化工計算ツール No.132 遠心分離 Centrifugation

 今回は遠心分離 Centrifugation について取り上げます。参考書籍によれば以下のように有りますね。

「重力の代わりに遠心力を利用して、重力よりはるかに大きな力で効果的に行う沈降、ろ過あるいは脱水をそれぞれ遠心沈降、遠心ろ過および遠心脱水と呼び、これらを総称して遠心分離という。遠心力は重力と異なり、人為的に変更でき かつ重力よりはるかに大きくできる。その結果、重力場におけるよりもきわめて短い時間で分離を完了する」

で、概略的な構造は下図のとおりです。遠心沈降 Centrifugal Sedimentation であれば グルグル回転して遠心力が加わる部分に孔や開口部といってものは有りません。一方、遠心ろ過 Centrifugal filtration や遠心脱水 Centrifugal Dehydration であれば孔やスクリーンなどの開口部があって、そこから水とか液が排出されます。欲しいのは分離された固体な訳ですが、ものすごいスピードで回転している装置から連続的に固体を排出するのは結構大変ですね。下図のようなバスケット式であれば バッチ方式となり、一方 デカンタ式であれば連続式とする事が出来ますね。




実務においても微粒子生産プラントの技術検討を実施した際に、少しだけ調査したり仕様の検討をした事が有りますね。反応器から移送された微粒子を含むスラリーを遠心ろ過機に装入して、微粒子を水洗浄したりろ過・脱水した後に湿潤状態の微粒子を排出するって感じでした。その後は乾燥機で乾燥して製品にしますね。遠心ろ過機自体は大きな装置では有りませんでしたが、この手の装置は凝った造りになっていて図面を見てるのも面白かったですね~。結局、その案件はモノにはなりませんでしたけども・・・。この手の装置は専門のベンダーさんに丸投げするのが普通なんでしょうけど、処理量に対して装置の大きさがどれくらいになるのか?をザックリとでも検証しておくのは重要ですね。その辺りの計算を少ししてみようかなと。



遠心沈降   Centrifugal Sedimentation


✔ 遠心沈降装置の分類 Classification of Centrifugal Sedimentation equipment


今回は遠心沈降について主に取り上げてみます。参考書籍には以下の様に装置が分類されています。回分式であれば バスケット型や分離板型が採用可能ですね。連続式であればスクリューデカンタ型になるかと。回分の分離板型は比較的薄いスラリーについて より小さい粒子まで分離可能ですね。処理量は小さいものから大きなものまで対応可能のようです。一方、連続のスクリューデカンタ型では細かい粒子は分離出来ませんけども、給液濃度が高くても対応可能なのでそこが強みでしょうか。

  • 回分式    Batch
    バスケット型 Basket  縦型 or 横型
    円筒型              Tubular
    分離板型          Disc Stack 

    分離板型 仕様
    給液濃度  ~ 10 [%]
    分離粒子径 0.3 ~ 1.0 [μm] 前後
    最小比重差 0.01 ~ 0.02 [ - ]
    処理量   120 ~ 7,000 [L/hr]  
    遠心効果  4,000 ~ 15,000 [G]

  • 連続式              Continuous 
    デカンタ型 Decanter   スクリューデカンタ型
    分離板型  Disc Stack        ノズル排出型、弁排出型

    スクリューデカンタ 仕様
    給液濃度  3 ~ 30 [%]
    分離粒子径 1.0 ~ 10 [μm]
    最小比重差 0.05 程度 [ - ]
    処理量   1,500 ~ 9,000 [L/hr]
    遠心効果  250 ~ 3,000 [G]


✔ 遠心効果  Centrifugal Effect


で、前述の遠心沈降装置の仕様を見ると 遠心効果 ってのが有りますが、これは 遠心力が重力の何倍の大きさなのかを表す指標です。飛行機とか自動車に乗っている際に「最大で 5 ジー の力が加わる!」とか言われたりしますが、これは重力の 5倍の力が加わる事になります。なので、体重が 5倍になりますね。そして、遠心沈降装置では 遠心効果が 15,000 [G] とかになりますんで、実に重力の 15,000 倍の遠心力が加わる事になります。なので、比重差が 0.01 と小さくても分離可能なんですね。

で、その重力効果ですが 式②で計算されます。回転している物体に働く遠心力と重力との比率になっています。分母は重力加速度で、分子は回転半径と角速度との積となります。角速度 ω は少し扱いにくいので回転数 N を使って計算する事も出来ます。で、式①は重力場の層流域における終末沈降速度なので、両式を組み合わせると式③となり これが遠心力場における終末沈降速度式となります。 



✔ 遠心沈降面積  Centrifugal Sedimentation Area


参考書籍には遠心沈降装置の設計における基本的な考え方が記載されています。下図にしめす単純な円筒型沈降装置ですが、軸の回りを高速で回転しています。で、ここに粒子を含んだスラリーを給液量 Q [m3/s]で供給します。円筒内部には液層が形成されて、かつ平均流速 u [m/s] で上方(円筒出口)に向かって流れていきます。粒子に着目すると円筒内壁に向かって遠心力場における終末沈降速度 uc [m/s] でジワ~っと移動していきます。そして、液の平均滞留時間内に円筒内壁に到達した粒子は分離された、となりますね。粒子が分離された清澄液は円筒出口から排出されます。と、この辺りの関係が 式④となります。液層に流入した粒子が円筒内壁に到達する時間は 液層幅÷沈降速度 (H/uc) で得られます。また、平均滞留時間は 円筒内液長 ÷ 平均流速 (L/u) で得られます。到達時間が平均滞留時間より長い粒子は、円筒内壁に到達しないので液と一緒に外部に排出されます。一方、到達時間の短い粒子は すぐに円筒内壁に到達するので分離されるって事になります。

次に式④を変形して式⑤にします。この式中には (Z Ve / H) と言う項が含まれますが、これは面積の次元を持つので 遠心沈降面積 A とします。で、面白いのは この A は装置の形状や回転数などで変化するんですね。沈降面積が装置形状や寸法で変わるのは まあ良いとして、回転数によっても変わるんですね。遠心分離機をガンガン回転させればさせるほど沈降面積は増加する事になります。単なる 重力場の沈降面積よりも大きく増加するんですね。そして、式⑤を見ると 給液量 (処理量)は 重力場 終末沈降速度 ug と沈降面積 A との積となっています。なので、同じ遠心分離機で回転数を増やすと処理量を稼げるって事にもなるのかなと。

そして、この遠心沈降面積は遠心分離機のタイプによって異なり、円筒型であれば式⑥で計算されます。また、分離板型 (デラバル型とも呼ばれます) については式⑦で、スクリューデカンタ型では式⑧で計算されます。

もう一つ大事なパラメータが有って 式⑤には補正係数 η が含まれていますが、理想的な分離性能と実装置における分離性能との差を補正する為に導入されています。それぞれの遠心分離機において運転条件を変えて実測する必要が有るとされています。
 



計算例  Examples


✔ 遠心効果  Centrifugal Effect

まずは遠心効果について計算してみます。ネットで遠心分離機 仕様を調べてみると小さいのから大きいのまで様々有りますね。で、回転数も 1000 [rpm] 以上は回しています。で、遠心効果 G の値は下図のようになります。

あるメーカーさんのバスケット型遠心分離機の仕様は、バスケット内径 914 [mm] × 深さ 380 [mm] で、回転数 1600 [rpm] で運転すると 遠心効果 1230 G と記載されていますが、式②で計算すると 1390 G となり まあほぼ同じかなと。



✔ 遠心力場における終末沈降速度  Terminal Sedimentation Velocity under Centrifugal Field


遠心効果については前述のとおりですが、実際に終末沈降速度がどの程度大きくなるかを知りたいですよね。結果は下図のとおりですが、重力終末沈降速度に重力効果の値を掛け算したものが遠心力場の終末沈降速度となります。さすがに遠心力が無いと全然沈降しませんね。一方、1500 [rpm] で回転させると 重力効果は 629 G となり、沈降速度は 629倍に増加します。全然違いますよね。

  • 粒子径            1[μm]
  • 密度差           200 [kg/m3]
  • 遠心分離機 内径      500 [mm]
  • 重力場  終末沈降速度 0.1089 [μm/s]
  • 遠心力場 終末沈降速度      68.5 [μm/s] @ 1500 [rpm]
  • 遠心効果          629 G



✔ 遠心沈降面積  Centrifugal Sedimentation Area


せっかくなので遠心沈降面積と給液量について計算してみます。円筒型遠心分離機となりますが、開発した企業名である シャープレス型と呼ばれるのが一般的なようです。内径は結構細いんですね、そしてそれなりに長いです。で、小さいので回転数 10,000 [rpm] くらいでガンガン回します。それなりに小さい粒子も分離出来るんですね。ただし、連続的に排出するのは難しいのでバッチ式運転となります。なので、濃い粒子濃度だとすぐに満タンになるので、あくまでも希薄液向けとなりますね。

計算結果は下図のとおりですが、回転数 10,000 [rpm] だと沈降面積は 332 [m2] となり、給液量は 130 [L/hr] となりました。これくらいの流量を供給すると 粒子径 1 [μm] の粒子は分離出来るって事になりますね。で、もう少しくらい処理できるだろうと考えて 150 [L/hr] とかにすると液の平均滞留時間が不足して、沈降しきれずに出口液に粒子が混入する事になります。それと、勿論ですが 0.1 [μm] などの微細粒子は分離されませんね。一方、10 [μm] などの大きな粒子は分離されて装置内に溜まります。

それと、この計算は補正係数を 1.0 としているものなので、あくまでも理想的な性能ですね。参考書籍では 円筒型では 0.9 とか書いてますが、実際のところどどれくらいなのかは不明ですね。


まとめ  Wrap-Up

今回は遠心分離について取り上げてみました。いくつか計算してみましたが、改めて見てみると 遠心力ってのは効果が有りますね~。ただ、高速回転機器になるのですごく大きな処理量に対応するのはやはり難しいですよね。もっと大量の処理量が必要となるのであれば、別の装置の適用を考えたほうが良いと思いますね。

ネットでいろいろと調べてみましたが、円筒型についてはシャープレス型と呼ぶのが一般的なようです。同様に、分散板型については デラバル型とか。書籍によっては ドラバル型とか書いてますが、開発者の名前が グスタフ・デラバルさんなんだそうです。このデラバル型については今回は計算はしてませんけど、凝った造りになってますよね。このタイプの遠心分離機を製造販売している企業もそれなりに有りますし、連続的にスラッジを排出出来るようなタイプも有るんですね。また、スクリューデカンタですが これまた複雑な造りになってますよね。まあ、そんな訳でこの手の装置についてはスラリーの種類とか処理量を提出して、機種選定をして貰うってのが一般的かな~と思います。勿論、同じタイプの小型装置で何回も試験して 何とか使えそうだとなれば、メーカーさんに量産機を設計して貰うって段取りになるのかなと。

冒頭でも触れましたが、実務で検討したのは ポリマー微粒子でした。 水にモノマーを分散させて反応させる系だったかなと。出来た微粒子は遠心ろ過機で水分を脱水した後に乾燥します。韓国メーカーのろ過機でしたが、確か横型だったかな~と。装置内にケークが堆積してきますけど、連続的に取り出せるようになってた様に記憶しています。うまい具合にやるもんだな~と思って図面とかを見てましたね。


参考書籍・文献  References


  1. 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊
  2. 「図解 粉体機器・装置の基礎」 工業調査会 2005年刊
  3. 「入門 粒子・粉体工学」 日刊工業新聞社 2002年刊
  4. 「化学工学 II」 岩波書店 1963年刊


web site


  1. 「巴工業株式会社 遠心分離機とは」
       https://www.tomo-e.co.jp/machinery/centrifuge/
  2. 「関西遠心分離機製作所 製品情報」
       https://kansaienshin.co.jp/products/




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