化工計算ツール No.158 貯蔵タンクからの放熱 Heat Loss from Storage Tank

 今回は屋外貯蔵タンクからの放熱について取り上げてみます。ケミカルプラントには大小様々な貯蔵タンクがありますけど、まあ普通はタンク本体も内容液も外気温と同じなってますよね。なので、夏は温度が高いですし 冬は温度が低くなってます。なんですが、原料液を特定の温度に維持したいと言う場合も有ります。極端な例で言えば 原料液の融点が常温以上であれば、これはもう加熱しておかないとガチガチに固まりますね・・・。そうじゃなくても、高粘度液であれば ポンプで移送する際に電力消費が過大になります。そんな時は、加熱して温度を上げ 粘度を下げると言う手も有ります。勿論、液温度を下げて貯蔵したいという場合も有ります。温度が高くなると反応したりする場合は冷やしますよね。重合モノマーとかが該当するんでしょうか。まあ、重合禁止剤を添加するって方法も有りますけど。

いずれにしても、貯蔵タンク内の液温度と外気温度との間に温度差があると、その温度差を駆動力として熱移動が起こります。なので、そのままにしておくと 液温度 = 外気温度と同じになってしまいます。まあ、そうすると前述のような不具合が起こりますんで、何らかの方法で加熱 若しくは 冷却する事になります。加熱であれば スチーム でしょうか。お手軽ですし、加熱しすぎるって事も無いですし。一方、冷却するのであれば冷却水とか冷凍水とかでしょうか。どっちも、タンク底部にコイルを設置するのが一般的かなと。

そうすると コイルの伝熱面積とかの仕様を決定する必要があります。その場合 そもそも加熱速度ってのはどれくらいなのか? が明らかになってないと設計出来ないですよね。なので、予め貯蔵タンクからの放熱量を推定する必要が有ります。まあ、その辺りを文献を参考にして計算してみようかなと。



貯蔵タンクからの放熱量  Heat Loss from Storage Tank


✓ 貯蔵タンク Storage Tank

まあ貯蔵タンクと言ってもタイプは様々有るんですが、取り上げるのは 一般的な コーンルーフタイプ Cone Roof type とします。液を貯める部分は円筒形状となっていて天板がコーン状になっています。で、液が貯蔵されているんで円筒形状のどっかに液面が有ります。そうするとタンク内は液相部と気相部に分かれます。そうすると熱の伝わり具合ってのも変わってきますよね。と、そこら辺を絵にしてみると下図のようになります。

そして、タンクから外気への熱流ですが 下図に示すように4つ有ります。天板には保温材は有りませんが、側壁全面には保温材が有るものとします。また、天板・側壁・底板は金属ですよね。それと各部の表面積も併せて示しています。

  • 気相部 側壁からの放熱 from Dry Side Wall
  • 液相部 側壁からの放熱 from Wet Side Wall   
  • 底板からの放熱     from Tank Bottom
  • 天板からの放熱     from Tank Roof



次に各放熱速度ですが総括伝熱係数 U を用いてそれぞれ 以下のように定義されます。貯蔵している液量が分かっていれば 気相部・液相部 面積も計算出来ますね。天板と底板についても計算可能です。外気温度、気相部、液相部、土壌温度は与えられているものとします。そうすると、各部の総括伝熱係数が推定出来れば 放熱速度が求められます。最終的に全部 足し合わせれば タンクからの放熱速度が得られます。まあ、総括伝熱係数なので 熱流方向における各熱抵抗を求めた後に全てを足し合わせ、エイッと逆数をとれば それが総括伝熱係数となります。熱交換器とかであれば 高温側・低温側流体のどちらも強制対流熱伝達となるので、何か適切な推算式を用いて推定出来ますね。なので、そこまで面倒では無いかなと。

なんですが、今回の場合 自然対流熱伝達が絡んで来ますね。特に、タンク内側の気相部と液相部においては。何故、自然対流熱伝達が絡むと面倒くさくなるかと言うと、推算式にグラスホフ数 Grashof Number を含み、そのグラスホフ数には温度差が含まれるからです。この温度差は流体側バルクと自然対流が起こっている固体壁表面との温度差となります。で、そもそも 固体壁表面温度ってのは不明なんですよね。なので、どうするかと言うと何か適当な温度を仮定して 反復法で解く事になります。格段に面倒くさいです・・・。まあ、EXCEL のソルバー機能を使えばサクッと解けますが、今回の場合 以下の4つの熱流についてそれぞれ解く必要が有りますね。
 



✓ 熱伝達係数 計算式  Equations for Heat Transfer Coefficient 


計算手法は面倒くさいんですけども、各部の熱伝達係数 計算式ってのは まあ一般的なものですね。自然対流であれば グラスホフ数が含まれますし、タンク周りの風による強制対流であれば レイノルズ数が含まれます。勿論、物性であるプラントル数も含まれます。そして、放射熱伝達の寄与も考慮します。それと、底板は土壌に接していて 熱伝導によって放熱していますが、こちらについても 考慮します。

参考文献には 自然対流熱伝達、放射熱伝達、土壌への熱伝導の計算式は記載されています。なんですが、タンク周りの強制対流については グラフから読み取るようになっていました。これは少し面倒くさいので 円柱周りの強制対流熱伝達係数の計算式を使う事にします。更に、自然対流と強制対流が同時に起こっている場合はそれぞれの寄与分を考慮する必要がありますね。当然ですが、自然対流による流体の動きが強制対流による流体の動きと正反対であれば 境界層は厚くなるので 熱伝達係数は小さくなりますね。

で、各計算式がどか~んと出てくるんですが その前に こんな熱伝達係数が有るんだよってのを整理しておきます。金属壁面と保温材については厚さと熱伝導率を設定すれば OK なので特に問題は無いです。それとタンク内面については 汚れ係数と言うかコンダクタンスを指定します。となると、残るのは タンク液相部、タンク気相部、天板部、底板部の内外面の熱伝達係数となりますが、これらを求める事になります。そして、下図に示す値が得られれば それらの逆数を全部 足し合わせ、更にその逆数をとれば無事 総括伝熱係数が得られます。




そして、いよいよ熱伝達係数 計算式ですが 以下のとおりです。まあ、そんなに複雑な式は無いです。で、自然対流と強制対流の複合熱伝達ですが 式⑯ で計算出来るようです。単純な足し算では無いんですよね。




計算例  Examples


✓ 計算条件  Conditions

参考文献にはタンク内容液を所定温度に維持している例が有ったので、そちらを計算してみます。計算条件は以下のとおりです。参考文献は 結構古いので 単位系がフィートポンド系で、しかも熱量は 英国熱量単位 British Thermal Unit だったり、温度が 華氏 °F だったりして換算がすご~く面倒くさいです。熱伝達係数が Btu/ft2 hr °F とか言われても全然ピンと来ませんよね。ですが、AI に換算して貰いました・・・。

各項目を見てみると 内径 6 [m] で 高さが 15 [m] なので内容積は 424 [m3] となります。まあ、そこそこ大きなタンクでしょうか。壁面材質の熱伝導率を見ると 17.3 [W/m K] なのでステンレス製ですね。で、外気温は 2 [℃] なんでだいぶ寒いですね。そして、タンク内の気相部温度は 10 [℃] に維持し、液相部は 13 [℃] に維持する事になってますね。そして、外気の風速ですが 10 [mph] との事なので 4.44 [m/s] になります。


✓ 結果   Results


以外に大変でした。まあ、表面温度の収束はEXCEL のソルバー機能を使いましたけども、液相・気相・天板・底板 の4箇所について それぞれ 外表面温度 Tws と内表面温度 Tw が有るんですね。なので、合計 8個の収束計算が必要となります。勿論、各箇所の Tws と Tw は 1回のソルバー計算で収束させるようにしました。ソルバー設定で「制約条件の対象」ってのに追加するんですね。んでも、初期値を適当に入力すると 収束しなかったりしました。そんな時は再計算された Tws と Tw の値をコピペします。何回かやるとだんだん収束してくるんですね。で、おもむろにソルバー機能でエイッと計算します。そうすると無事収束してくれますね。理屈では無いんですよね。

で、結果ですが 各部の総括伝熱係数の値と 放熱速度は以下のとおりです。まあ、こんなものなのかなと。総括伝熱係数は 1 [W/m2 K] 以下となりました。参考文献中の計算例でもこの程度の値だったので、まあ合ってるのかなと。勿論、単位は [Btu/ft2 hr °F] だったんですけども。そして、放熱速度は 2.2 [kW] 程度なんですね。寄与としては 側壁からの放熱が多いです。気相部と液相部を比較すると液相部の方が大きいですね。まあ、液体なので。こんな感じで放熱速度が得られたので、それに相当する加熱速度を突っ込んでやれば OK って事になりますね。因みに、ゲージ圧 0.12 [MPa] のスチームを供給するとして、潜熱の寄与だけを考慮すると必要な供給速度は  3.6 [kg/hr] となります、と AI が教えてくれました。




せっかくなので 各部の温度をプロットすると以下のようになります。Tw はタンク内面温度ですし、Tws はタンク外面の温度となります。保温材が無い場合は 金属壁面での温度となりますし、保温材が有る場合は保温材の表面温度となります。放熱速度が大きい 気相部側壁と液相部側壁の結果を見ると タンク外面温度 Tws は外気温度 に近くなっています。これは保温材の効果って事になりますね。もし、保温材が無い場合だと タンク外面温度は もっと高くなりますから放熱速度も増加します。やっぱり保温ってのは重要なんだな~と思いますね。




最後にタンクの絵を描いてみました。だいぶ縦長な感じですが、放熱云々から言うと不利では有りますよね。このタンクの L/D は 2.5 ですが、1.5 とかにすれば側壁面積が減るので放熱も減るのかな~とは思います。




まとめ  Wrap-Up


今回は貯蔵タンクからの放熱について計算してみましたが思った以上に大変でした。自然対流が絡んでくるので どうしても 反復計算が必要となりますね。まあ、EXCEL のソルバー機能を使えば何とかなるんですが、今回のように何度も反復計算するのは正直 大変ですね。実務においても 今回のような自然対流熱伝達が絡むような場合は有りましたね。そうなると反復計算は必須となります。まあ、それでも やってみればそれなりの結果は得られますよね。全然 解が得られないって事はまず無いので。

にしても、この手の計算ってのは重要なんですが 地味~に大変ですよね。今回の場合は物性とかが文献中に記載されていたので そこまで大変では無かったんですよね。なんですが、実務では 内容液の物性を全部 どっかから引っぱってこないと計算出来ません。自然対流が絡むと 体膨張係数の値とかが必要になるので、「う~ん、面倒だな~」と思ってましたね。空気とか水であれば全然 問題は無いですけども。それと、タンク外面においては自然対流・強制対流・放射がそれぞれ発生しているので いちいち計算して 適切な方法で複合熱伝達係数を求める必要が有ります。この辺りが一般的な管内流とか熱交換器における伝熱とは異なります。まあ、風速が遅いような条件では 自然対流や放射の寄与分が相対的に大きくなるんで、そこら辺をきちんと計算しておかないと精度が悪くなります。

また、今回のような 放熱計算は 外部からの入熱においても適用出来ます。タンク内溶液を外気よりも冷やしておきたい場合とかですね。そうすると、外気温は真夏を想定して 40 [℃] とかにするんでしょうか、特にここ最近は毎年猛暑ですし。また、そんな計算では 日射による入熱を考慮する必要があるのかなと。太陽の位置は時々刻々変化しますし、そうするとタンク外面における直達日射量ってのも時々刻々変化するんで、その辺りはどうやって計算するのかな~と思ったりしますが、すご~く面倒くさそうです・・・。




※ 今回もGoogle Gemini にタンクの画像を作成して貰いました。側壁は保温されていると言うプロンプトにしましたが、天板も保温してくれました。気が利いてますね。


参考文献・書籍  References


  1. "Predict Storage - Tank Heat Transfer Precisely"
    Chemical Engineering  March 22, 1982
  2. 「伝熱工学資料 改訂4版」 丸善 1986年刊




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