身のまわりの化学工学 No.32 炒め調理 Stir Frying

 今回は身のまわりの化学工学シリーズとして、「炒め調理」Stir Frying について取り上げてみます。前回は「揚げ調理」Deep Frying でした。調理方法についてですが、ご存知のとおり以下の方法が挙げられます。生ってのもありますが、それは除外します。


  • 茹でる  Boil
  • 煮る   Simmer, Stew
  • 焼く   Bake, Grill, Roast, Fry
  • 揚げる  Deep Frying
  • 炒める  Stir Frying
  • 蒸す   Steam

こんな感じで調理方法が様々に有りますんで、それをうま~く使った料理ってのも有る訳ですね。ゆで卵、肉じゃが、焼き魚、唐揚げ、野菜炒め、焼売 等々でしょうか。んで、今回の「炒め調理」ですが 「焼き調理」に似ている部分も有りますが、「目玉焼き」ってのは有っても「野菜焼き」ってのは無いですよね。まあ、「焼野菜」ってのは有ったりしますけど。んで、目玉焼きも野菜炒めも、フライパンに油を敷いて加熱し、そこに具材を投入するって点は同じです。なんですが、野菜炒めでは菜箸で具材をかき混ぜたり、フライパンをエイッと振って具材をかき混ぜる 所謂 「あおり」と言う操作を頻繁に加えますよね。まあ、目玉焼きの黄身が崩れたりしたら グジャグジャっとかき混ぜて、急遽 スクランブルエッグになったりはしますけども。

比較的に単純な「煮る」とか「揚げる」とは違って 、炒めるってのは このかき混ぜ操作が特徴的なのかなと。例えば、町中華とかで料理人が炒飯を作る際には、これでもかと言うくらいに中華鍋を振ってますよね。そして、業務用ガスコンロからは 家庭用では決して不可能な量の炎が吹出してたりします。と、それはさておいて 炒め調理について少し計算してみようかと。



※ 今回も Google Gemini に画像を作成して貰いました。いかにも有りそうな感じです。余談ですが 韓国で一人暮らししていた際には、日曜の昼は大抵 チャーハンでした。勿論、「チャーハンの素」をつかってましたけど。普通に都市ガスのガスコンロですが、良い感じで作れますよね。これまた余談ですが、都市ガスはハングルで  도시가스 ですが、そのまま「トシガス」と発音すれば OK です。




炒め調理とは? What is stir frying?


炒める Frying  に かき混ぜるのステア Stir  をくっつけて Stir Frying となります。単に Pan Frying とも言いますね。参考書籍には炒め調理についての記載があるので 少し紹介しておきます。

✓ 油の役割 The role of oil


フライパンを熱して そこに野菜をエイッと投入して 盛大にあおり操作を加えても、しんなりして少し焦げた焼野菜が出来るだけですね、多分。ここに油脂と言うか油(普通はサラダ油) を加えるのが不可欠なんですが、この効果は以下のようです。

  • 食品に付着または吸収されて油の持ち味を出す
  • 食品のフレーバーや色の発現に役立つ
  • 食品が鍋に付着するのを防ぐ、また食品が相互に付着するのを防ぐ

確かに油が有ると食欲をそそる風味が有りますし、色味も良くなりますよね。そして、何より焦げ付いたりはしないですよね。特にお肉を使う場合はそうなりますね。中華料理だと ラードを使ったりしますが、これまた特有の風味が有りますね。

✓ 炒め調理のコツ  Tips for stir frying


この辺りについてはネットにもいろいろと有りますが、一応 参考文献に記載されている項目は以下のとおりです。

  • 材料の切り方
  • 材料の下処理
  • 炒め方
  • 仕上げ
  • 供卓の仕方

洗った食材はちゃんと水を切るとか、食材の種類によって火の通りやすさが違ったりするので 大きさを加減するとかなんですかね。で、炒め方ですが フライパンを十分に加熱してから油を入れそして食材を入れる、そして 強火で短時間に仕上げるのが肝要、との事です。昔のフライパンはすぐ焦げ付いて大変でしたが、今はテフロンコーティングされていて 余程の事が無い限り焦げ付いたりしなくなったので非常に楽ちんですね。韓国在住時はロッテマートで購入した Tefal のフライパンを愛用してました。


炒め調理過程の伝熱モデル  Modeling of Heat Transfer in Stir-frying


今回主に参考にしたのが 以下の文献となります。J-Stage で検索してみると 炒め調理の伝熱モデルについて取り上げているのはこれくらいでした。

「炒め調理過程の伝熱モデル」
    日本食品工学会誌  第6巻  第4号  2005
     渡辺 学 三堀 友雄 酒井 昇

酒井 昇先生は 東京海洋大学 海洋生命科学部 食品生産科学科の名誉教授のようです。所属されていた 「食品熱操作工学研究室」は代替わりして 現在は 福岡 美香先生が教授となっているようです。熱操作工学と言うくらいなので、マイクロ波加熱や通電加熱、茹で調理など幅広く研究されています。実に興味深いです。

✓ バルクの熱収支  Heat Balance for the Bulk


野菜炒めを想定してみると、キャベツ、ニンジン、タマネギ、豚こま肉など細断された具材があって、それらを油を敷いたフライパンとか中華鍋などで加熱します。更にその際に かき混ぜ操作を加えます。菜箸でかき混ぜたり フライパンを前後に振ったりします。なので、細かく見ると 具材 一つ一つに高温のフライパンから熱が伝わっていき 温度が上昇していきます。なんですが、具材全部を ひとかたまりの「バルク」 として取り扱う方が格段に容易ですし、厳密では無いにしても ある程度には炒め調理をモデル化出来そうですよね。

と、その辺りを表わしているのが下図となります。フライパンが有ってそこに具材が入ってますが、フライパンは加熱されています。そうすると、フライパン 壁面温度が上昇しますんで 低温の具材 (バルク) に向かう熱流が発生します。で、バルク温度が上昇すると表面から周囲空気への熱流も発生しますが、これは顕熱流 Sensible Heat Flow です。と、同時に 具材表面や含まれる水分の蒸発とそれによる熱流が発生しますが、こちらは潜熱流 Latent Heat Flow となりますね。これら3つの熱流の収支によってバルク、即ち 具材の温度が決定される事になります。まあ、当然ですが徐々に具材温度は上昇していく訳ですけども。で、これらの熱収支をどんどん計算していけば 具材温度の経時変化が計算出来ます。

顕熱流については 表面積×熱伝達係数×温度差が熱移動速度となりますし、潜熱流については 蒸発潜熱×物質移動速度が熱移動速度となります。とまあこんな感じで、炒め調理においても伝熱工学の知見が適用可能って事になるんですね。




※ このようなモデルは 0次元モデルとか集中定数系と呼ばれますね。本来、バルクにも温度分布とかが有りますが それを無視して 一つの温度で代表させます。それによって取り扱いが簡単になりますし、そもそも あまり細かいところを突っ込んでみてもそれほど意味が無いって事も有るのかなと。野菜炒めのこっちのニンジン温度とそっちのタマネギ温度が多少違っても問題は無いのかなと。

✓ 静止バルクにおける伝熱  Heat Transfer in Static Bulk


この文献ですが、炒め調理の対象と言うか具材として扱っているのが 「もやし」Bean Sprouts です。因みに もやし炒めも美味いですよね。で、ご存知のとおり もやしは細長い小片ですが、この もやしを熱平板上にパラパラッと積み重ねておいて 加熱すると言う予備的な実験を実施しています。そして、この もやし層内の温度変化を測定しています。当然ですが、もやし層は静止した状態で底部 熱板によって加熱しています。下図のとおりです。

具体的には 1 [kg] のもやしを一辺 245 [mm] の銅製角型容器に入れたとの事ですが、その層厚みは 50 [mm] になったとの事です。で、この角型容器には 予め熱電対が 3つ設置してありますが 底部から 2、22、48[mm] の高さになります。熱電対の素線は一般的な 銅 - コンスタンタンで温接点は容器の中心です。なので、底部からの熱がジワ~っと伝わってくると温接点の温度が上がってきます。

なんですが、実際に実験を実施する上では難しい面が有ります。と云うのも、非定常熱伝導の実験を実施しようとすれば、時刻ゼロにおいて瞬時に底部温度を所定温度とする必要があります。そして、その後のもやし層内の温度変化を計測します。熱電対が設置されていないのであれば予め底部温度を上げておいて、そこにドサッともやしを投入すれば良いですね。しかし、そこに熱電対素線が有る場合、 もやしを均一に投入するのはだいぶ難しいですよね・・・。で、文献ではどうしているかと言うと 少しづつもやしを投入して もやし層を形成させた後に電気ヒーターによる加熱を開始しています。まあ、普通はそうなるかなと。



そして実験結果ですが下図のとおりです。文献中に記載されている図をトレースしています。後半は結構変動しているんで、さすがに数値として読み取るのは困難でした。で、結果ですが単位面積当たりの加熱速度は 10 [kW/m2] との事です。所謂、熱流束一定条件で加熱しているんですね。見ると 底部温度はすぐに立ち上がってきますが、それ以外についてはジワ~っと上がってきてます。で、文献でも 静止バルク層においては 加熱面のごく近傍の温度はすぐに上昇するが、一方 それ以外についての温度上昇は極めて遅いと指摘されています。即ち、もやし層においては熱の伝わり具合は極めて遅いとなります。まあ、実際 燃やし層の熱拡散率の値はだいぶ小さいんですね。文献に記載されている値は以下のとおりです。

  • もやし層  5.807×10^-8 [m2/s]
  • 空気    2.806×10^-5 [m2/s]
  • 水     1.601×10^-7 [m2/s]

この実験結果から、もやしのような具材を炒める場合 かき混ぜ操作、所謂 「あおり」が必要である事が分かります。そうじゃないと フライパンに入れた具材の上の方はいつまで経っても生のままって事になりますね。 それと、下図 下段グラフは もやし 1個にΦ0.5[mm] の熱電対を挿入し、そしてそのもやしを容器底部にピタッとくっつけた場合と、2[mm] ほど浮かせておいた場合の もやし内部の温度変化です。確かに、接触しているもやしの方が明らかに温度上昇が早くなっているのが分かります。




✓ 炒め調理の伝熱モデル  Heat transfer model for stir-frying


文献では 上記の結果を考慮して かき混ぜ操作有りの場合の炒め調理における伝熱モデルを構築していますが、いくつか仮定をおいています。

  • 加熱面からバルク最底部への熱移動は接触熱伝達のみによる
  • 静止状態のバルクでは最底部から他の部分への熱移動は起こらない(熱拡散率はゼロ)
  • 撹拌操作によって最底部の小片は完全にバルク内に均一に分散する
  • 各小片の熱物性値は一定で、水蒸気発生は無いものとする

で、この仮定に基づいて炒め調理が進行すると想定すると 下図のようになります。初期状態 a) では フライパンなどの容器底部にバルク層が接触します。次の状態 b) では接触熱伝達によってバルク最底部の温度が上昇します。そして、 状態 c) において かき混ぜ操作をエイッと実施します。そうすると 温度が高い部分がバルク内に分散します。そして、状態 d) において バルク温度が均一化するものと考えます。以後、このサイクルをどんどん繰り返して行けば 炒め調理が進行して バルク温度が上昇するって事になります。

つまり、かき混ぜ操作をガシガシ 繰り返すほどバルク温度はより速く上昇する事になります。町中華で炒飯を作っている場面では1回の「あおり」が 1秒にも満たないくらいのスピードで やってますよね。




✓ バルク温度 計算式  Bulk Temp. Calculation Equations 


で、かき混ぜ操作を行なった場合のバルク温度の計算式については以下のとおりです。が、その前に もやしのような細片の取り扱いについて説明しておきます。下図にあるように容器にもやしをパラパラっと入れて ある体積 VB になったとします。そして、この時のもやしの個数は別途 数え上げておきます。で、式①に体積と個数を代入して三乗根をとると 長さ δ となります。これはもやし1個の占める体積と同じ体積を有する立方体の一辺の長さとなります。文献では バルク1層厚さとしています。で、式②では容器断面積 S を δ の2乗で割り算していますが、これは バルク1層に含まれる もやしの個数 n となります。

文献には計算例が記載されていますが、内径 250 [mm] の円筒にもやし 1000個を投入すると バルク層の高さは 80 [mm] になったとの事です。この場合、1層厚さは 15.8 [mm] となります。そして、1層に含まれる もやしの個数は 197 個となります。で、この容器の底板はアクリル板になっているので 下から覗き込んでみると 実際に 底板に接触しているもやしが分かりますが 67個 だったそうです。なので、67/197 = 0.34 と言う値が得られますが、これが接触率 η と定義されます。で、この場合 底部加熱面に接触している 67個が加熱され温度が上昇した後、エイッとかき混ぜ操作を1回加えると この67個が 残りの 933個 と混ざり合って あるバルク温度になると言う事なんですね。う~ん、これって 全もやしの 6.7 [%] でしか無いですよね。となると、結構 かき混ぜ操作を繰り返さないといけないのかな~と思いますね。



  
そして、バルク温度 計算式は以下のようになります。式③は 底部加熱面に接触している層が受け取る熱量です。見てみると もやし 1個の重量、比熱、かき混ぜ操作頻度、加熱時定数が含まれていますし、接触率 η ×1層当たりもやし個数 n も含まれています。一方、式④は 全もやしが受け取る熱量ですが、その熱量は当然ですが 式③によって得られた ΔQ となります。なので、式③と④から式⑤が得られます。見て分かるように かき混ぜ操作1回ごとのバルク温度が逐次的に得られます。





✓ 計算結果  Results


で、初期温度 20 [℃] で底部加熱面温度 120 [℃] で 900 個のもやしを炒め調理した場合の温度の時間変化は以下のようになりました。まあ、当然ですが時間が経過すれば バルク温度は上がっていきますけど、今回の計算では 何回 かき混ぜ操作をしたかによるんですね。かき混ぜ頻度 Stirring Frequency を 1/1 [Hz] とした場合、1秒に1回 かき混ぜます。1/10 だと 10秒に1回、1/60 だと 60秒に1回 かき混ぜる事になります。結果を見ると、確かに かき混ぜ操作を激しく行なった方が温度の上昇は早いですね。なんですが、下図下段グラフは かき混ぜ頻度に対して温度をプロットしていますが、かき混ぜ頻度 1/10 よりも上げても 温度はそれほど上がってませんよね。なので、町中華の厨房で ものすごく ガシガシとあおり操作を行なっているのは また別の目的があるのかなと言う事が文献でも言及されています。



せっかくなんで、容器内径を変えて計算してみました。これまでの計算結果からも分かるように炒め調理においては 底部加熱面に直接 触れている細片の多寡が 伝熱におけるボトルネックです。であれば 同じ量であれば ベタ~っと平べったい容器に入れて炒めた方が有利ですよね。バルク層体積が同じになるようにバルク層高さを調節してます。で、結構 効果が有りますね。なので、デカいフライパンとか中華鍋で 炒め調理するのが 良いと言う事にはなるのかなと。まあ、あまりやみくもに大きいのも腕が疲れてしまって大変だと思いますけど。


 

絵を描いてみるとこんな感じです。Tefal のサイトを見ると 29 [cm] のフライパンとかが有りますね。そして、業務用中華鍋にいたっては 直径 600 [mm] とかも有りますね・・・。重量は実に 4.7 [kg] となります。




まとめ  Wrap-Up


今回は 炒め調理について取り上げてみましたが、ある程度の仮定は必要ですが 伝熱モデルを構築するって事も まあ出来そうですね。ただ、食材が 「もやし」 だけってのはあまり現実的では無いですよね。肉野菜炒めとかなると食材も複数種類ですし、その形状やサイズも異なります。この辺りを詳細にモデル化するってのは なかなかハードルが高いのかなとは思いますね、21世紀 令和の時代になっても。今回のような 0次元モデルとは異なる手法である DEM法 (離散化要素法, Discrete Element Method) が出て来た頃には、これで何でもかんでも出来そうな気がしてましたけど あまり応用が進んでいないんでしょうか。

にしても、炒め調理は手っ取り早くて それなりに見栄えもしますし、調理法としてはものすご~く頻繁に使われるのでは無いかなと。蒸し調理とかに比べれば格段に敷居が低いですよね、フライパン 一つが有れば何とかなりますし。そして、天ぷらに代表されるような揚げ調理とかは外食が基本のような感じですよね。まあ、がっつりやっているご家庭も有るのかとは思いますけど。

それと、今回の伝熱モデルですが 壁面掻き取りタイプの撹拌槽における伝熱モデルと基本的に同じ考えですね。すご~く粘っこくて壁面に付着して全然流動しないような流体を加熱・冷却する場合においては、壁面表面をスクレーパーで強制的に掻き取ります。それによって壁面近傍の流体を強制的にバルクへと取り込みます。壁面近傍の流体がジャケットに通液されている媒体で加熱されているのであれば ジワ~っと熱伝導で加熱されますが、そのままだと頭打ちになりますね、温度差が小さくなっていくので。なので、ある程度時間が経ったら エイッと掻き取ります。そうすると また新たに流体が壁面に流れ込んで来て 再び ジワ~っと加熱されます。壁面流体の更新頻度は スクレーパーの回転数によりますね。回転数を上げれば 更新頻度が上がりますんで、加熱速度も増加する事になります。回転数が 60 [rpm] でスクレーパーが 2つ設置されているのであれば 0.5 [sec] に1回 掻き取られる事になります。 そんなこんなで 取り扱い手法が同じだな~と思って文献を読んでました。酒井先生も当然 その辺りは念頭にあったんだろうなとは思います。食品ってのは粘度が高くて ドロドロしているものも多いですしね。


参考書籍・文献  References


  1. 「炒め調理過程の伝熱モデル」
        日本食品工学会誌  第6巻  第4号  2005
        渡辺 学 三堀 友雄 酒井 昇
  2. 「揚げる・炒める」
        化学教育 第32巻 第4号 1984








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