化工計算ツール No.109 物性 比熱 Physical Property Specific Heat

 今回は物性のひとつである 比熱 Specific Heat について取り上げます。これまでいろいろと設計計算などをしてきましたが、この比熱は熱収支を計算する上で絶対に必要ですね。例えば、熱交換器の冷却水量がどの程度必要なのかを考える場合を想定します。必要な交換熱量ってのはプロセス流体をどれくらい冷やすかで決まりますね。そして、それを達成する為にどれくらいの冷却水量が必要になるかを計算するには、水の比熱値が必要となりますね。まあ、プロセス流体の比熱も必要となりますけど。

で、下図は水の比熱を温度に対してプロットしたものです。温度0[℃] 以下である固体の水(氷)の比熱、液体である水の比熱、そして気体である水蒸気の比熱ですね。まあ、ご覧の通り 液体の水の比熱値は そこまで温度による変化は無いですね。なので、4.18 [kJ/kg K] 一定としても問題は無いですね。

実務でも物性値の収集と整理は常に心掛けてましたけど、やはり比熱の値は重要ですよね。しかも、常温付近の比熱値が1点だけあってもあまり嬉しくはないですね~。やはり、温度依存性のデータがあって、しかもそれを計算式にしておかないと使えないですよね。まあ、そんな感じでいくつかトピックス的に取り上げてみようかなと。





いろいろな物質の比熱   Specific Heat of Various Materials


そもそも比熱とは何か?ですが、「単位質量の物質の温度を 1[K] 上げるのに必要な熱量」とか「物質 1[mol] の温度を 1[K] 上げるのに必要な熱量」となりますね。前者は一般的な比熱で 単位は [J/kg K] となりますし、後者は モル比熱なので [J/mol K] となりますね。参考書籍にはいろいろな物質の比熱値(定圧比熱, Cp)が記載されているので、ご紹介しておきます。

✔ 固体の比熱  Specific Heat of Solids

参考書籍はいつもの「伝熱工学資料 第4版」です。温度は 全部 300 [K] なので、まあ常温ですね。ザーッと見ると固体の比熱ってのはこの程度なんですね。んで、金属類の比熱は小さめですが金と鉛の比熱は更に小さいですね。花崗岩 Granite 、玄武岩 Basalt やコンクリートの比熱は 1 [kJ/kg K] なんですね。一方、有機物であるゴムやプラスチック、繊維類などは 同じくらいなんですね。

まあ、あまり固体比熱を使うことは無いんですが、例えば 反応器や容器などを加熱したり冷却する場合、内容物の熱容量に加えて SUS304 といった材質の熱容量も考慮する場合もあるんで、どの程度なのかな~ってのは知っておいた方が良いですね。と言うか、今はネットですぐ分かりますね。

それと、下図には非常に馴染みのあるモノ、例えば食品などは無いですね。「身のまわりの化学工学」で煮物調理とか焼き調理における過程を計算していますが、これは非定常熱伝導なので比熱値が必要となりますね。で、生の牛肉の比熱値は 3.4 [kJ/kg K] ですね。水分も多いんでしょうけどタンパク質も含まれていますね。タンパク質は有機物なんで、結果的にこれくらいになるのかなと。



✔ 液体の比熱   Specific Heat of Liquids

液体、特に有機系液体の比熱については頻繁に使いますね。ケミカルプラントでは原料も中間製品も、そして製品も液体である場合が多いですし。で、こちらも温度は 300[K] での値です。 まあ、下図にはそんなに種類は無いですけど水とか塩水とかアンモニアなどは比較的大きな値ですね。で、有機物についてはどれも似たりよったりですね。トルエン、ベンゼンなどの芳香族系では小さめですが、それ以外は 2.1~2.2 [kJ/kg K] でしょうか。
また、前述の固体比熱と比較すると高めなんですね。



✔ 気体の比熱  Specific Heat of Gases

さて、最後に気体の比熱ですが 以下のとおりですね。水素の値がすごく大きいですが、モル比熱で比較するとそうでも無いんですね。そして、気体分子運動論によれば、単原子分子気体や2原子分子気体のモル定圧比熱は以下のようになります。ここで R は気体定数で 8.314 [J/mol K] です。

  • 単原子分子 Cp = 5/2 R =20.785 [J/mol K]
  • 2原子分子  Cp = 7/2 R = 29.099 [J/mol K]

上記の関係を用いると、例えば単原子分子である ヘリウムであれば 原子量 4 なので 20.785 ÷ 4 = 5.196 となるので 文献値とほぼ同じですね。また、2原子分子である水素であれば 29.099 ÷ 2 = 14.549 となるので やはり文献値とほぼ同じですね。 
 



熱容量 計算式  Specific Heat Calculation Equations

で、比熱値は物質によって変わりますが、更に温度によって変化しますね。つまり、温度依存性が有るので その辺を計算式のようにしておく必要がありますね。実務においては、もっぱら参考書籍に記載されている計算式を使用していました。

下図は Perry's Chemical Engineers Handbook に記載されている計算式と定数値を用いていくつかの液体について比熱の温度依存性を計算したものです。計算式自体は多項式近似式で そんなに特別なものでは無いですね。





で、次は気体/蒸気の比熱の温度依存性について計算してみた結果です(ただし理想気体として)。出典は同じ Perry's Chemical Engineers Handbook です。計算式ですが、こちらはだいぶ複雑ですね。いろいろと計算式を見てきましたが、双曲線関数である 「ハイパボリックサイン」と「ハイパボリックコサイン」が含まれるのは この式だけですね。ずーっと昔は計算表とか使ったのかもしれませんが、今は EXCEL が関数として実装しているので非常にラクですね。

また、各物質の比熱値ですが単調に増加していますね。こんなんだったら普通に多項式近似でも良いように思いますが。実際、化学工学便覧とかには理想気体の比熱計算式が記載されていますが そちらは多項式ですね。温度範囲がそれほどに大きくないのであれば、EXCELで多項式近似しても良いかと思いますね。




エンタルピー計算  Enthalpy Calculation

で、最後にエンタルピー計算について触れておきます。冒頭で言ったように、比熱値は熱収支計算において使いますよね。まあ、伝熱計算でもプラントル数を求める時には使いますけど。例えば、プロセス流体を熱交換器に供給して加熱するとします。この時の加熱負荷ですが、重量流量 [kg/s] × 温度差 [℃] × 比熱 [J/kg K] = 加熱負荷 [J/s] = [W] となります。

この計算における比熱値としてどんな値を使うかですが、比熱は前述のように温度依存性を持ってますね。液体でも気体でも温度上昇に伴って単調に増加します。なので、入口温度における比熱値だと加熱負荷を小さめに見積もる事になりますね。一方、出口温度における比熱値を使うと 反対に加熱負荷を大きめに見積もる事になります。んじゃあ、どうするのか?ですが まあ平均値を使えば良いですね。

具体的に計算してみます。量産スケール ポリスチレン製造プラントの原料予熱器って感じですね。初段反応器に冷たい原料を装入すると持ち込みの冷熱量が多すぎますね。初段反応器が潜熱除去方式である場合、蒸発蒸気量が大幅に減ると内圧挙動が不安定になったりします。なので、敢えて原料温度を高くして 持ち込みの顕熱量を増やしてやるんですね。

  • 被加熱物質   液体スチレン
  • 温度      入口 10 [℃] → 出口 80 [℃]
  • 重量流量    10 [ton/hr]

で、加熱負荷ですが比熱を計算する際の温度を入口・出口・平均としています。結果を見ると、これくらいの差はあるんですね。まあ、普通は平均温度における比熱値を使いますよね。なんですが、もう1つ別の方法があって、それは「エンタルピー」を使う方法です。下図 上段グラフ中に計算式が描いてありますが、比熱計算の多項式を積分すると エンタルピー [J/kmol] 計算式となります。で、入口温度を使って計算すると それは入口エンタルピーです。同じく出口温度を使って出口エンタルピーを計算します。そして、入口-出口エンタルピー差に重量流量を掛け算すると 加熱負荷となります。結果ですが、平均温度基準の場合と同じですよね。温度 vs 比熱は若干 曲線になってますが、そんなに曲がってる訳でも無いので こんな結果になるんですね。

  • 入口温度基準  333 [kW]
  • 出口温度基準  373 [kW]
  • 平均温度基準  353 [kW]
  • エンタルピー  352 [kW] 




まとめ  Wrap-Up

今回は物性の一つである比熱について取り上げてみました。比熱に限らず物性については可能な限り「実測値」若しくは それに準ずるデータを使うようにしてました。まあ、自分で実測しているって事はほぼ皆無なので、それなりに信頼のおける書籍・文献に記載されている計算式やデータを使うって事ですね。今回使用した Perry's Chemical Engineers Handbook とか、化学工学便覧とかでしょうか。ただ、化学工学便覧に記載されている物性値や物性計算式は それほど網羅されている訳ではないですね・・・。最近はネットで調べる事も可能なんで、例えば NIST Chemical WebBook などを使うことも出来ますね。しかしながら、無償で使用できるようなサイトではやはり収録されている物性の種類とか物質の種類が少ないですね、残念ながら。で、ちょっと特殊な物質については最終手段として物性推算をする事になりますが、出来ればやりたくは無いですね。

なので、今回も物性推算については取り上げていません。それなりに精度は上がってきているんでしょうけど、正直 どの程度の精度なのかは不明ですよね。企業では例えば Aspen Plus などのプロセスシミュレータを導入しているのであれば、サクッと推算してくれますよね。多分、原子団寄与法とかグループ寄与法とかだと思いますけど。気体であれば対応状態原理を使った方法も有るのかなと。また、量子力学的手法による COSMO-RS法ってのも有りますね。

と言いながら それなりにプロセス設計や機器設計はやってましたね。基本となるのは物質収支と熱収支計算なんで、比熱値がどれくらいなのか?ってのは絶対に避けては通れないですよね。まあ、扱ってたのがスチレンとかの有機物だったので それほど大きな差異は無いですよね。なので、多少の間違いあっても結果オーライだったのかなと思いますね。なんですが、更に困るのがポリマーの物性ですよね・・・。で、こちらもスチレン系ポリマーであれば そこまで大きな差異が有る訳では無いと思うので、やはり結果オーライだったのかなと。と、思うのは物性については化学関連の組織とか協会 (IUPAC とか) が主導して、「これを使いましょうよ!」的なデータベースを作って欲しいですね。21世紀になって、もうだいぶ経ちますしね。

参考書籍・文献  References

  1. 「伝熱工学資料 改訂第4版」 丸善 2001年刊
  2. 「Perry's Chemical Engineers Handbook 7th edition」 McGraw-Hill  1997
  3. 「物性推算法」 データブック出版社 2002年刊
  4. 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊











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