑えられます。
✔ 設計計算式 Design Calculation Equations
エアスライドの設計に関する計算式ってのは、粉体関連書籍を見ても載ってないですね・・・。なので、化学工学会誌に掲載された青木 隆一先生の一連の報文を参考にさせて頂きました。 1955年発表なんでだいぶ古いですが、内容については関係無いですね。青木 隆一先生ですが、東京大学で教鞭をとられていたようです。また、1987年から1989年までは粉体工学会 会長だったようです。大御所ですね。
で、参考文献によれば設計条件として 粉体種類、輸送量、輸送距離 が与えられて、それを満足するように流路の 傾斜、風量、風圧等を決定すれば良いんですね。文献には計算式の導出過程とかについても、いろいろと言及されていますが ここでは直接に使用する式についてのみ取り上げます。また、定数値については、いくつかグラフから読み取るようになってますね。で、以下のとおりですね。式①~④までは輸送距離におけるトラフ長、高低差、トラフ面積及びエア流量についてです。式⑤は圧力損失についてですが、これはグラフから読み取りますね。式⑥はエア供給用ブロワの動力を見積もる式となります。また、式⑦はトラフ上を流れる粉体平均流速を計算する式です。参考文献ではアルミナ・ボーキサイト・砂について実験していますが、今回はアルミナについてのみ計算してみます。なので、定数値もアルミナの場合となります。式⑧は定数値の内容についてですが、実際の計算では 定数 ka を直接 グラフから読み取ります。で、式⑨は粉体輸送量について表しています。粉体層高さとトラフ幅の積は粉体層 断面積になりますが、これに粉体平均流速と粉体層見かけ密度を掛け算すると重量基準の輸送量になりますね。
で、参考文献によれば設計条件として 粉体種類、輸送量、輸送距離 が与えられて、それを満足するように流路の 傾斜、風量、風圧等を決定すれば良いんですね。文献には計算式の導出過程とかについても、いろいろと言及されていますが ここでは直接に使用する式についてのみ取り上げます。また、定数値については、いくつかグラフから読み取るようになってますね。で、以下のとおりですね。式①~④までは輸送距離におけるトラフ長、高低差、トラフ面積及びエア流量についてです。式⑤は圧力損失についてですが、これはグラフから読み取りますね。式⑥はエア供給用ブロワの動力を見積もる式となります。また、式⑦はトラフ上を流れる粉体平均流速を計算する式です。参考文献ではアルミナ・ボーキサイト・砂について実験していますが、今回はアルミナについてのみ計算してみます。なので、定数値もアルミナの場合となります。式⑧は定数値の内容についてですが、実際の計算では 定数 ka を直接 グラフから読み取ります。で、式⑨は粉体輸送量について表しています。粉体層高さとトラフ幅の積は粉体層 断面積になりますが、これに粉体平均流速と粉体層見かけ密度を掛け算すると重量基準の輸送量になりますね。
下図は計算に使用するグラフ類です。上段左はアルミナ粉体の特性数の変化で、上段 右はエア流速とトラフ上を流下する粉体速度との関係となります。このグラフが重要ですね。また、下段は圧力損失に関するグラフで左はカンバスの圧力損失、右はアルミナ粉体層の圧力損失の変化となります。勿論、粉体の種類が変わるとこれらのデータも変わりますね。粉体も様々なんで、それらを全部カバーするような関係式として整理するのも難しいのかな~と。
計算例 Examples
✔ アルミナ粉体の輸送 Conveying Alumina Powder
参考文献に記載されている設計例を計算してみます。設計条件は以下のとおりです。粉体種と輸送量、輸送距離が指定されていますが、更にトラフ傾斜角は 3 [° ] とします。- 粉体 乾燥アルミナ
- 輸送量 10 [ton/hr]
- 輸送距離 50 [m]
- 傾斜角 3 [° ]
また、重要な項目は以下のとおりです。重要なのはカンバスを通過するエア速度ですね。流動化開始速度よりも少し高めに設定します。今回のアルミナの場合、1.4 [m/s] とします。また、粉体層とトラフ幅の比率は 0.2 [ - ] とします。トラフ幅が粉体層高さの5倍と言う事になりますね。
- エア速度 1.4 [m/s]
- 粉体層/幅 比率 0.2 [ - ]
で、トラフは傾いているので 入口の位置は高くする必要が有るんですね。なので、その高さにエイッと持ち上げるのにはバケットエレベーター Bucket Elevator を使用するものとします。なので、その動力も必要になりますね。早速、動力を計算してみると下図のとおりですね。また、トラフ上の粉体層高さと トラフ幅は 下図下段グラフのようになります。まあ、計算結果として粉体層高さは求められますが、計算式には適用範囲があるので、それから外れるのは良くは無いですね。なので、100 [ton/hr] などの大量輸送であれば、トラフ幅を大きくするべきかと思います。ただ、そうすると粉体層とトラフ幅との比率が変わるので、それはそれで問題かなと思います。
にしても、必要動力は小さいですね。参考文献には 平ベルトコンベア動力との比較結果が載っていますが、動力は 1/4 程度となっています。その動力もバケットエレベーターが結構な部分を占めてますよね。なので、エアスライド自体の動力はすごく小さいです。んじゃ、サイズはどうなのか?と言えば、そう大きくも無いですね。10 [ton/hr] だとトラフ幅 16.75 [cm] となります。別の参考文献では、セメント輸送では 300 [ton/hr] で 120 [m] の実績があるそうですね。
※ 今回の計算で少し苦労したのが、粉体層 見かけ密度 ρa です。流動化してエアスライド上を流れている際の密度ですね。まあ、式⑨を使って計算しますが不明なのが 平均 粉体流下速度 (u にオーバーラインを付けたもの) です。ですが、エア速度 (カンバスを通過する速度) に対して粉体最大流下速度 umax は得られています (前述の図 参照)。更に、この umax なんですが、実測された 粉体速度分布を見てみると アルミナの場合はほぼ均一な流れになっているんですね。なので、最大速度 = 平均速度 としても良いかなと。式⑨ を変形すると ρa = Q /(u・b・h) なので、条件として u = 40 [cm/s] 、Q = 100 [g/s]、b = 5 [cm] を代入します。 ここで、h ですが 実験条件を見ると h/b = 0.2 くらいなんですね。なので、h = 1 [cm] となります。ρa を計算してみると 0.5 [g/cm3] となります。参考文献では 0.42 [g/cm3] となってますが、まあ同じくらいですかね~。
✔ トラフサイズ Trough Size
せっかくなんで 輸送量 10 [ton/hr] におけるトラフの絵を描いてみます。まあ、それなりに大きいですね。そもそも長いですしね。関連するストラクチャーとかも必要なんで、こんな感じになるのかな~と。
まとめ Wrap - Up
今回はエアスライドについて取り上げました。アルミナ輸送を想定して 動力やサイズを計算してみました。実物は見たことが有りますが、そんなに大きな輸送量では無かったですね。んでも、長さは 20[m] くらいだったでしょうか。途中に曲がり部が有ったんですね、確か。「へーっ、エアスライドは曲げられるんだな~」と思いましたね。輸送しているのはサラサラの粉体でフラッシングしやすい感じのものでしたけど、特にトラブルも無く運転してましたね。
なんですが、勤務していたケミカルプラントでは高速空気輸送しか見たことが有りませんね。結構太い配管がサイロ周りを縦横に走ってますね。さすがにペレットはそうそう簡単には流動化しないので、どうしても高速空気輸送になりますね。粉ものの添加剤とかも有ったのかも知れませんけど、輸送距離が短いのであれば スクリューフィーダーとかで対応していたのかなと。
また、このエアスライドですが 傾斜させないタイプとかも有るようで、最近でも研究されているようです。エアスライドにエアを供給しますが、それとは別に粉体供給容器の底部にもエアを導入して流動化させるんですね~。
なんですが、勤務していたケミカルプラントでは高速空気輸送しか見たことが有りませんね。結構太い配管がサイロ周りを縦横に走ってますね。さすがにペレットはそうそう簡単には流動化しないので、どうしても高速空気輸送になりますね。粉ものの添加剤とかも有ったのかも知れませんけど、輸送距離が短いのであれば スクリューフィーダーとかで対応していたのかなと。
また、このエアスライドですが 傾斜させないタイプとかも有るようで、最近でも研究されているようです。エアスライドにエアを供給しますが、それとは別に粉体供給容器の底部にもエアを導入して流動化させるんですね~。
参考文献・書籍 References
- 「エアスライドによる粉体輸送」 化学工学会誌 第19巻 第1号 1955年
- 「エアスライドの設計」 化学工学会誌 第19巻 第1号 1955年
- 「エアスライドによる粉体の輸送」 窯業協会誌 第72巻 第7号 1964年
- 「粉粒体の供給と輸送」 色材 第52巻 第9号 1979年
- 「流動化粉体の水平輸送に及ぼす粉体ヘッドや流動化空気速度の影響」 混相流 第35巻 第2号 2021年
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