化工計算ツール No.145 多段撹拌槽 Multi-Stage Agitated Vessel

今回は多段撹拌槽について取り上げてみます。竪型円筒形状を有する撹拌槽や反応器において、槽高さ L と内径 D との比率 L/D の値が大きくなる場合が有ります。まあ、何かしらの理由があってそうしている訳なんですが、そんな時はインペラ Impeller を多段化する事が行なわれます。2段とか3段ぐらいが一般的かと思いますけど、少し特殊な反応器ですが5段ってのを見たことが有りますね。槽全内容積は 40 [m3] くらいで L/D は 2.5 でした。 インペラは相当に特殊な形状でしたけども。

普通に考えれば多段インペラであってもインペラ間距離が離れていれば、単段インペラの撹拌動力×段数となりそうですよね。んじゃ、どれくらい離してインペラを設置すれば良いのか? とか、逆にわざと近づけて設置した場合には動力はどうなるのか? を知りたいですよね。その辺りについては撹拌関連書籍とか文献で言及されているので、絵でも描いてみようかなと。

まあ、実務でもやった事はありますね。新設される量産スケール反応器でしたが、インペラは傾斜パドルで2段でしたね。まあ、既設の反応器がそんな仕様だったので そのままスケールアップしたんですね。インペラ間距離はそれなりに確保出来たので、撹拌動力は単段インペラ×2としました。その後、実際に運転されましたけど特に問題は有りませんでしたね~。



※ 図は竪型円筒形状槽の上下に2:1半楕円体 鏡板を設置した撹拌槽となります。で、そこに傾斜パドル インペラを3段設置し、かつバッフルも設置しています。シャフトが結構長くなるのでフットベアリング Foot Bearing を設置した方が良いかも知れませんね。それが無理であれば、リングスタビライザー Ring Stabilizer を設置するとか。この槽の TL - TL間距離 L と槽内径 D との比率 L/D は 2.5 となります。 



多段翼化の問題点  Problems with Multi-Stage Impeller


参考書籍には望月 雅文 先生による多段翼化の問題について記載されています。なんですが、こんな場合には段数はいくつにしましょう的な明確な指針ってのは無いですね、知る限りは。ただ、撹拌槽の槽高を大きくする イコール 液を深くする事にはいくつか理由が有るようです。そして、多段化についても指針的なものは有るようですね。

✓ L/D の大きい槽を使う理由 Reasons for Using  High L/D Vessel 


  • 槽内容物当たりの伝熱面積の低下を是正する
    丸っこい槽よりは細長い槽の方が単位体積 V 当たりの表面積 A の比率 A/V が大きくなります。配管とかはすごく細長いので A/V が相当に大きいですね。A/V が大きいと伝熱の観点からはすごく有利ですね。

  • 槽壁近傍のエネルギー散逸速度低下を是正する
    インペラから液に伝えられたエネルギーは流動に使用されて最終的には槽壁との摩擦によって熱エネルギーとなって散逸します。インペラから槽壁までの距離が長いと、その辺りが影響を受けるんだろうと思います、多分。

  • 敷地の有効利用
    同じ内容積であれば細長い槽の方が断面積は小さくて済みますね。となると、同じ敷地面積でも沢山の槽を詰め込めるようになりますんで 敷地面積の節約になります。まあ、反応器であれば槽数はプロセス上の要件から決定されますが、断面積が小さい方が反応器に関連する建設費用が削減されると思いますね、場合にもよるんでしょうけど。ですが、あまりにも細長い槽だと背が高くなりすぎてストラクチャーの階数が増えるんでアレですね。建設費用も増えますし 見回りのたびにストラクチャーの最上階まで昇り降りするのは正直大変ですよね・・・。

  • 気液接触時間の長時間化
    培養槽のように槽底から空気を吹き込む場合、気泡の滞留時間 即ち 気液接触時間が長い方が有利ですね。平べったい槽だと液が深くないので気泡はすぐに液面に到達しますけど、細長い槽であれば 液が深いので気泡が液面に到達するまでの時間は長くなります。あと、液深さが大きいと静水圧が大きいので吹き込んだガス(空気中の酸素)を液に溶解させる上では有利かなと思います。まあ、ガスを吹き込む為のブロワ動力は大きくなりますけど・・・。

✓ 多段化の指針  Guidelines of Multi-Stage Impeller 


こうして改めて見てみると多段化ってのは適当にやってる訳では無いんですよね、当たり前ですけど。望月先生によると以下の3点が指摘されています。

  • 問題の無い範囲内でインペラ同士を離して設置する
    混合完了までの時間などを達成出来る範囲でインペラ1個当たりの空間を広くしますが、同一のインペラを用いて多段化する場合が多いとの事です。そうすると、槽全体の性能としては単段インペラが設置された槽を多段に積み重ねたものに似てくると考えられます。これは良い面とそうじゃない面が有りますね。悪い面ですが、軸方向と言うか深さ方向の混合があまり期待出来ませんね。なので、回分操作においてエイッと液面に少量の液を投入した場合、それが槽底に到達するまでにそれなりの時間が掛かりますね。なんですが、連続操作においては ピストンフロー性があるおかげで反応率 (転化率) は改善されますんで、それは有利ですよね。

  • 各段インペラに役割を担わせる
    各段のインペラがそれぞれの役割を担うようにインペラ型式の組み合わせや間隔を決定します。気液系、液液系、固液系、気固液系に用いられるようです。ただ、どんなインペラをどんな間隔で設置するのかは 事前に把握しておく必要がありますね。

  • 単段インペラでは出来ない流れを形成する
    各段のインペラによる流れを相互に干渉させる事によって より性能をアップさせるって事ですね。まあ、簡単では無いと思いますけども。

2番目と3番目はなかなか明確には分けられないと望月先生も言及されてますね。そして、具体的な各段インペラの役割としては、例えば 下段インペラは剪断の強いタイプとして高濃度液の分割、ガス分散や液滴微粒化を進行させ、上段インペラでは均一化を促進させると言った使い分けをするんだとされていますね。

で、ここが重要なんですが 望月先生は次のように言っています。曰く、「多段翼という響きはなんとなく効率がよいとのイメージを持つ読者もおられることであろうが、気液系伝熱の一部を除き、同一の混合時間や移動係数等を得るための単位液容積当たりの動力は単段翼に比較し大きいか、せいぜい同じで効率は悪くなる場合が多い」と有ります。う~ん、なかなか一筋縄では行かないんですよね・・・。


インペラ間隔と撹拌動力  Effect of Impeller Spacing on Agitation Power


多段撹拌槽については液相での動力特性や混合性能も大事なんですが、前述のように気液系撹拌や固液系撹拌においても重要ですね。なんですが、全部カバーするのは大変なんで今回は液相のみの撹拌について取り上げます。1976年なんで だいぶ古い文献にはなりますが、京都大学のグループが多段撹拌槽における翼間間隔の影響についての実験結果を報告しています。この文献ですが撹拌分野ではものすご~く有名である永田 進治 先生のお名前も連名として記載されています (故人と表記されていますけど)。

参考文献では 4ブレード フラットパドル 4-Blade Flat Paddle と6ブレード ラシュトンタービン 6-Blade Rushton Turbine を多段化して撹拌し、翼間距離を変えて撹拌動力を測定しています。

✓  4ブレード フラットパドル  4-Blade Flat Paddle

参考文献の実験条件では最下段と最上段のインペラ高さを固定し、真ん中のインペラ高さをいろいろと変えて実験しているようです。なんですがそれだとピンと来ないですね。なので、インペラ直径 d とインペラ間距離 Δc を与えて各インペラの設置高さを決定し、それを液深さの真ん中に設置してみたのが下図となります。Δc/d が 0.5 だとだいぶ近いですし、2.0 となると結構離れている感じですね。





んで、インペラ間距離を変えた場合の撹拌動力の変化ですが、下図のようになります。Δc/d によって動力は一旦低下するんですが、その後 回復するんですね。インペラ直径の 1.5倍以上 離して設置されているのであれば 撹拌動力=単段インペラ×段数となります。が、インペラ同士が近づいて設置されている場合、各段インペラの動力は 単段インペラの 75% 程度まで低下します。なので、段数を増やしたのに それほどには撹拌動力が投入されていないって事になるんですね。



✓  6ブレード ラシュトンタービン  6-Blade Rushton Turbine


次はラシュトンタービンですがディスクが有るタイプのインペラとなります。液相に空気などのガスを吹き込む場合には、ガスの吹き抜けを防ぐ為にこのタイプのインペラが使われますね。同じ様に絵を描いてみると下図のようになります。






そして、インペラ間距離を変えた場合の動力の変化ですが、下図のようになります。Δc / d が1.5 から小さくなると2段インペラなのに 単段インペラの動力に近づいていきます。このような挙動を示す理由ですが、インペラが近づくとディスク間の距離が小さくなり液流れが阻害されると説明されてますね。




インペラ間隔と混合性能   Effect of Impeller Spacing on Mixing Performance


最後に混合性能についての実験結果をご紹介しておきます。8ブレード タービン (ディスクは無いのでまあパドルですけど) を2段設置し、インペラ間隔を変えて混合時間を実測してます。混合時間といえば脱色法ですが、この文献では電解質溶液をエイッと投入して 槽内の電気伝導度の変動を測定しています。電解質が槽内全体に広がって均一になれば電気伝導度は一定となりますんで、混合終了と判断されます。

で、結果ですが 望月先生が指摘されているように多段化すると混合時間は単段インペラよりも長くなります。つまり、混合性能は低下するんですね・・・。図を見ると、インペラ2つを接近させて撹拌すると単段インペラとほぼ同じ性能となります。んで、インペラをどんどん離していくと混合時間は大幅に増加しています。その際の槽内流れの様子をグラフ中に描いてありますけど、各インペラによる流れが相互作用する事無く個別に存在しています。ん~、さすがにこんな状態では混ざりは悪いですよね。





まとめ   Wrap-Up


今回は多段撹拌槽について取り上げてみましたが、インペラ直径の 1.5倍 程度離して設置すれば 単段インペラと同じ動力となるようです。参考文献ではフラットパドルとラシュトンタービンの実験結果しか記載されていませんけど、傾斜パドル Pitched Paddle でも似たようなものなのかなとは思います。冒頭でも触れたように量産スケールの反応器では、傾斜パドルインペラを2段としましたが、インペラ直径と同じくらいは離していましたね。まあ、1.5倍 離せば確実に単段インペラの動力特性と同じにはなるんですが、それだと少し離しすぎなように思います。あまり根拠は無いんですけども。

この辺りは アクリルモデル槽を用いた実験なんかをすれば分かりますね、大変ですけど。単純にフローパターンを把握したいのであれば CFD で解析してみればもっと楽に結果が得られますね。実際、やってみた事も有ります。速度分布とか壁面せん断速度などの数値が直接的に得られるのですごく参考にはなりますね。インペラ表面に作用するせん断速度を全部 加算すれば撹拌動力も求められますね。で、それを文献の動力曲線と比較した事も有りますけど、まあ割合に合致しているな~って感じでした。

それと、今回は動力とか混合時間について取り上げてみましたけど、気液分散とか固液分散に多段撹拌槽を適用するってのは事例として多いと思います。この辺りについても面白そうなので、また別の機会に取り上げてみようかなと。


参考書籍・文献   References

  1. 「新増補 混合および撹拌」 化学工業社 2000年刊
  2. 「多段翼撹拌槽における翼間間隔が撹拌所用動力に与える影響」 
       化学工学論文集 第2巻 第4号 1976年
  3. 「多段インペラーによる深い槽の乱流撹拌」
       化学工学 第32巻 第4号 1968年




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