化工計算ツール No.137 水の蒸発速度  Water Evaporation Rate

 今回は水の蒸発速度 Water Evaporation Rate について取り上げてみます。例えば、雨が降ると地面に水溜りが出来ますけど、いつの間にか無くなってますよね。これは、水溜りの表面の水が空気中に蒸発して、どっかに行ってしまった結果です。また、ケミカルプラントでも水の蒸発が関係する場合が有ります。例えば、粉粒体の定率乾燥期間では 表層にある水が蒸発するので、水面からの蒸発と同じですね。

まあ、現象としては物質移動になりますが 物質移動速度は 駆動力である水蒸気圧差と物質移動係数との積となります。このブログでも 「身のまわりの化学工学」シリーズの衣類の保温性において物質移動係数の推算式をいくつか紹介しました。で、多分に被る部分もあるんですが 対流蒸発の実験式について いくつか紹介した上で、蒸発速度を計算してみようかなと。それと、普通は静止蒸発面で空気が流動しているんですが、運動蒸発面と言って ベルトコンベアのように走行している面からの蒸発速度とか、軸回りに回転する円筒や円板からの蒸発速度などについても推算式が有ったりしますね。

実務においても 乾燥機における蒸発量とかを推算する機会は何回か有ったように記憶しています。乾燥が関係する案件であれば、蒸発速度を推算する事は必須となりますね。また、ウォーターバスの水面から盛大に湯気が立ち上っている状態ってのも有りましたけど、こんな状況での水の蒸発速度ってのも 場合によっては重要になりますね。

今回 主に参考にしたのは 「湿度と蒸発」 コロナ社 2000年刊で、著者は 上田 政文 先生です。群馬大学 名誉教授との事です。教育学部で教鞭をとられていたようですが、林産学がご専門との事で、水の蒸発速度とか湿度測定などいろいろと研究されていたようです。と、その上田 政文先生ですが 2010年にご逝去されたとの事です。



水の蒸発 Water Evaporation


✓ 水蒸気の移動 Water Vapor Transfer 


物体表面と周囲の空気の間に水蒸気圧差が有ると水蒸気の移動が起こります。表面と水蒸気圧 eS と空気の水蒸気圧 e とすると、 e <  eS であれば水蒸気は空気中へと移動 即ち 蒸発します。逆に e > eS であれば空気から表面へと移動 即ち 凝縮します。この時、表面のごく近傍には拡散層が出来ます。で、この拡散層の厚さは 表面の広さ (物体の大きさ)、形状、風速、流れの状態によって影響を受け、1[cm] よりも大きくなったりする一方 2~3 [mm] となる事もあります。

で、参考書籍には 水面上の水蒸気圧分布の実測例が有ったので それを図に描いてみると下図のようになります。拡散層の厚みは 1.5 [cm] くらいでしょうか。水面では相対湿度は 100 [%] となってますんで、飽和しているんですね。そして、水面温度はバルク温度よりも少し低くなっています。



✓ 拡散係数  Diffusion Coefficient

で、前述の拡散層内部を水蒸気が拡散していく事で移動します。となると、拡散係数の値がどれくらいなのか?を明らかにしておく必要が有ります。まず、式①ですが これは Fick の法則となりますが、拡散係数 D に濃度勾配を掛け算して 物質移動速度 w が得られます。物質移動とか拡散で面倒くさいのは単位ですね。今回の場合、次元的には密度 ρ の単位となっています。で、最終的にこれを水蒸気圧 e に変換します。途中 いろいろと有りますが、得られるのは式⑥となります。この式中に含まれるのも 拡散係数ですが 記号は変わっていて K となります。で、D における温度・圧力の影響は 式⑦で計算されますし、K については 式⑧で計算されます。




✓ 水の蒸発速度 計算式  Water Evaporation Rate Equations


参考書籍には、いくつか蒸発速度式が記載されていますが蒸発面の種類や移動形態 別に分けると以下のとおりです。まあ、普通は止まっている蒸発面からの自然対流と強制対流でしょうか。一方、蒸発面が動いている場合ってのもありますね。ベルトコンベアとか回転円筒や回転する円板からの蒸発が該当します。ザックリと計算するのであれば、強制対流の計算式を使用すれば良いですが、円筒や円板が回転している状況になると、さすがに平板上の流れとは違ったものになりますね。なので、その流れ場に対応した計算式が必要になります。

▶ 静止蒸発面   Static Surface
  • 自然対流  上向き面 円形・正方形
  • 自然対流  下向き面 円形・正方形
  • 自然対流  垂直面  正方形
  • 強制対流  平板 正方形
  • 強制対流  平板 正方形 前縁部に障壁有り

▶ 運動蒸発面  Moving Surface
  • 走行蒸発面
  • 円筒蒸発面
  • 円板蒸発面

まずは、静止蒸発面の自然対流ですが 蒸発速度は以下の計算式となります。そもそも、水が蒸発すると何故 自然対流が起きるのか? ですが、水の分子量ですが 18 [g/mol] で空気 29 [g/mol] より小さいです。なので、気体になった時に密度差による浮力が発生します。まあ、水の温度が周辺空気温度よりも高ければ 自然対流によって熱浮力が発生しますけども。で、形状は円形と正方形ですが、大きさで式が異なります。つまりは、形状が小さいと流れが層流で 大きくなると乱流になるんですね。それと、蒸発面の姿勢ですが 上向き面、下向き面 そして 垂直面となります。



次に、強制対流 蒸発面です。正方形の平板 蒸発面上に 空気が流れている場合の蒸発速度計算式となります。で、平板前縁部に障壁というか突起が有る場合の計算式も有ります。実際の蒸発面は凸凹があったりして不安定な過渡乱流になっているものと想定されるので、それを模擬する為に前縁部に突起 Trip Strip を設置しています。



最後に運動蒸発面の計算式は以下のとおりです。なんですが、走行蒸発面については蒸発速度式ってのは載ってませんでした。有るのは、前縁からの距離における拡散層厚さ δ の計算式だけでした。まあ、δ の厚みが分かれば 拡散流束 即ち 蒸発速度を計算出来ますけども。





計算例  Examples


✓ 自然対流 蒸発速度  Natural Convection   Evaporation Rate


まずは 自然対流における蒸発速度を計算して、蒸発面の向きや大きさの影響を見てみます。とその前に、拡散係数 K がどの程度の値になるのかを計算した結果が下図となります。まあ、大きさ的にはこれくらいなんですね。で、温度が変わると結構 K の値は変わりますが、温度が上がると K は増加します。一方、圧力の影響も有りますけど 圧力が高くなると K は小さくなるんですね。



で、蒸発速度 計算結果は下図のとおりです。蒸発面のサイズが小さいと上向き面の蒸発速度が大きいですが、1[m] とかになると垂直面の蒸発速度が大きくなります。とここで、自然対流 蒸発速度の計算式を見ると 拡散係数 K は含まれていません。実は 0 ~ 50 [℃] の Kの平均値が既に組み込まれています。その上での定数値なんですね。




✓ 強制対流 蒸発速度 Forced Convection Evaporation Rate

次に強制対流 蒸発速度ですが風速を変えて計算してみると以下の結果となりました。なんですが、うまく計算出来ませんでした・・・。参考書籍によれば L=50cm を境界として 使用する計算式を変える事になっていますが、 L < 50cm 用の計算式で計算すると どうもおかしな値になりました・・・。なので、50 cm < L 用の計算式で全領域を計算しています。いろいろと見返しましたが何とも出来ず。乱流域の式で層流域を計算している事になるんですが、蒸発速度自体は 小さくなるんで まあ 使えない事は無いかなと。これが 大きく出るのであれば 注意が必要ですけど。



✓ 運動蒸発面 回転円板 蒸発速度  Moving Surface   Rotating Disc


最後に運動蒸発面である回転円板における蒸発速度を計算した結果です。グラフ中の計算式は 1気圧 15℃ の乱流域に限定して使えるものとなります。結構 ガンガン回転させても この程度の蒸発速度なのかな~と思います。




まとめ  Wrap-Up

今回は水の蒸発速度について計算してみました。途中、ちょいと計算結果が ? の箇所も有りましたけど、ザックリと蒸発速度を計算する分には使えるのかな~と思います。まあ、何か適当な熱伝達係数推算式を探して来て、ルイスの関係を使って物質移動係数を求めて 蒸発速度を求めるって事も可能ですね。そちらの方が一般的かとは思いますけど。

で、参考書籍ですが 蒸発速度 計算式だけでは無くて 湿度の測定法とか蒸発速度の実測方法について詳細に記載してあるので そちらも参考になりますね。一般的な化学工学関連の書籍だと計算式は有りますけど、実験手法とか方法にはあまり触れていないのが普通なので。今回は触れてませんけど、物体表面の拡散流束を求める為に 微小な湿度計を使って 拡散層の湿度を実測しています。例えば、土壌とか果物の「ミカン」とか。ちゃんとキレイに湿度分布が得られているんですね。まあ、何回も試行錯誤して実施したんだと思いますけど。大学の時は似たような事をしていたので、大変だろうな~と思いますね。




※今回も Google Gemini で作成して貰いました。雨上がりの都会の道路ですね。


参考書籍・文献  References


  1. 「湿度と蒸発 基礎から計測技術まで」 コロナ社 2000年刊 


















コメント