化学・化学業界の話題 石油と石油化学のアレコレ Petroleum and Petrochemicals a la carte

 今回は久しぶりに化学・化学業界の話題として「石油と石油化学」Petroleum and Petrochemicals について取り上げてみます。最近はいろいろと報道やニュースなどでも石油関連の話題が取り上げられる事が多いですね、あまり良くない意味で・・・。と、それぐらいヒトの日常生活において欠くことの出来ないモノだと言うことになりますね。まあ、私も長いこと ケミカルエンジニアとして化学業界で食い扶持を稼いで来ましたけど、このような油が入ってこないと言う状況は社会人になってからは記憶に無いです。社会人になってからも中東危機と言うか、湾岸戦争とかイラク戦争とかが有りましたけど。何かあると確かに原油価格は上がったりしますけど、それなりに輸入は出来ていたのかなと思います。とまあ、地政学的な事とかは良く分かりませんし門外漢なので特には触れませんけど、石油と石油化学に関する内容についていくつか取り上げてみようかなと。





どんだけ原油を輸入しているのか? How much crude oil are we importing ?



✓ 日本の年間原油輸入量  Annual Crude Oil Imports, Japan

日本は全く産油量ゼロでは無いですが、国内需要を賄うには全く足りません。なので、輸入せざるを得ないのが実状です。それはお隣の韓国でもそうです。で、どんだけ輸入しているのかですが、統計データが資源エネルギー庁から公開されているので そちらを使ってグラフにしてみると下図のようになります。

グラフ中には中東絡みと言うか世界的な出来事を記載していますが、第一次石油危機は第四次中東戦争に起因していますし、第二石油危機はイラン革命による石油産業の国有化に起因しているとの事です。なんですがガンガン輸入していますね、高度成長期ですし。その後 1985年頃にかけて輸入量は減ってますが、AI によればそれは省エネが進んだとかLNGなどの別のエネルギー供給源を使うようになったとの事です。そして、1986年から 1991年は所謂 バブル経済の期間であり空前の好景気となったんですね。その後は徐々にですが輸入量は減少しています。2020年にガクンと減っているのは コロナ禍 COVID-19 によるものですね・・・。 




で、年間の原油輸入量は分かりますけども、人口の影響が有ります。インドとか中国は輸入量も多いですけど それは人口が多いせいですよね。なので、原油輸入量を人口で割り算してみると下図のようになります。国民一人あたりの原油輸入量となります。まあ、経年的変化は年間輸入量の変化と傾向は同じです。で、その値ですが 1974年に 2.65 [kL/person yr] を記録しており その後一旦下がってまた上がりますが、2000年代はず~っと下がってます。値としては 半分くらいですよね。勿論、ガンガン使えば良いって訳でも無いですし、より省エネとかリサイクルが進捗しているのであれば それはそれでOKですよね。

そして、お隣の韓国ですが国民一人あたりの原油輸入量は 2021年に 2.95 [kL/person yr] であり、日本の2倍以上となります。んじゃ、韓国はふんだんに石油を使ってすご~く贅沢な暮らしをしているのか? と言えばそうでは無くて、輸入した原油を精製して 更にそれらをケミカルプラントで化学製品に加工して輸出しているんですね。この辺りについては、韓国企業で勤務していた際にもすご~く実感していました。と言うのも、デカい40フィートのコンテナに 製品の入ったフレコンをパンパンに詰め込んでるんですね。そして、それをこれまたデカいフォークリフトでトレーラーに載っけて どんどん出荷してるんですよね。これが毎日休み無く行なわれていました。

んで、この荷役作業的なものですが 実に阿吽の呼吸なんですね。フォークリフトでコンテナを持ち上げてますが、それをトレーラーの荷台のピッタリの位置に降ろさないと駄目ですよね。フォークリフトは前後に動けますが左右には動けません。なので、トレーラー側で微妙に前後に動かして調節するんですね~。その様子を見ていると、フォークリフトの運転手さんがクラクションを「ププッ」と鳴らすと トレーラーの運転手さんがほんの少し前に行ったり逆にバックしたりして位置を合わせるんですね~。見る度に「うまいもんだな~」と思ってました。と、韓国では国策で石油精製とか石油化学を推し進めてるんだろうな~と思います、多分。まあ、モノが良ければ お隣の中国がガンガン買ってくれますしね。




どうやって原油を運んでいるのか? How is crude oil being transported?


✓ 原油タンカー  Very Large Crude Oil Carrier


原油は中東の油田で多く産出されますが、運んでこないといけませんよね。で、海運と言うかタンカーですよね、輸送手段としては。一般的には VLCC, Very Large Crude Oil Carrier  と呼称されるようです。ものすご~く大きなサイズの船舶となります。例えるならば、スカイツリー 634m よりは長くはないですが、東京タワー 333m よりは長いです。下図のような感じです。VLCC よりも小さめのサイズだと、スエズマックス Suez - Max とか アフラマックス Aframax となります。また、図には無いですけど パナマ マックス Panama - Max とかが有ります。スエズとかパナマってのは運河で、その運河を通過出来る ギリギリの大きさによって タンカーサイズが決まってるって事になります。んじゃ、ホルムズマックスってのは無いのか? と思いますけど、こちらは海峡なので 人工的に造った運河と比較すると格段に大きいので、タンカーが大きくてもOKって事なんだと思います、多分。それと アフラマックスってのは 平均運賃指標 Average Freight Rate Assessment に由来するとの事で、中型タンカーに相当するそうです。

 


✓ 原油輸送ルート  Crude Oil Transport Routes


そして、どこを通ってくるのかですが まあ海上輸送なので海ですよね。Google Earth にエイッと輸送ルートを描いてみました。下図のとおりですが、距離にして実に 12,000 [km] となりますが、これは地球 1/4周分となり実に遠いです。タンカーの速度が 15 ノット (27.78 km/hr]) だとすると 所要日数は 18日間となります。ネット記事では 20日間ぐらいとありますね。まあ、3週間くらいでしょうか。

で、具体的なルートですが 今 話題となっているホルムズ海峡を通過しインド洋を南下し、次にマラッカ海峡とシンガポール海峡を通過します。その後は北上して台湾沖を通過して 日本近海に到達します。下図にはホルムズ海峡とシンガポール海峡の画像を載せてますけど、海峡とは言えそれなりに距離は有ります。一方、パナマ運河とかスエズ運河とかは 同じ縮尺で見ても良く分からないくらいに狭いですよね。まあ、ヒトが造ったものなのでしょうがないとは思いますけども。

それと、ホルムズ海峡も狭いですけど シンガポール海峡もだいぶ狭いです。なので、超大型タンカーである ULCC, Ultra Large Crude Oil Carrier だと通過出来ないんだとか。水深が浅いんですね。となると、代替ルートとしてバリ島の東側にあるロンボク海峡を通るルートが有るそうなんですが、だいぶ遠回りになるんで 3日くらい余計にかかるそうです。となると、その分 燃料代も必要になりますし 出来れば避けたいところですよね。




石油精製  Oil Refining


✓ 原油 常圧蒸留  Crude Oil Topping Column


そんな感じで中東から苦労して持ってきた原油ですがそのままでは使えないので精製します。この辺りはネットとか書籍にも記載されていますが、各留分の沸点差を利用して常圧蒸留によって分離します。下図のとおりです。

この常圧蒸留塔は トッピングカラム Topping Column とか トッパー Topper とか言われますが、塔頂のリフラックス Reflux に加えて サイドリフラックス Side Reflux を3つ用いるのが一般的との事です。下図は1塔式ですが 2塔式というのも有って、その場合 予備蒸留塔で 6~15段、精留塔では 35~55段との事です。そんなに段数が多いわけでは無いんですね。トレーとしては バブルキャップ型 Bubble Cap Tray とかバルブ型 Valve Tray が使われるそうです。

で、トッパーの上の方から軽い成分が、下の方からは重い成分が留出してきます。図には 炭素数と沸点温度範囲を記載してあります。昨今 何かと話題になるナフサ Naphtha ですが、炭素数は 5 ~ 12 くらいなので 割と上の方から留出してきます。ガソリンとかもこれに含まれますね。そして、常圧蒸留で得られるのは直留油とか言われるものですが、これだけでは 成分的に問題が有るとか、特定の成分をもっと欲しいと言う事が有ります。なので、直留油を改質 Reforming したり 分解 Cracking したりします。


参考書籍には 常圧蒸留塔の特徴が記載されているので紹介しておきます。

  • 経験則が重視される
    原油は数千~数万もの成分から構成され、化学的にも パラフィン、ナフテン、芳香族など様々な成分が含まれます。なので、ケミカルプロセスにおける蒸留操作のように こんな成分がこんな組成となっている液を処理すると言うレベルでは無く、こんな蒸留曲線(沸点分布曲線) の液を処理しますとなるんですね。結果、理論的では無くて経験則によって段数が決まっている、となります。

  • 複雑なシステム
    このブログでも蒸留操作について取り上げていますが、McCabe-Thiele 法で計算出来るようなシステムであれば、原料フィードが有って、塔頂からは留出液が出てきて、塔底からは釜残液が出てくると言うシンプルな構成ですよね。なんですが、下図を見て分かるように、側留油 Side Cut があったり、側還流 Side Reflux が有ったりして複雑です。ある程度は計算も出来るようですが、やはり経験が優先されるようです。

  • 処理能力が非常に大きい
    ご存知のとおり 現代社会では ガソリンやらエチレンやら すご~く大量に使いますので、当然 それを生産する設備である トッパーもデカくなります。参考書籍によれば 製油所の処理能力は 10万 ~ 20万バレル との事なので 年間だと 580万 ~ 1320万 kL となります。となると、時間当たりでは 660 ~ 1320 kL となります。う~ん、デカいですね。そして、技術的にはこの数倍も可能との事らしいですけど。で、なんでこんな処理量が可能なのか? ですが、扱っているのが液体であるって事、そして 蒸留操作が大量処理に向いているって事になります。確かに トッパーには 可動部分や回転部分は無いですし、熱さえ与えれば軽質成分が蒸発して勝手に下から上に向かって流れてくれます。反対に重質成分を含む液は これまた勝手に上から下に向かって流れます。まあ、その分 熱エネルギーを投入する必要が有りますんで、日本の化学産業におけるエネルギー消費量の40%は蒸留によるもので、日本の全エネルギー消費量に対しては 6% になるんだそうです。





石油化学   Petrochemical


✓ ナフサの熱分解  Naphtha Thermal Cracking

前述の トッパーによって原油をザックリと分離しますが、得られた直留油を用いて更に改質や分解を行なう事によって 欲しい成分を作り出します。で、例えば ナフサの熱分解によってエチレンを生産しますが、その際の概略フローは下図のようになります。

加熱した管にナフサとスチームを吹き込み 800 ~ 850 [℃] で熱分解を実施します。分解炉を出てきたガスは 400 [℃] まで急冷し、その後 硫化水素や二酸化炭素などの酸性ガスをアルカリ洗浄で除去し、圧縮・乾燥します。次に、 脱メタン塔、脱エタン塔、脱プロパン塔、脱ブタン塔 そして 脱ペンタン塔を順次通過し それぞれの成分が分離されます。因みに、ガスは脱メタン塔で マイナス 100 [℃] に冷却されて、水素とメタンが分離されます。 概略フローだと 下図のとおりですけど、本来はも~っと複雑ですよね。



✓ C8 芳香族成分の分離精製  C8 Aromatics Separation and Purification


ずっとスチレン系樹脂製造プロセスの設計やらなにやらやって来ましたんで、芳香族製品についても触れておこうかなと。前述の ナフサの熱分解によって 分解ガソリンが得られますが、これを原料にして含まれる 芳香族成分を分離します。下図のとおりです。

C8留分をまず精密蒸留しますが、これで m - キシレンとp - キシレン が分離されます。確かにエチルベンゼンの沸点温度は 136 [℃] で少し低めですし、一方 o - キシレン の沸点温度は 144 [℃] であり それなりに高めです。で、m - キシレンと p - キシレンですが 沸点差がほとんど無いので蒸留での分離は厳しいですね。なので、深冷分離によって分離します。融点差は結構有りますんで。で、エチルベンゼンが得られればそれを脱水素してスチレンモノマーが得られます。




✓ ポリマー製品  Polymer  Products


最後に基礎化学品から生産されるポリマー製品についてまとめてみますが下図のとおりです。汎用ポリマーとしては、ポリエチレン PE、ポリプロピレン PP、ポリスチレン PS、ポリ塩化ビニル PVC ですが、これに アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン ポリマー ABS と ポリエチレンテレフタレート PET を加えると 大体はカバーしているかなと。とまあ、こんな感じで日用品とかに使われているポリマー製品も元をたどれば 中東から持ってきた原油に由来するって事なんですよね。で、こんな状況になったのは ここ 50年くらいなんだろうな~と思います。





まとめ  Wrap-Up


今回は石油と石油化学のアレコレと言う事で あまり脈絡も無い感じですが 原油とか石油精製、石油化学について取り上げてみました。改めて見てみると、1億トンもの量をよくも持ってきているな~と思います。しかも、ちょっとお隣からでは無く 中東から 12,000 km もの距離を万里の波濤を超えて持ってきているんですよね。まあ、そうじゃないと現代の我々の生活は立ち行かないって事になってるんですけども。で、このブログを書いている時点でも あまり状況は変わってないですよね・・・。まあ、どっちも落としどころを探ってるんでしょうけど、少しでも自分たちに有利な条件で決着したいとは思ってるんでしょうし。

それと、今回 やっぱ面白いな~と思ったんですね 、石油精製とか石油化学ってのは。勿論、それ以外の産業分野ってのもそれなりに面白味が有るんだとは思いますけど、この化学品がこっちの化学品の原料となっていて、なんちゃら反応によって変換されていく過程とかがダイナミックで面白いです。まあ、個人的にはなんちゃら反応 云々よりは 反応器とか熱交換器とか蒸留塔とかの生産装置の方に関心が有りますけども。そして、取り扱うモノがドロドロしてたり、ネチョネチョしてたりすると 更に面白いですね~。 

参考書籍・文献  References


  1. 「有機工業化学」 化学同人 1980年刊
  2. 「現代有機工業化学」 化学同人 2020年刊
  3. 「やさしい蒸留」 分離技術会 2011年刊
  4. 「実践 蒸留プラント設計」 日刊工業新聞社 2009年刊
















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