今回は二重管式熱交換器 Duplex Tube Heat Exchanger について取り上げてみます。Double Tube Heat Exchanger とも言いますが、その名前のとおり 太い管の中に細い管を通してある、単純で基本的な熱交換器と言えますね。細い管は内部にあるので内管 Inner Tube となりますし、太い管は外部にあるので外管 Outer Tube とか言いますね。で、外管は輪っかになっているので 環状流路 Annular Flow Channel とか言ったりもしますね。
管と言っても、普通の配管を使えば良いので楽ちんですね。まあ、伝熱面積がそれなりに大きくなるような場合には素直に多管式熱交換器を採用しますし。あくまでも、ちょっと温めたいとか冷やしたい場合に簡単に製作出来て、簡単に設置出来るってのが重要なんですね。二重管なんで モロにジャケット配管的な外観ではありますが、配管と違うのは 積み重ねて設置している点でしょうか。ラック Rack の上に積み重ねてあって モジュール Module みたいになってますね。そして、二重管の両端には ヘアピン部 Hair - Pin がありますね。まあ、下図を見れば分かりますね。往復している二重管部分を1モジュールとして、これをどんどん積んでいけば伝熱面積を増やせますね。
実務でも何回か検討したように記憶しています。まあ、実際に製作はしなかったと思いますけど・・・。現場でもそれっぽいものを見掛けた事が有りますね。とまあ、そんな感じで二重管式熱交換器の計算をやってみます。
設計手順・計算式 Design Procedure & Equations
参考書籍は 月刊雑誌 「化学装置」に連載されている 「プラントエンジニアリングメモ」となります。加えて、「熱交換器設計ハンドブック」を参考にしました。
✔ 設計条件 Design Condition
設計する前に、温液 Hot Liquid と冷液 Cold Liquid の流量とか温度と言った条件を明確にしておく必要がありますね。それと、内管・外管の仕様、更には液物性と材質の物性なども必要となります。下図のとおりです。温冷液 それぞれの入口・出口では液物性が全て与えられているとします。んで、液物性の温度依存性については 入口温度と出口温度を使って直線補間します。
✔ 設計手順 Design Procedure
で、ドカ~んと計算式が出てくるんですが、その前に設計手順を整理しておきます。
- 伝熱量 Q
温液側 重量流量、 入口・出口温度 及び 比熱が分かっているので伝熱量が計算出来ます。同様に冷液側でも計算出来ますが、伝熱量が異なる場合にはどっちかの流量を調節しますね。 - 対数平均温度差 ΔT
温液・冷液 入口・出口温度が与えられているので 対数平均温度差が計算されます。今回は、完全向流流れの熱交換器なので 温度差補正係数 Ft は 1 となります。つまりは、補正は必要無いって事になります。 - バルク温度 Tb、tb
このバルク温度は 、温液・冷液において その液を代表する温度となります。当然ですが、熱交換器の入口から出口に向かって液体温度は変化します。温液であれば温度は下がって行きますが、その温度プロフィルは 距離であるとか熱負荷によって変化します。その辺りを考慮して バルク温度を決定すると言う事になります。まあ、簡略化するのであれば 入口・出口温度の平均値とすれば良いんですけども。 - 管壁温度 Tw、tw
バルク温度は液温度ですが、こちらは管材質の温度となります。何故、この温度が必要になるかと言うと 熱伝達係数の計算において 粘度補正を行う為ですね。バルク温度と管壁温度との差がそれほど大きくなければ無視しても良いかと思いますが、大きい場合には補正が必要となります。 - 内管側熱伝達係数 hio
内管の内側表面における熱伝達係数を計算します。参考書籍では 熱伝達における J-ファクターで計算していますね。それと、レイノルズ数は乱流域となるように内管サイズを決定しますね。まあ、層流でも良いですが 熱伝達係数が距離によって変化したりするので何かと面倒ですね。 - 外管側熱伝達係数 ho
外管の内側表面における熱伝達係数を計算します。こちらも J-ファクターを使って計算します。こちらも レイノルズ数は乱流域となるようにしますね。それと、環状流路なので 相当直径 De を計算して、その値を使います。 - 総括伝熱係数 U
内管・外管 熱伝達係数値、管壁厚さ、管材質 熱伝導率、汚れ係数を使って 総括伝熱係数 U を計算します。 - 伝熱面積 A
伝熱量 、総括伝熱係数 及び 対数平均温度差から 必要な伝熱面積 A が得られます。 - 伝熱管長 L
伝熱面積と内管外径 d2 を用いて 伝熱管の長さを計算します。 - 単位直管長 Ls
管長は得られましたが、ドカ~と長い 1本の伝熱管にはしないですよね。なので、何本かに分けますが、普通は全部同じ長さにします。例えば、2 [m] とかでしょうか。どんなに長くしても 5[m] が限界かと思います。管の自重と液の重さで撓みますよね。サポートを設置して支持するって方法も有りますが、やはり面倒です。 - ヘアピン数 Nh
伝熱管長 L と 単位直管長 Ls からヘアピン数が得られます。 - 内管 圧力損失 ΔPi
ヘアピン部も相当長さも考慮して内管側の圧力損失を計算します。 - 外管 圧力損失 ΔPo
外管側の圧力損失を計算しますが、環状流路なので相当直径を求めます。ですが、前述の外管側 熱伝達係数を計算する際に使った相当直径の値とは異なります。こちらの場合は、伝熱が関与しないので浸辺長さ Perimeter の取り方が違う為です。
✔ 計算式 Calculation Equations
んで、残りの部分は以下のとおりです。やはり、熱交換器の設計計算は項目が多いので面倒くさいですね。 EXCEL が有るから出来るんですね~。
で、まだ終わりでは無くて 圧力損失の計算式が有ります・・・。内管も外管もレイノルズ数で摩擦係数の式が違います。まあ、層流になってしまった場合には そちらを使いますね。式㊵は 環状流路の相当直径ですが、伝熱における相当直径を求める 式⑳ とは違いますね。
計算例 Examples
✔ 計算条件 Conditions
で、やっとですが計算してみます。まずは 計算条件ですが下図のとおりです。高温側流体は油ですが 80 [℃] を50 [℃] まで冷やします。一方、低温側流体ですが 水ですね。供給は 30 [℃] で戻りは 35 [℃] となります。クーリングタワーから来た 30 [℃]の 冷却水を 35 [℃] で戻す感じですね。油の流量は 100 [kg/hr] なのでそこまで大きくは無いですね。
そして、内管と外管の仕様は下図のように予め決めています。内管は 1インチで外管 2インチ となります。まあ、それなりのサイズでは有りますが そこまで大きい訳では無いですね。
✔ 熱交換器 仕様 Heat Exchanger Spec.
一連の計算をしてみると仕様が得られます。バルク温度を求めたりする必要が有るんで面倒くさいですが、反復計算とかは無いのでその点は楽ちんですね。んで、結果をまとめると以下のとおりです。必要な伝熱面積 0.798 [m2] を確保する為の伝熱管長は 7.59 [m] となりますが、伝熱管単位長さを 2 [m] とするとヘアピン数は 1.9 [ - ] となります。まあ、切り上げて 2 [ - ] となりますね。
- 伝熱量 1.875 [kW]
- 総括伝熱係数 76.2 [W/m2 K]
- 対数平均温度差 30.8 [℃]
- 伝熱面積 0.798 [m2]
- 伝熱管長 7.59 [m]
- 伝熱管単位長 2.00 [m]
- ヘアピン数 1.9 [ - ]
- 内管 圧力損失 24.8 [Pa]
- 外管 圧力損失 45.8 [Pa]
✔ バルク温度 Bulk Temp.
この計算ではバルク温度なるものを計算しますけど、これは前述のとおり温液と冷液を代表する温度となります。勿論、入口温度と出口温度のどこかに有りますね。で、下図には前述の計算で得られたバルク温度をプロットしています。ここで気になるのが 単純に計算した温度とどれくらい違うのか?ですよね。なので、算術平均と対数平均で計算してみた結果を比較してみたのが下図の下段グラフとなります。
- 温液 バルク温度 63.0 [℃]
- 温液 算術平均温度 65.0 [℃]
- 温液 対数平均温度 63.8 [℃]
- 冷液 バルク温度 32.2 [℃]
- 冷液 算術平均温度 32.5 [℃]
- 冷液 対数平均温度 32.4 [℃]
この結果をみると冷液ではほとんど差異が無いですし、温液でも対数平均温度であれば大きな差異は無いですね。なんで、簡便に計算するのであればバルク温度の計算は必須って訳でも無いのかな~と思いますね。勿論、温度によって物性が急激に異なるような場合とか、入口・出口の温度差が大きな場合などではきちんと計算する必要があるのかなとは思いますけど。
まとめ Wrap - Up
今回は二重管式熱交換器の仕様について計算してみました。実務でも計算してみた経験は有りますけど、今回のようにきちんと計算した事は無いですね。さすがに 総括伝熱係数は計算してましたけど、本当にザックリと計算するのであれば U値は 100 [W/m2 K] にして伝熱面積を計算するとかでしょうか。んでも、二重管式熱交換器は設置するのも簡単でお値段も高くは無いですので、少し温めたいとか冷やしたいって場合には良いですね。
んで、例えば 内管側の液が比較的粘度が高くて 熱伝達係数がそれほど大きくとれないって場合には、スタティックミキサーのような静的混合装置を設置したりしますけど、そんな検討もしましたね。スタティックミキサーは出来合いのものが有りますけど、それなりにお値段がするので捻った平板 Twisted Tape を突っ込んだりするって手も有りますね。
それと、二重管式熱交換器はものすごく基本的な熱交換器なんでいろいろと計算してみると面白いですね。そして、やはり作図してこれくらいの大きさなんだな~って事を実感するのが重要なんだと個人的には思いますね。更にそれが現実の装置として製作され設置されると、「あ~こんな感じなんだな~」ってのが分かりますよね。
参考文献・書籍 References
- 「プラントエンジニアリングメモ 第136回」 化学装置 2019年 4月号
- 「熱交換器設計ハンドブック 第15章 二重管式熱交換器の設計法」
工学図書株式会社 1974年刊
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