今回は液液抽出についてとりあげてみます。参考書籍によれば以下のように説明されています。
「ある溶液の中から1つの成分を選択的に溶解する溶媒を用いて分離抽出する操作で、この抽出操作を行なった後は溶質成分が少なくなった液相を抽残液と言い、溶質が多くなった液相を抽出液と言う。原液から抽出液へ移動する成分が抽質(溶質)であり、抽残液に残るものが希釈剤(抽剤) である」
この抽出操作ですが、少し調べてみると抽出 Extraction と言う言葉が使われだしたのは 1870年代頃らしいです。その後、抽出の概念が確立されたのは 1891年に W. H. Nernst が分配定数を提唱した辺りとの事です。その内容はベンゼンと水の二相間における安息香酸の分配に関するものです。
その後、工業的に初めて液液抽出が実用化されたのは、1909年のルーマニアで エデレアーヌ Edeleanu が灯油から芳香族炭化水素を抽出分離する為に適用したそうです。灯油に芳香族炭化水素が混じっていると「すす」Soot が発生するんで厄介ですよね。多分ですけど 灯油ランプの「ホヤ」の部分がすすで黒くなって暗くなるんだろうな~と。で、このエデレアーヌ法で使用する抽剤は 液体亜硫酸 SO2 なんですね。その後、潤滑油の精製法として溶剤抽出法が実用化されていったそうです。使用する抽剤によって、フェノール法・フルフラール法・プロパン法などがあるそうですね。一般的には脱瀝工程 Solvent Deasphalting と呼ばれますね。
抽出操作については化学工学関連の書籍でも普通に出てきますけど、実務で取り扱う事は無いですね~。なんですが、抽出操作において無くてはならない溶解度曲線とタイラインを実験的に決定してみた事は有りますね。地味~な作業でしたが、結構面白かったですね。と、そんな事で抽出操作について計算してみようかと。
※ 余談ですが、ランプの「ホヤ」は英語で Lamp Chimney ですが、何故 「ホヤ」なのかと言うと「火屋」と書くからなんだとか。61歳にして初めて知りました。まあ、ネット記事ですけど。更に余談ですが、メガネのレンズを製造している HOYA ですが、「ホヤ」には関係無いんですね。東京の保谷に会社が有ったんですね。更に更に余談ですが、韓国に住んでいた頃はあちらでメガネを作ってました。で、レンズは HOYA のが普通に買えますね、しかも すこ~し安く。ただし、納品されるまで期間がかかりますね。日本から取り寄せてるんだろうな~と思いますけど。まあ、もう10年も前の事ですけど。
液液平衡 Liquid - Liquid Equilibrium
✓ 溶解度曲線 Solubility Curve
溶質・抽剤・溶媒の3つの成分間では溶解平衡が成立しており、これを液液平衡と言います。3成分の状態を表現するのには三角座標が用いられますがその前に抽出操作についておさらいしておくと、下図のような操作となります。所謂、単抽出 Single Extraction となりますが例えばベンゼンと酢酸の混合液が分液ロートに入っていたとします。で、そこにジャーっと水を投入した後に活栓をしてガシャガシャガシャっと振盪します。ここいら辺にもいろいろとお作法が有りますが、それについては省略します・・・。十分に振盪した後に静置すると水相が下にベンゼン相は上になりますね、密度の大小によって。そして、酢酸の一部は水相に移行しています。そして、おもむろに分液ロートのコックを開けて水相をビーカーに排出します。と、まあこんな一連の操作によって抽質である酢酸が分離された事になりますね。
- 抽質 Solute 抽出したい物質(溶質)
- 希釈剤 Carrier 抽質(溶質)を含む元の液体 (原料)
- 抽剤 Solvent 抽質を選択的に溶解する液体(溶媒)
酢酸 -ベンゼン - 水の三成分系であれば、酢酸が抽質であり、希釈剤がベンゼンであり、抽剤が水となります。そして、抽出液 Extract は酢酸を含んだ水であり、抽残液 Raffinate は酢酸が減ったベンゼンとなります。
※ 抽出が理解しにくいのは三成分って事もありますが、各成分の呼称にも原因が有るのかな~と思いますね。初学者にとってはすご~くとっつきにくいです。今回もいくつかの参考書籍を当たってみましたが、用語がバラバラで統一されてませんね・・・。まあ、系を構成する各成分が指定されれば、それに対応した溶解度曲線などが描ける訳なんで淡々とやれば良いんだとは思いますけども。んでも、こっちの書籍とあっちの書籍で呼称が違うと戸惑いますよね。
図中の水色の領域では液相は2つに分離します。一方、オレンジ色の領域では液相は均一相となります。また、図中にはいろいろと曲線や直線が描かれています。
- 溶解度曲線 Solubility Curve 一液相と二液相との境界を結んだ曲線
- 対応線 Tie Line 抽出液と抽残液の組成を結んだ直線
- 共役線 Conjugate Line 対応線を斜辺とする直角三角形の頂点を結んだ曲線
それと溶解度曲線には点P が有り これはプレイトポイント Plait Point と呼ばれますが、この点では一液相となり対応線の長さがゼロになりますね。溶解度曲線と共役線は各1本のみ有りますが、対応線は無数に有る事になり任意の組成における対応線が存在します。で、任意組成に対応する対応線をチャッチャと作成するのに必要なのが共役線なんですね。
✓ 酢酸 - ベンゼン - 水系 Acetic Acid - Benzene - Water System
溶解度曲線はオレンジ色の部分と青色の部分に分割されてますが、オレンジ色はベンゼン相で青色は水相となります。で、溶解度曲線上のベンゼン相側の点と水相側の点を結んだ直線が対応線 Tie Line となります。グラフには対応線を何本か描いてますが、前述のとおり直角三角形の斜辺になっているのが分かります。また、ベンゼン相と水相が接続する点がプレイトポイントとなっています。そして、直角三角形の頂点をつないだのが共役線となりますが、この系だとこんな感じなんですね。また、この共役線ですが横軸を水相の水濃度とし縦軸をベンゼン相の酢酸濃度としてプロットすれば描けますね。
抽出操作 Extraction Operation
✓ 単抽出 Single Extraction
次に、実際の抽出操作について計算してみます。対象とするのは前述の液液平衡と同じ酢酸 - ベンゼン - 水系とします。単抽出なので酢酸とベンゼンからなる原料液に抽剤である水をどか~んと投入してかき混ぜます。その後、静置すればベンゼン相と水相とに分離するので、ベンゼン相と水相を排出します。そうすると、水相には酢酸がある程度は含まれているんで分離が進行したとなりますね。 回分式でやっても良いですし、ちょいと手間ですが連続式とする事も可能です。で、その辺りの計算式は以下のとおりとなります。見てのとおり基本は物質収支なんですね。それらを溶解度曲線や対応線などの液液平衡関係に重ねて描いてみると結果が得られるとなります。
✓ 計算例 Examples
- 原料流量 0.007 [kg/s]
- 溶媒流量 0.003 [kg/s]
- 酢酸濃度 0.20 [mass fraction]
■ 図解法 Graphical Method
- 原料中の酢酸濃度 0.20 と三角形の右頂点とを結ぶ線分 FS を引きます
- この線分を原料と溶媒の比率で内分し、その点を M とします
今回の場合 線分FM の長さが 0.3 で 線分 MS の長さが 0.7 となります - 点M をとおる対応線を引きますが、この対応線と溶解度曲線との交点がRとEとなります
- 点Rの縦軸座標値が 抽残液中の酢酸濃度となります
- 点Eの縦軸座標値が抽出液中の酢酸濃度となります
- 線分RM の長さを線分 RE で除した値が 抽出液の流量 E となります
- 全流量 M ( = F + S) から 流量 E を差し引くと抽残液 流量 R となります
- 原料流量 0.007 [kg/s]
- 溶媒流量 0.003 [kg/s]
- 酢酸濃度 0.20 [mass fraction]
- 抽出液流量 0.0422 [kg/s]
- 抽残液流量 0.0528 [kg/s]
- 抽出液酢酸濃度 0.28 [mass fraction]
- 抽残液酢酸濃度 0.03 [mass fraction]
✓ EXCEL ソルバー機能による解法 EXCEL Solver Method
まとめ Wrap-Up
今回は液液抽出について取り上げて、液液平衡や単抽出について計算してみました。典型的な化学工学計算で面白くは有りますが、三成分系なんで複雑では有りますね。調べてみると、四成分系ってのも有ったりしますね。同じ様に三角形作図をして相図を作成しますが、3次元的に描いてあるんですね。こうなってくると見ても良く分かりません・・・。
抽出操作ってのは有機化学の実験とかでは良く出てきますし、割と一般的かなと。分液ロートを両手で持って振盪しますけど、その際に上部活栓の孔が溝と重なってると逆さにした時にジワ~っと液が漏れてきますね。逆に、液を下部コックから排出する際に孔と溝が重なっていないと空気が入ってこないので、液も出てきませんね。なんて事も化学実験あるあるでしょうか。
参考書籍・文献 References
- 「Excel で化学工学の解法がわかる本」 秀和システム 2009年刊
- 「基礎化学工学 増補版」 培風館 2021年刊
- 「第3版 化学工学 解説と演習」 槙書店 2006年刊







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