身のまわりの化学工学 No.28 浴槽からの放熱 Heat Loss from The Bathtub

 今回は身のまわりの化学工学シリーズとして 「浴槽からの放熱」について取り上げます。前回は「入浴中の深部体温」について取り上げたんですけど、入浴による体温上昇度合いを計算してみました。で、湯温は例えば 40 [℃] 一定としたんですが 実際には放熱によって湯温は徐々に低下しますよね。要はお湯がヌルくなるんですけど、ん~あまり好ましいものでは無いですよね。んじゃ、追い焚きしましょうかとなりますけど 放熱量に相当する熱量を投入する必要があるのでその分 ガス代がかさみますね・・・。

その際の放熱量ですが ザックリと言えばお湯から室内の空気への顕熱移動が有りますし、水面から蒸発に起因する潜熱移動が有ります。それと、入浴ならではとしては「人体への熱移動」が有るんですね。体温が上昇するくらいにはお湯から人体への熱移動が有る訳ですんで、その分お湯の熱量は失われてますよね。んで、家庭の内風呂であれば放熱量はこれくらいですね~で済みますけど、例えば温泉ランド的な大規模な浴場とかでは放熱量も半端ないので当然 加熱負荷も大きくなりますね。とまあ、給湯器の仕様を決める上でどうしても必要となりますね。



※ 今回も Google Gemini で画像を作成して貰いました。それっぽい感じですし、鏡に浴槽の蓋が映り込んでいるのが凄いな~と思います。



浴槽からの放熱 Heat Loss from the Bathtub


✓ 浴槽水の熱収支  Heat Balance of Bathtub Water

浴槽からの放熱と言っても、要は張り込んであるお湯からの放熱量の事ですよね。で、参考文献によると下図のとおりとなります。見て分かるように浴槽の温水表面から蒸発や熱伝達によって放熱します。それに加えて 浴槽側壁や底面などからも放熱しますね。それと、入浴している人体への入熱によって温水の熱が失われます。また、温水が循環されている場合では配管やポンプなどの機器類からの放熱も有りますね。

で、式①は各部 放熱量を合算したものとなります。式②は蒸発による放熱量、式③は水面からの顕熱移動による放熱量となります。式④は浴槽の側壁や底面からの放熱量ですが、温水温度と周囲空気温度との温度差を駆動力としています。もし、底面がコンクリートとか基礎部分に接触されているのであれば、その温度を使用すると参考文献には書いてあります。拙宅の場合、浴槽は防水床パンと呼ばれる部分の上に浮いている感じなので 温度差としては 温水と周囲空気温度との温度差になるのかなと。式⑤は配管や機器類からの放熱量ですが、この計算式は簡易的な概算値との事です。もし、配管仕様や機器仕様が分かっているのであればそれを使って推定します。温水循環を実施していないのであればゼロとなりますね。式⑥は人体への入熱量ですが、これは実験式となります。そして、式②~⑥で得られた値を合算すれば放熱量が計算出来ますね。で、この放熱量と同じ分だけ加熱してやれば温水温度は下がらずに維持されますね。一方、何もしないと温水温度は下がります・・・。どれくらい温水温度が下がるのかは式⑦で計算されます。まあ、温水温度はどんどん低下していくので駆動力である温度差も減少します。結果として、温水温度の下がり具合は緩くなってきます。具体的にどうするかと言うと前回の深部体温の時と同じように、dT/dt を ΔT/Δt と差分近似して逐次的にどんどん計算していけば良いですね。 



計算例  Examples


✓ 計算条件  Conditions


何と言っても浴槽のサイズが重要なんですが、ネットで探してもピンと来るものはなかなか見つかりませんでした。ずっと昔の浴槽と言うと四角い感じのものが多かった様に思いますけど、今は意匠性に富んだ形状というかだいぶ丸みを帯びた感じですよね。勿論、メーカーさんは詳細な図面を持ってるんだとは思いますけど。なので、拙宅の浴槽を実測しつつネット情報などを参考にして図を描いてみました。で、温水を張り込んでいる部分を四角錐台(オベリスク形状) に近似して温水容積及び側壁面積と底部面積を計算してみます。正直面倒くさいです・・・。



その他の条件ですが、以下のとおりとします。また、温水循環は実施していないものとします。

  • 温水は所定温度の水物性
  • 周辺空気温度  25[℃]  相対湿度  60[%]
  • 水面表面  熱伝達係数値 9 [W/m2 K]
  • 側壁・底面 熱伝達係数値 0.1 [W/m2 K]


✓ 無人での温水温度変化  Hot Water Temp. Change with Unmanned Condition


まずは無人の場合における温水温度の計算結果です。お風呂を沸かしたがちょいとバタバタしていて入浴出来ませんでした的な状況でしょうか。初期温度 42 [℃] としていますが、見て分かるように確実に温水温度は低下します。30分後で 1.53 [℃] 低下し、1時間後では 2.91 [℃] 低下して 39.09 [℃] となります。ヌルいですね、だいぶ。ここで、追い焚き機能を使用していると 放熱量と同じだけの加熱量が必要となります。また、下図下段グラフは各放熱量をプロットしたものです。圧倒的に蒸発による放熱量が大きい事が分かりますし、水面からの顕熱移動も結構有りますよね。んじゃ、何か対策は無いのか?となりますが、蓋をする事ですね。蒸発も抑制されますし水面からの顕熱移動もだいぶ小さくできます。と言うか、一旦 お風呂が沸いたらすぐに入浴するのが最善策ですよね。




✓ 有人での温水温度変化 Hot Water Temp. Change with Manned Condition   


次は実際に人が入浴している場合の温水温度変化を計算してみます。下図上段グラフがその結果ですが、無人の場合の温度変化も併記しています。見てみると僅かでは有りますが差が有るんですね。下段グラフは放熱量の時間変化ですが、人体への入熱量もオーダー的には結構 大きんだな~と思いますね。




もうちょっと分かりやすく 各放熱量を棒グラフにしてみると下図のとおりです。こんな感じなので、家庭の内風呂であればそこまで影響は無いかと思いますが、冒頭でも述べたようにが大規模な入浴施設などでは この辺りをきちんと考慮しておく必要が有ると思います。そうじゃないとどんどんヌルくなりますね。




まとめ  Wrap-Up


今回は 身のまわりの化学工学シリーズとして 「浴槽からの放熱」についていくつか計算してみました。浴槽からの放熱量と言っても、基本は伝熱なので駆動力である温度差が有って、その値に熱伝達係数と伝熱面積を掛け算すれば良いですね。なんですが、上記の計算結果から分かるように 水面からの蒸発による放熱量の割合が大きいので、これを考慮するのとしないのとでは大違いですね。まあ、実際 冬場ともなると浴室内は湯気がもうもうとしています。

こんな感じで放熱量は結構有るんですが、対策としては「蓋」をする事ですね。放熱量をゼロにする事は出来ませんけど、だいぶ小さくする事は出来ると思います。まあ、蓋をしても蒸発はするかと思いますが、水蒸気が蓋裏面(下面) に凝縮すると そこの温度は上昇して 水面温度に近づきます。そうすると、水面の水と 蓋下面の水の間での水蒸気圧 差がだいぶ小さくなります。結果として蒸発量=放熱量も小さくなりますね。勿論、蓋が完全に断熱されているって事は無いので 僅かに凝縮するんだとは思いますけど。顕熱移動についても、水面温度と蓋下面温度との差が小さくなれば 放熱量は減少します。

余談ですが、冬場の入浴ではヒートショックなるものが有って、年齢も年齢なのでだいぶ心配ですね。となると、あえて蓋とかはせずに温水の熱が浴室の空気に移動するのが良いのかな~と思ったりもしますね。なので、拙宅には浴槽の蓋は有りません。まあ、置き場所もアレですし、湿気でカビったりしますしね。

と、これまた余談ですが 化学企業の製造所とかでは お風呂と言うか浴場が有りますね。三交代勤務が有る職場では必須なのかなと。勤務明けにひとっ風呂浴びて帰宅するってのが普通なのかなと。まあ、フィールドの業務だと夏場であれば結構な汗をかいたりしますし。で、そこそこ広い浴場が有ったかな~と記憶しています。ただ、時代も時代なんでタイル張りとかだったかなと。んで、水を加熱してお湯にするんですが ある浴場では 「生蒸気」を吹き込んでましたね~。浴槽の端っこ辺りに1インチくらいのスチーム配管が来ていて、配管の端っこは水面下に潜らせて有りますね。そしてバルブをエイッと開けるとスチームが浴槽内の冷水にドバ~っと吹き込まれます。スチームの凝縮潜熱によって加熱されるんですが、効率はだいぶ良いんじゃないかなと思いますね。んでも、こんな芸当が出来るのはスチームをふんだんに使っている場所ならではなんですけども。

参考文献・書籍   References

  1. 「浴槽からの放熱量に関する研究 その1」
      空気調和・衛生工学学術講演会論文集 1997
  2. 「浴槽からの放熱量に関する研究 その2」
      空気調和・衛生工学学術講演会論文集 1998
  3. 「浴槽からの放熱量に関する研究 その3」
      空気調和・衛生工学学術講演会論文集 1998
  4. 「学生寮大浴場における浴槽からの損失熱量に関する研究」
      空気調和・衛生工学学術講演会論文集 2024
  5. 「水まわり空間を中心とした省エネルギー性と快適性に関する研究」
      日本建築学会環境系論文集 第77巻 第673号 2012年








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