今回は 身のまわりの化学工学「衣類の保温性」について取り上げますが、その2となりますね。その1では「外気層における顕熱移動」とその時の「熱伝達係数」について計算してみました。外気に触れている皮膚表面とか衣類表面における熱伝達ですね。その2では、布の熱伝達係数を与える「伝導伝熱モデル」と、衣服間空隙での熱移動における「放射伝熱と対流伝熱」についていくつか計算してみます。
まあ、ここでは「衣類の保温性」について考えようとしていますが、それは人体の熱が外気へと逃げない様にしたい訳ですね。まあ、ゼロにはなりませんけど。で、その時に どんな衣類を着るか? 何枚くらい着るか? どれくらいの隙間で着るか? が重要なんですね。これは「熱伝達係数を小さく」=「熱抵抗を大きく」する事で達成出来ますね。
んでもって、いろいろと実験して相関式を作ってみたり、適当なモデルを構築して熱移動過程を計算出来るようになると、どうやったら暖かくなるかが推定出来るようになるんですね。
布の熱移動特性 Fabric Heat Transfer Properties
まずは、布そのものの熱移動について考えます。人体から外気への熱移動については前回 取り上げたように、外気層の熱抵抗、布の熱抵抗 そして 空隙の熱抵抗を全て加算して全熱抵抗を求め、その逆数をとれば 総括熱伝達係数が得られます。で、前回 いろいろと計算したのは 外気層の熱抵抗についてでした。
✔ 布の熱抵抗の測定 Measuring the Thermal Resistance of Fabrics
参考文献には結果しか載ってませんでしたが、元文献に当たってみると実験装置について記載されていました。1[Liter] の広口試薬瓶 側面に布地を設置して、内部温水の温度低下から総括熱伝達係数を求めています。で、「なるほど~」と思ったのが 瓶を回転させているんですね。前回 取り上げた内容では、瓶内部の温水はマグネチックスターラーで撹拌していたんですね。まあ、外気風速の影響を見たいので当然そうなりますよね。一方、今回の測定では布そのものの熱抵抗を求めたいので、外気層の影響はなるだけ排除したいです。何もしないと自然対流の影響が出たりします。仮に、一定風速で風を当てたとしても 瓶の風上側と風下側では風速は全然 違いますよね。んであれば、瓶をグルグル回したほうが 外気層の流れはどこでも均一となります。
で、図のような感じですね。スターラーのチャック部分でチューブを掴んでいますが、このチューブがゴム栓・広口瓶とくっついてるんですね。なので、スターラーが回転すると広口瓶も回転します。で、広口瓶と温水の重さは下部の保温材で受けてるんですね。で、これもグルグル回転します。で、このチューブは中空なので ここにより細いチューブを通しています。そして、この細いチューブに熱電対を通しています。また、この細いチューブにはガラス管が十字に設置してあり、これがバッフル的な役割を果たしています。 と、口で言うのは簡単ですが 実際に組んだりバラしたりするのは大変と思いますね~。
✔ 布の熱抵抗の推算 Estimation Thermal Resistance of Fabrics
さて、次は布の熱抵抗推算についてです。布の熱抵抗については前述の実験によって分かりますが、参考文献では布の構造をモデル化して推算しています。両極端な構造を仮定して、布の繊維と空気が直列に並んでいる場合と並列に層状に並んでいる構造を考えます。下図のとおりですが、それぞれの構造について 式④・⑤によって熱抵抗を推算します。並列の場合 熱移動は最大となり、一方 直列の場合には最小となります。 更に、実際の繊維ってのは これら両極端の中間状態に有る訳ですが、式⑥に示すように 直列(最小) が 70%で 並列(最大) が30% が実験結果を最も良く再現するようです。
衣服間空隙の熱移動特性 Fabric-Fabric Gap Heat Transfer Properties
✔ 空隙の熱抵抗の測定 Measuring the Thermal Resistance of Gap
前述の装置を用いて実験をしますが、空隙を作る必要があるので 瓶の外側にスペーサーを巻いて、更に布を巻き付けるんですね。で、放熱実験をすると hT の値が得られるので、それ以外の実測値や計算値を以下の式⑦に代入すると空隙の熱抵抗が求まりますね。✔ 空隙の熱抵抗の推算 Estimation Thermal Resistance of Gap
計算例 Examples
✔ 布の熱抵抗 Thermal Resistance of Fabrics
✔ 空隙の熱抵抗 Thermal Resistance of Gap
で、下段グラフは放射、伝導、自然対流の熱伝達係数を空隙距離を変えて計算した結果です。放射伝熱は距離にほとんど関係無いんですね。一方、伝導や対流では空隙が狭いと 熱伝達係数は大きいですね。そして、空隙が広くなると急激に減少するんですね。で、やっぱり10[mm] を超えると それ以上はほとんど変化しなくなるんですね。
✔ 衣類枚数の効果 Effect of Cloth Number
布自体の熱抵抗は無いものと仮定し、空隙における放射伝熱と伝導伝熱を考慮します。空隙距離を一定として、それを布で分割するんですね (下図参照)。布を重ねるほど放射伝熱の熱抵抗は増加しますね。伝導伝熱については、空隙距離が短くなるんで 空隙1区間当たりの熱抵抗は低下しますけど。
で、計算すると重ね着の効果は確かに有るんですね。ただ、だからといってガッツリと着込めば良い訳でも無いですね。だんだんと頭打ちになるので。計算結果だと、衣類1枚で空隙 30[mm] とする熱抵抗と、空隙 10[mm] で衣類2枚重ね着の熱抵抗は そんなに変わりませんね。
まとめ Wrap - Up
と、それはさておき 衣類についても伝熱が重要だよな~ってのは計算すると明確に分かりますね。暑くも寒くも無ければ 何も着なくても良いんですけども(アダムとイブ的な)、人類の活動範囲を広げる上で衣類ってのは必要不可欠ですよね。特に、ヨーロッパ北部など比較的寒冷な地方ではちゃんとした衣類を着てないと命の危険が有りますよね。まあ、そんな感じで長い年月をかけて、衣類が発達したのかな~と。そして、衣類ってのが服飾と言う領域に入ってくると、単に暑い・寒いだけでは無くて動きやすさとか美観に力点が置かれるようになったのかなと。まあ、素人考えなんですけど。
参考文献・書籍 References
- 「衣類の保温性を化学工学する (2) 」 化学工学会誌 第80巻 第3号 2016年
- 「衣服の保温性能評価指標としての布の熱移動特性」
楊燕, 冨田明美, 高橋勝六 日本家政学会誌 Vol. 59 No.8 583~593 (2008)
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