化工計算ツール No.99 ポンプキャビテーションとNPSH Pump Cavitation and Net Positive Suction Head

 今回はポンプのキャビテーション Cavitation とそれを防ぐために必要な NPSH について取り上げます。まあ、ポンプ周りの技術検討においては NPSH を計算したりしますね。で、NPSH は そのまま エヌ・ピー・エス・エイチ と言いますね。で、略せずに言うと Net Positive Suction Head ですね。参考書籍によると、「ポンプ入口における飽和蒸気圧を差し引いた正味の静水頭」との事です。 で、キャビテーションですが ポンプ内部の静圧が液の飽和蒸気圧より低い部分で気泡が発生し高いところで消滅を繰り返す事で、液による騒音・振動が起こりケーシング材料が数十MPa の衝撃を受けて侵食され、ポンプの揚程、軸動力、効率などが急激に低下する現象となります。

まあ、要はポンプがキャビると急にうるさくなったり、全然液を送らなくなったりするんですね。それは非常に困るので、キャビテーションが起こらないように NPSH がどれくらいなのかを計算したりしますね。また、これまでは問題は無かったけども、いつもよりも温度の高い液を送液しようとしたらキャビったとかも無い訳では無いですね。さすがに量産プラントとかであれば、詳細設計時にきちんと各ポンプの NPSH を計算してキャビテーションが発生しないようにしますね。ですが、パイロットプラントとかだとレイアウトの関係上 ポンプサクション側配管が短くなったりして 十分な NPSH が達成出来なかったりしますね。そうするとキャビテーションとまでは行かなくても、送液量がイマイチ不安定になったりする場合も有るのかな~と思います。

実務でも計算しましたね、普通に。こっちのベッセルからこっちの反応器まで送液する場合などでは、当然 吸入側配管の圧力損失も計算しますんで、NPSH も計算しますよね。まあ、よっぽど揮発性が高い物質と言うか液体を、これまた温度の高い状態で送液しなければ問題は無いですね。



NPSH    Net Positive Suction Head 


✔ NPSH とは ?  What's NPSH ?

この NPSH ですが、2種類 ありますね。必要 NPSH と 有効 NPSH です。それぞれ以下のような意味合いですね。そして、キャビテーションを避ける為には 運転条件において 常に 必要 NPSH < 有効 NPSH である必要があります。また、NPSH は静水頭なので [m] で表わされますね。また、参考書籍には 必要 NPSH に対して 有効 NPSH は 最低でも 1[m] の余裕を持たせる、とありますね。大きければ良いと言っても、余裕が 0.5[m] では安定運転は出来ないんですね。   

  • 必要NPSH  NPSH Required , NPSHR
    ポンプがキャビテーションを起こさない為に必要なポンプ入口にける正味静水頭
    ポンプメーカーから提示される

  • 有効NPSH NPSH Available , NPSHA
    ポンプ入口における液体の飽和蒸気圧を超える静水頭
    配管設計の際に設計者が計算する


まあ、普通に考えると液体の蒸気圧が雰囲気圧力を超過すると気泡が出来ますよね。液体が相変化して気体になる訳ですね。確かにポンプ上流のタンクとかベッセルでは発泡していなくても、サクション側配管が長かったりすると 圧力損失によって雰囲気圧力が低下し、結果として気泡が発生しますよね。

で、ポンプと上流側にあるベッセル・タンクとの位置関係を図にしてみるとこんな感じですね。ポンプとベッセル・タンクの位置関係は2種類に分けて考えられます。ベッセルの上にポンプが設置されている場合と下にある場合です。ポンプが下にあるのはまあ普通ですね。ベッセルの底部に抜き出しバルブとか配管があって、その配管がポンプのサクションに接続されてますね。一方、ポンプが上にある場合の例としては 地下ピットの水を排水する場合などにはこうなりますね。

そして、両方の圧力について図にしてみたのが下図下段です。上限は大気圧で下限は絶対真空 即ち ゼロです。普通は、101.3 [kPa abs] ~ 0 [kPa abs] でしょうか。ただし、この図では静水頭なので 10.33 [m] ~ 0 [m] となりますね。で、ここにサクション側 レベル差 Hs [m] と サクション側配管 静水頭損失 hL [m] を描いてみます。そして、下限である絶対真空については 液温度における飽和蒸気圧 Pv [m] を加算します。と、最後に 必要 NPSH と 有効 NPSH を描き加えます。この時、必要 NPSH < 有効 NPSH となっていて、余裕があるのであれば ポンプはキャビテーションを起こす事なく安定に運転可能です。これが、もし 逆転していれば キャビテーションが起こりますし、余裕がほとんど無いようであれば運転が不安定になると判断されます。 そして、ポンプ設置位置による違いを見ると、一目瞭然ですね。ポンプがベッセルの下にあると、ベッセル内の液による静水頭がポンプサクションに加わるので、有効 NPSH を大きくする上で非常に有効ですね。一方、ポンプが上にあると ポンプサクションに静水頭が加わる事は無いので、どうしても不利ですね。 



✔ 有効 NPSH 計算式   NPSHA Calculation Equations


有効 NPSH ですが、上記の図のとおりに計算すれば良いですね。式にしてみると下記のとおりです。静水頭 [m] で計算するので、圧力であれば (密度×重力加速度) で割り算して換算しておきます。で、サクション側配管の静水頭損失 hL については式③で計算します。配管の途中にバルブとか継ぎ手などがある場合には、例えば損失係数 Ka を用いれば良いですね。また、式③には 摩擦係数 f が含まれていますが、サクション配管のサイズから平均流速を求め、更に レイノルズ数を計算した後に適当な摩擦係数計算式を用いれば良いですね。

で、NPSHA 計算式は 1個で表わせますが、下図には2種類書いています。と言うのも、ポンプ位置がベッセルの上なのか、それとも下に有るのかで符号が変わりますね。上図の圧力関係を見て分かるように、ポンプがベッセルの上に有ると ギューッと液を吸い上げる必要があるので、それは損失となりますんで マイナスに働きます。一方、ポンプがベッセルの下にあると静水頭が常にかかっている状態なので、結果的にプラスに働きますね。とまあ、そんな訳で式①と②に分けてみました。





計算例  Examples


✔ 地下貯槽からの送液  Liquid Transport from Underground Storage Tank

地下に設置された貯槽から内液をポンプで吸引する場合を考えます。条件は以下のとおりです。


  • 液体        25℃ アセトン
  • 流量        0.2 [m3/min]
  • 吸引側レベル差   3 [m] (ポンプはベッセルよりも上に有る)
  • 吸引側配管長    10 [m]
  • 吸引側配管サイズ  JIS SUS304  65A Sch.40 内径 65.9 [mm]
  • バルブ       フード弁 ×1、仕切弁 ×1
  • フィッティング   90° 標準エルボ ×4




流量 0.2 [m3/min] における NPSHA は 5.16 [m] となります。なので、ポンプの NPSHR が例えば 2 [m] とかであれば、余裕分 1[m] を考慮しても  NPSHA と NPSHR には2.16 [m] ほどの差があるので キャビテーションは起こらないと判断出来ますね。
また、流量を変えて計算してみると下図のようになりますね。流量を増やしていくと 静水頭損失が増加していきます。一方、使える静水頭 (大気圧と飽和蒸気圧との差) ってのは一定ですね。この場合は、9.18 [m] となります。そして、流量を増やしていくと サクション配管とバルブや継ぎ手類による静水頭損失がグイーっと増加しますね。まあ、どっちも平均流速の2乗に比例して増加しますので。そして、ある流量で使える静水頭と損失が等しくなり NPSHA はゼロとなります。まあ、それ以前に吸引出来なくなるんでしょうね。



✔ 地上貯槽からの送液  Liquid Transport from Aboveground Storage Tank


今度は地上タンクからの送液を想定してみます。面倒くさいんで、液は前記の例と同じアセトンにします。ただし、タンクはポンプよりも 1[m] ほど高い位置にあるとします。絵にするとこんな感じですね。配管仕様は同じとしますが、地上タンクにはフート弁 foot valve は設置しないですよね。なので、フート弁は無いとします。



で、計算結果は下図のとおりですね。流量 0.2 [m3/min] における NPSHA は 9.89 [m] となります。地下タンクでは 5.16 [m] だったので、だいぶ大きいですね。また、流量を変化させた場合の結果は以下のとおりです。前述の地下タンクの結果も併せてプロットしていますが、地上タンクの方が明らかに NPSHA は大きいですね。まあ、どちらも流量を上げていくといずれはゼロにはなりますけど。




✔ 温度 (飽和蒸気圧) の影響   Influence of Liquid Temp. (Sat. Vapor Press.)


せっかくなんで、温度の影響も計算してみました。アセトンの液温度が上がると飽和蒸気圧が大きくなるので、有効 NPSH は低下しますね。また、手元に アクリロニトリル Acrylonitrile の密度、粘度、蒸気圧の温度依存性データが有ったので、そちらについても計算してみました。物性値以外の条件は地上タンクの場合と同じですが、流量は 0.6 [m3/min] としています。

結果を見ると温度の影響は結構ありますね。まあ、アセトンは揮発性の高い物質なんで、こうなりますよね。なので、常温近辺では問題無く送液出来ても、温度が高い状態だとうまく送液出来ない事も有るって事になりますね。アクリロニトリルについてもアセトンほどでは無いですが、やはり温度が上がってくると 有効 NPSH は低下しますね。

アセトン物性の温度依存性については、Dortmund Data Bank web service を使用させて貰いました。便利ですし、何よりも無料なのが良いですね。 



まとめ  Wrap-Up

今回は 有効 NPSH を計算してみました。ポンプで送液する際には、まあチェックしますよね。配管系の圧力損失とかポンプ動力を計算する事は実務でも何回もやりましたね。計算式とかはEXCEL シートに入力しておけば、何回も使いまわしがききますよね。そんな感じで計算自体はチャチャッと出来ますが、問題は配管レイアウトですよね。以前にもこのブログで書いたかも知れませんが、P&ID を見ただけでは配管の実長とかレイアウトは分かりませんね。バルブとかフィッティングの種類とか個数は何とか分かりますけど。なので、アイソメ図 Isometrics を丹念に当たって行くしか無いですね。で、これがすご~く大変でしたね。まあ、韓国に居た際には アイソメ図は PDF化されていたんで、パソコンのモニターで閲覧可能でした。ですが、量産プラントともなると ページ数も半端ない量なんですね。

それと、パイロットプラントとかでは何かとコンパクトなんでベッセルからの抜き出し配管、これがポンプサクション配管になりますが どうしても短くなったりしますね。そうすると、キャビテーションとまでは行かなくても送液が安定しなくなったりした事も有ったかなと思います。十分な 有効 NPSH を確保するってのは言うのは簡単ですが、実際は難しいですよね、特にパイロットプラントでは。


参考書籍・文献  References


  1. 「配管技術100のポイント」 日刊工業新聞社 2016年刊
  2. 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年刊


web site 

  1. Dortmund Data Bank   Saturated Vapor Pressure by Antoine Equation 
    http://ddbonline.ddbst.com/AntoineCalculation/AntoineCalculationCGI.exe


 

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