今回は撹拌関連の投稿として 多目的変形合体多段翼を取り上げます。参考文献には、一般に高粘度液の層流域における撹拌においては、混合性能や動力特性は撹拌翼の幾何形状に大きく影響されると有ります。そして、撹拌槽内の液に強力な軸流と言うか 循環流を形成させる事が非常に重要となります。そして、平均循環時間の3倍が混合時間になると言うのがセオリーですね。んで、高粘度液の層流域において用いられるのは ダブルヘリカルリボン翼 Double Helical Ribbon Impeller ですね、やはり。このブログでも何回か取り上げています。まあ、ず~っとポリマープラントの設計やらエンジニアリングをやってきたんで、基本 取り扱うプロセス液はネチョネチョでした。なので、重合反応器に設置するインペラと言えば DHR 一択だったかなと。
なんですが、参考文献に有るようにコスト的にはアレですよね。形状としては単純と言えば単純なんですが、製作するのは結構 大変なんだと思いますね。メーカーのエンジニアに聞いた事が有りますが、サポート有りのDHR であれば 1/4周分づつのブレードをプレスして作るとの事でした。まあ、どれも同じ形状なので そのパーツを沢山つくって繋げれば出来上がりとなります。どこがどう大変なのかは専門家では無いので分かりませんけど、ブレードといっても結構 肉厚ですよね。 実務で、内容量 7[m3] 程度の反応器のインペラを DHR に改造した事が有りますが、ブレード厚みは 20 [mm] は有ったでしょうか。その後、40 [m3] 程度の反応器の DHR についても仕様を決定したりしましたが、まあ考えてみると大変ですよね・・・。
で、多目的変形合体多段翼とは何ぞや? ですが、単純な形状の傾斜パドル翼 Pitched Paddle Impeller を組み合わせる事で DHR と同じ様な性能を実現しよう! ってな事なんですね。とまあ、そんな感じで絵を描いてみたり 計算してみたりしようかなと。
多目的 変形合体多段翼とは? What's Multipurpose Transformable Multiple Impeller
✓ 多目的 変形合体多段翼の構造 Structure of MTMI
今回も名工大グループの文献を参考にしています。で、この文献の緒言にはこのインペラの開発の経緯について記載されています。それによれば、層流域の撹拌では 例えば 単純な形状で壁面掻き取り効果のある アンカー翼 Anchor Impeller が適用される場合があるが、軸流が十分では無く未混合領域が発生するので混合性能は大幅に劣る。また、マックスブレンド Maxblend® のような大型パドル翼 Wide Paddle Impeller も適用可能では有るが、低レイノルズ数領域では 性能が劣ると有ります。まあ、そんな訳で DHR が多用される訳なんですが、前述のとおりコスト面がネックになります・・・。
んじゃあ、どうするのかと言うと DHR のリボンブレードを分割して、各部分を傾斜パドルで代替すると言うのが このインペラの肝なのかなと。まあ、下図を見れば分かりますね。確かに DHR のように微妙な傾斜を持たせたりする必要は無くて、基本は平板をサポートの先端に溶接すれば良いですね。プレスする必要は無いと思うので製作もラクなんだろうと思います、多分。因みに、この新型インペラですが 文献では 「AM翼」と呼称されています。Advanced Mixing Impeller の略ですね。
で、下図には異なる2種類のタイプが示されています。右側のは DHR の一部が取り除かれたタイプです。文献では Partial DHR と呼称されています。ブレードの傾斜角度は 22度との事です。また、左側は傾斜パドルが多段に設置されているタイプです。普通の傾斜パドルなのでブレードの傾斜角度は 45度となっています。このタイプのインペラってのは実は 佐竹マルチミクスさんから 「LR500」として上市されていますね。まあ、佐竹さんの製品はシャフトレスとなっていて、ブレードはフレームに溶接されていますけど。
文献では下記の2種類以外についても実験されているんですが、いろいろと試した結果 この2種類が最も性能が良かった、と言う事のようです。見て分かるように、Partial DHR では傾斜パドルブレードを DHR のリボンブレード傾斜角度と同じとなるように設置します。また、多段傾斜パドルでは傾斜角度 45度のパドルブレードをどんどん積み重ねます。どう考えても、こちらの方が製作しやすいですよね。
✓ 実験結果 Experiment Results
✓ 多目的変形合体翼 動力推算式 Agitation Power Equation for MTMI
計算例 Examples
✓ 撹拌動力と混合時間 Power Consumption & Mixing Time
✓ クリアランスの影響 Influence of Clearance
まとめ Wrap-Up
実際、いろいろな撹拌機と言うかインペラも見てきましたけど、多段タイプだと設置位置を変えられるようにしてあるってのは割と普通に有りましたね。シャフトが有ってそこにリブが有るんですが、ボルトを緩めるとリブの位置を変えられるんですね。ブレードはそのリブに設置されています。なんですが、溶液重合の反応器とかだとボルト孔とかちょっとした隙間にモノマーが入り込んで重合するんですね。そして、ず~っと加熱されてたりすると熱劣化してガッチガチになっていて、ちょっとはそっとではボルトを緩める事が出来ません、ってのはポリマープラント あるあるでしょうか・・・。架橋してたりすると有機溶媒とかでも溶解出来ませんしね~。
参考文献・書籍 References
- 「多目的変形合体多段翼 (AM翼) の新規開発」
高橋 理輝・松岡 杏奈・古川 陽輝・加藤 禎人・朝山 真輔・森川 議博・高 承台
化学工学論文集 第49号 第4号 pp.89-94 2023





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