今回は熱交換器の汚れ係数 fouling factor について取り上げます。多管式熱交換器においては 高温側流体・低温側流体・管壁の熱抵抗以外の熱抵抗の事ですね。多管式熱交換器には多数の伝熱管が設置されていますが、管外側と内側に生じる汚れ物質に起因します。参考書籍である化学工学便覧 第6版によれば、汚れ自体は 以下の6種類に分類されるとあります。
- スケーリング Scaling fouling
流体中に溶解している塩が結晶化し伝熱面に付着したもの。水の場合、CaCO3やMg(OH)2 など。 - 微粒子汚れ Particulate fouling
流体中に浮遊している微粒子が沈殿して伝熱面に堆積したもの。 - 化学反応汚れ Chemical Reaction fouling
物質の化学反応によって形成された沈着物。高温分解ガスの場合、コークスの析出、コークスの生成、高沸点成分が凝縮したタールの付着など。 - 腐食汚れ Corrosion fouling
伝熱面自体が流体と腐食反応を起こして汚れとなったもの。 - 生物汚れ Biological fouling
生物による汚れで貝類などの固形生物が付着したものと、バクテリアと有機物及び無機物からなるスライム Slime と呼ばれる泥状物質が付着したものがある - 凍結汚れ Solidification fouling
冷たい伝熱面において流体が凍結して付着したもの。水や水蒸気が冷却された場合は凍結となる。
実務でいろいろと関わった ポリマープラントでは、反応器内壁とかポリマー移送配管では化学反応汚れと言うか重合汚れがガッツりと形成されますね。重合温度よりも壁面温度が高かったりすると壁面近傍で重合がより進行し、粘度が増加して流動性を失い 最終的に付着します。で、悪い事にどんどん成長してい行くんですね。そして、どんどん劣化していきます。更に悪い事に付着物がポロりと剥離して、ポリマー中に混入する点ですね。これが所謂 異物であり、製品に甚だしく混入するようであれば もはや製品とはなりませんね。まあ、ペレタイザー直前のポリマーフィルターで除去出来れば良いんですが。とまあこんな感じで非常に厄介なものですね。とまあ、そんな感じで汚れ係数について少し計算してみようかと。
汚れ係数を含む熱移動 Heat transfer including fouling factor
✔ 汚れ係数 fouling factor
前述のとおり 汚れ係数の大小とは熱抵抗の大小です。伝熱管の表面に無機物とかスライムが付着するとそれが熱抵抗となりますが、ある厚さ [m] が有って それをその付着物の熱伝導率 [W/m K] で割り算すると それが熱抵抗値 [m2 K/W] となります。下図は伝熱管断面ですが、管壁の外側・内側に汚れが生じるとそれぞれが熱抵抗となります。
✔ 典型的な汚れ係数の値 Typical Value of fouling factor
伝熱管内側・外側の熱伝達係数の値は様々な推算式や相関式が整備されているので、設計条件に基づいて妥当な値を求める事は可能です。と言う事は前述の式①で表わされる清浄時総括伝熱係数 Uc は十分な精度で計算出来るんですね。なんですが、汚れ係数はそういう訳にも行きません。流体の種類や流速とかによっても変わるんですね。ですが、こんな流体であればこれくらいってのは整理はされています。
下図は参考書籍に記載されている汚れ係数の値ですが、元ネタは TEMA, Tubular Exchanger Manufacturer Association の資料のようです。流体は冷却水、プロセス流体及び石油精製のついてです。ざーっと見て 液体で言うと 冷却水の汚れ係数は小さいですが、重質油とかアスファルトは大きいですね。一方、気体・蒸気は全般的に小さいですね。記載されている汚れ係数の逆数は熱伝達係数となりますが、下図の数値から計算してみると 最大で 11,111 [W/m2 K] となり最小は 556 [W/m2 K] となりますね。総括伝熱係数は最も小さい熱伝達係数よりも必ず小さくなりますんで、例えば 汚れ物質の熱伝達係数が 556 だと 総括伝熱係数は 556 以上には絶対になりませんね。なので、そんな場合では いくら管内側熱伝達係数を上げても意味が無いですし、管外側熱伝達係数についても同様ですね。なので、重質油とかだと汚れ係数の値で総括伝熱係数の値が決まってしまうって事にもなりかねませんね。まあ、その辺りは製造企業で実運転データを採取して設計資料にしてるんだと思いますね。
下図は参考書籍に記載されている汚れ係数の値ですが、元ネタは TEMA, Tubular Exchanger Manufacturer Association の資料のようです。流体は冷却水、プロセス流体及び石油精製のついてです。ざーっと見て 液体で言うと 冷却水の汚れ係数は小さいですが、重質油とかアスファルトは大きいですね。一方、気体・蒸気は全般的に小さいですね。記載されている汚れ係数の逆数は熱伝達係数となりますが、下図の数値から計算してみると 最大で 11,111 [W/m2 K] となり最小は 556 [W/m2 K] となりますね。総括伝熱係数は最も小さい熱伝達係数よりも必ず小さくなりますんで、例えば 汚れ物質の熱伝達係数が 556 だと 総括伝熱係数は 556 以上には絶対になりませんね。なので、そんな場合では いくら管内側熱伝達係数を上げても意味が無いですし、管外側熱伝達係数についても同様ですね。なので、重質油とかだと汚れ係数の値で総括伝熱係数の値が決まってしまうって事にもなりかねませんね。まあ、その辺りは製造企業で実運転データを採取して設計資料にしてるんだと思いますね。
✔ 汚れ係数の経時変化 Increasing fouling factor over time
汚れ係数の値を紹介してお終いってのも面白くないので、いくつか計算をしてみます。参考書籍に「汚れ係数の経時変化」の計算方法について記載されているので、それを取り上げてみます。
式④が基本となる式で、右辺第1項がファウリング増加速度で第2項が減少速度ですね。汚れ物質が濃くて 流量が多いとどんどんファウリングするんですね。一方、ファウリングして管内径が小さくなるとせん断力が働くんでファウリングを減らす方向に作用するんですね。で、式⑤がせん断力の式で単位長さの圧力損失を含みます。で、圧力損失はファニングの式で計算出来るんで 代入すると式⑥が得られます。この式⑥は摩擦係数を含むので、ブラジウスの式とかが使えます。それが式⑦ですね。
で、これらをいろいろと組み合わせると 式⑧が得られ、これが汚れ係数の経時変化を計算する式となります。これを更に整理して、無限時間における汚れ係数値 rθ* と 定数 B を適用すると式⑨となります。この式を使えば、異なる時間 2点での汚れ係数値を用いて 将来の汚れ係数値を推定する事が出来ます。また、式⑭と⑮は rθ* と B が管内径や流量によって、どのように影響を受けるかを表わしています。なので、あるサイズの伝熱管で得た実測値を使って、異なるサイズの伝熱管における汚れ係数を推定出来るんですね。
式④が基本となる式で、右辺第1項がファウリング増加速度で第2項が減少速度ですね。汚れ物質が濃くて 流量が多いとどんどんファウリングするんですね。一方、ファウリングして管内径が小さくなるとせん断力が働くんでファウリングを減らす方向に作用するんですね。で、式⑤がせん断力の式で単位長さの圧力損失を含みます。で、圧力損失はファニングの式で計算出来るんで 代入すると式⑥が得られます。この式⑥は摩擦係数を含むので、ブラジウスの式とかが使えます。それが式⑦ですね。
で、これらをいろいろと組み合わせると 式⑧が得られ、これが汚れ係数の経時変化を計算する式となります。これを更に整理して、無限時間における汚れ係数値 rθ* と 定数 B を適用すると式⑨となります。この式を使えば、異なる時間 2点での汚れ係数値を用いて 将来の汚れ係数値を推定する事が出来ます。また、式⑭と⑮は rθ* と B が管内径や流量によって、どのように影響を受けるかを表わしています。なので、あるサイズの伝熱管で得た実測値を使って、異なるサイズの伝熱管における汚れ係数を推定出来るんですね。
※ 今回、計算式には 単位は書いていないです。と言うのも、例えば 式⑪の B の単位は [1/month] とかになるんですね。これを [1/sec] とかにすると ものすごく桁が違ってくるんですね。まあ、汚れ係数の変化ってのはそれくらいのタイムスケールなんですね。実際の計算では、各式においてきちんと次元が消えるようにして行なえば問題は無いかなと。
計算例 Examples
参考書籍に記載されている例ですが、2つ有りますね。1つ目は将来の汚れ係数を推定する例で、2つ目は 異なる伝熱管サイズと流量における汚れ係数の推定です。
✔ 将来の汚れ係数の推定 Estimation of Future fouling factors
ある熱交換器が有って、運転開始から6ヶ月目の汚れ係数が 0.0010 [m2 K/W] で 8ヶ月目の汚れ係数が 0.0012 [m2 K/W] だった時、12ヶ月目の汚れ係数はどれくらいになるか?を推定します。
参考書籍では、まず無限時間経過後の汚れ係数 rθ* を仮定します。で、その仮定値を使って 本当の rθ* と B を求めます。で、式⑨に両者を代入して、更に将来時間 θ も代入すればその時の汚れ係数が得られます。一連の計算では、グラフと言うか線図を用いますね。つまり、読み取り作業が必要なんで少し面倒くさいですね。なので、今回の計算では EXCEL のソルバー機能を用い、 rθ* と B を同時に求めています。
参考書籍では、まず無限時間経過後の汚れ係数 rθ* を仮定します。で、その仮定値を使って 本当の rθ* と B を求めます。で、式⑨に両者を代入して、更に将来時間 θ も代入すればその時の汚れ係数が得られます。一連の計算では、グラフと言うか線図を用いますね。つまり、読み取り作業が必要なんで少し面倒くさいですね。なので、今回の計算では EXCEL のソルバー機能を用い、 rθ* と B を同時に求めています。
で、結果ですが下図のとおりです。ついでに、管内側・外側 熱伝達係数を それぞれ 1000・500 [W/m2 K] として 総括伝熱係数 U値の変化も計算しています。汚れ係数は単調に増加しますが、増加割合は徐々に小さくはなるんですね。また、U値ですが12ヶ月経つと 汚れ無しの時と比較して67[%] にまで低下します。3割ほど低下するんであれば、これは問題ですね~。流量条件と入口温度条件が同じであれば、出口温度が所定温度に到達しなくなりますね。冷却器であれば「最近はあんまり冷えないな~」となるんですね。なので、運転を停止してクリーニングする必要がありますね。
✔ 別の熱交換器への適用 Application to Other Heat Exchangers
前述の汚れ係数 実測値はある熱交換器において得られたものですが、これを別の熱交換器に適用してみます。その際に必要となるのが、管内流速と管内径ですが以下のとおりとします。- 前述の熱交換器 管内径 25[mm]、管内流速 1.0 [m/s]
- 別の熱交換器 管内径 20[mm]、管内流速 1.2 [m/s]
前述の式⑭をそれぞれの熱交換に適用し、辺々を割り算すれば 別の熱交換における B の値が得られます。 rθ* については式⑮を同じ様に用いて計算します。で、計算結果は下図のとおりです。管内径が小さくなって、かつ管内流速が大きくなるので、せん断力は大きくなりますね。という事は式①におけるファウリング減少速度が大きくなりますので、結果として汚れ係数の増加速度は小さくなります。実際、計算結果はそうなってますね。
運転開始から12ヶ月後の汚れ係数は 0.00148 が 0.0009 [m2 K/W] となっているので結構小さくなりますね。で、U値で比較すると 223 が 256 [W/m2 K] なので まあマシにはなってますが、運転開始時の 333 と比較すると 23 [%] は低下してますね。
運転開始から12ヶ月後の汚れ係数は 0.00148 が 0.0009 [m2 K/W] となっているので結構小さくなりますね。で、U値で比較すると 223 が 256 [W/m2 K] なので まあマシにはなってますが、運転開始時の 333 と比較すると 23 [%] は低下してますね。
まとめ Wrap-Up
今回は熱交換器の設計に用いる汚れ係数について計算してみました。まあ、一般的な設計計算であればこれまた一般的な汚れ係数値を使えば良いですね。んでも、特殊な場合とかでは各企業・各プラントで実績値として蓄積してるんだろうな~と思います。
まあ、実務では一般的な汚れ係数ってのはあまり使いませんでしたね。ポリマープラントにおける反応器とか熱交換器では、何もしないでいるとガッツリとファウリングすると言うか、ポリマーや劣化物が付着するのが普通だったので。実際、パイロットプラントで壁面への付着量を測定した事も有りますね。期間を決めて反応器を運転してその後で内容液を排出し、次に溶媒で満タンにして1日ほど放置します。そうすると、普通のポリマーは溶媒に溶けますが、劣化したり架橋した付着物ってのは壁面に残りますね。それを金属のヘラでこそげ取るんですね。しかも、適当に採取するんじゃなくて、例えば 50mmの正方形になるようにとか。で、それを液面に近いところとか底に近い方とか、何箇所も採取するんですね。採取した付着物重量を実測して、最終的には 単位面積当たりの付着物重量 [g/m2] とかにするんですね。で、得られた結果を壁面せん断力で整理するとかですかね。なので、式①を見ると 「う~ん、やっぱりそうなんだよな~」と思いましたよね。
まあ、実務では一般的な汚れ係数ってのはあまり使いませんでしたね。ポリマープラントにおける反応器とか熱交換器では、何もしないでいるとガッツリとファウリングすると言うか、ポリマーや劣化物が付着するのが普通だったので。実際、パイロットプラントで壁面への付着量を測定した事も有りますね。期間を決めて反応器を運転してその後で内容液を排出し、次に溶媒で満タンにして1日ほど放置します。そうすると、普通のポリマーは溶媒に溶けますが、劣化したり架橋した付着物ってのは壁面に残りますね。それを金属のヘラでこそげ取るんですね。しかも、適当に採取するんじゃなくて、例えば 50mmの正方形になるようにとか。で、それを液面に近いところとか底に近い方とか、何箇所も採取するんですね。採取した付着物重量を実測して、最終的には 単位面積当たりの付着物重量 [g/m2] とかにするんですね。で、得られた結果を壁面せん断力で整理するとかですかね。なので、式①を見ると 「う~ん、やっぱりそうなんだよな~」と思いましたよね。
なんですが、このブログでも何回も登場しているように潜熱除去方式重合反応器であれば、反応器壁面にいくらファウリングしようが関係は無いんですね。ボコボコ沸騰してガンガン除熱出来るんで。なんですが、冒頭でも述べたように劣化した付着物がポロリと剥離して異物になるのが大問題なんですね。で、実験自体はすごく面倒くさいですし、夏場の実験場はクソ暑いですし、溶媒の臭気がこれまたものすごいですし。でも、何回かやってると慣れてくるんですね・・・。溶媒で膨潤している付着物は煮凝りと言うか今風に言うとジュレみたいな感じだったんで、それほど力を入れずに採取する事は出来たんですね。まあ、若かったんで出来たんかな~と思いますね。
参考書籍・文献 References
- 「熱交換器設計ハンドブック 増訂板」 工業図書株式会社 1974年刊
- 「化学工学便覧 第6版」 丸善 1999年刊
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