身のまわりの化学工学 No.25 ホースをつまむと水が遠くへ飛ぶ理由 Why pinching a hose makes the water fly farther.

 今回の「身のまわりの化学工学」シリーズですが、ホースをつまむと水が遠くへ飛ぶ理由について取り上げてみます。花壇などにホースで水をまく事は誰でもやった事があるかと思います。で、水をもっと遠くまで飛ばしたい場合、まずするのは水道の蛇口をもっと開けて水量を増やしますね。また、簡単にやろうとすれば ホースの先端をギューッとつまみますね。そうするとより遠くまで飛んでいきます。ホースによっては先端にノズルが付いていて、シャワーとかジェットとかを選べるようになっていたりしますね。これもホースの先端をギューッとつまんでいるのと同じ事ですね。

で、その理由ですが まあ普通は「ホースをつまんだ事で流路断面積が減少し、流速が上がった」と考えます。なんですが、体積流量が絶対に一定という条件であれば それも納得です。なんですが、先端をつまむと言う事は水を出にくくしている筈なのに、水が勢いよく出るようになる、ってのは少し解せませんね。例えば、水道の蛇口を全開の状態からだんだんと閉めていくと単純に流量(流速) が減っていくだけで、少し蛇口を閉めたからと言って勢いよく水が出るようにはなりませんよね。と言う事が参考文献には書いてあります。

ホースの先端をつまんだ事によって何故 水が遠くまで飛ぶようになるのかについては、ホースの圧力損失について考えると説明出来ますね。と、その辺りを計算してみたりします。まあ、理屈は有るんですが 実際のところ無意識的にやってますね、ホースをグイーっとつまんだりする事は。例えば、真ん中をつまんで V字に水が飛んでいくようにしたりしましたね~。まあ、だから何なんだって話では有りますけど。



※ 今回も Google Gemini で画像を作成して貰いました。まあ、だいぶそれっぽいですね。なんですが、ホース先端にはノズル的なものが付いてますね。「指でグイーっとつまむ云々」と言うプロンプトでやってみたんですが、なかなか上手くはいきませんでした。



圧力損失  Pressure Drop 


✓ ファニングの式  Fanning Equation

このブログでも何回となく出てきたかと思いますが、「圧力損失」と言えばファニングの式ですよね。ただ、今回の場合は「圧力差」として考えた方がしっくり来ると参考文献にはありますね。これくらいの内径と長さのホースに これくらいの流量で流すと、圧力損失はこれくらいですと計算出来ます。一方、見かたを変えると これくらいの流量を流したいのであれば、これくらいの圧力差が必要になるとも言えますね。で、ホース先端における圧力がどれくらいなのか?が 水が飛んでいく距離に関係する事になります。

式①がファニングの式となります。式②は 層流域における 摩擦係数計算式で、式③が乱流域における摩擦係数計算式の一つである ブラジウスの式 Blasius Equation となります。そして、式④は言わずと知れた レイノルズ数 Reynolds Number です。



計算例  Examples


✓ 計算条件  Conditions


早速 計算してみますが、水道の蛇口につないだホースの中を水が流れているものとします。計算条件は以下のとおりとします。

  • ホース内径     15 [mm]
  • ホース全長     30 [m]
  • 水 密度      1,000 [kg/m3]
  • 水 粘度               1 [mPa s]
  • 水道蛇口圧力         0.2 [MPa G]


✓ 圧力プロフィル  Pressure Profile


まずは圧力プロフィルですが、計算結果は下図のとおりです。水道の蛇口においては 圧力 0.2 [MPa G] で、それがホース出口に向かって直線的に低下します。で、それはホース出口がそのまんまの状態の時ですね。今回の計算条件では ホース内の平均流速は 3.039 [m/s] となります。ここで、ホース出口をギューッとつまむと変形して断面積が減少し、流れにくくなります。この状態では平均流速は低下しますし、同時にホース出口における圧力は 少し増加します。実際の計算では、ホース出口圧力を 例えば 0.06 [MPa G] に設定します。そうすると、圧力差は 0.2 - 0.06 = 0.14 [MPa] となります。この圧力差になるように 平均流速 u を決定します。 


✓ 流速と流量   Velocity and Volume Flow Rate


ホース出口をギューッとつまむとホース内の平均流速が低下するのは計算出来ました。んで、出口から飛び出した水自体の流速は上がっています。そうじゃないと遠くまで飛んで行きませんね。ホース出口圧力は分かっているので、ベルヌーイの定理を使って 圧力を速度に変換してみます。で、ホース内 平均流速と出口圧力から得られる流速との和が、ホース内出口からピューッと飛び出す流速になるものとします。計算結果は以下のようになります。

ホース出口をギューッとつまんでいない場合、ホース内 平均流速のまま 出口から飛び出していきます。ですが、ギューッとつまむと ホース内 平均流速は少しだけ低下するものの、圧力による流速は急激に増加します。結果として、ホース出口から飛び出す流速は 大きなものとなる事が分かります。つまむ前と後では以下のように数値が変化します。確かにギューッとつまむと出口流速は大きく増加しますね。もちろん、これはあくまでも理想的な計算結果ですけど。それと、ホースをギューッとつまむ事によりホース内平均流速が低下するので、体積流量も低下します。下記の例では 18 % ほど低下しています。遠くまで飛んでいくようにはなりますけど、流量は低下するんですね。なので、庭に水撒きをする際には その辺りを考えた方が良いかも知れませんね。まあ、長い時間かければ良いとは思いますけど。

  • ホース出口圧力   0.00 → 0.06 [MPa G]
  • ホース内平均流速  3.04 → 2.48 [m/s]
  • ホース内体積流量  32.2 → 26.3 [L/min]
  • 出口圧力による流速 0.00 → 11.0 [m/s]
  • ホース出口流速   3.04 → 13.4 [m/s]




まとめ  Wrap-Up

今回は「ホースをつまむと水が遠くへ飛ぶ理由」について計算してみました。使うのはファニングの式だけですけど、ホース出口の流速が増加すると言う現象を うまく説明出来ますね。ベランダ掃除の際には、先端にノズルの付いたタイプのホースで 水をジャーっと撒きますが、「ジョウロモード」では近くにジョボジョボ落ちるだけですけど、「ジェットモード」にするとピューッとベランダの端っこまで飛んできますね。実は、ノズル部を調節すると流路断面積が減少して「ノズル内流速が増加する」為なんだろうな~と思ってました・・・。お恥ずかしい限りです。

余談ですが、拙宅ではベランダにホースリールを設置しています。使う際には水道の蛇口を開けて、んでもってノズルのレバーを握ると水が出てきます。で、レバーを握った瞬間にはジャーっと勢い良く出てきますが、直後に水の勢いが減るんですね。もちろん、全く出てこないほどでは無いんですが。この現象について考えると、レバーを握る直前にはホース内の圧力は水道の蛇口と同じ筈で、その内圧によって水がピューッと飛び出すんですね。なんですが、一旦水が流れ始めるとホースの圧力損失が効くようになるので、その圧力損失に応じた流量に落ち着くって事なのかなと。まあ、単純にホースが長過ぎるだけなんですけどもね。面倒くさいのでずっとそのまま使っています・・・。

今日もすごく暑いので、ベランダに水撒きでもしようかな~っと。


参考書籍・文献  References

  1. 「身のまわりの化学工学 連載 第9回」
       化学工学 学会誌 第74巻 第12号 2010年










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