今回の「身のまわりの化学工学」シリーズですが、ゆで卵の作り方について取り上げてみます。卵料理はだいたい全部好きですが、ゆで卵はお手軽で良いですよね。韓国に住んでいた時は一人暮らしだったので、ちょくちょく作って食べてました。面倒くさいので 電気ポットに水を入れ、そこに生卵をほおりこんで作ってました。一度、茹でる途中で卵が割れて ポーチドエッグ Poached Egg になっていた事が有りますけど・・・。
で、そのゆで卵ですがネットで調べてみると山ほど出てきますね。例えば、キッコーマンのホームクッキング通信によれば 美味しいゆで卵の作り方について いろいろと紹介されていて面白いですね。そして、ゆで卵の作り方で最も重要なのは 「半熟か?固ゆでか?」でしょうか。個人で好みの別れるところですし、いつも自分の好みの状態となるようにゆで上げたいところです。キッコーマンのホームページによれば、沸騰しているお湯に冷蔵庫から出した卵をドボンと入れるのが推奨されていますね。何故かと言うと、沸騰しているとお湯の温度は 100 [℃] ですし、冷蔵庫で保管していれば卵の温度は 5 [℃] とかですよね。となると、卵初期温度は 5 [℃] で加熱媒体温度は 100 [℃] となり、年がら年中 同じ温度条件となります。もし、水の状態から加熱する場合、夏と冬では水道水の温度が違いますんで昇温過程における水温履歴が変わってきますね。当然、冬場の方が水温が低いので加熱時間が長くなりますね。
それで、キッコーマンのホームページによれば お湯に卵を入れる場合、ゆで時間と固さの関係は以下のように記載されています。これによると半熟 Soft - Boiled は 8分くらい、固め Hard - Boiled は11分くらいでしょうか。
- 6分 超半熟 黄身が流れ出るし、白身も柔らかい
- 7分 半熟 黄身の外側は固まりつつあるが内側は流れ出るくらい
- 8分 黄身の外側が黄色になるが、真ん中はまだトロリ
- 9分 黄身は中心以外は固まってねっとりした舌触り
- 10分 黄身はほど固まって中心までしっとり
- 11分 黄身は外側が完全に固まった状態
- 12分 黄身の外側は色が薄くなり、内側まで完全に固まった状態
- 13分 固ゆで 黄身の色は全体的に白っぽくなる
で、ゆで卵が出来上がっていく過程は、物体の非定常熱伝導 問題として考える事が出来るんで、まあその辺りを計算してみようかなと。
※ 今回も Google Gemini で画像を作成して貰いましたが、特に問題は無いですね。
web site : キッコーマン ホームクッキング通信
ゆで卵(半熟卵・固ゆで)の作り方!
https://www.kikkoman.co.jp/homecook/tsushin/tips0012/
卵とは What are eggs?
✓ 鶏卵の大きさ Size of Chicken Eggs
まあ普通 ゆで卵にするのは 「鶏卵」ですよね。稀に 「うずら卵」くらいでしょうか。中華料理の八宝菜では必ず入ってますけども。余談ですが、勤めていた韓国企業の社員食堂ではうずらの煮卵的なメニューがたまに出てましたが、結構お気に入りでした。で、鶏卵ですが「ニワトリの卵」です。タンパク質やミネラル、ビタミンを豊富に含み完全栄養食品と言われているそうです。また、誰でも知っているように卵白と卵黄から構成されています。で、更に言うと卵殻(卵のカラ)とか卵殻膜とかカラザなどが有りますが、ゆで卵云々においてはあまり関係は無いですね。
卵の熱伝導に関して言えば、必要なのはその形状ですね。その卵の形状ですが、あの独特の形状となります。楕円形に似ていますが長径側の片方は尖っていて、もう片方は丸っこいです。尖っている方は「尖端」、丸っこい方は「鈍端」となります。で、この卵の独特の形を表わす関数があって、カッシーニの卵形線 Cassinian Oval と呼ばれるものがそれです。 因みに、カッシーニは フランスの天文学者 (生まれはイタリア) ですが、土星の輪が複数の輪から構成されている事を発見しました。なので、NASA の土星探査機には カッシーニの名前が冠されているんですね。
そして卵の形を描いてみると下図のとおりです。カッシーニの卵形線を使って計算すれば良いんですけど、手抜きしてネットにある計算サイトを使って計算して貰いました。大きさは、一般的な卵の大きさである Mサイズとなります。重さとしては、58 ~ 64グラムとの事です。計算結果を見ると、確かに尖端と鈍端が有りますね。
✓ 卵白と卵黄の熱凝固 Heat Coagulation of Egg White and Egg Yolk
- 卵白 Egg White
62 から 65 [℃] で流動性を失い、70 [℃] でほぼ凝固するが完全な凝固には 80 [℃] が必要 - 卵黄 Egg York
65 から 70 [℃] で凝固する
と、その辺りを温度分布で描いてみると下図のとおりです。温泉卵では温度分布の温度自体が低く、そして平坦 つまり 大体均一な温度になっています。一方、半熟たまごでは温度分布が大きく変形しています。外側はすごく高いですが、真ん中はだいぶ低いですね。つまり、下図のような温度分布が得られるように、お湯の温度とか加熱時間を調節してやればOKと言う事になります。なので、これは非定常熱伝導問題 そのものって事にもなります。
✓ 非定常 一次元熱伝導 Unsteady 1-D Heat Conduction
物体が球形であれば 熱は外側から中心へ、若しくはその逆向きに流れます。つまりは、熱流は半径方向にのみ発生するので一次元として取り扱えます。また、物体が円柱状であって 軸方向の熱流が無視できるようであれば、同じ様に一次元として取り扱えます。円柱状物体の熱伝導については、このブログでも何回も出てきました。例えば、ポリマーストランドの冷却とか麺の茹で時間とか。単純な形状なので解析解も有るので、サクッと計算可能です。
まずは、無限円柱の場合です。麺の茹で時間でも使った式ですが、ベッセル関数が含まれています。μ については、 n の値に対応している表中の値を使用します。
次は球形物体についてです。熱拡散率、ビオー数、フーリエ数については無限円柱と同じですね、座標は r だけなので。そして、こちらの式にはベッセル関数は無いです。そして、ν の値ですが やはり n に対応した表中の値を使います。
計算例 Examples
✓ 計算条件 conditions
んじゃま、計算してみようかと思いますが いくつか設定と仮定をおきます。
- 卵殻 (カラ) は考えない
- 卵白と卵黄は同じ熱拡散率とする
- 卵の形状は 無限円柱 及び 球 とする
- 代表寸法は卵の最も太い部分の半径とする
- ビオー数は無限大 即ち 卵外側温度 = お湯温度 とする
✓ 温泉たまご Onsen - Tamago
まずは温泉たまごの条件で計算してみます。お湯の温度は70 [℃] とし、卵初期温度は 20 [℃] とします。卵の熱拡散率ですが 参考文献に記載されている値を使いました。
まずは温度分布ですが、まあこんな感じになりますよね。で、無限円柱とした場合と球とした場合では、やはり球の方が温度の上がりが早いです。円柱だと円周部からのみ熱が流入しますが、球だと四方八方から熱が流入しますので。
✓ 固ゆで卵 Hard - Boiled Egg
次は固ゆで卵の条件で計算してみます。なんですが、温泉たまごの計算結果では温度の上がり具合が遅かったので少し設定値をいじってみました。具体的には熱拡散率を 1.5倍としています。また、卵の初期温度を 20 [℃] としています。そうすると、12分経過後に中心温度は 78[℃] くらいにはなるので まあ固ゆでに該当するのかなと。まあ、素人考えでは有りますが卵白については生の状態でそれなりに流動性が有ると思うので、そうなると見掛けの熱拡散率が大きくなると言う事も有り得るのかなと。勿論、ある程度温度が上がってくると固化してくるので流動性は失われるとは思いますけど。
下図は温泉たまご、半熟卵、固ゆで卵の卵内部温度分布です。温泉たまごの中心温度が少し低めですが、まあ 65 [℃] から固まり始めるとの事なので良しとします。半熟卵は凝固温度 68 [℃] より高くなっているので固ゆでになりそうですが、70 [℃] くらいなので こちらも良しとしましょう。で、固ゆで卵ですが全域にわたって凝固温度よりも温度が高いので 確実に固まってますね。
まとめ Wrap-Up
それによれば、100 [℃] のお湯に 2分浸して 次に 30 [℃] の水に 2分浸します。で、これを 1セットとして 8セット繰り返すと言うものです。単純に 32分も掛かりますね。そして、なにより入れたり出したりを繰り返すのは すご~く面倒くさいです。何かテレビの番組で見ましたが、この方法で作ったゆで卵をタレントさんが食べていて 「うま~い!!」と言ってました。確かにツヤツヤで美味しそうでは有りましたけど・・・。この操作を伝熱工学的に考えると、加熱と冷却を繰り返している事になりますね。100 [℃] はともかく、30 [℃] ではまったく凝固しないので。そうすると、温度波がジワジワっと卵内部に伝わっていくってな感じなのかな~と。ここいらも計算してみると面白そうですけども。
いずれにしても、ゆで卵はサクッとお手軽に作って美味しく食べたいですね。個人的には固ゆで卵にマヨネーズをドバ~っとかけてガブッといきたいです。
※ これも Google Gemini に作成して貰いましたけど、黒胡椒がかかっているのがとてもナイスです。
参考書籍・文献 References
- 「プロメテウスの贈りもの」 相原利雄 著 裳華房 2002年刊
- 「温泉卵の凝固状態への加熱温度と保持時間の影響」
日本調理科学会誌 第52巻 第5号 2019年 - 「伝熱工学資料 改訂4版」 丸善 1986年刊
- 「加熱調理と熱物性」
日本調理科学会誌 第46巻 第4号 2013年
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