今回はクエット流れ Couette Flow について取り上げます。流体力学に関する書籍では必ず記載されています。例えば、日本機械学会の機械工学辞典には以下のように記載されています。
「平行壁面間の層流の流れで,下の壁面が静止,上の壁面が一定速度Uで移動している場合の流れをいう.速度分布はu/U=y/h,流れ方向に圧力こう配がなく,せん断応力τ=μ(du/dy)はいたるところ一定である.粘性流体の運動方程式から得られる最も単純な厳密解の一例」
上記の説明を図にしてみると以下のとおりですね。上下に平板が有って、その間隙には流体が挟まれています。で、下側の平板は動きませんが 上側の平板は長手方向にスーッと動いているとします。そうすると、平板間の流体には下図のような直線状の速度分布が生じます。これがクエット流れと呼ばれるものとなります。
このクエット流れですが、提唱したのはフランスの物理学者 モーリス - マリ- - アルフレッド - クエット Maurice Marie Alfred Couette 氏ですね。生年は 1858年、没年は 1943年との事です。そして、このクエット流れですが実用化されている例としては回転式粘度計とかでしょうかね。
クエット流れ Couette Flow
✔ ナビエ・ストークス方程式 Navier - Stokes Equations
流れについて考える時、基本となるのが 連続の式とこの ナビエ・ストークス方程式となります。まあ、流体力学関連の書籍には絶対に記載されていますね。で、この式を解く事が出来れば、どんな流れになっているかが分かるとなります。で、直交座標系において x軸方向の速度成分 u についてのみ示すと下図のとおりです。また、円筒座標系についても併せて示しています。で、式②が ナビエ・ストークス方程式の x軸成分 u について表したものです。式②を見ると左辺には非定常項と対流項(慣性力) が含まれており、右辺には 圧力勾配による作用する力、流体内部の摩擦力を表す粘性項 及び 流体に作用する外力項が含まれています。パッと見て複雑ですよね、偏微分方程式ですし。なので、よほど簡単な流れとかで無ければ解析解は得られない事になります。
✔ クエット流れ Couette Flow
そして、クエット流れですが 上記のナビエ・ストークス方程式はすご~く簡単になるんですね。定常状態であれば非定常項はゼロとなり、流れは x方向にしか流れませんし、重力などの外力も無視するものとします。直交座標系と円筒座標系については下図のとおりです。どちらも解析解が有るんですね。で、直交座標系についてはナビエ・ストークス方程式は式⑤に簡略化されるんですが、左辺には圧力勾配 dp/dx が含まれています。これは圧力差によって流体が流動するって事を表しているんですね。この項が ゼロ であれば、圧力勾配は無いので 流体の流動は 移動平板によって引きずられる流れのみが発生するとなります。
計算例 Examples
✔ 直交座標系 クエット流れ Couette Flow in Cartesian coordinate system
ギャップ距離 10[mm] の平板間に 常温の水が充填されており、上の平板を 0.1 [m/s] で動かすとします。また、流体には適宜 圧力勾配を与えるものとします。で、計算してみた結果が下図となります。圧力勾配が無いと速度分布は当然ですが直線となります。上の板表面では 0.1 [m/s] で下の板表面では ゼロ ですね。で、圧力勾配を与えると速度分布は曲線になるのが分かります。上流側の圧力が高くて下流側の圧力が低い場合、この圧力勾配による流れが、板の移動により発生する引きずり流れに重ね合わされ、その結果として速度分布が曲線になるんですね。で、面白いのが下流側圧力が上流側圧力よりも高い場合、流体は下流から上流へと流れます。そうすると、速度値がマイナスとなる部分、即ち逆流部分が発生するんですね。
また、下図下段グラフは固定されている下側の板表面におけるせん断力の変化を計算したものです。圧力勾配を変えてみると、壁面せん断力の変化は直線的なんですね。
また、下図下段グラフは固定されている下側の板表面におけるせん断力の変化を計算したものです。圧力勾配を変えてみると、壁面せん断力の変化は直線的なんですね。
✔ 円筒座標系クエット流れ Couette Flow in Cylindrical coordinate system
次に円筒座標系クエット流れについて計算してみた結果が下図となります。上段グラフが速度分布となりますが、円筒座標系だと直線にはなりませんね。下段グラフは回転数に対してトルク値をプロットしています。この結果は液粘度を 70 [m Pa s] とした場合ですが、逆に言うとトルクを実測すれば、液粘度を決定する事が出来ますね。それを利用しているのが回転式粘度計となります。
✔ 熱伝導を伴うクエット流れ Couette flow with Heat Conduction
せっかくなので、熱伝導を伴うクエット流れについても計算してみました。平板間のクエット流れにおいて、上の板表面を 50[℃] 一定とし下の板表面には 20[℃] 一定と言う条件を付与しています。
この結果の面白いところは、流体が流動する事による粘性散逸によって熱が発生する点ですね。流体粘度が低いとか、平板移動速度が小さいのであればそこまで発生熱量は大きくは無いですが、それなりに粘度を大きくしてみると温度分布がグイ~っと曲がります。下図の場合、ギャップ 3[mm] において平板を 1[m/s] で動かします。で、流体粘度が 100 [Pa s] にもなると温度分布は明らかに曲線となり、更にピーク温度を持つことが分かります。このピーク温度ですが、上下平板温度よりも高いですよね。と言う事は、熱は流体から平板に向かってそれぞれ反対方向に移動するとなります。そして、熱流束 q[W/m2] をy方向の各位置で計算してみると下図下段グラフのようになりますが、y方向の位置 2[mm] 付近で熱流束はゼロとなっている事が分かります。熱的に平衡な点となりますね。んで、それよりも上側では上向きの熱流となり、下側では下向きの熱流となります。なかなか面白いです。
この結果の面白いところは、流体が流動する事による粘性散逸によって熱が発生する点ですね。流体粘度が低いとか、平板移動速度が小さいのであればそこまで発生熱量は大きくは無いですが、それなりに粘度を大きくしてみると温度分布がグイ~っと曲がります。下図の場合、ギャップ 3[mm] において平板を 1[m/s] で動かします。で、流体粘度が 100 [Pa s] にもなると温度分布は明らかに曲線となり、更にピーク温度を持つことが分かります。このピーク温度ですが、上下平板温度よりも高いですよね。と言う事は、熱は流体から平板に向かってそれぞれ反対方向に移動するとなります。そして、熱流束 q[W/m2] をy方向の各位置で計算してみると下図下段グラフのようになりますが、y方向の位置 2[mm] 付近で熱流束はゼロとなっている事が分かります。熱的に平衡な点となりますね。んで、それよりも上側では上向きの熱流となり、下側では下向きの熱流となります。なかなか面白いです。
まとめ Wrap - Up
今回はクエット流れについて取り上げてギャップにおける速度分布などを計算してみました。複雑なナビエ・ストークス方程式もクエット流れのような単純な流れ場においては簡略化されて解析解が得られますね。で、このクエット流れですがそうそう出くわす場面は無いですが、単純で基本となるので知っておいて損は無いのかな~と思いますね。
実務ではクエット流れそのものが問題になるって事は有りませんでしたね。ただ、基本となる流れなので応用が効きますよね。例えば、撹拌分野では ダブルヘリカルリボンやアンカーなどの狭クリアランス タイプのインペラにおいて クリアランス部におけるせん断速度がどれくらいなのか? を知りたい場合、クエット流れと仮定して計算出来ますね。具体的には、インペラ先端の周速度 [m/sec] をクリアランス距離 [m] で割り算すれば、[m/sec] ÷ [m] = [1/sec] となりますね。勿論、それは最大値であっていつもそのせん断速度が加わっている訳では無いんですけども。また、軸受とかでも 同じような流れ場が形成されているのかな~と思います、詳しくは分かりませんけども。
参考書籍・文献 References
- 「基礎式から学ぶ化学工学」 化学同人 2017年刊
- 「流体力学 II」 日刊工業新聞社 1986年刊
- 「演習 水力学」 森北出版 1981年刊
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