今回は実在気体の管内流動について取り上げます。実在気体なので粘性を有していますが、その気体が配管内を流動する際の圧力損失を計算してみます。で、気体の圧力損失計算において何が問題かと言うと、「圧縮性」Compressibility を有している点となります。仮に温度一定としても 圧力が変化すれば気体の体積は大きく変化します。一方、液体の場合 圧力が変化しても そこまで大きく体積が変化する事は無いです。なので、普通は 「非圧縮性」流体として取り扱う事が出来ます。例えば、水とか油を配管で移送する場合 配管内径と体積流量に加えて 粘度、密度値が分かればファニングの式を使ってエイッと圧力損失が求められます。
なんですが、気体の場合は少し状況が違います。入口の圧力と平均流速が与えられるとして、配管内を気体が流れていくと 粘性によって圧力損失が発生します。そうすると、気体の圧力は低下しますが その結果として気体体積が膨張して増加します。つまり、流量が増加するので流速も増加する事になり 圧力損失も増加します。となると、更に気体圧力が低下して更に気体体積も増加する、と言う事が繰り返されます。結果的に、気体圧力は急激に増加しますし、流速は急激に増加します。まあ、状況として好ましくは無いですよね。
実在気体の管内流動 - 圧力損失 - Pipe Flow of Real Gas - Pressure Drop -
✓ ベルヌイの式 微分形 Bernoulli Equation - differential form -
実在気体は粘性を有しており それによって摩擦が発生します。その際に熱が発生しますが、気体中に散逸していくので これが摩擦損失となります。この点を考慮する為、ベルヌイの式の微分形 に摩擦損失を加えた エネルギー収支式に等温変化と断熱変化の条件を与えて積分すると参考書籍には有ります。ベルヌイの式の微分形は下図の式①となります。微分形なんで 微分項が含まれています。このベルヌイの式の微分形ですが、オイラーの式 Euler Equation とも呼ばれます。で、これを積分すれば欲しい式が得られる事になります。式中の (N) は式②で表わされますが、これが摩擦損失項となります。式②に含まれる Ka ですが継ぎ手とかバルブ類の損失係数となります。
✓ 等温流れ Isothermal Flow
前述の式①を積分する訳ですが、管内流動における気体の温度変化について場合分けをする必要があります。一つは 「等温変化」であり気体の温度が変化しない場合です。例えば、保温の無い配管が温度変化の少ない大気中や地中に設置されていれば 等温変化に該当するとされています。で、参考書籍には導出過程も記載されていますが 少々長いので 最終的な結果のみを示します。
✓ 断熱流れ Adiabatic Flow
もう一つが「断熱変化」となりますが、 管内の気体が外部と熱移動を全く起こさない流れとなります。保温を完全に施行した短い配管内の流れや、粘性による摩擦熱が無視できるような低速度の流れなどが該当するとされています。式⑥・⑦が計算式となりますが、比熱比 r が含まれています。また、式⑧ですが 管内温度比を求める式となります。
計算例 Examples
✓ 計算条件 conditions
参考書籍に記載されている例に基づいて計算してみますが、配管長をどんどん長くしてみます。配管長以外の条件は以下のとおりです。配管は 呼び径 4B で スケジュール 40 で内径 102.3 [mm] との事なので JIS の配管用ステンレス鋼管でしょうか。断面の大きさは缶ジュースくらいですね。
- 気体 空気
- 気体分子量 29 [g/mol]
- 粘度 18.2 [μ Pa s]
- 入口圧力 600 [kPa]
- 配管内径 102.3 [mm] 4B - Sch40
- 質量流量 1 [kg/s]
- 継ぎ手 90 ° エルボ × 4個 Ka = 0.75
- 弁 仕切弁 × 2個 Ka = 0.17
✓ 配管長の影響 Influence of Pipe Length
下図が計算結果となりますが、配管をどんどん長くすると まあ 500 [m] くらいまでは出口圧力は直線的に減少しています。ですが、それ以降は減少割合が増えているのが分かります。一方、出口流速は1500 [m] くらいから急激に増加します。グラフ中のオレンジ色の破線ですが、気体の密度変化とかを一切考慮せずに 単純にファニングの式で圧力損失を計算して出口圧力を求めた結果です。さすがに、1500 [m] ともなると差異が大きいですね。なんですが、まあ 数百メートルくらいまでであれば、普通にファニングの式で計算しても問題無いのかな~とも言えますね。下図 下段グラフは 圧力損失 = 入口圧力 - 出口圧力 としてプロットした結果です。配管が長くなるほど、気体の圧縮性の影響が大きくなってますね。
で、気体密度の変化と体積流量の変化は下図のとおりです。冒頭で触れたように、気体が配管内を流動していく間に圧力損失によって気体圧力が低下します。そうすると、その圧力低下分だけ気体体積は膨張します。結果、気体体積流量は増加します。となると、更に圧力損失も増加してってのが繰り返されて下図のような結果になるんですね。う~ん、面倒くさいです。
それと計算方法について補足しておくと、一連の計算では式⑤を用いています。式⑤の左辺は条件として与えられているので、代入すれば 値が得られます。右辺ですが、入口温度・入口圧力・入口密度は分かっており、不明なのは出口圧力のみとなります。なので、やり方としては 適当な 出口圧力を仮定して、左辺値 = 右辺値 となるように試行錯誤法で計算すれば良いですね。まあ、実際には EXCEL のソルバー機能を使いましたけど。で、この時、右辺第一項の分子ですが "1" となっています。なんですが、実際には ここに気体分子量を掛け算します。今回の場合だと空気分子量は 29 [kg/kmol] なので、1 × 29 = 29 とします。式⑤中のガス定数 R の単位は [J/kg K] となっていますが、本来のガス定数の単位は [J/kmol K] なので 補正する為に 分子量が必要になるのかなと。
まとめ Wrap-Up
今回は実在気体の管内流動を取り上げて、空気の「等温流れ」における配管出口圧力、流量などを計算してみました。もう一つ、「断熱流れ」も有りますが省略します・・・。やれば出来そうですけど、配管の各位置で温度が変わってきますよね。そうすると何が面倒臭いかと言うと、気体粘度が変わります。等温流れにおいては配管内の気体温度は一定なんで、粘度も一定として取り扱えます。ここで、「気体圧力の粘度への影響は無いのか?」と思いますが、実際 影響は無いと思います。まあ、さすがにものすごく低圧と言うか真空に近い状態であれば影響が有るかと思いますけど。また、余談ですが高圧気体においては粘度に影響が有るようです。
まあ、計算しておいて言うのもアレですけど ものすご~く長いパイプラインとかで無ければ、普通にファニングの式で計算しても良いのかなと。と、別の参考書籍を当たってみると、圧力損失 Δp の大きさによって使い分けると有ります。
- 圧力損失 Δp が入口圧力 p1 の10%未満
入口または出口の密度を使う - 圧力損失 Δp が入口圧力 p1 の10%より大きく 40%未満
入口・出口の平均密度を使う、若しくは理論式、経験式を使う - 圧力損失 Δp が入口圧力 p1 の40% より大きい
理論式、経験式を使う
まあ、長い配管であれば今回のようにちゃんと計算すれば良いですね。EXCEL を使えば、そこまで手間では無いので。どうしても、ファニングの式だけで計算したい!と言うのであれば、圧力損失が許容範囲内に収まるような配管長に分割して計算すれば良いですね。ただし、各区間出口の圧力値から気体密度とか流速を計算し、それを使って次の区間の入口条件とする必要が有ります。まあ、それはそれで手間ですね。
参考書籍・文献 References
- 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年刊
- 「技術資料 管路・ダクトの流体抵抗 DVD-ROM版」 日本機械学会 2017年刊
- 「配管技術100のポイント」 日刊工業新聞社 2016年刊
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