化工計算ツール No.124 有効熱伝導率 Effective Tharmal Conductivity

 今回は有効熱伝導率について取り上げます。熱伝導率ってのは物質で固有な値をもっている訳で、所謂 物性 Physical Property の一つです。鉄などの固体とか水などの液体や空気などの気体もそれぞれ固有な熱伝導率の値があります。勿論、温度依存性があるので温度によって変化しますけど。なんですが、例えば 固体中に多数の空孔が分散しているような多孔質体 Porous Media とか、固体粒子が充填された充填層 Packed Bed では固体と気体が空間的に混在した状態となっています。そんな場合の熱伝導率ってのは、もはや物性値では無いですね。となると、熱伝導率の値がどれくらいになるのか?を推定する必要が出てきます。

適用される分野は広範囲ですね。伝熱が絡む多相系を取り扱う場合には、ほぼ確実に必要になるのかなと思います。ざっと文献を当たってみても以下のような例が有りました。

  • 充填層 Packed Bed
    触媒粒子を塔内に充填してそこに原料ガスを流して反応させるような場合、高温系の反応であればジャケットで加熱しますよね。まあ、原料ガス自体も予熱しておくとは思いますけど。で、そんな場合には粒子充填層の有効熱伝導率が必要となりますね。充填層半径方向の温度分布を知りたいのであれば、絶対に必要となります。ただし、原料ガスや生成ガスは流動しているので、そこいらも影響してきて取り扱いは面倒にはなりますけども。

  • 石炭の酸化 Coal Oxidation
    デカいホッパーに大量の石炭を貯留しているとします。雰囲気が空気であれば酸素を含んでいるので、徐々にですが石炭は酸化します。で、その際に熱が発生しますね。その熱が石炭層を移動してホッパー外皮を通じて外気へと放散されれば良いですけど、そうじゃないと蓄熱していって石炭層中心の温度は高温となります。最悪 自然発火しますね・・・。そのような系を解析するには石炭層の有効熱伝導率が必要となります。

  • 食品分野  Food Sector
    小麦粉とか米粉とかそば粉とか粉モノの食品を加熱したり冷却したりってのは、貯蔵・流通・加工・調理においてごく普通にある操作ですね。で、ご存知のとおり小麦粉は粉体です。まあ、小麦粉を使ってパン生地にすると連続体として取り扱えるかも知れませんけど、パン焼きの過程では大小様々な空隙が発生するので、これは多孔質体になるのかなと。

で、実務でもやってみた事は有るんですね。前述の石炭のような炭化物貯留時の酸化だったかなと。ラボでの実験データに基づき、貯留槽内 炭化物層の熱移動を非定常 2次元熱伝導として取り扱って計算したように記憶しています。対策として 窒素ガスを槽内に通気すれば良いんでしょうけど、槽内は酸欠状態になるので作業者が近づく状況では危険ですよね。また、頻繁に受け入れ・払い出しをするようなホッパーであれば、その都度 窒素を供給しないとなりませんから面倒ですね。

とまあ、そんな感じで有効熱伝導率は重要なんですけど、当然 推算式ってのはいくつか有りますんで、それらを使って計算してみようかなと。


有効熱伝導率   Effective Thermal Conductivity


✔ 熱伝導モデル  Heat Conduction Model


多孔質体でも充填層でも固体部分と気体部分が有るので、その構造に基づいて熱伝導モデルを構築するんですね。単純なところだと、直列モデルとか並列モデルでしょうか。ですが、実際のところそこまで単純では有りませんよね。なので、もう少し複雑なモデルが提案されています。それと、今回の有効熱伝導率 推算式では 放射 Radiation の影響は考えていません。数百℃を超えるような高温域では問題になると思いますけど。

参考文献に記載されているのは下図の model b となります。従来モデルは model a との事です。比較してみると 固体部分間の気体部分を通過する熱移動をどのように考えるかが異なっています。model b では気体部分の形状が三角になってるんですね。で、参考文献には導出過程も記載されていますけど、結果だけを示すと式①となります。含まれるのは固体部分と気体部分の熱伝導率、そして空隙率 void ratio , ε だけなんですね。




✔ その他の推算式  Other Estimation Equations


それと、直列モデルと並列モデルについては下記の式となります。更に他の研究者によって提唱されている推算式についても併せて示しておきます。調べるともっと沢山有るんですけども。その中でも国井-Smith 式は良く出てきます。実験結果と良く合うんだと思うんですけど、定数値 Φ については Φ1 とΦ2 の値を線図から読み取ったりするんで少し面倒ですね。それと、そもそもの式はもっと複雑で放射伝熱の寄与とかも含まれています。下図の式④は単純化した式となりますね。因みに国井 大蔵先生は伝熱分野ではものすご~く有名な超大御所の先生ですね。





計算例  Examples

で、有効熱伝導率 推算式ですが 冒頭に出てきた 式①は 田中-千阪の式と呼称されている様です。この推算式が記載されている参考文献には様々な物質について実験を実施して検証しています。種類としては 粒子充填層、積層金網、積層布地ですね。


✔ 粒子充填層  Particle Packed Bed


ケミカルプラントであれば 粒子充填層について推算する場合が多いかと思いますけど。参考文献に記載されている計算例ですが、直列・並列モデル、国井 - Smith 式、田中-千阪式で計算してみると下図のようになります。空隙率は 0.39 としています。横軸は ks/kg ですが、固体 熱伝導率と気体 熱伝導率との比率です。一方、縦軸は ke/kg となっており 有効熱伝導率と気体 熱伝導率との比率です。推算式を見ると これらのパラメータが含まれているので、ちゃちゃっと計算出来ますね。

で、国井 - Smith 式 (以後 K-S式) と田中-千阪式 (以後 T-C式) はバッチリと合ってますね。一方、直列モデルは頭打ちになってしまいますし、並列モデルではずっと増加しています。どっちも有り得ないですね。 なので、どっちの K-S 式 と T-C式を使っても きちんと推算出来るかなと思います。ただし、K-S式は 定数 Φ の計算が少々面倒です。Φ1とΦ2を線図を読み取るんですけど、厄介ですね。なんですが、ネットで調べてみると計算式も有りますね。下図の結果は その計算式を使っています。1992年の秋田高専研究紀要に記載されていました。で、元文献は何かな~と文献リストを見てみると結局は国井 大蔵先生の著書でした。まあ、今はEXCELで計算すれば良いので式になっているほうが良いですね。そして、文献には研究者らよって採取された実験データも記載されていますが、それを見る限り良好に一致しています。





 ✔ 空隙率の影響  Influence of Void Ratio


上記の結果は横軸も縦軸も無次元なので、実際の有効熱伝導率はどれくらいなのかはピンと来ませんね。なんで、ガラスビーズ - 空気系で計算してみました。で、空隙率も変えてみました。ただし、粒子が球形で均一径の場合、詰め込める量ってのは決まってるんですね。 ぎゅうぎゅうに詰め込んだ場合、つまりは最密充填における空隙率は 0.260 となります。一方、スカスカである最疎充填での空隙率は 0.476 となります。

結果を見ると、空隙率の影響は有りますけど そこまで大きいって無いですね。勿論、小粒子径のガラスビーズをエイッと投入して、大粒子の隙間を埋めてやれば空隙率は小さくなりますね。そうすると、有効熱伝導率はガラスの熱伝導率に近づきます。それと、直列モデルも並列モデルも全然 T-C式とは大きく異なる値となるんで、使うべきでは無いですね。



  

✔ 不連続固体系と連続固体系  Discontinuous & Continuous Solid System


前述の推算式とか計算結果は、ガラスビーズなどの固体が空気などの気体中に不連続的に存在している系でした。なんですが、エイッと逆にしてみると 例えば レンガなど固体が連続的に存在していてその中に空気などの気体が空隙として点在しているってのも似たようなものですよね。なので、前述の不連続固体系の式①から容易に 連続固体系の式が導かれるんですね。で、前述のように ke/kg を計算してみると下図のとおりです。

空隙率は どちらの系でも 0.4 としています。で、見てみると不連続固体系では ks/kg が大きくなっていくと 有効熱伝導率の増加割合は減ってきますね。一方、連続固体系ではそのままズーッと同じ様な割合で増加していきます。なにか単純に逆転させただけのように思いますけど、固体部分の熱伝導率の影響が違ってくるんですね。





まとめ  Wrap-Up


今回は粒子充填層などで重要な有効熱伝導率について計算してみました。いろいろと推算式はありますけど、国井 - Smith 式が一般的なのかなと思いますね。なんですが、放射の影響とかを考えない場合には、今回取り上げた 田中 - 千阪 式も使いやすくて良いですね。今回は計算してませんけど、積み重ねた金網や積み重ねた布地の場合でも 良好な精度で推算出来ています。また、この推算式ですが 更に拡張されていて、なんと含液粒子層についても推算出来るんですね。粒子層に液体を含ませた状態なんで、粒子間に液の架橋が発生します。さすがに A と B だけでは無くて、もう一つ C という定数を導入していますが、それでも十分に使いやすいですね。別文献の実験結果を見ると、やはりそれなりに良好な精度で推算出来ています。まあ、減圧下で高温下などの条件であれば 国井 - Smith 式を使う事にはなるんでしょうけど。

それと、いろいろと文献を調べていると調理関係の報文もいくつか有ったんですね。炒め調理に関するものでしたが、「もやし」層の有効熱伝導率を国井 - Smith 式で推算してましたね。ただ、粒子充填層とは違って もやし炒めを作る際には、エイッとフライパンを振りますね。均一に火が通るようにとか油がまわるようにするのが目的かなと。所謂、チャーハンを作る時の「あおる」って言う調理操作ですね。これは固体の撹拌操作になるよな~と思って読んでました。で、この「あおり」操作による影響なんかも考慮して「もやし」の温度変化を計算してました。なかなか面白いですね。食品工場とかで大量に調理する場合にはこんな取り扱いも必要ですよね。


参考文献・書籍  References


  1. 「不連続および連続固体系の有効熱伝導率の一推算法」
      田中 誠、千阪 文武
      化学工学論文集 第16巻 第1号 1990年
  2. 「含液粒子層の有効熱伝導率推算法」
      田中 誠
      化学工学論文集 第17巻 第2号 1991年



 




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