化工計算ツール No.107 管路網における流量と圧力 Flow Rate and Pressure in Pipeline Networks

 今回は管路網における流量と圧力について取り上げます。最も単純な管路網である単一管路において、当然 流量は入口と出口で同じですね。また、与えられた入口圧力から管路圧力損失を差し引けば出口圧力が得られます。なんですが、配管が分岐したり合流している場合、各管路を流れる流量はどれくらいなのか?を知りたい場合もありますよね。代表的な方法は ハーディ・クロス法 Hardy-Cross method でしょうか。反復により最終的な解を得る訳ですが、各流路の初期流量を仮定して逐次 修正を加えていくんですね。この時の修正量については管路網の圧力損失とか流量収支の制約に基づいて決めるんですね。そんな感じで逐次的に計算するんですが、昔は電卓片手にゴリゴリと計算していたようです。ですが、今は EXCEL が有るんで これを使わない手は無いですね。更に、ソルバー Solver 機能があるんで格段にラクですね。と、そんな辺りを計算してみようかなと。

まあ、実務においても数回ですが ハーディ・クロス法は使ってみた事はありますね。その時は流体はプラントエアー Plant Air だったように記憶しています。まあ、圧縮空気なんで圧力損失については圧縮性を考慮するのが本当のやり方ですが、配管入口・出口圧力はそんなに違わないので、まあ良いだろうって事で計算しましたね。そんなに複雑な管路網では無かったので、まあ予想していたような結果だったかなと。

もっと大規模な管路網の計算ってのも当然有る訳で、例えば工業用水などを いくつかの地点にあるユーザーに供給するって場合でしょうか。まあ、ヘッダー配管を設置してそこから適宜分岐すれば良いんですが、直線的な配置では無くてデカい円周状になってるとかであれば ループ状にしますよね。更に、せっかくなんでバイパス管をいくつか設置してみようかな?となると、これは管路網となりますね。面倒くさいです・・・。




ハーディ・クロス法  Hardy-Cross Method


✔ ハーディ・クロス法とは?  What is the Hardy-Cross Method?

参考書籍によれば、「1936年 ハーディ・クロス が管路網中の各節点における流量の連続条件と各閉管路における圧力の閉合条件を用いて、反復近似計算により管路網流量の計算を行う方法を創案した」とあります。

と、上記の説明だけを見るとピンと来ませんが 要点は3つあるんですね。まあ、当然と言えば当然の事を言っています。

  1. 各節点において流入量と流出量は同じ 
    下図において 節点 F に着目すると、隣接する節点 B・E からは流入し、同じ分だけ節点Dへと流出します。そうしないと流体が増えたり減ったりしますが、定常状態なので増減はゼロになりますよね。

  2. 各管路の圧力損失(損失ヘッド)はファニング式で計算される
    これまた当然ですが、勝手に圧力損失が決まる訳では無いですね。ファニング式でもダルシー・ワイズバッハ式でも良いんですけど、管路内径・長さ、流量、物性(密度・粘度)によって圧力損失を計算するって事です。

  3. 各閉管路における圧力損失の合計はゼロである
    下図で言えば閉管路 ABFE において、4つの管路A-B、B-F、F-E、E-A における各圧力損失の合計はゼロになると言う制約が有るんですね。と、その前に説明する事が有りますね。下図には各閉管路に円弧状矢印が描いてあって 真ん中に + が書いてますけど、これは 時計回り流れの圧力損失は + (プラス) として、逆向きの流れにおける圧力損失は - (マイナス) として勘定する事を表わしています。

    で、閉管路 ABFE を見ると A→B と B→F はプラスとなり、一方 F→EとE→A はマイナスとなります。で、全部加えるとゼロになる筈なんですね。そうじゃないと、この閉管路において圧力バランスが成立しない事になります。節点 A の圧力に各管路の圧力損失値を引き算すれば 節点 F の圧力値が得られますが、A→B→F で計算された圧力値とA→E→F で計算された圧力値が違うって事も起こり得ますね。同じ節点なのに異なる2つの圧力値を持つのは明らかにおかしいですよね。



✔ 計算手順  Calculation Procedure

計算式らしい計算式はファニング式くらいしか無いですよね。なんですが、まあ標準的な計算手順が参考書籍には記載されているので、ご紹介しておきます。EXCEL だとソルバー機能を使ってエイッと計算するんですが、昔は手計算してたんだと思います。

で、以下の式ですが 式①・②は各管路の頭損失計算式で、頭損失 Head Loss [m] は定数値 k と流量の自乗との積になるんですね。定数値 k の中身ですが、摩擦係数f 、管長さ L、管内径 d とかが入っています。Lとかdは一定ですし、摩擦係数も乱流域ではほぼ一定となりますね。んでもって、式③にあるように 各閉管路において 損失を全部加算してゼロになれば OK なんですね。

なんですが、そんなに簡単には行かないので反復計算をするんですが、手順が有りますね。その辺りが式④~⑧となります。で、以下の手順となります。もちろん、この手順を全ての閉管路について実施するんですね。なので、手計算をするとなると結構大変ですよね。

  • 着目する閉管路において 流量の1次近似値 Q1 を仮定する
  • 閉管路内の各管路について 全て 頭損失を計算する
  • 頭損失合計がゼロであれば計算終了
  • 頭損失合計がゼロでなければ式⑦を用いて補正値ΔQ を計算する
  • 式⑧にあるように1次近似値に補正値ΔQを加えて2次近似値とする
  • 最初に戻って同じ計算を反復する 




計算例  Examples


✔ 手計算的手法  Manual Calculation Like

手計算的な手法といっても、勿論 EXCEL を使います。で、管路網は下図のとおりです。節点Aから流入して、節点B・C・Dから流出します。で、管路網は四角形ですが節点AとCに管路が有りますね。なんで、閉管路は I と II の2つとなります。
管路内径・長さも図に書いてますけど、各管路の定数値 k が与えられているので計算にはこの値を使います。具体体にどうするかですが、参考書籍には下図のような計算表が載ってますね。で、紙面の都合かと思いますが、真値に近い値を1次近似値にして1回だけ計算していますね。

下図の上段が計算条件で中段が計算結果となります。んで、下段は計算表です。まあ、1次近似値はほぼ真値に近いですよね。1近似値とそれによって計算された2次近似値の比率も計算していますが、ほぼ1なんですね。管路②は少しズレてますけど。
計算表を見ると、前述の式を淡々と計算しているんですね。で、いくつか注意点がありますね。

  • 式⑦の分母は絶対値の和とする
    時計回りの流れ方向では流量はプラスとし、逆向きの流れは流量をマイナスとします。なんですが、∑(kQ) については絶対値の和とします。
  • 共有されている管路についてはもう片方の補正流量を引き算する 
    この場合は管路⑤ですが、閉管路I にも II にも含まれますね。で、閉管路 I の1次近似値から補正流量ΔQ が得られますね。で、1次近似値に補正流量を加えれば良いんですが、ここで閉管路 II の補正流量を引き算するんですね。
    結果を見ると 閉管路 I の補正流量は 0.0011 なんで、管路⑤ 1次近似値 -0.3500 に 0.0011 を加えて -0.3489 となります。で、更に閉管路 II の補正値 0.0004 を引き算して -0.3493 となります。閉管路 II の管路⑤についても同じ様にします。



この計算ですが、反復計算といっても1回しかしてないですよね。何回もやったらどうなのか?と思ってやってみました。2次近似値 (青い四角) が計算されているんで、その値を1次近似値のセル(赤い四角) に コピー&ペースト しますね。で、それを何回も繰り返します。EXCEL では F4 キーを押すと、同じ操作を繰り返すんで F4 キーを連打します。で、そうして計算した結果(10回反復計算) と1回のみ反復計算した結果を比較すると下図のようになりますね。まあ、同じ結果なんですね、当たり前ですけど。んじゃ初期値をだいぶ外れた値にしたらどうなのか?と思ってやってみたんですが、一定値に収束はしますが 流量収支が崩れましたね。初期値の設定が重要なんだな~と思いましたけど。




✔ ソルバーを使う方法  Calculation Method using Solver

で、EXCEL なんでソルバーでエイッと計算したいですね。参考書籍に計算例が有ったので、そちらをご紹介します。管路網と管路仕様は以下のとおりです。この例では静水頭では無くて圧力損失値をファニングの式を使って計算します。んで、層流と乱流で摩擦係数計算式を変えてますね。と言っても、まあ普通は乱流域ですね。





で、EXCEL に以下のように入力して ソルバー機能で解きますね。求めるのは各管路における流量です。で、収束判定条件とか制約条件が有りますね。何と言っても、各節点において流量バランスが成立している事です。流入量=流出量でないとおかしいです。更に、前述のとおり、各閉管路において圧力損失の和がゼロとなる必要があります。




ソルバーも場合によっては解が見つからなかったり、収束に時間がかかるとかが有りますが この例ではあっと言う間に収束しました。まあ、参考書籍の例なんで 答えは有りますよね。
で、計算してみると以下のとおりですね。各管路の流量と各節点の圧力を書いてありますけど、圧力の高い方から低い方へ流れますね。で、その流量にも結構差がありますね。これは、各管路の仕様である内径と長さによりますね。





で、各管路の流量、圧力損失 そして 配管仕様パラメータ ( L/d^5) をグラフにしてみると以下のとおりです。流量は配管仕様パラメータによって影響を受けているのが分かります。なので、各管路の流量を同じくらいにしたいのであれば 極端に細いとか長いとかは避けたほうが良いですね。と、管内径は何とかなるかもしれませんけど、長さを勝手に決めるのは難しいですね。なので、遠いユーザーまで配管を伸ばすのであれば 内径は太めにしたほうが良いですね。ですが、配管設置費用が増えるんですね・・・。




まとめ  Wrap-Up


管路網における各管路の流量を ハーディ・クロス法を用いて計算してみました。それらしい答えが得られるんで、計算法自体は使えますよね。まあ、より大規模な系であれば 専門の解析用ソフトウェアが有るんだと思いますけど。そんなに規模が大きくなければ、EXCEL で比較的簡単に計算出来るんで便利です。このブログでも何度も使っていますが、ソルバー機能を適用すれば、面倒くさいコーディングなどはしなくても計算可能ですね。

冒頭でも述べたように、実務でもやった事は有りますね。その時も、EXCELのソルバー機能を使ったように記憶しています。と言いながら、検討時間もあまり無かったので ネットから使えそうな EXCELファイルを拾ってきて、エイッと魔改造して使いましたね・・・。それも、もう15年くらい前になるんでしょうか。

このハーディ・クロス法ですが、ハーディ・クロス(1885-1959) さんが発表した論文に基づいています。イリノイ大学に在籍していた時代に発表したんですが、もともとは構造力学の専門家なんですね。で、発表した論文名ですが ”Analysis of Continuous Frames by Distributing Fixe-end Moments" であり、和訳すると 「固定端モーメントの分布による連続フレームの解析」となりますね (by Google 翻訳)。構造力学の論文が水力学分野にも使えるってのは何故なのか?は良く分かりませんが、調べてみると何か経緯があるんでしょうね。ハーディ・クロス法自体はすごく有名なので。






参考書籍・文献  References


  1. 「Excel で学ぶ化学工学」 化学工業社 2006年刊
  2. 「演習 水力学」 森北出版 1981年刊
  3. 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊



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