今回はエアリフトポンプ Air - Lift Pump について取り上げます。水中に揚液管を立てて、管下端から圧縮空気を吹き込みます。そうすると管内の気泡混合液の見かけ密度が外部の液よりも小さくなります。そうすると管内の液面位置が上昇し、管上端から液が吐出されます。ポンプといえば遠心ポンプとかプランジャーポンプとかいくつか種類が有りますが、それらと比較すると構造が単純で、機械的可動部分がほとんど無いので故障などトラブルの可能性も比較的に小さいとされています。なので、地下水の揚水とか腐食性を有していたりとか高温液体の揚液用途として使用されているようです。まあ、特殊用途となりますね。
なんですが、文献を調べてみると例えば 深海底にあるマンガン団塊 Manganese Nodules の揚鉱に使うとか、レアアースを含むスラリー状の泥を揚泥する為に使うと言う用途もあるようです。確かに、数百~数千メートルの深海底に揚液用のポンプを設置するのは さすがに難しいかなと。子供の頃に見たアニメとかでは、21世紀ともなると深海底にはドーム状の海底都市が有って豊富な資源を採掘してると言うのが有ったかな~と。でもまあ、そんなモノは未だに実現されてはいないですね。と、そこまで壮大な話では無くても 海洋深層水の揚水ってのも有るようです。
さすがに実務ではエアリフトポンプを取り扱った事は無いですね。地下ピットからの排水であれば、浸漬型ポンプ Submerged Pump とかを使いますね。これはケミカルプラントではあちこちに大きいのとか小さいのとかが普通に設置してあって非常に一般的でしたね。とまあ そんな感じで脈絡は無いですけども、エアリフトポンプの揚水量について計算してみようかなと。
エアリフトポンプ Air - Lift Pump
✔ 基本構造と流動様式 Basic Structure and Flow Pattern
エアリフトポンプ 構造の一例ですが、下図のような構造ですね。揚水管と圧縮空気導入管の2本の配管が水中に挿入されてますね。空気導入管は空気のみが通ります。で、揚水管の方には圧縮空気をブクブクっと吹き込みます。そうすると、揚水管内には気泡混合液が発生します。で、重い水の中に軽い空気が含まれているので比重は軽くなります。こうして生じた比重差によって気泡混合液は上方に移動します。この時、底面付近の液が液面までグイーっと持ち上げられるのは まあ納得出来ますね。液中に気泡を吹き込むと フツーに液面までは上昇しますんで。で、揚水管が液面よりも高くても気泡混合液はそのまま上がって行くんですね。まあ、際限無く上昇する事は無いですけど。で、揚液量の大小は浸液率 Submergence Ratio によって影響されると参考書籍には記載されています。この浸液率 σs ですが、空気吹込み位置から液面までの高低差 Hs と液面から揚液管上端までの高低差 Ht によって決まります。
揚液管内の気泡混合液の流動状態については下図 下段に列記しています。空気吹込み量によってプラグ流、気泡流、スラグ流と流動状態は変化するとされています。で、エアリフトポンプを実際に運転する際には、主にスラグ流が出現する様です。
✔ 揚液量 計算式 Lifting Liquid Flow Rate Calculation Equations
まずは 「化学工学便覧 改訂4版」に記載されている計算式となりますが、下図の式①となります。浸液深さ Hs と実揚程 Ht が含まれており、定数値 C については 実揚程 Ht によって使い分けるようになっています。なんですが、この式で得られるのは 水 1 [m3/sec] を揚水するのに必要な空気流量 [m3/sec] となります。
別の文献に記載されていたのが下記の式となります。式②には揚液フルード数 Lifting Liquid Froude Number と供給空気フルード数 Supply Air Froude Number が含まれています。また、式②に含まれている 定数値 ζ 、 η 、ξ については 浸液率 σ によって計算されます。
更にまた別の文献に記載されているのが下図の計算式となります。供給空気の揚液管内 空塔速度を基準したフルード数を使うってのは基本のようですね。また、fL2(x) ですが揚液管内の平均液体積比率となります。まあ、普通は水の体積比率ですが、その値がフルード数によって変化するって事ですね。で、この体積比率は式⑪によっても別途計算されますが、パラメータとしては 空気見かけ速度 / スラグ流 速度 Vg0/Vb2 との比率が使われます。空気見かけ速度 Vg0 については揚液管 断面積と空気供給流量から計算されますね。で、最終的に得られた Vb2 を用いて 式⑫から揚液量が計算されます。
計算例 Examples
✔ 揚液量 計算結果 その1 Lifting Liquid Flow Rate 1.
まずは 式①を使って計算してみますが、この式で入力出来るのは 浸液深さと実揚程だけですね。なので、あくまでも概略値なんだと思います。で、揚液管長 10[m] として 浸液率を変えて必要な空気量を計算してみると下図のようになります。見ると、液面から出ている長さが長くなるほど 多量の空気が必要となるのが分かります。一方、揚液管が全没していると空気はほとんど使いませんね、と言うか計算上はゼロとなります。まあ、既に液が管上端まで来ているので、空気を吹き込まなくても OK って事ですね。
✔ 揚液量計算結果 その2 Lifting Liquid Flow Rate 2.
次に 揚液管 内径を考慮出来る 式②を用いて計算したのが下図となります。吹き込む空気流量に伴って揚液量は増加しますが、あるところでピークとなりその後は減少します。また、浸液率によって揚液量は結構変わりますね。下段グラフは浸液率を変化させた場合の揚液量計算結果ですが、これまた結構影響を受けますね。また、単純にドンドン空気を吹き込めば良いって訳では無いのは面白いですね。
✔ 揚液量計算結果 その3 Lifting Liquid Flow Rate 3.
前述の計算式でもまあ何とか使えそうですけど、一応 式⑦~⑫ を用いて計算してみます。空気量を増やしていくと揚液量も増えますがだんだん頭打ちになります。ここまでは前述の結果と同じですね。それは良いですけど、更に計算していくと揚液量が増えたりとかしておかしな感じでした。元文献の実験条件を見ると空気流量もそれなりに変化させていますし、他の研究者のデータなども加味して計算式を構築しています。う~ん、そこまで面倒くさい複雑な計算式でも無いですけど。まあ、反復計算が有ったりして少し手間では有るんですけど。
で、前述の式②による結果と比較してみました。揚液管内径と長さ 及び浸液率を同じにして式②で計算しています。結果は破線で示しています。見て分かるように傾向は同じでは有るんですね。なんですが、値には少々差異が有りますね。下段の棒グラフにしてみると分かるように、まあ2割ほど式②の結果が小さい感じでしょうか。浸液率が小さいほど差異が大きいです。
で、前述の式②による結果と比較してみました。揚液管内径と長さ 及び浸液率を同じにして式②で計算しています。結果は破線で示しています。見て分かるように傾向は同じでは有るんですね。なんですが、値には少々差異が有りますね。下段の棒グラフにしてみると分かるように、まあ2割ほど式②の結果が小さい感じでしょうか。浸液率が小さいほど差異が大きいです。
まとめ Wrap-Up
今回はエアリフトポンプについて計算してみました。比較的にお手軽で可動部分も無いのでメンテナンスとかも楽なのかなと。ネットで見てみると、井戸から揚水とか観賞魚の水槽とかでも使われているようです。冒頭でも触れたように深海底からの鉱石・泥の採取にも用途がありそうですけど、そうなると揚液高さが 数千メートルとかになるんで、空気を吹き込むにしても大変ですよね。仮に海面下 1000 [m] だとすると静水圧だけで 100 [atm] となりますし、空気導管の圧力損失とかも加わりますし・・・。簡単では無いですね。
計算式についてもいくつか文献も有りますし、ザックリとこんな仕様の揚液管でこれくらいの空気を吹き込めば揚液量はこんな感じってのは得られますね。まあ、前述のようにそれなりに差異が有ったりしますけど。安全側の値を採用すれば良いのかな~と。また、文献では固体輸送を前提にしているものが多いですね。固体の水力輸送となるんですが、深海底から海面となると垂直輸送なんで 一番シビアと言うか過酷な条件となるのかなと。
エアリフトポンプでは揚液管を設置しますが、空気導管だけが有って揚液管が無い状態でブクブクさせるのは エアレーションとなりますが、これはこれで実施されていますね。曝気とか通気とか、活性汚泥処理とかでは一般的でしょうか。そういった生物処理分野で無くても、液中にガスを吹き込むと液の流動が誘起されるんで 通気撹拌ってのも有りますね。その辺りについてはまた別の機会に取り上げてみようかなと。
計算式についてもいくつか文献も有りますし、ザックリとこんな仕様の揚液管でこれくらいの空気を吹き込めば揚液量はこんな感じってのは得られますね。まあ、前述のようにそれなりに差異が有ったりしますけど。安全側の値を採用すれば良いのかな~と。また、文献では固体輸送を前提にしているものが多いですね。固体の水力輸送となるんですが、深海底から海面となると垂直輸送なんで 一番シビアと言うか過酷な条件となるのかなと。
エアリフトポンプでは揚液管を設置しますが、空気導管だけが有って揚液管が無い状態でブクブクさせるのは エアレーションとなりますが、これはこれで実施されていますね。曝気とか通気とか、活性汚泥処理とかでは一般的でしょうか。そういった生物処理分野で無くても、液中にガスを吹き込むと液の流動が誘起されるんで 通気撹拌ってのも有りますね。その辺りについてはまた別の機会に取り上げてみようかなと。
参考書籍・文献 References
- 「エアリフトに関する研究 第1報 流動現象と揚水特性」
鹿児島大学 工学部 研究報告 第21号 1979年 - 「エアリフトポンプによる固体粒子の水力輸送」
日本鉱業会誌 第12号 1975年 - 「化学工学便覧 改訂4版」
2.13 液体輸送機 丸善 1978年刊
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