身のまわりの化学工学 No.22 住居のヒートバランス Heat Balance of Housing

 今回は身のまわりの化学工学シリーズとして 「住居のヒートバランス」を取り上げます。まあ熱収支の事ですけど、日本の一般家庭においては夏は冷房を使い、また冬は暖房を使いますね。そして、春と秋は暑くも寒くもないので冷暖房は使いません。で、夏の冷房ですが 室内を適温に維持するには外気からの入熱量に相当する熱量を除去する必要があります。一方、冬の暖房では外気への放熱量に相当する熱量を加える必要があります。で、拙宅の場合 冷暖房にはエアコンを使っているので、電力使用量とか電気料金の変動を見ると入熱しているのか、それとも放熱しているのかがザックリとですが分かります、と考えられます。勿論、ずーっと稼働している冷蔵庫とかも有るには有るんですけど。

最近は 電力量計もスマートメーターとなっていて、ネット経由で例えば1時間毎の使用量を閲覧する事が出来ますね。また、エアコンもネット接続機能が普通になっていて 専用アプリを使って電力使用量と言うか電気料金を見る事なんかも可能ですね。加えて、室温とか外気温ってのも温度計を設置してその指示値を記録すれば分かりますね。更に、最近は便利なのもので温度値をず~っとログとして記録してくれるものも有りますね。拙宅でもリビング、寝室(自分の)、ベランダ(屋外)にこの手の温湿度計を設置しておりまして、24時間365日 記録しています。

とまあそんな感じであくまでも拙宅の場合ですけど、住居のヒートバランスと言うか電気代と言うか、その辺りをグラフにしてみたりとかしてみます。



※ 上記のシャレオツなタワマンのリビング画像は Google Gemini に作成して貰いました。拙宅とは違いますね~。んでも、こんなに窓だらけだと電気代が相当にかかるかなと。



文献データ  Literature Data 


だいぶ古いですが化学工学会誌に同じ様な特集記事が有りました。「家庭内のマテリアルバランスとヒートバランス」 化学工学 第43巻 第8号 1979年 です。それによると、電気・ガスの消費量は季節で変動するんですね。

下図は横浜市内にある木造二階建て住宅に大人2人と子ども2人が居住している場合のユーティリティ消費量の年間推移です。記事によると、都市ガスの年間消費量自体は 1161 [Nm3] で、電力使用量は 3385 [kWh] とありますね。で、特に冬場の電力使用量が大きいですが、暖房器具によるものと考察されています。ガスについても概ね同じ傾向ですね。電力使用量を見ると8月が最小となっています。う~ん、やはり昔のデータなんだと思いますね。このご時世 8月にエアコンを使わないで過ごすのは考えられないですし、そうなると電力使用量もそれなりに多くなるはずです。

と言う事で、横浜の8月月間平均気温の推移をグラフにしたのが下図 最下段グラフです。1960~2020年までは5年毎のデータで、2000~2004年までは毎年のデータをプロットしています。まあ、暑くなって来てはいるんですよね。で、水道使用量ってのはそれほど変化はしないですね。記事によれば、夏場に使用量が多くなっているのは 庭の水やりの為なんだとか。戸建て住宅ですからね。余談ですが、1980年の8月平均気温は 何と 23.0[℃] だったんですね。調べてみると 全国的に冷夏で冷害が発生したんですね。当時は高校生で列車通学してましたけど、まあ田舎だったんで線路の右も左も田んぼだったんですね。で、この時は夏が過ぎても青い稲が直立したままだったのを明確に覚えていますね。そんな経験はこの時だけだったかなと。


拙宅データ その1  My House Data, 1


拙宅の仕様ですが、所謂  集合住宅ですね。鉄筋コンクリート造ですがタワマンのように高くは無いですね。居住世帯数は まあ中規模って感じでしょうか。それなりに街なかで結構 往来の多い幹線道路に面しています。なので、ベランダとかもそれなりに汚れます。拙宅はその中層階に位置していますね。

✔ 温湿度推移  Annual Trends in Temp. and Humidity

まずは、温湿度の年間推移です。こちらのデータは毎日 朝晩 入力しているものですが、就寝している自分の部屋で測定したものになります。部屋の広さは 所謂 4畳半で掃き出し窓と出窓があります。出窓は西向きなんで 冬は良いですけど、夏は西日がキツイですね。

冬場 外気温は5[℃]前後まで下がりますね。一方、夏場の外気温は30[℃] となっています。また、室温は15~25[℃] くらいとなっていますが、これは適宜 冷暖房を使っているからですね。特に夏場だと、就寝中はずっとエアコンを稼働しています。そうしないと眠れないので・・・。冬場も厳寒期は少し使いますけど、寝る前に部屋を温めた後はエアコンは切りますね。暖かすぎるとそれはそれで眠れなくなるので。




✔ エアコン消費電力   Air Conditioner Power Consumption


で、こちらの部屋には勿論 エアコンが設置されていますけど、6畳用の100V 仕様なんで市販されているワットチェッカーで電力使用量を測定した事がありますね。ひと夏でどれくらい電力を食うのかな~と思って。まあ、それなりに消費するんですが 10畳も有るような大きな部屋では無いので、そこまででは無いですね。実施したのは 2020年でしたが、「こんなもんなんだな~」ってのが分かったので それ以降はやってないです。面倒くさいってのが有りますけど、いずれにしても使いますしね。ひと夏分の電力使用量と電気料金データは下図のようになりますね。

エアコン自体は2004年製の結構古いものですが、韓国在住時にはほとんど使ってませんでしたんで まあそんなにガタは来ていないのかなと。また、設定温度は 25[℃] くらいだったかなと。で、ひと夏 使っても トータルの電力使用量は 80[kWh] もいきませんね。当時の単価 22 [JPY/kWh] で計算すると、1500円くらいなんですね。ひと夏で3ヶ月ほど使っているので、ひと月当たり 500円です。まあ、夜しか使ってませんし 締め切った部屋ですんで (Φ100mmほどの換気口は有り)。このワットチェッカーですが、電力量の瞬時値も表示されます。エアコンをONにしてからずっと表示を見ていると、最初こそ 700 [W] とかに達しますけど 定常状態になると 100 [W] とかまで低下します。単に送風しているだけだと 40[W] とかですね。まあ夜になると外気温もそれなりに下がるんで、外気からの入熱量も低下しますしね。下図 最下段グラフは横軸に夜の外気温をとって、縦軸に1日当たりの電力使用量をプロットしてものです。当然ですけど、外気温が上がると 室温との温度差が増えますね。そうすると 入熱量が増えるんでエアコンの負荷も上がるんですね。これは熱移動の基本原則なんで 如何ともしがたいんですが、熱の伝わりやすさ である Ua値を小さくすれば 入熱量を少なくする事は出来ますね。なので、窓とか壁とかは出来る限り高断熱仕様にした方が良いとなりますね。



拙宅データ その2.   My House Data, 1


で、次は拙宅全体のユーティリティ使用量について見てみます。前述の文献データと同じように電気・ガス・水道の使用量についてとなります。それと、拙宅全体の床面積は 75 [m2] で掃き出し窓や出窓が複数有ります。


✔ 温湿度推移   Annual Trends in Temp. and Humidity


温湿度データの採取には "Switchbot" を使っています。なんですが、外気温湿度の24時間測定は 2024年4月から開始しているんで、前半が少し欠けてしまいます。なんですが、それ以前から別のデジタル温湿度計の表示値を目視で読み取り、エクセルに記載していたのでそちらをプロットしてみると下図のようになります。

データは朝方の外気温の月間平均の推移ですが、夏場だと朝でも30[℃]近いんですね。より詳細に毎日にデータを見ると、実際に30[℃]以上ってのも普通にありますね。拙宅に最も近いアメダスポイントの測定値を見ると、同日同時間でもだいぶ低いんですけども。まあ、拙宅の場合 住所が街なかですし、コンクリ製のベランダに温湿度計を吊るしてるんでどうしても高めになりますね。実際、朝起きて サッシ窓を開けると既にムッとした熱気を感じるんで、暑いんですよね・・・。




✔ 月間 ユーティリティ使用量  Monthly Utility Consumption


で、ユーティリティ使用量については毎日コツコツとデータを採取しているんですが、それをEXCELに記録しています。例えば、夏場と冬場の電力使用量の月間データは下図のとおりですね。見てみると真夏と真冬では同じくらい電気を使ってますね~、って事が分かります。これは電気ですが、都市ガスと水道についても同じグラフが有りますね。




✔ 外気温の影響  Influence of Out Temp.


問題なのは、月や外気温の変動によってユーティリティ使用量がどれくらい影響を受けるのか?なんですよね。なので、ユーティリティ使用量をプロットしてみると下図のようになります。

まずは電気ですが盛夏と真冬は使用量が多くなります。で、外気温に対して使用量をプロットすると最小値が有るのが分かります。拙宅の場合、外気温 20 [℃] で電力使用量は最小となりますね。んで、電力使用量の変動ってのは ほぼエアコンの電力使用量に影響されているんだろうなと思います。と言うのも、200 [kWh] がベースラインとなってますね。これは冷蔵庫とか照明とか季節に関係無く使用する電力なんだと思います。となると、残り 200 ~ 300 [kWh] くらいがエアコンの分となり、これが季節で変動するんですね。となると、電気代を削減したいのであれば、ベースライン分については LED にするとか冷蔵庫は詰め込み過ぎないようにしようとかの対策が有るのかなと。変動分については、夏場の入熱と冬場の放熱を出来る限り抑制するってのが重要となります。結局、住居の高断熱化ですよね。

また ガスについてですが、これは8月に最小値となります。一方、冬場は5倍近くも多いですね。集合住宅の水道水ってのは屋外タンクから各世帯に送水されますよね。であれば、外気温の影響を受けるので、夏場だと温めですが冬場だと冷たいですよね。その水を例えば 42 [℃] とかまで加熱するのであれば、当然 必要な加熱量ってのは変動します。その結果、ガス使用量も変動するんですね。

最後に 水道水ですが、変動はあまり有りませんね。外気温の影響もほとんど無いようです。拙宅の場合、冬場は湯船にお湯を張ってゆっくりと入浴しますけど、夏場はシャワーだけで済ます感じです。なので、夏場はお湯はりしないのでその分水道水使用量が減るんですね。



まとめ  Wrap-Up


今回は住居のヒートバランスを取り上げてみました。夏場を考えると、窓や外壁から室内へと流入する熱量があります。何もしないと室温は外気温と同じになります・・・。それでは熱中症になってしまうので、熱を屋外へと排出させる必要があります。で、エアコンの登場ですね。排出すべき熱量に加えて エアコン自体を稼働させる為のエネルギーが必要となり、その合計を電力として投入する必要が有りますね。

エアコンの能力云々を取り上げる際に、「冬場の暖房性能が大事!」とか言われますね。それは前述の電力使用量の変動を見れば分かります。拙宅の場合、夏場では エアコンが 200 [kWh] ほどの電力を使用しますが、冬場では 300 [kWh] と 1.5倍ほどになってますね。なんでそうなるかは、夏場の入熱における温度差と冬場の放熱における温度差を考えれば良いですね。

  • 夏場  室内温度  25 [℃] 外気温度 35 [℃] 温度差 10 [℃]
  • 冬場  室内温度  25 [℃] 外気温度 10 [℃] 温度差 15 [℃]

窓とか外壁などからの入熱・放熱面積は同じですよね、住居が同じであれば。そして、所謂 Ua値 (外皮平均熱貫流率) も同じとします。となると、伝熱量計算式 Q = Ua × ΔT × A から Q ∝ ΔT となります。で、夏場と冬場の温度差を比較すると 冬場の温度差の方が大きいですね。もうちょっと言うと、地域区分や断熱性能の等級から Ua値はこれくらいってのは決まってるんですね。まあ、それに合致するように窓ガラスや外壁の仕様を決めて施工するんですね。例えば、窓ガラスであればペアグラスを採用するとか、サッシ枠を樹脂製にするとか。で、窓ガラスとか壁の面積(入熱・放熱面積) も分かりますね、実際に測ってみれば良いですね。そうすると、夏場の入熱量と冬場の放熱量が推定出来ます。そして、冬場の放熱量を基準にしてエアコン定格能力を選定すれば良いですね。まあ、そこまでしなくてもザックリと住居の種類と床面積とかで選定は出来ますけども。

とまあそんな感じで、電気代の多い少ないって言うのも住居における伝熱現象に影響されているって事なんですね。なので、ここいらの事を知っておくのも有用かなと思いますね。

参考書籍・文献  References

  1. 「くらしの中の化学工学 家庭内のマテリアルバランスとヒートバランス」
      化学工学会誌 第43巻 第8号 1979年






コメント