身のまわりの化学工学 No.19 ミルクティーの温度 Temperature of Milk Tea

 今回は身のまわりの化学工学シリーズとして「ミルクティーの温度」を考えてみます。ミルクティーなんで当然 紅茶と牛乳を混ぜて作りますね。日本紅茶協会のホームページには美味しい紅茶の入れ方が載ってますね。いくつかポイントが有って、ぐらぐら沸騰した水を使うのが良いそうですね。これはティーポット内で対流が起き茶葉が良く動く為なんだとか。また、ミルクティーに使う牛乳は温めずに、冷たいままか常温のものを使うんだとか。

となると、熱~い紅茶と冷た~い牛乳を混ぜる事になるんですね。温度の異なる 2流体を混合した場合の温度はどれくらいになるのか?ってのが知りたくなりますね。また、紅茶温度は室温よりも高いので放熱して温度は低下しますね。一方、冷蔵庫から取り出した牛乳は低温なので室温により加熱されて温度は上昇しますね。なので、この辺りを考慮すればミルクティーの温度をより現実的にかつ正確に見積もる事が出来ますね。

ケミカルプラントにおいても、液体を混ぜるって操作は有りますね。ベッセルに順次 装入するとか配管内でオンラインで混合するとかですね。んで、混合後の温度を見積もりったりしますね。この場合、混ぜる事で重量が増えるので熱交換器で間接的に加熱・冷却するのとは異なりますね。まあ、熱収支計算の基礎と言う感じでしょうか。
 



※ 日本紅茶協会 「紅茶のいれ方」
  https://www.tea-a.gr.jp/make_tea/



ミルクティーの熱収支  Heat Balance for Milk Tea


✔ ミルクティーの作り方  How to make Milk Tea.

紅茶のいれ方自体は日本紅茶協会のホームページを参照してください・・・。で、ミルクティーの作り方ですが、ティーカップにいれた紅茶に牛乳を注ぎますね、日本では。参考書籍によれば紅茶の本場 英国では まず牛乳をティーカップに入れておいて、そこに紅茶を注ぐんだとか。理由は不明ですが、牛乳を先に入れておいた方が 量がよりハッキリと分かりますね。んでも、紅茶に牛乳をいれてティースプーンでかき混ぜると混ざる様子が見えて面白いと思います、個人的には。

で、参考書籍にはミルクティーの作り方を2種類想定しており、飲む時のミルクティー温度はどれくらいなのか?を計算していますね。下図のような感じです。前提として、紅茶は温度 Tt [℃]、牛乳は Tm [℃] とします。 紅茶はすごく熱いですし、牛乳は冷蔵庫に保管しているんで冷たいですよね。

まず、方法1 ですが、とりあえずティーカップに熱々の紅茶をいれて室温状態で置いておきます。と、同時に牛乳を冷蔵庫から出して やはり室温状態で置いておきます。んで、ある程度時間が経過した時点で紅茶に牛乳を適量注いで、すぐに飲みます。この過程では、熱い紅茶はどんどん冷めていきますし、牛乳は少し温まりますね。で、エイっと混ぜるとある中間の温度になるんで、それは何度でしょうか?を計算してみるって事ですね。

そして、方法2 ですが、ティーカップに熱々の紅茶をいれたら、すかさず冷たい牛乳をエイッと混ぜますね。この場合も、紅茶温度と牛乳温度のある中間温度となり、その後 どんどん冷めていくんですね。そして、ある程度時間が経過した時点でおもむろに飲みますが その時の温度は何度でしょうか?を計算してみるんですね。



✔ 熱収支計算式  Heat Balance Equations 

 
前述の過程を考えると、紅茶の温度変化、牛乳の温度変化、混合後の温度 そして ミルクティーの温度変化となりますね。これらのうち、温度変化については室温との熱のやり取りを考えれば良いですね。同じ計算はこのブログでも何回か取り上げています。総括伝熱係数と伝熱面積、比熱、重量、温度条件を与えれば計算可能です。また、熱い液と冷たい液をジャバっと混ぜた後の温度については熱量収支を考えれば計算出来ますね。なお、今回の計算では、簡単化の為に 紅茶・牛乳の総括伝熱係数、伝熱面積、重量、比熱は同じとします。




計算例   Examples 


✔ 方法1と2 における温度推移   Temperature Transition in Methods 1 and 2


以下の条件でミルクティーの温度推移を計算してみます。100[℃] の紅茶 200[g] に、0[℃] の牛乳 10[g] を注ぎます。で、放熱計算する上で必要となる総括伝熱係数×伝熱面積は 1[J/K s] で一定とします。比熱は水と同じ 4200 [J/kg K] とします。

  • 紅茶・牛乳 重量      mt = 200 [g],  mm = 200 [g] 
  • 総括伝熱係数×伝熱面積    UA = 1 [J/K s]
  • 紅茶・牛乳 比熱      Cp = 4200 [J/kg K]
  • 周囲温度          Tamb. = 20 [℃]
  • 紅茶初期温度        Tt,ini = 100 [℃]
  • 牛乳初期温度        Tm,ini = 0 [℃] 
  • 加える牛乳量        α = 10 [g]          


で、計算してみると下図のとおりとなります。10分待ってから混ぜる 方法 1 では 温度 56.8 [℃] となります。 一方、最初に混ぜて 10分待つ 方法 2 では 温度 58.1 [℃] となります。違いは 1.27 [℃] なんで そこまで大きな温度差では無いですね。なので、どっちでも良いよって事になるのかなと。



✔ 加える牛乳量の影響  Effect of Amount of Milk Added


で、せっかくなんで 加える牛乳量を変えてみた場合を計算してみました。ミルクティーの作り方をネットで調べてみると、紅茶 : 牛乳 = 2 : 1 がベストとか書いてありますね。で、この時の紅茶ですが、茶葉量を2倍にして濃い紅茶をいれるんですね。それがミソらしいです。

この比率ですと、紅茶 200[g] では加える牛乳 100[g] となりますね。で、下図の計算結果は10分経過後の温度です。ミルクティー温度を見てみると、方法 1 だと 42.85 [℃] ですが 方法 2 では 48.99 [℃] となりその差は 6.14 [℃] です。先程の結果と比較すると大きいですね。つまり、結構な量の冷たい牛乳を加える場合には、熱い紅茶にすぐ牛乳を加えた方が温かい状態が長続きしますよ、と言えますね。



このような結果となる理由ですが、放熱の駆動力である温度差が影響しています。紅茶 200[g] に牛乳 100[g] を加えた場合のミルクティー温度の時間推移は下図のようになります。方法 1 だと 100 [℃] の紅茶は 10分間ずっと放熱します。駆動力である温度差が大きいので放熱量が大きいですね。そして、10分後 更に低温の牛乳を加えるので更に温度は下がります。一方、方法 2 だと最初にミルクティーにするので 混ぜた時点で温度は 66.67 [℃] にガクンと下がります。ですが、温度差は小さくなるので その後の放熱量も小さくなります。結果、温度の下がり具合はゆっくりになるんですね。




まとめ  Wrap-Up


今回はミルクティーの温度を計算してみましたが、放熱計算と熱収支計算から ミルクティー温度が計算出来るんですね。計算式自体はそれほど難しくは無いですし、反復計算も必要有りません。ただ、今回の計算は だいぶ簡素化しているのでより厳密に温度を求めたいのであれば、容積の変化による放熱面積の変化を考慮すべきですね。また、総括伝熱係数についても一定としていますが、ティーカップ内外の対流伝熱が自然対流によるものであれば、温度差によって影響を受けますね。

で、ミルクティーの作り方の違いによる温度推移の違いは放熱量の違いに起因するものですが、同じ事は何もミルクティーだけでは無く他の事例でも見られますね。参考書籍である「大学講義 伝熱工学」には以下の例が載っています。まあ、いろいろと応用が効くって事でしょうか。

  • 浴槽内の残り湯
    風呂に入った後の比較的温度の高いお湯に思い切ってジャーっと水を加えて温度を下げる。温度が下がった事で放熱量が減少するので、翌日少し温いが量の多いお湯が得られる。まあ、ちゃんと浴槽には蓋をしておく必要は有りますね。

  • 温泉水 移送配管
    源泉の高温 温泉水をそのまま埋設配管で移送すると結構温度が下がってしまうが、源泉で思い切って水を加えれば、移送先では それほどには温度が下がらず かつ大量のお湯が得られる。

それと余談ですが、「ミルクティー」は濃くいれた紅茶に牛乳を加えたものですが、「ロイヤルミルクティー」ってのも有りますよね。この違いは何かというと、茶葉をお湯で煮出した後にエイッと牛乳を加えるって事らしいです。茶葉の抽出を水と牛乳で行なうんですね。なので、ティーポットでは無くて鍋で作るんだそうです。そして、このロイヤルミルクティーは日本で考案されたものなんだとか。濃厚でコクのある風味が特徴なんですね。こうなると、放熱も熱収支も関係無いですね。鍋を直火で加熱しているので。

それと、個人的に紅茶も飲みますが もっぱら ティーバッグ派ですね。お湯でいれる場合のお気に入りの茶葉は "Lady Grey" ですね~。また、ここ数年は水出しアイスティーが夏の定番ですね。


参考書籍・文献   References

  1. 「連載 身のまわりの化学工学 ミルクティーの温度を考えてみた」
    化学工学会誌 第74巻 第9号 2010年
  2. 「大学講義 伝熱工学」 丸善 1983年刊


web site


  1. 日本紅茶協会 Japan Tea Association
    https://www.tea-a.gr.jp/








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