化工計算ツール No.117 マッケーブ - シール法 McCabe - Thiele Method

 今回は蒸留塔の設計方法として有名な マッケーブ - シール法 McCabe - Thiele Method について取り上げます。この方法ですが、McCabe は マッケーブと読めますけど、Thiele については シールとかティーレ とか書いてますね。なんですが、Google 翻訳に発音して貰うと 「ティーラ」と聞こえます。まあ、読み方は置いといて この設計方法ですが 原著論文は なんと 1925年に発表されたものなんですね。今からちょうど100年前なんですが、日本では大正14年となります。普通選挙法と治安維持法が公布された年です。因みに、ハワード・カーターがエジプトの王家の谷でツタンカーメンの王墓を発掘したのもこの年です。

論文の序文には以下のように記載されています。

A rapid and accurate graphical method is described for computing the theoretical number of plates required in a column for performing a given separation of a binary mixture. The method consists essentially in drawing, on the same rectangular plot, the equilibrium curve for vapor and liquid compositions and straight lines representing the equations for enrichment from plate to plate, and passing from one to the other in a series of steps. It is shown that the effect of varying feed, product, waste, and overflow, as well as the effect of varying temperature of feed, may be represented by very simple geometrical constructions. The application of the method to some more complicated problems is discussed.

"Graphical Design of Fractionating Columns"

W.L. McCabe and E.W. Thiele
Industrial and Engineering Chemistry
Vol. 17, No.6  June 1925


で、Google 翻訳で和文にして貰うと以下のとおりです。

二成分混合物の特定の分離を実行するためにカラムに必要な理論上の段数を計算するための、迅速で正確な図式解法を説明します。この方法は、基本的に、同じ長方形のプロット上に、蒸気と液体の組成の平衡曲線と、段から段への濃縮の方程式を表す直線、および一連のステップで段から段へ移る直線を描画することから成ります。原料、塔頂液、塔底液、還流液の変化の影響、および原料の温度の変化の影響は、非常に単純な幾何学的構成で表すことができることが示されています。 この方法をいくつかのより複雑な問題に適用する方法について説明します。

まあ、二成分系に限定された手法なんですね。とは言え、紙と鉛筆と定規でもあれば理論段数が得られます。画期的ですよね。とまあそんな感じで McCabe - Thiele 法について作図したり計算してみようかなと。

 

マッケーブ - シール法 McCabe - Thiele Method


✔ 蒸留塔における物質収支  Material Balance of Distillation Tower

蒸留塔が1本有って、そこに連続的に原料が供給されており塔頂液と塔底液に分離されている状態を考えます。まあ、下図を見てもらうのが手っ取り早いですね。塔全体の物質収支としては式①が成立しますね。入れたものは必ず出てきます。また、着目成分についても同じ様に物質収支 式②が成立します。で、式①と②を組み合わせて式③が得られます。この式を見ると、与えられた原料条件 (供給量 Fと組成xF) で塔頂組成 xD と塔底組成 xB を与えると 塔頂液量 D が計算出来るんですね。で、当然 F と D の差が B となります。 

まあ、普通は 原料中の着目成分組成は 中間くらいですよね、例えば 0.5 とか。で、これを蒸留塔に入れて分離する訳です。高沸点成分(軽質分) は塔頂に多く向かいますし、一方低沸点成分 (重質分) は塔底に向かいますね。ここで、塔底組成 xB を 0.01 に固定して 塔頂組成 xD を変化させて 塔頂液量 D と塔底液量 B を計算すると下図 下段のグラフとなります。まあ実際には有りえないですけども xD = 0.5 とすると 原料は全部塔頂から出てくる事になりますね・・・。で、xD をどんどん増やしていくと塔頂液量 D は減少しますね。軽質分の濃い液を取り出している訳でなので量は減るんですね。そして、塔頂組成 xD = 0.99 の時、塔頂液量は 50 [kmol/hr] となります。とまあこんな感じで 「物質収支が成立しなければならない」と言う大前提が有るんですね。




✔ M-T法 作図法  M-T method Procedure

前述の蒸留塔周りの物質収支以外にもいろいろと触れておくべき事項が有るんですが、長くなってしまうんで作図する上で最低限 必要な式と手順のみを整理して以下に示します。と、言いながら 本題に入る前に M-T法の前提条件について触れておきます。


  • 気液の流量 V,L は塔内のどの段でも同じ
    前述の図において 原料供給段よりも上は濃縮部 Rectifying section で下は回収部 Stripping section としますが、両部を上昇する蒸気量 V と下降する液量 L は一定とします。
  • 格段を去る気液は平衡状態にある
    蒸気は下からその段に上がって来ますし、液は上からその段に降りて来ます。そして気液が接触する訳ですが、気液平衡状態に到達して 蒸気は更に上に、液は更に下に行くと仮定します。なので、この計算で得られるのは理論段数 Theoretical Stage Number ですね。


そして、作図に必要な線分とそれらの計算式は以下のとおりです。まずは、気液平衡線ですが二成分系における相対揮発度α を用いて 式⑬で計算出来ます。両方の操作線については、式④~⑨を用いて計算しますが、どちらも直線の方程式になりますね。濃縮部操作線については 塔頂液組成の座標 (xD, xD) を起点としてエイッと操作線を引きます。一方、回収部操作線については、塔底液組成の座標 (xB, xB) を起点としてエイッと操作線を引きます。そうすると両方の操作線の交点 (xi, yi) が得られます。で、ここまで出来たら次は階段作図を行います。まず、塔頂液組成の座標を始点として横線を引きます。この横線が気液平衡線にぶつかったら今度は縦線を引きます。この縦線が濃縮部操作線にぶつかったら 再び横線を引きと言う作図をどんどん繰り返していけば良いですね。で、横線1本が理論段1つに対応します。

以下に作図に必要な条件をまとめておきます。見慣れないのが 原料液比率 q でしょうか。原料の熱的条件を表わしていますが、q の値は 0 から 1 までの値となります。下図のグラフ中にも q-line が描いてありますが q値によってこの線分の傾きが変化します。沸点の液 (全部液なので q=1) となり垂直な線分となります。一方、沸点の蒸気 (液が無いので q=0) では水平な線分となります。q=0.5 だと角度45° の線分となりますね。

  • 還流比   r
  • 原料組成  zF
  • 原料液比率 q
  • 塔頂組成  xD
  • 塔底組成  xB
  • 相対揮発度 α
  • 原料供給量 F




計算例  Examples


✔ 原料が沸点液の場合  Saturated Liquid Feed

まずは、原料が沸点の液として供給される場合について作図してみます。条件は以下のとおりとします。

  • 原料組成           zF  0.5 [ - ]
  • 原料供給量      F   100 [kmol/hr]
  • 塔頂組成       xD  0.99 [ - ]
  • 塔底組成       xB  0.01 [ - ]
  • 還流比        r               2 [ -]
  • 相対揮発度      α    2.43 [ - ]
  • 原料 液比率     q       1 [ - ]

で、作図すると下図のとおりとなります。勿論、方眼紙に手書きって事はしないですね、このご時世なんで。このブログの絵を描くときに使っている Visio でやっています。まずは、方眼紙的なものを作って、そこに気液平衡線を描き加えます。そして、濃縮部操作線を引きます。濃縮部操作線のy軸切片値は 0.33 ですが、これは式④の右辺 第2項の値です。0.99/(2+1) = 0.33 ですね。で、沸点液なので 原料組成 zF から垂直線を引くと 濃縮部操作線と交わります。で、この交点と塔底組成 xB とを結ぶ線を引くと、それが回収部操作線となります。そして、xD から階段作図していけば良いですね。

階段作図の結果、最終的に 19段と少しとなりました。階段作図で得られるのはステップ数なんでスチル 1段を差し引いたものが理論段数となりますんで、18段と少しが得られます。これは参考書籍の計算例なんですが、そちらではステップ数 18.3 で理論段数は 17.3 と記載されてますね。なので、1段多めです・・・。比較してみると濃縮部までは大体合ってますが、回収部でズレが生じていますね。なんでかな~と考えましたが、気液平衡線の精度が悪いのかなと。面倒だったので、0~1 までを 0.1 刻みでプロットして直線で結んでるんですね。それと、この計算例は段数が多いので作図上の誤差が蓄積しやすいですね、言い訳ですけど。まあ、んでもこれを方眼紙を使って作図するのは正直 無理っぽいですね、老眼キラーです。



✔ 原料が気液混合の場合   Vapor - Liquid Mixture

せっかくなんで、原料が 気液混合状態で供給される場合を作図してみます。条件は以下のとおりです。


  • 原料組成           zF  0.5 [ - ]
  • 原料供給量      F   100 [kmol/hr]
  • 塔頂組成       xD  0.98 [ - ]
  • 塔底組成       xB  0.02 [ - ]
  • 還流比            r         3.3  [ - ]
  • 相対揮発度      α    2.43 [ - ]
  • 原料 液比率     q    0.55 [ - ]


以下の結果となりました。ステップ数は 13 段なので、理論段数は 12段です。参考書籍では 理論段数 は11.7段だったので、まあオマケでOKって感じでしょうか。この例は還流比も大きいですし、塔頂・塔底組成も少し緩めの条件なので段数も少ないですね。なので、ほぼ同じ結果になったのかなと。



✔ EXCEL による計算と作図    M-T Method by EXCEL

そして、当然なんですが 作図出来るって事は式が有るって事なんで、ぜ~んぶEXCELで計算してグラフにするところまで一気に出来るんですね。このブログでも大変お世話になっている 伊東 章先生の化工関連の著書には EXCEL による計算例が載っていますし、EXCEL ファイルをダウンロードして使えるようになっています。で、同じ条件で計算した結果が下図です。グラフの外観は少しいじってますけど。これまた当たり前ですが 理論段数は ドンピシャ 11.7段ですね。拡大して良く見てもそうなってますね。まあ、100年前は EXCEL はおろかコンピューターとかも無い時代ですし、そんな中で編み出されたのが この マッケーブ-シール法であり、階段作図法なのかなと。化工計算では作図法による計算が他にも有りますが、全部 計算出来ますよね、と伊東先生も言及されています。 



まとめ  Wrap-Up

今回は二成分系の蒸留塔において理論段数を作図的に求める、マッケーブ - シール法について 実際に作図してみました。まあ、さすがに実務で階段作図はしたことは無いですよね。まあ、大学の時に化学工学のレポートでやったような記憶が有りますけど。社会人になってからは、若手社員向け化学工学教材を作る時に少しやってみたかな~と思いますけど、韓国に居た頃の話ですけど。

んでも、良く考えられてますよね。勿論、それまでにも様々な研究が有ったんでしょうし、実際 図式解法についても 既往の研究が有ったと 原著論文には記載されています。ただ、この M - T法が 100年経ってもまだ蒸留計算の基本として取り上げられるってのは、それだけ有用でかつ分かりやすいって事なのかなと思います。まあ、学生のレポートとしてはうってつけですね、老眼とかじゃ全く無いですし・・・。

それと、二成分系であれば M - T 法を使わないでサクッと理論段数を求める事も出来ますね。最小還流比 rmin は計算式が有るので別途求めておきます。そして、分離条件から フェンスケの式 Fenske equation を用いて 最小理論段数 Nmin を計算します。これは全還流条件での理論段数ですね。そして、両方を使って ギリランドの相関 Gilliland Correlation を使うと理論段数が得られます。還流比を変えて計算してみると下図のようになります。還流比 3.3 だと 理論段数 12.06 となりました。伊東先生のEXCEL シートの結果は 11.7 で、今回やってみた M-T法では 12 なので まあ合ってますよね。これはこれで便利ですね。



参考書籍・文献  References


  1. ”Graphical Design of Fractionating Column"
    W. L. McCabe and E. W. Thiele
    Industrial and Engineering Chemistry Vol.17 , No.6 June 1925
  2. 「絵とき 蒸留技術 基礎のきそ」 大江 修造 著 日刊工業新聞社 2008年刊
  3. 「基礎式から学ぶ化学工学」 伊東 章 著 化学同人 2017年刊
  4. 「トコトンやさしい蒸留の本」 大江 修造 著 日刊工業新聞社 2015年刊






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