化工計算ツール No.127 Ruth のろ過速度式 Ruth's Filtration Rate Equation

 今回は Ruth のろ過速度式 Ruth's Fltration Rate Equation を取り上げてみます。ろ過については、以前 このブログでも 「No.90 回転真空ろ過器」で取り上げました。その時にも、 Ruth のろ過速度式自体は出てきましたね。何ですが、今回は ろ過実験データを用いてろ過速度式中に含まれる 定数値を計算してみるってのをやってみます。まあ、元ネタは有りまして やはり伊東 章先生の著書などですね。で、粉ものに関連するのでやはり粉体工学用語辞典で「ろ過」を検索してみると以下のように書いていますね。

スラリー中に懸濁している不溶解物質を,ろ布,ろ紙,金網,膜,粒子層などのろ材により,捕捉粒子とろ液とに分離する操作で,古くから工業の広範な分野で用いられている。(中略) ろ過の対象となるスラリーの固体濃度は,数 ppm の希薄スラリーから, 20 vol% 程度の濃厚スラリーにまで及ぶ。1 vol% 以上の固体を含むスラリーのろ過をケークろ過, 0.1 vol% 以下の場合を清澄ろ過という。ろ過機構からは,ろ材またはケーク表面で機械的に粒子を捕捉する表面ろ過と,ろ材層内部で物理的または化学的に粒子を捕捉する内部ろ過または深層ろ過に分類できる。

まあ、固液分離手法の一つとなりますね。固気分離についてもろ過と言う場合もありますが、「集塵」と呼ぶのが一般的でしょうか。で、このろ過ですがよっぽどスカスカのろ材を使わない限り固体粒子はほぼ完全に分離されますね。なので、ろ過精度云々よりは処理量の方が重要なのかなと思います。そして、重要なのがろ過操作の最中に処理量 即ち ろ過速度が低下する事ですね。と言うのもろ過しているとろ材の上にケークが堆積していって抵抗が増加します。このタイプのろ過を「デッドエンドろ過」と言いますが、その名のとおり「行き止まりろ過」なんですね。まあ、そうじゃないのもあって そちらは「クロスフローろ過」となりますね。

実務では、ろ過して得られたケークが製品ですよってのはあまり経験が無いですね。微粒子プロセスで技術検討した事も有りますが、その際は遠心ろ過器とかだったかな~と。因みに、分離された固体粒子がサビなどの不要物であれば、それらを除去するのは「フィルター」では無くて「ストレーナー」ですね。例えば、ポンプサクションに設置されてますね。



ろ過速度式 Filtration Rate Equation


✔ ろ過の種類  Types of Filtration


前述のとおり、ろ過のスタイルと言うかやり方には大きく2つ有ります。「デッドエンドろ過」と「クロスフローろ過」となりますが、図を見たほうが分かりやすいですね。デッドエンドろ過は見てのとおり、スラリーがろ材に対して垂直に流れてきて固体粒子が堆積します。そうするとケークがどんどん厚くなりますんで、結果としてろ過速度が低下します。一方、クロスフローろ過においてはろ材に対してスラリーが平行に流れます。そうするとろ材にケークが堆積してもせん断力によって剥離すると言う現象が起こります。なので、ケークがどんどん堆積していくと言う事は無いんですね。と言う事はろ過速度の低下具合は、デッドエンドろ過の場合よりは小さいって事になりますね。



 

✔ Ruth のろ過速度式 Ruth's Filtration Rate Equation


定圧条件下でデッドエンドろ過実験を実施して、時間とろ液量とのデータを得たものとします。時間に対して ろ液量の2乗をプロットすると下図のようにほぼほぼ直線になるんですね。ただし、ろ過開始直後においては曲線となってしまいます。で、B.F. Ruth 先生は 仮想体積 V0 と仮想時間 t0 なる定数を導入して、ろ過時間の全域で直線となる事を見出したんですね。それが式①なんですが、これは微分方程式である式②の解になっているんだそうです。で、この式②が Ruth のろ過速度式となります。

で、得られた実験データを用いて 定数値である ろ過定数 K と 仮想ろ液体積 V0 を決定すればデッドエンドろ過において ろ液量がどれくらいの速度で増えていくかとか、ケーク厚みがどれくらいの速度で増えていくかなどが計算出来ます(式⑥と⑦)。そして、この2つの定数値の決定法ですが、まあ EXCEL のソルバー機能を使うのが手っ取り早いですね。式①を式④に変形した上で、K と V0 を探索すればOKです。また、 Ruth プロットと呼ばれる手法も有りますね。式②は微分方程式ですが、これを差分化して変形すれば 式⑤となります。この式をみると一次方程式となってますんで、x軸に ろ液量 V をとり y軸に Δt/ΔV をとってプロットします。そうすると直線が得られますが、傾きが 2/K となり y切片 が2V0/K となります。まあ、結果はどちらの方法でも同じになりますけど。

そして、2つの定数の意味合いですが、まず ろ過定数 K はケークのろ過抵抗を示しています。一方、仮想ろ液体積 V0 はろ材の抵抗に相当する仮想のケーク層が形成する為に必要なろ液量を示しています。つまり、ろ材の抵抗を後から形成されるケーク層の抵抗によって表している事になります。このように考える事によってろ材とケークとを別々に分けて考える必要が無くなって、取り扱いが簡単になると言う利点が有るのかな~と思います。Ruth プロットが成立するんであれば、このような取り扱いは妥当だと言えますよね。




計算例  Examples


✔ ろ過定数値の決定    Determination of Filtration Constant Value

定圧ろ過実験を実施して、その実験データが与えられているものとして ろ過定数 K と仮想ろ液量 V0 を求めてみます。参考書籍の計算例では 時間が [hr] だったんですけど、ピンとこないので [sec] にしています。下図の  が実験データ点ですが、時間の経過に伴って勾配は小さくなっていきますね。つまり、ろ液量の増加割合は頭打ちになります。これがデッドエンドろ過の特徴となります。そして、グラフ中の実線は 計算で得られた ろ過定数 K と仮想ろ液量 V0 を使って計算したろ液量の時間変化です。EXCEL のソルバー機能で得られたものですが、まあドンピシャ同じになりますね。で、 得られた Kと V0 の値はグラフ中に示しています。この実験データだと、1分間で 2リットルぐらいのろ液が得られてますね。例えば、排水などの 浮遊物質量 SS, Suspended Solid を分析する場合には吸引ろ過しますが、時間的・量的にはこんなもんでしょうか。んでも、2リットルの排水をじゃ~っと注ぎ込むのはそれなりに大変です。

 


冒頭では Ruth 先生が独自の取扱いを適用した云々と説明しましたが、その点を検証してみます。下図 グラフの緑色 実線は時間に対して ろ液量 V の2乗をプロットしたものです。確かに、ろ過開始直後は曲線になってますね。で、ここに ろ過定数 K と仮想ろ液量 V0 を適用してみると、キレイに直線が得られている事が分かります。



で、せっかくなんで Ruth プロットでも K と V0 を求めてみます。少しデータがガタガタしていますけど、K については 前述の結果とほぼ同じ値が得られています。 V0 については少し差異が大きいですね。で、この Ruth プロットで得られた K と V0 を使って 時間に対するろ液量も計算しているんですね。計算例の最初のグラフに 青色 破線が併せて描いてありますが、それがこの Ruth プロットによる K と V0 によるものです。少し差異が有るんですけど、ほぼほぼ同じかなと。




✔ ろ過速度の時間変化  Time Dependency of Filtration Rate


では、次にろ過定数 K と仮想ろ液量 V0 を使って デッドエンドろ過におけるろ過速度の経時変化を計算してみます。前述の K と V0 を使って計算した結果が下図となります。上段グラフはろ過速度ですが、ろ過開始直後は相対的に大きなろ過速度となっていますが、その後急激に低下しています。これがデッドエンドろ過の特徴であり、限界なんですね。また、ケーク層厚みについてはろ過開始直後はグイっと上昇しますが、その後は時間に比例して増加していますね。



まとめ   Wrap - Up


今回は Ruth のろ過速度について取り上げて、実験データを用いて ろ過定数 K と 仮想ろ液量 V0 について計算してみました。そして、その結果を用いてろ過速度とケーク層厚みの経時変化についても計算してみました。一度 実験してデータを採取しておけば、ろ過操作中におけるろ過速度やケーク層厚みを推定出来るんですね。そして、「回転真空ろ過器」にもその結果を適用する事が出来ますね。

まあ、ろ過操作ってのは正直なかなか難しいですよね。ドロドロのスラリーをろ過装置へ装入して出てくるのはろ液とケークとなりますが、ろ液はともかく ケークは湿潤固体となるのでハンドリングがなかなか・・・。乾いていても扱い難いのが粉体とか固体ですが、更にそれが湿っているとなると。んでも、製品が粉体と言うのであれば致し方無いですね。

実務ではろ過について取り扱う事はほぼ有りませんでしたが、全くゼロでも無いんですね。ポリマープラントであれば最終段の処理装置として造粒機 ペレタイザーが有るんですが、例えば Under Water Pelletizer とかですね。このシステムでは冷却水が循環してるんですが、そこに切り粉が含まれるんですね。その切り粉を除去するんですが、固液分離と言えばそれくらいでしょうか。また、反応器などのポリマーに接する装置は定期的に溶媒で洗浄しますが、その際には溶剤中に含まれる異物と言うか不溶物をろ過して除去する必要が有りますね。と言っても、番手の大きめの金網で除去出来る感じですかね。溶剤で膨潤してゲル状になってブヨブヨになってたりして 扱い難いのはそうなんですけどって事を思い出しましたね。

参考文献・書籍   References


  1. 「基礎式から学ぶ化学工学」 化学同人 2017年刊
  2. 「Excel で解く化学工学10大モデル 第3回 濾過のRuth式」化学工学会誌 第79巻 第1号 2015年
  3. 「化学工学II」 岩波書店 1963年刊













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