今回は吸着 Adsorption について取り上げてみます。参考書籍には以下のように記載されています。
「吸着現象は固気、固液、気液、液液などの界面において見られるガスあるいは溶質の濃縮現象であるが、この現象を利用し内部表面積の大きい多孔性の固体粒子(吸着剤)を用いて気体あるいは液体混合物の分離を行う事を吸着操作と言う」
一般的なのはプラントから排出される悪臭成分や有害成分を含む排気を活性炭を充填したカラムに通して除害する吸着塔などでしょうか。勿論、被分離成分の濃度が高い排気をいきなり吸着塔に通すと、すぐに破過してしまいます。まずは、前段にある除害装置を通過させて、それでも除去しきれない分を 吸着操作で除去すると言う感じでしょうか。なので高度処理とか言われますね。
実務では吸着塔の仕様検討とかはやった事は無いですね。なんですが、プラントでは排ガス処理設備としての活性炭吸着塔や、スチレンモノマーに含まれる重合禁止剤を除去するアルミナ充填塔ってのは見た事が有りますね。大抵は 2個1組になっていて、 片一方が運転中はもう片方は吸着剤の再生が行なわれていたのかなと。で、吸着操作においては破過時間 Breakthrough Time がどれくらいなのか? が重要ですが、その辺りを計算してみようかなと。
吸着とは? What is adsorption?
✓ 吸着現象 Adsorption Phenomenon
吸着とは何か? ですが、下図のとおりです。吸着材である固体表面に吸着質が吸い付く箇所が有るんですね。で、ここで扱うのは所謂 物理吸着 Physical Adsorption ですね。似たものにイオン交換もありますけども。また、化学吸着とか生物特異的吸着と言うのも有ります。下図に示すように、ぜ~んぶ吸着なんですがあくまでも広義の吸着となります。
で、吸着材の固体表面に吸着質がピタッと吸い付く訳ですが、その箇所の個数ってのは多いほうが良いですよね。であれば、どか~んとデカい粒子が1個しかないのであれば表面積は限られます。つまりは、同じ固体重量であればより細かい粒子状の方が圧倒的に有利となります。そして、この固体粒子が多孔質で その内部に大きな表面積を有していると更に有利となります。まあ、活性炭とかはそんな造りになってますね。
参考書籍には多孔体の吸着特性は 比表面積、細孔分布、表面特性によって決まると有ります。まあ、普通に考えると比表面積値が大きくて、細孔分布が出来るだけ均一なのが良いんだと思いますけど。で、一般的には活性炭、ゼオライト、メソポーラスシリカなどで、既に広く利用されてますよね。それと、最近では金属有機構造体 MOF , Metal Organic Flamework ってのも有りますね。2025年のノーベル化学賞を受賞していますよね。それなりに歴史は有るようですが、一般に広く利用されるってレベルでは無いのかなと。良く分かりませんけど。
因みに、細孔の大きさの呼び方ってのは国際的に決まっているようで、以下のとおりです。
- マクロ孔 Macropore 50 [nm] < d
- メソ孔 Mesopore 2 [nm] < d < 50 [nm]
- ミクロ孔 Micropore d < 2 [nm]
✓ 吸着平衡 Adsorption Equilibrium
液相とそれに接する気相との間には気液平衡が成り立つように、固体表面の吸着相と気相との間には吸着平衡が成り立ちます。例えば、ベンゼンをある濃度で含む空気を容器に入れて、更に活性炭も一緒に放り込んでおきます。十分な時間が経ったところで活性炭を取り出して重量を測定すれば 重量増加分が吸着量となります。また、流体相が空気などの気相では無く、水などの液相である場合も有ります。活性炭による水道水からの有機ハロゲン化合物の除去などが該当します。まあ、要は気相でも液相でも 際限無く吸着する事は出来ません、って事なんですよね。気相の場合は系の圧力で吸着量が決定されますし、液相の場合は系の吸着質濃度で吸着量が決定されます。こういった縛りが有るのを前提として吸着現象は進行しますし、吸着装置の設計にも影響を与えるって事になりますね。考えてみれば至極当然の事で、水の中に活性炭を入れておいたら有害成分が全部除去出来ました!なんて都合の良い事は有り得ませんよね。
で、気相と液相でも 吸着平衡をなんらかの形で表わす必要が有りますが、温度一定条件において、気相もしくは液相での吸着質 濃度(気相では圧力)に対する吸着相濃度を表わすと便利です。この吸着相濃度ですが、単成分系の場合には単位吸着材重量当たりの吸着質量となります。当然ですが、数式になっているんですね。下図に示すように ラングミュア式 Langmuir とフロンドリッヒ式 Freundlich が一般的のようです。で、それぞれ気相用と液相用が有りますが、圧力を使うか濃度を使うかが異なります。んでもって、圧力の単位に何を用いるか、吸着量の単位に何を用いるかによって 定数値 K とk の値も違ったものになります。
固定層吸着における破過曲線 Breakthrough Curve in Fixed-Bed Adsorption
✓ 固定層内の状態と破過曲線 Fixed- Bed Status and Breakthrough Curve
下図上段は固定層吸着塔で 吸着質濃度 C0 の流体が線速度 u で流入します。そうすると、吸着質は入口に近い吸着材からドンドン吸着していきます。で、しばらくすると 固定層内には青色で示す吸着帯 Adsorption Zone と呼ばれる領域が形成されます。この吸着帯の上流側端面における濃度は CE となりますが、これは 入口濃度とほぼ同じです。つまり、ほぼほぼ飽和していて これ以上は吸着出来ない状態にあります。一方、吸着帯の下流側端面は 破過濃度 CB となっていますが、これは入口濃度に比較すると大幅に小さいので、まだまだ吸着出来るような状態にあります。
結果的に吸着帯には CE から CB をつなぐ濃度分布が形成されます。そして、下図には t2 以外に t1 と t3 における濃度分布も描かれていますが、これは t2 以前 及び t2 以後の濃度分布となります。つまり、固定層吸着塔に排ガスを流し始めると 内部には吸着帯が形成され、それが入口から出口に向かって移動していくんですね。吸着帯の移動する速度は v で示されますが、線速度 u よりはものすご~く遅い速度となります。 まあ、そうじゃないと困りますよね。
そして、この固定層吸着塔は排ガスを流し始めてからどれくらいの時間が経過したら 活性炭を交換しなければならないのか? を知りたいですよね。まあ、もう終わりだよって判断の基準は 吸着塔の出口から除去すべき成分が検出された時点ですよね。それが破過濃度で普通は 異入口濃度の 0.05 ~ 0.1 にするんだそうです。そのまま何もしなければ 出口濃度はどんどん上がってきて最終的には出口濃度 = 入口濃度となります。こうなっては吸着塔を設置している意味が無いのですよね・・・。出口濃度が破過濃度となる時点においては 前述の吸着帯が吸着塔出口に到達した時点と言う事も出来ますね。その辺りを描いているのが下図下段となります。
✓ 破過時間 計算式 Breakthrough Time Calculation Equations
次に流体から吸着材粒子表面への物質移動ですが物質移動流束は 物質移動容量係数と単位体積辺りの表面積 及び 濃度推進力の積となります。んで、その物質流束ですが 粒子表面における濃度勾配と拡散係数及び表面積との積でもあります。ただし、その際に 表面拡散律速なのか細孔拡散律速かで 式は異なりますね。
そして、粒子に到達した吸着質ですが 今度は粒子内に浸透していきますが、ここも拡散によって進行します。下図の最後には偏微分方程式が描いてますが、球における非定常拡散方程式ですよね。こちらも表面拡散律速と細孔拡散律速の2つが有ります。
最後は吸着平衡関係ですが、最も単純なのが直線平衡ですね。吸着質濃度と吸着量との間には直線的な関係が成立し、比例定数が有ると言う事になります。気体の溶解におけるヘンリー定数みたいなものでしょうか。
※ これらの式を使って計算するって事では無いので、数式番号は付けていません。あくまでも、こんな感じの支配方程式なんですよって事になります。まあ、参考書籍のとおりに描いてるだけなんですけども。
まずは、Rosen による解析解ですが式① となります。式中に H1(λ,ν) と H2(λ,ν) が含まれていますが、面倒くさいので省略しています・・・。で、実際に使うのは式②と③になります。どっちを使うのかは、パラメータ ν Z の値によります。ν Z が 50 より大きければ 式②を使いますし、50 よりも小さければ 式③を使います。この ν Z ですが ν は式⑥で Z は式⑦で計算されます。そして、式②でも③でも 左辺は c/c0 となっていますが、破過濃度が 0.1 であれば c/c0 = 0.1 とします。そうすると [ ] 内の値が分かりますので 今度は ( ) 内の値が分かります。erf は誤差関数ですね。で、Z と (1 + ζ) の値も別途計算出来るので T の値が得られます。T は式⑧で表わされるので 既知の値を全部代入すれば 時間 t を計算出来ますが、その値が破過時間 tB となります。
計算例 Examples
✓ 計算条件 Conditions
- 吸着質 分子量 M = 0.084 [kg/mol]
- 吸着質 入口濃度 c0 = 10 [ppm]
- 固定層 層高 z = 10 [m]
- 温度 T = 273 [K]
- 分子拡散係数 Dm = 1.36 x 10^-5 [m2/s]
- 粒子形状 球形
- 粒子半径 Rp = 4.3 [mm]
- 平均細孔半径 rp = 1.16 [μm]
- 粒子空隙率 εp = 0.29 [ - ]
- 屈曲係数 τ = 3.9 [ - ]
- 流体 窒素ガス
- 流体密度 ρ = 1.25 [kg/m3]
- 粘度 μ = 1.66×10^-5 [kg/m s]
- 固定層空隙率 ε = 0.45 [ - ]
- 充填密度 γ = 410 [kg/m3]
- 有効拡散係数 Dp
- 総括物質移動容量係数 KF av
- 出口濃度が入口濃度の 10% となる破過時間 tB
✓ 計算結果 Results
で、出口濃度 c/c0 をいろいろと変えてみて その際の破過時間を計算し、プロットすると下図のようになります。2,000 [sec] を過ぎる頃までは出口濃度は一切 観測されませんが、その後グイッと濃度が立ち上がってきますね。その後、急激に出口濃度は上昇しますが 吸着質成分が吸着材にどんどん吸着していく様子が良く分かりますよね。こんな感じで破過曲線をチャッチャっと計算出来るのが この解析解のスゴイところなのかなと。
✓ 空塔速度、充填高さの影響 Effect of Superficial Velocity, Packing Height
空塔速度 0.1 [m/s] の場合、破過時間は 3,109 [sec] なので吸着帯 移動速度は 0.0032 [m/s] と計算されます。 これは 空塔速度の 1/30 くらいなんですね。つまり、吸着帯はすごくゆっくりとジワ~っと移動していくってのが分かります。
一方、充填高さを変えてみたのが下図 下段グラフとなります。こちらはリニアに増加していうように見えます。まあ、吸着帯移動速度が同じであれば 高くなればなるほど破過時間は長くなりますよね。
✓ 固定層 吸着塔のサイズ Size of Fixed - Bed Adsorption Tower
まとめ Wrap-Up
ただ、計算自体はそれなりに面倒くさいです。まあ、一度 EXCEL のセルに入力すれば良いんですけども。で、もっと簡単な式ってのは無いのかな~と調べてみると有りますよね。活性炭単位重量当たりの有機ガス吸着量と吸着速度定数が分かれば、入口ガス濃度、仕込みの活性炭重量などを与えれば 破過時間が得られます。まあ、事前に吸着量とか吸着速度定数を実験的に得ておく必要は有るとは思いますが、前述の方法に比べると格段に簡単です。どんな用途に使われているのかなと言うと、呼吸保護具 吸収缶における破過時間の推定とかのようです。所謂 、防毒マスクですよね。余談ですが、防毒マスクを装着していると呼吸はしにくいし、声も届きにくいので 何とも不便ですね。まあ、だからこそちゃんと有毒成分ガスを吸収してくれているんだとは思いますけど。
参考書籍・文献 References
- 「化学工学便覧 改訂7版」 丸善 2011年刊
- 「化学工学便覧 改訂4版」 丸善 1978年刊
- 「基礎化学工学」 培風館 1999年刊
- 「小型活性炭カラムにおける有機ガス破過曲線の近似計算の検討
産業衛生学雑誌 第55巻 第2号 2013年










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