今回は揺動撹拌について取り上げます。その名のとおり、槽を揺り動かす事によって液を撹拌し混合を進行させる方法となります。参考文献によれば、インペラを用いた撹拌操作とは2つの点で異なるとされています。まあ、長所って事になるんでしょうか。
- 撹拌翼による打撃や剪断作用による細胞等の破壊が回避出来る
- 槽の幾何学的形状が単純なので洗浄等が容易で多品種少量生産に向いている
細胞の破壊云々と有るようにバイオ系ラボでは振とう器とかシェーカーなどに設置された三角フラスコがグルングルン動いてたりしますね。まあ、ガンガン 撹拌したいのであれば 普通にインペラで混ぜる事にはなりますよね。なので、その辺りが逆に短所って事になるんでしょうか。そして、インペラとかバッフルとかが無いのですご~くシンプルです。と言う事は、エイッと原料を仕込んで 処理し、その後にこれまたエイッと製品を排出して洗浄すれば良いので それなりに楽ちんですね。実際、大きめの 例えば プラスチック製の 50 L 容器をこれまた結構デカい 振とう台に載せてる例とかも有りますね。
でも、このような振とう操作によってフラスコの中身がどれくらいの時間で混ざるのか? とか 、消費動力はどれくらいなのか? と言うのは以前から思ってましたね。で、調べてみると やはり名工大の平岡 節郎先生のグループが論文を発表されてるんですね。見てみると所要動力とか混合時間などの実験式が記載されています。とまあ、その辺りを少し計算してみようかなと。
揺動撹拌とは? What is shaking vessel agitation?
✓ 円運動による揺動 Circulating Motion Shaking
揺するって操作ですがいくつか有りますね、パッと思いつくのは往復運動 Reciprocal Motion、円運動 Circulating Motion、八の字運動 Figure - Eight Motion とかでしょうか。もっと激しくするのであれば 上下運動 Up and Down Motion も有りますけども。で、最も一般的なのは 円運動かなと思います。下図は 内径 D を有する槽が 直径 d の円周上を公転しています。このような単純な円運動であればクランク的な機構があれば割りかし簡単に実現可能かなと思います、多分。で、参考文献には揺動撹拌における フローパターンについても記載されています。そして、フローパターンは回転数の影響を強く受けるとの事なんですが、実はこのフローパターンの変化が混合過程に強く影響してるんですね。文献では「混合限界回転数」Critical Circulating Frequency for Mixing, Nc と呼称されていますが、この回転数を境にして混合の進行度合いが全然違ったものになります。と言うか、この限界回転数以下では 完全混合状態には到達出来ず、槽内液のどっかにデッドスペースが発生している事になります。
- 混合限界回転数 以下 below Nc
文献では 「進行波型」 Progressive Wave Type とされています。進行波については 「流体粒子は波の進行方向には移動せず 垂直方向に円運動している」、と有ります。単に流体が上がったり下がったりしているだけなのかなと。例えが妥当かどうかはアレですけど、スタジアムとかで観客がやるウェーブみたいなものなのかなと。 - 混合限界回転数以上 above Nc
文献では 「旋回流型」 Rotational Flow Type とされていますが、流体はグルグル旋回します。つまり、液中に循環流が形成される事になり それによって混合が進行します。前述の「進行波型」と比較すると明らかに違いますよね。
文献には可視化画像も載ってますが 潰れていて だいぶ分かりにくいので絵にしてみるとこんな感じかなと。これはどうやって採取したものかと言うと、アルミ粉を液中に投入・分散させ そこに幅 5[mm] のスリット光を投射しています。そうすると光の当たった粒子はキラキラっと光ります。で、それを撮影しますが シャッタースピードを良い感じに調節すると トレーサー粒子の軌跡が得られます。シャッタースピードが早すぎると単なる点となりますし、遅すぎるとべろ~んと長い線になってゴチャゴチャになります。今は PIV法 Particle Image Velocimetry でエイッとやるんでしょうけど。余談ですが文献で使用しているカメラは Nikon FE で、フィルムは高感度黒白フィルム ネオパン 1600 との事です。大学時代の研究室でも カメラを使ってましたけど そう言えば ネオパンも使ってましたね~。そして、シャッタースピードは 1[s] なのでだいぶ長いですね。
で、肝心のフローパターンですが 混合限界回転数以下だと ほんとにその場で円運動しているだけなんですね。そして、水平断面を見てみると 軌跡は点々となっていて 全然動いていないです。一方、限界回転数以上だと 明らかに旋回流が発生している事が分かります。
で、肝心のフローパターンですが 混合限界回転数以下だと ほんとにその場で円運動しているだけなんですね。そして、水平断面を見てみると 軌跡は点々となっていて 全然動いていないです。一方、限界回転数以上だと 明らかに旋回流が発生している事が分かります。
揺動撹拌の特性 Characteristics of Shaking Vessel Agitation
✓ 混合特性 Mixing Performance
参考文献によると 揺動撹拌における混合限界回転数 Nc は フルード数 Fr とレイノルズ数 Re によって相関されると有ります。それが式①となります。で、フルード数ですが式②に有るように分母に重力加速度 g が含まれている事からも分かるように 重力の影響が有りますね。液面が上がったり下がったりするんで 重力が効いてるんですね。そして、このフルード数ですが 代表長さとして 槽内径 D を用います。
また、式②はレイノルズ数ですが流体系では必ずと言っていいほどに出てきますね。面白いのは レイノルズ数で用いるのは回転直径 d となります。で、式④ですが 限界回転数 Nc について整理した結果との事です。この式を見ると、槽径 D 、回転直径 d が影響しているのが分かります。そして 動粘度 ν も少しですけども効いているのが分かります。そして、混合時間ですが 式⑤ によって求められますが この式には 限界回転数 Nc が含まれています。この式を見て分かるように、限界回転数 Nc よりも大きな回転数で揺動しないと混ざらないって事になってますね。Nc よりも 小さい N だと混合時間がマイナスになってしまうので。
また、式②はレイノルズ数ですが流体系では必ずと言っていいほどに出てきますね。面白いのは レイノルズ数で用いるのは回転直径 d となります。で、式④ですが 限界回転数 Nc について整理した結果との事です。この式を見ると、槽径 D 、回転直径 d が影響しているのが分かります。そして 動粘度 ν も少しですけども効いているのが分かります。そして、混合時間ですが 式⑤ によって求められますが この式には 限界回転数 Nc が含まれています。この式を見て分かるように、限界回転数 Nc よりも大きな回転数で揺動しないと混ざらないって事になってますね。Nc よりも 小さい N だと混合時間がマイナスになってしまうので。
✓ 動力特性 Power Consumption
混ざる混ざらないも重要なんですけど、最も重要なのはどれくらい動力を喰うか? ですね。で、参考文献には動力数を求める実験式⑦が記載されています。なんですが、混合特性と同じ様にクリティカルなポイントが動力特性においても見られます。具体的には比較的粘度の高い液を揺動撹拌する際、回転数を上げていくと動力は極大値をとり その後は低下します。で、その時 フローパターンは 旋回流型から進行波型へと変化しているとの事です。こうなると、もう動力は投入されませんし、その結果 混合も進行しなくなりますね。この動力が極大値をとる時のフルード数が 式⑥で得られる事になります。
計算例 Examples
✓ 揺動撹拌マップ Shaking Vessel Agitation Map
揺動する容器の内径ですが 140 [mm] なので ラボ用としては結構デカいビーカーって感じでしょうか。そこに 内径と同じ高さまで液を張り込みます。そして、揺動させますが その回転直径は 20 [mm] とします。
この条件で前述の 混合における限界回転数に関する式①と 動力の極大値に関する式⑥ を実際にプロットしてみると、下図上段グラフに示すように 両式に挟まれた領域が有ります。で、この領域から外れた条件で揺動撹拌しても 全然混ざらないって事になります。んでも、このグラフを見ても「ああそうですか」って感じですよね。なので、液粘度を変えてみて回転数がどれくらいになるのかを計算したのが 下段グラフとなります。
この結果を見ると、液粘度が上がっていくと あるところでもう絶対混ざらないと言う粘度値が有るのが分かります。例えば、低粘度である 0.001 [Pa s] であれば 回転数 1.7 [1/s] から 5.3 [1/s] の範囲内で揺動させれば混ざります。なんですが、これが 1 [Pa s] となると回転数の上限と下限が交わっています。即ち、ちゃんと混ざる為に必要な回転数が存在しないって事になります。なので、少なくともこの容器寸法や回転直径においては 液粘度 1 [Pa s] の液を揺動撹拌で混ぜる事は出来ないとなります。この辺りが揺動撹拌の限界なのかなと思いますね。 勿論、適切なインペラを突っ込んでグルグルかき混ぜれば OK ですね。
この結果を見ると、液粘度が上がっていくと あるところでもう絶対混ざらないと言う粘度値が有るのが分かります。例えば、低粘度である 0.001 [Pa s] であれば 回転数 1.7 [1/s] から 5.3 [1/s] の範囲内で揺動させれば混ざります。なんですが、これが 1 [Pa s] となると回転数の上限と下限が交わっています。即ち、ちゃんと混ざる為に必要な回転数が存在しないって事になります。なので、少なくともこの容器寸法や回転直径においては 液粘度 1 [Pa s] の液を揺動撹拌で混ぜる事は出来ないとなります。この辺りが揺動撹拌の限界なのかなと思いますね。 勿論、適切なインペラを突っ込んでグルグルかき混ぜれば OK ですね。
✓ 混合時間と動力 Mixing Time & Power Consumption
そして、混合時間と所要動力ですが 同じ条件で計算してみるとこんな感じです。ただし、液粘度は 0.01 [Pa s] なので少し高めです。 で、限界回転数の値よりは大きな回転数としないと計算出来ません。限界回転数 近傍だと混合時間も長いですが、回転数を上げると混合時間は急激に減少します。そして、単位体積当たりの動力 Pv [kW/m3] も急激に増加します。揺動撹拌なんでマイルドな撹拌と言うイメージが有りますけど、Pv値を見るとそれなりに動力は投入出来るんだな~と感じました。揺動撹拌 、侮れませんね。それと、回転数の上限が有りますが この条件では 4.4 [1/s] となります。前述のように、この回転数以上とすると フローパターンが旋回流型から進行波型となるので混ざらなくなります。
で、 Pv 値に対して混合時間をプロットしてみる事も可能ですよね。せっかくなので 傾斜パドルの結果、ワイドパドルインペラの結果を併せてプロットしてみました。このブログで既に計算していますんで、その結果を引っぱって来ていますが 粘度値は 0.01 [Pa s] としています。この結果をみるとさすがにインペラ撹拌の方が良いとなりますね。なんですが、0.001 [Pa s] だと混合時間はワイドパドルインペラのそれと同じくらいでした。低粘度液には向いてるんだろうな~とは思いますね。
まとめ Wrap-Up
今回は揺動撹拌について取り上げて混合時間や所要動力について計算してみました。この手の計算は初めてしてみましたが、それなりに動力が投入されているので 結果として それなりには混ざっているんだな~と思います。まあ、そうじゃないとラボとかでは使えないですよね。ただ、ラボでは三角フラスコとかが多いと思うので、槽形状の影響とかもあるんだとは思いますけど。
それと、今回計算してみた所要動力ですが あくまでも 混合を進行させる為に必要な動力なんですね。それ以外に容器とか内液自体を動かす為に必要な動力が必要となるので、振とう器が必要とする動力と言うか電力はもっと大きくなります。参考文献では電力計を使って所要動力を実測しています。で、その際に容器に液を張り込んで そこに蓋をするんですね。そうすると自由表面が拘束された状態となりますんで 進行波も旋回流も何も発生しません。その状態で振とう器の電力を測定します。そして、次はその蓋を外して 自由表面の状態で振とうして電力を測定します。そうすると、後者の電力値が大きくなりますんで その増分が液の撹拌に消費された電力 = 動力となるんですね。
また、他の文献では 温度を測定して動力を決定すると言う方法もありました。これは普通のインペラ撹拌でもそうですけども、揺動撹拌していると内液温度が上がってくるんですね。投入された機械エネルギーは最終的に粘性散逸して熱エネルギーになりますんで。なので、液温度を測定し、温度上昇速度 [K/s] に液重量 [kg] と比熱 [J/kg K] を掛け算すると 所謂 仕事量 [J/s] = [W] となるんで それが所要動力となります。なんですが、正直なところ難しいんだろうな~と思います。完璧に断熱するってのもすごく難しいですし、そうなると周辺空気への放熱量ってのも予め把握しておく必要が有ったりします。まあ、全く無理では無いと思いますけど。
と、今回揺動撹拌について計算してみましたけど 日常生活において マグカップとかコップを手で振ると言う事は割りかし頻繁にしますよね。 インスタントコーヒーの粉をマグカップにエイッと投入して、そこにジョボジョボっとお湯を入れますが そんなんじゃ混ざりませんよね。上の方は薄いし、下の方は濃いしって感じで。そんな時、少し揺すってみますよね、ごく自然に。まあ、液面は多少 上下するのが分かりますし 少しは混ざっているのかな~と。なんですが、今回と同じ様な計算をして見るとそんなんじゃ 全然 混ざってませんからね!!
マグカップ 内径 : 80 [mm]
マグカップ高さ : 100 [mm]
液深さ : 80 [mm]
液量 : 402 [mL]
液密度 : 997 [kg/m3]
液粘度 : 0.001 [Pa s]
限界回転数 : 2.514 [1/s]
適用回転数 : 2.6 [1/s]
混合時間 : 225 [sec]
液面上昇高さ : 13.9 [mm]
限界回転数以上としないと駄目なので 毎秒 2.6 回 揺すってみたとして、その場合でも 混合時間は 225 [sec] なので 3分以上必要となります。それと、液面が揺動するのであんまり激しく揺するとこぼれますよね・・・。参考文献には液面上昇高さの計算式も載っていますんで計算してみると 14 [mm] くらいです。余裕は 6 [mm] なので もう溢れる寸前ですよね。となると 液がこぼれない程度に揺する感じだと思いますが、そんなんじゃ全然 混ざってませんよね。なので、潔くスプーンを使ってグルグルっとかき混ぜれば良いですね、急がば回れです。そして、スプーンでかき混ぜる場合も漫然とするのでは無く、非定常撹拌を意識して 時計方向と反時計方向を適宜切り替える事によってより確実に混ざりますよね。
限界回転数以上としないと駄目なので 毎秒 2.6 回 揺すってみたとして、その場合でも 混合時間は 225 [sec] なので 3分以上必要となります。それと、液面が揺動するのであんまり激しく揺するとこぼれますよね・・・。参考文献には液面上昇高さの計算式も載っていますんで計算してみると 14 [mm] くらいです。余裕は 6 [mm] なので もう溢れる寸前ですよね。となると 液がこぼれない程度に揺する感じだと思いますが、そんなんじゃ全然 混ざってませんよね。なので、潔くスプーンを使ってグルグルっとかき混ぜれば良いですね、急がば回れです。そして、スプーンでかき混ぜる場合も漫然とするのでは無く、非定常撹拌を意識して 時計方向と反時計方向を適宜切り替える事によってより確実に混ざりますよね。
参考文献・書籍 References
- 「水平円運動をする揺動撹拌槽における低粘性流体の混合時間と混合限界回転数」
化学工学論文集 第20巻 第3号 1994 - 「水平円運動をする揺動撹拌槽の所要動力」
化学工学論文集 第21巻 第2号 1995 - 「化学工学の進歩 第34集 ミキシング技術」槇書店 2000年刊









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