化工計算ツール No.162 ロータリーキルン Rotary Kiln

 今回は細長い円筒が軸周りにグルグル回転する ロータリーキルン Rotary Kiln について取り上げてみます。粉粒体関連機器となりますが、セメントなどの焼成用途や粉体の乾燥用途として幅広く使われています。粉モノと言えば粉体工学用語辞典ですが以下のように記載されています、ちょいと長いですけども。ロータリーキルンと言えば、「セメント」 と言うイメージが強いですね。実際、どか~んとデカいセメント用キルンを見た事も有ります。なんですが、熱分解反応とか乾燥用途にも使えますね。樹脂製品向けのパイロットスケールのキルンってのも見た事が有りますね。

  • ロータリーキルン Rotary Kiln
    回転円筒型反応器の一種で,耐火物を内張りした円筒をやや傾斜させて回転し,原料粉体を
    投入して火炎を插入して加熱を行う。主として,セメント,石灰,アルミナなど無機粉体の製造などに広く使われている。連続操作が容易で,若干の溶着性のある粒子でも使用できる反面,円筒内に無駄な空間が多いため,容積当たりの処理量が少なく熱損失が大きい。

  • 回転円筒型反応器   Rotary Drum Reactor
    ほぼ水平に設置した回転している円筒内に粉体を挿入し,円筒の回転運動によって粉体を転動させて均一に混合しながら,固気・固液または固固反応を行う装置。円筒は一般に 2 ~ 5 % 程度の勾配で傾斜させ,粉体を傾斜の上方から供給すると円筒の回転により壁面上部に持ち上げられ,安息角付近で滑り落ち,傾斜の下側の排出口に徐々に至る。特に高温での燃焼・焼成反応,熱分解反応,焼結や乾燥を行うロータリーキルン(rotary kiln)は,多分野で広く使用されている。この反応器は,流体を流通しながら加圧・減圧が必要な反応では回転部のシールに特別な技術・注意が必要である。回転円筒内での粒子の運動はかき上げ板の有無により異なり,粒子と内壁との伝熱係数も変化する。

装置形状としては細長い円筒形なので、入口から装入された粉粒体がプラグフロー的な感じで処理されて出口からドサッっと出てくる事になります。なので、プラグフロー性が必要とされる反応とかには向いていますし、しっかりと乾燥させたいって場合にも向いているかなと思います。で、前述のとおり回転円筒は小さい角度で傾けてありますんで、少しづつですが粉粒体は ズリ落ちてくる感じでしょうか。また、大抵の場合 粉粒体を加熱しますが キルン内部に火炎を吹き込む内熱式と、円筒外部に電気ヒーターとかジャケットを設置して間接的に加熱する外熱式ってのが有りますね。

とまあそんな感じで幅広く活用されているロータリーキルンですが、粉粒体の滞留時間はどれくらいなのか? ってのが気になりますよね。なので、その辺りを文献を参考にして計算してみようかなと。



ロータリーキルンとは? What is a Rotary Kiln?


✓ ロータリーキルン プロセス Rotary Kiln Process


ロータリーキルンを含むプロセスってのはそれこそ沢山有るんだと思いますけど、参考文献に記載されているプロセスフローをご紹介しておきます。セメント用のロータリーキルンってのが一般的なんでしょうけど、窯業については門外漢なのであまりピンと来ませんね。で、下図は塩化ビニル樹脂の脱塩素プロセスとなりますが、肝の機器がロータリーキルンとなります。ここに粉砕した塩化ビニル樹脂を連続的に装入して加熱処理します。そうすると、樹脂中の塩素が脱離して来ますが、これを湿式スクラバーで回収します。図では苛性ソーダで中和してますね。で、脱塩素された樹脂分は 銑鉄を作る高炉に投入して 還元剤として使用するんですね。

このプロセスフローを見ると ロータリーキルンは外熱式で高温ガスが加熱源となります。燃料は COG , Coke Oven Gas なんですが、これは コークス炉ガスとなります。高温ガス発生装置にCOGと空気を装入して燃焼させてるんですね。で、この発生装置にはキルンからの発生ガスも突っ込んでいます。勿論、塩化水素は前述のスクラバーで洗浄しているんですけども、厄介な成分が含まれているのであれば 燃やしてしまった方が楽ちんですよね。機器仕様と処理能力についてですが以下のとおりのようです。

  • ロータリーキルン  内径 0.8 m × 長さ 6.0 m (内容積 約 3m3)
  • 塩ビ樹脂供給量   100 ~ 200 kg/hr
  • 塩ビ/コークス比率    0.5 ~ 4 重量比
  • 平均滞留時間    18 ~ 40 min
  • プロセス窒素流量  50 ~ 100 Nm3/hr
  • シール用窒素流量  20 Nm3/hr
  • 高温ガス温度    400 ~ 450 ℃
  • 高温ガス流量    2000 ~ 3000 Nm3/hr

キルンはそこまで大きくは無いのかなと。L/D は 7.5 なので それなりに細長いですけども。因みに 別の参考文献に記載されているセメント用キルンは内径 6m ×長さ 100 m と書いてありますね。内容積は 実に 2837 m3 となります・・・。で、このキルンに粉砕した塩ビ樹脂を装入するわけですが、例えば 頻繁に目にする塩ビパイプを破砕して大きさ 15 mm くらいにします。そして、処理温度 325℃ とし滞留時間 30 min で処理すると 脱塩素率は 95% になるとの事です。ワンパスで ほぼほぼ脱塩素が出来ているので、機器としての能力は高いのかな~と思います。ですが、塩ビ樹脂を300℃ を超えるような温度環境に置くと、所謂 「ヤケ」が発生したり凝集や融着などが発生し、最悪 閉塞するって事も有り得るのかと思います。脱塩素は出来ても安定して運転出来ないってのは問題ですが、酸化防止の為に窒素を装入したり、凝集を防止する為に粉コークスを装入したりと言う対策をしてるんだそうです。



この プロセスは 年間 1,000 ton の塩ビ樹脂を処理出来るんですけども、実験によって得られたデータを用いて 年間 10,000 ton までスケールアップ検討した結果が記載されています。それによると、キルン内径 2.0m × 長さ 14 m との事です。内容積 43m3 となりますが、まあ 結構デカいですよね、普通にヒトがスタスタ歩ける大きさなので。


✓ ロータリーキルン内の粉粒体の動き Powder Motion inside Rotary Kiln


冒頭の「回転円筒型反応器」  Rotary Drum Reactor についての説明にも有るように、回転円筒内の粉粒体は 特異な挙動を示します。文献やネットで調べた結果などを参考にして、キルン断面における粉粒体の挙動を絵にしてみると下図のようになります。粉粒体の種類と充填率が同じなのであれば、普通に考えてキルンの回転数が影響しそうですよね。で、回転数によって粉粒体の動きは以下のように変化します。

  • 滑り   Sliding
    キルンは回転していますが 粉粒体は同じ場所に留まっており、粉粒体層は壁面でズズ~っと滑っている状態となります。

  • 崩落   Slumping
    粉粒体層は壁面によって持ち上げられますが、あるところまで来ると崖崩れのように粉粒体層が塊のまま滑り落ちます。

  • 転動   Rolling
    粉粒体層は同じ位置に留まっている様に見えますが、粒子は層内をずっと移動しており入れ替わっている状態となります。

  • 滝状流下 Cascading
    粉粒体層の形状はだいぶ変化しています。カスケードと言うのは「滝」の事で、粉粒体層の表面を粉粒体がザザーッと流下している状態となります。

  • 飛散   Cataracting
    粉粒体層の形状は更に変化し先端部分が崩れ落ちるようになります。

  • 遠心運動 Centrifuging
    更に回転数が上がると遠心力が大きくなり粉粒体層はキルンの内壁に押し付けられた状態となります。



まあ、普通に考えると 粉粒体層が「転動層」となるのが良いんじゃないかと思いますよね。粒子が常に動いており、その場所が常に入れ替わっているので 粉粒体層断面において均一性が維持されています。それと、大きなロータリーキルンを遠心運動状態になるまで回転させるのは非現実的ですね。

んで、別の文献には 「転動層」となっている状態の粒子の動きについてもう少し詳しく描いてあります。下図のとおりです。この図には2種類の軌跡 Path が描かれていますが、1つは 回転経路 Rotating Path で円周方向に持ち上げられる様な動きとなります。もう1つは 滝状流下 経路 Cascading Path で上方から下方へと流れ下る様な動きとなります。これら2つの動きが順番に加わる事によって キルンの上流から下流へと向かって粉粒体は移動する事になります。

それと、下図には2種類の経路が描いてありますが、下段は理想化された場合で 2種類の経路がいつも同じ様に起こるものと想定します。分かりやすいし、モデル化もしやすそうです。なんですが、実際には いつもいつも同じ経路になる訳では無くて、図に有るように経路長さが異なっています。まあ、この辺りを考慮してモデル化する必要が有るって事になります、面倒くさいですけども。 





ロータリーキルンの滞留時間 Residence Time of Rotary Kiln


✓ 滞留時間 計算式  Residence Time Calculation Equations


そして、ロータリーキルンに装入された粉粒体の滞留時間ですが いくつか文献を当たってみましたけども、いろいろと有りますね。実験の内容とか導出過程とか いろいろと有るんですけども、最終的な計算式は以下のとおりです。どの計算式にも 回転数 N、キルン内径 D、キルン長 L、キルン傾斜角 θs が含まれています。また、粉粒体特性として 安息角 θr が含まれています。

これらの計算式では 滞留時間 t が1つだけ得られます。まあ、ロータリーキルンはプラグフロー性が高いので これで十分だと言う整理なんだと思います。勿論、滞留時間から少しだけ早めに出てくる粒子も有ると思いますし、遅めに出てくる粒子も有るんだと思います。式⑤については 粉体層の位置を示すパラメータ x が含まれていますが、一番外側の粒子では x = 1 とし、中心に有る粒子については x = 0 にするとの事です。それと式②はキルン内における粉粒体の占有率を計算する式となります。



計算例  Examples


✓ 滞留時間 キルン傾斜角の影響  Residence Time   Effect of Kiln Slope Angle


んじゃま、早速計算してみますが まずは前述の計算式を用いて得られた値を比較してみます。キルン仕様・粉粒体条件・運転条件は前述の塩ビ樹脂 脱塩素用のものと同じにしています。で、キルン傾斜角のみを変えて滞留時間を計算してみると下図のようになります。参考文献では傾斜角2°で 滞留時間は 18 ~ 40 min との事なんで、まあ合ってるかなと。それと、Hashimoto の式と Warner の式は 同じ結果となりますが、式①と④を見比べると 補正係数 f が有るか無いかの違いしか無いのですよね。文献の年代を調べると Warner 式の方がだいぶ古いので、それを参考にしたって事なのかなと。そして、キルン傾斜角が数度 大きくなっただけで滞留時間は結構短くなってますね。




傾斜角 2° とか言われてもピンと来ないので絵を描いてみると下図のとおりです。1° と 3° では結構 勾配が違って見えますね。また、粉体層の厚みを描いてますが これは式②で占有率を計算し、その値から粉体層厚みを求めたものとなります。こうしてみると キルン断面のごく一部にしか粉体は充填されていないって事になります。


✓ 滞留時間 回転数の影響  Residence Time   Effect of Rotation Speed


さて、次にキルン回転数を変えた場合の滞留時間ですが下図のような結果となります。回転数が大きくなると滞留時間は短くなっています。これは前述の「転動層」内の粒子の動きが活発になるからです。んでも、回転数をほんの少し変えるだけで滞留時間が大きく変わるってのは面白いですね。




✓ 滞留時間  安息角の影響   Residence Time   Effect of Angle of Repose


粉粒体特性として 安息角が有りますが、その大小が滞留時間に与える影響について計算してみると下図のとおりとなります。Sullivan 式は変化無しですが、そもそも式中に 安息角が含まれていないのでこうなりますね。文献によるとセメント原料の場合、安息角は 36° なので省略しているって事らしいです。実際、36° 付近においては他の式とほぼ同じ滞留時間となっています。んで、この安息角ですが 平板上に粉体をサーッと落下させた場合の値ってのも有りますし、下図に有るように 回転円筒内における安息角ってのも有ります。文献には こっちだと明確には書いてませんが、まあ測定しやすいのは 平板上における安息角になるのかなと。因みに、平板上の安息角は 「静的安息角」Static Angle of Repose と呼び、回転円筒における安息角は 「動的安息角」 Dynamic Angle of Repose と呼びますね。んで、安息角が大きくなるとキルン内の粉体層厚みが大きくなりますんで、結果として滞留時間は長くなるって事になります。




ここまで計算してきましたけども、Arawaka - Iyoda 式の計算結果もほぼ同じなので使えるんだな~と思いますけど、少し面倒くさいです。と言うのも、粉体層の両端とキルン中心から構成される中心角の値を求める必要が有るんですね。まあ、計算出来ますけども この時必要となるのが 粉体層厚みとなります。今回の計算では 式②を使って求めていますけども、式⑤のみから計算するってのは難しいのかなと。であれば、Warner 式でエイッと計算するのが現実的かなと。


✓ 滞留時間分布関数  Residence Time Distribution Function


単に滞留時間だけじゃなくて 滞留時間分布関数の計算式も参考文献には有りましたんで、計算を試みました。が、うまく行きませんでした。EXCELで計算しましたが、計算値がすご~く大きくなって エラーとなりました。#NUM! ってやつですね。まあ、ガウスの誤差関数とかが含まれていてそれなりに複雑では有りますが、この関数もEXCELには実装されてますし。んで、その参考文献には実験結果から計算した インパルス応答における 滞留時間分布関数 E(θ) の推移が記載されているんですが、すごくシャープなんですね。この事からも ロータリーキルンのプラグフロー性は良好なんだな~と言うのが分かります。下図はこれまた別の文献に記載されている、ステップ応答の滞留時間分布関数 F(θ) となりますが、キルン出口においてスパッと切り替わってるのが分かりますね。まあ、良く読んでみるとインパルス応答の結果を積分したものでしたけど。




まとめ  Wrap-Up


今回の粉粒体関連装置であるロータリーキルンについて取り上げて、滞留時間を計算してみました。まあ、焼成や乾燥・反応用途として使うのであればそれなりに長めの滞留時間が必要となりますよね。前述のセメント用キルンでは 全長は 100m にもなりますし、滞留時間は 1時間との事です。んでも、傾斜角や回転数を変えると滞留時間もそれなりに影響を受けるので、パイロットスケールの装置であれば 傾斜角とかも可変可能な構造になっているのかと思いますね。回転数を変えるのは まあインバータとかでエイッと調節出来ますけども。

んでも、キルンってのは細長い円筒形状では有りますが、今ひとつ 容積効率が良くないのが難点なのかなと。前述のとおり、粉粒体は円筒断面の底の方に有るだけですし。で、対策として キルン内壁にリング状の堰を設置して、敢えて粉粒体を溜めるって方法も有りますね。ただし、そうするとプラグフロー性が影響を受けますけど、何と この堰をスパイラル状にするってのも有るんですね。そうする事によって滞留時間を稼ぐと同時にプラグフロー性を維持するのかなと。そんな仕様のキルンを製造しているメーカーさんもあるようです。こうなってくると やはり実際の粉をパイロットスケールのキルンに投入して実験データをいろいろと採取して実機までスケールアップする事になるのかなと思います。それでも相当に大変だと思いますけども。

また、外熱式キルンだと電気ヒーターやジャケットの熱媒体で加熱するんですが、中の粉への熱移動がどれくらいなのか? ってのも気になりますね。実際、キルン内壁 - 粒子間の 熱伝達係数を実験的に求めている文献もいくつかありますね。これはこれで面白いのでまた別の機会にでも取り上げてみようかなと。




※ 今回も Google Gemini に画像を作成して貰いましたが、特殊な機器なので正直 良く分かりませんね・・・。なんですが、キルン外壁のそれなりに汚れていたりしてそれっぽいな~とは思います。大規模なキルンだと雨ざらしですし、年数が経つとこんな感じになるんだと思います、何となくですけど。


参考書籍・文献   References


  1. 「1000t/y規模パイロットプラントによる塩ビ樹脂脱塩素技術の検証」
      化学工学論文集 第27巻 第3号  2001年
  2. 「キルン内の原料移動および温度分布」
      鉄と鋼 第49年 1963 第13号
  3. 「回転炉内の粒子軸方向混合と滞留時間分布」
      鉄と鋼 第60年 1974 第9号
  4. 「流通式回転炉における炉壁から粒子層への伝熱」
      化学工学論文集 第12巻 第6号 1986年




















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