化工計算ツール No.123 空気撹拌 Air Agitation of Liquids

 今回は空気撹拌 Air Agiation について取り上げてみます。前回はエアリフトポンプ Air - Lift Pump だったんですけど、こちらには揚液管が設置されてます。空気撹拌ではこの管を設置せず、液中に浸漬した導管から空気をブクブクさせます。そうすると気泡は浮力によって上昇し、それに伴って槽内の液が流動します。つまり、吹込み空気によって槽内液の流動が誘起されるって事になります。まあ、エアリフトポンプにおいて揚液をそのままバシャバシャっと槽内に戻せば、それは撹拌しているのと同じですね。

この空気撹拌ですが お手軽では有りますね。機械的撹拌だと液中に設置したインペラをグルグル回転させて液流を発生させますけど、インペラとかシャフトとかモーターとか 様々な装置類が必要になるので、どうしても大掛かりとなりますね。一方、空気撹拌だと導管を設置しておけば良いですね。用途と言うか利用されている分野としては、腐食性液体や摩耗性のあるスラリーの撹拌があります。腐食性液体ではインペラがボロボロになって無くなります・・・。摩耗性スラリーでも同様ですね。また、金属が融けるようなものすごく高温であってもインペラが融けちゃいますね。なので、製鋼とか冶金分野においても使用されているようです。それと、空気を吹き込む場合でも、酸素の水への溶解を目的として行なわれるのは エアレーション Aeration となりますね。大規模な槽では散気管のみが設置されますが、好気性発酵とか酸化反応などを反応槽で行う場合には機械的撹拌も実施されますね。そんな場合は所謂 通気撹拌 Aeration - Agitation となりますね。

これも撹拌の1種となりますけど実務で検討してみた事は無いですね。とは言っても、角槽とかドラム缶に水が張ってあってちょいと混ぜたいなって時にはプラントエアーとかをホースで吹き込んだりしますね。まあ、どんだけ混ざってるかは不明ですけども。と、そんなところを少し計算してみます。



空気撹拌  Air Agitation of Liquids 


✔ 気泡による流れ場  Flow Field induced by Bubbles

空気の吹込みタイプですが 下図のように底吹き上吹き横吹きと3種類に分けられます。一般的なのは底吹き Bottom Blown だと思いますが、製鋼分野など超高温液を扱う場合や液のシールが難しい場合は上吹き Top Blown になりますね。この上吹き用のノズルは ランス Lance と言うようですが、ヨーロッパ辺りの槍騎兵が持っている「槍」の事ですね。片手で保持する武器としては 破格の長さで 普通で 2メートル、長いものだと 4メートルにもなるとか。

例えば、底吹きタイプにおける流れですがノズルから吹き込まれた空気は気泡となり膨張しながら浮力によって上昇します。気泡群は気液混相の上昇域を形成し、周囲から液を巻き込んで更に膨張・上昇します。液面近傍では空気は大気中に散逸し、液は上昇域から吐出されて下降流となる、と参考文献には有りますね。なので、槽内は上昇域、吐出域 そして下降域に大別されますが、まあ実際には上昇域と下降域の境界ってのは明確では無いですよね。




✔ 混合時間 推算式  Mixing Time Estimation Equations 


撹拌の目的はいろいろと有りますけどまずは均一化ですよね。槽内液が十分に混ざっている状態にしたい訳で、その指標の一つとして「混合時間」が有りますね。撹拌されている槽内液に微量の成分 Tracer を投入して、その成分の濃度が槽内で均一になるまでの時間となります。測定手法としては、例えば光学的方法とか電気伝導法が有りますね。混合時間の測定は実務でもやった事が有りますけど、分類すれば光学的手法の一つである脱色法ですね。

いろいろと調べてみると空気撹拌における混合時間推算式ってのは有りましたね。やはり鉄鋼分野なんですけども、取鍋(とりべ) の中にあるドロドロの溶湯(融けた鉄)にガスを吹き込む操作を想定していますね。で、参考にさせて頂いたのは井口 学先生の報文ですね。井口先生は大阪大学、北海道大学を経て2022年度からは大阪公立大学の客員教授となられています。一連の研究は1980年代から手掛けられていたようです。

で、底吹きと上吹きにおける混合時間推算式は下図のとおりです。底吹きの推算式は比較的に単純です。空気の空塔速度を基準としたレイノルズ数が含まれています。こちらにはノズル径とかは含まれませんね。また、上吹きの推算式は少し複雑で修正フルード数が含まれています。そして、ノズル径の影響も有るんですね。と言うのも、上吹きの流れは底吹きの場合とは違うんですね。上吹きの場合、吹き込まれた気泡は一旦下向きに移動した後、今度は浮力によって上向きに移動していくんですね。なので、その辺りを考慮したんだろうなと思います。




計算例  Examples



✔ 空気導入方向の影響  Air Injection Direction

早速計算してみます。底吹きと上吹きの違いを見るために、同じ大きさの容器に同じ量の水を張り込んで 空気流量を変えて計算してみると下図のようになります。容器サイズや空気流量ですが、参考文献に記載されているものと同じにしています。混合時間ですが、この条件だと、大体 30[sec] ほどで混合は終了するとなります。それと、空気流量を上げると混合時間は短くなるので混ざりが良くなりますね。そして、吹き込み方向の違いですが 空気流量が少ないと同じくらいですが、空気流量を増やすと底吹きの方が短くなりますね。と言っても、5[sec]程度の違いでは有るんですけども。

下図 下段には底吹きと上吹きの容器・空気導入管の仕様について描いてあります。気泡の様子はまあ適当に描いてあるんで、あくまでもこんな感じって事です。で、底吹きだと空気の導入方向と浮力の方向が一致しています。導入空気の慣性力と気泡の浮力が同じ方向に作用するので、結果としてより強い循環流が発生します。一方、上吹きだと図に有るように導入空気には下向きの慣性力と上向きの浮力が作用します。結果、気泡はノズル先端からある程度の深さまでは到達しますが、それより下には到達しません。と言う事は、容器底部近傍の液はそれほどまでには流動しないって事になります。




✔ ノズル浸漬深さの影響  Nozzle Immersion Depth


今度は上吹きで ノズル浸漬深さの影響について計算してみます。ノズルを浅く設置した場合と深く設置した場合では流動状態が変わってくるんで、結果として混合時間も変わってくるんですね。で、深く設置した方が混合時間は短くなりますね。まあ、図を見てみると納得ですね。






✔ 液量の影響   Liquid Volume


推算式の適用範囲云々は有るんですが、ドカ~んとスケールアップした場合を想定して混合時間を計算してみます。参考文献の実験範囲である 20 [L] から実機スケールである20 [m3] まで液量を増やしています。で、単に液量を増やすと傾向が把握出来ないので指標を適用します。空気空塔速度 一定とノズル空気吹込み速度一定とします。で、液量についてですが円筒容器の内径と液深さは同じとします。そうすると、液量を決めると槽内径と断面積が得られるので、空塔速度一定条件から空気流量が定まります。更に、この空気流量を用いて 空気導入ノズル内の空気速度が同じなるように断面積を決めればノズル径が定まります。

で、そうやって計算してみたのが下図の結果です。底吹きの場合、混合時間は一定となります。空塔速度一定とすると混合時間は一定となるんですね。また、上吹きの場合ですが ノズル浸漬深さについては液深さに対する比率が 0.5 となるようにしています。なので、液深さの1/2 までノズルを差し込んでいる事になります。で、液量が増加すると混合時間は増加しますね。液量 20 [m3] で 混合時間 94 [sec] なので、そんなに混ざりが悪い訳では無いですね。もちろん、機械的撹拌だと 30[sec] 以下で混ざると思いますけど。で、その時の必要な空気流量ですが 50 [L/sec] なので 3 [m3/min] となります。ネットで調べてみると、これくらいの容量のブロワであれば そこまで大きい訳では無いですし、モーター容量も 5.5 [kW] とかでしょうか。





せっかくなので、槽の絵を描いてみると下図のとおりです。径が3[m]ともなるとそこそこ大きいですけど、空気をブクブクするだけでそれなりに混ざるのであれば それはそれで有りだな~とは思いますね。ただし、デッドスペースの発生は避けたい!とか固体粒子を懸濁したいとかであれば、素直に撹拌機を設置するほうが良いと思いますけど。液量 20 [m3] で 単位体積当たりの撹拌動力を 仮に 0.1 [kw/m3] とすれば、正味の撹拌動力値は 2 [kW] となりますね。総効率を ザックリと 0.7 とすれば 電動機容量は2.86 [kW] となるんで ちょいと大きめですけど 3.7 [kW] の電動機を選択すれば良いかなと。





まとめ  Wrap-Up


今回は前回と同じ様な空気の吹込みですが、液体の移送作用では無くて撹拌作用に着目して混合時間を計算してみました。実際に計算してみると、機械的撹拌には及びませんが大まかに混ぜる用途では使えそうですね。勿論、製鋼や冶金などの超高温である液体を扱う分野においてはメインの手法となりますけど。

また、液の撹拌となると単位体積当たりの動力 Pv [kW/m3] が指標となりますけど、この空気撹拌についても適用可能ですよね。んでも、機械的撹拌とは違って気泡の挙動とかは複雑なので難しいですね。まあ、単純にある静水圧の液に所定流量の気体を吹き込む場合の所要動力を求めれば良いんだと思いますし、そのような取り扱いをしている例もありました。なんですが、それはブクブクっと空気を吹き込むのに必要な動力であって、その動力がそのまま液の流動に寄与するか?と言われると そうでは無いよな~と思いますし。また、参考文献には Pv値だけでは整理するのは難しいと言及されていますね。実際、同じ空気流量であっても底吹きと上吹きでは混合時間も違いますしね。井口先生の参考文献では電気伝導率法によって混合時間を実験的に求めていて、液深さとかノズル浸漬深さなどの影響についてデータを採取しています。なんですが、槽内液の流動状態を観察して その結果と結びつける様な事はされてませんね。井口先生のもっと以前の文献では槽内液の速度分布とか循環流量なども実測されてはいるんですけど。

それと、参考書籍には 507 [m3] の鉱泥液を空気撹拌した場合の例が記載されていたので絵を描いてみました。比重 1.6 なので重い液ですが、吐出流量 173 [m3/min] になるとありますね。吐出流量 = 循環流量とすると循環時間は 507 [m3] ÷ 173 [m3/min]  = 2.93 [min] となります。 混合時間は循環時間の3倍と仮定すると、混合時間は 8.79 [min] となりますね。まあ、1時間とかブクブクさせておけば十分に混ざる感じでしょうか。





参考書籍・文献   References

  1. 「下向きガス吹き込みによる円筒浴内の均一混合時間」
       高塚 雄介、井口 学 鉄と鋼 第88巻 第12号 2002年
  2. 「底吹き円筒浴内の水噴流および水一空気系気泡噴流の流動特性」
      井口、谷、植村、川端、竹内ら 鉄と鋼 第74巻 第9号 1988年
  3. 「新補版 混合および撹拌」 化学工業社 2000年刊 












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