化工計算ツール No.164 高物質流束効果 High Mass Flux Effect

 今回は物質移動における高物質流束効果 High Mass Flux Effect について取り上げます。凝縮や蒸発のように界面を通して物質が移動する場合、界面において垂直方向の速度成分 vs が存在します。まあ、物質移動速度がそれほど大きくなければ この垂直方向 速度成分もそれほどには大きくないので、無視しても特に問題は有りません。ですが、更に物質移動速度が大きくなるとこの界面速度の影響も大きくなり、速度場が影響を受けるようになります。具体的には 速度分布がギューッと圧縮されたり、若しくは ビヨ~んと伸長されたりします。と、その辺りを絵に描いてみると下図のようになります。

下図 右側が垂直方向速度成分による 速度分布の変化の様子を模式的に描いたものとなります。界面からバルクへと向かう方向を (+) とし、バルクから界面へは (-) とします。垂直方向速度成分 vs がプラスであれば界面からバルクへと物質は移動しますが、それによって速度分布はバルク方向に引き伸ばされた形となります (赤い速度分布)。一方、バルクから界面へと物質が移動する場合、速度分布は押しつぶされた形となります (緑の速度分布)。



因みに 図の左側ですが、界面 接線方向の速度成分について描いてあります。流体 I が流体 II と接触しており、どちらもバルク速度を有しています。どっちかが 固体壁であれば 図中の破線のような速度成分となり、界面速度はゼロとなります。なんですが、流体同士が接触している場合には 界面における接線方向速度成分はゼロとはなりませんね。このような流体 - 流体界面が発生するのは、例えば液体中の気泡における物質移動とか気体中の液滴における物質移動が該当します。とまあ、こんな感じで物質移動が起こっている界面では 接線方向速度成分や垂直方向速度成分が発生しますんで、格段に取り扱いが複雑になります・・・。

そして、速度分布が変形するという事は、その結果として 温度分布や濃度分布も影響を受ける事になります。温度分布が影響を受ければ熱移動速度も変わりますし、濃度分布が影響を受けるのであれば 物質移動速度も変わります。とまあ、その辺りを計算してみようかなと。

実務において物質移動速度を計算するとか、この高物質流束効果を推定するって事は有りませんでしたね~。熱移動についてはものすごく頻繁に計算してましたけど。んでも、高物質流束効果についてはなんだかんだで知ってましたね。化学工学便覧とかにも載ってますしね。




層流場における物質移動  Mass Transfer in Laminar Flow


✓ 平板における速度分布  Velocity Distribution on Flat Plate


高物質流束効果について触れる前に、層流場における物質移動について簡単におさらいしておきます。流れ場における熱移動や物質移動がどれくらいなのか? を求める場合、基礎方程式ってのは全部 明らかにはなってますよね。連続の式、Navier - Stokes 式、エネルギー方程式 そして 拡散方程式が該当しますけど。で、それらを解けば 速度分布・温度分布・濃度分布が得られるので、界面近傍の温度勾配から熱移動速度が得られますし、同様に界面近傍の濃度分布から物質移動速度が得られます。

なんですが、普通は解けませんよね、非線形性が強いので。なんですが、層流で平板上の流れとかであれば 境界層方程式 Boundary Layer Equations を導けば それなりに簡単になります。それをやったのが プラントル数にその名前を残す、あの Ludwig Prandtl  先生となります。まあ、固体壁面近傍 (境界層) だけを考えれば取り扱いが簡単になるって事なのは何となく分かりますけども。そして、得られたのが 層流場における境界層方程式となりますが、参考書籍によれば こちらも非線形なので 解析解を得るのは難しいと有ります・・・。参考書籍には Howarth による 数値解が記載されていますので、そちらを紹介しておきます。と、その前に 一応 境界層方程式等々ですが 以下のとおりです。式①が境界層方程式で、平板上の流れで 主流速度 U∞ が流れ方向で一定であれば 式②となります。で、この式に流れ関数 Stream Function やら無次元距離 η とかを導入すれば 式③となり、これが解くべき式となります。ですが、見た感じ 三階微分の項が含まれていたりして すご~く複雑そうです。なので、数値的にしか解けないんですね。




で、参考書籍に記載されている  Howarth の数値解をプロットしてみたのが 下図となります。無次元距離 η を縦軸にして、無次元速度を横軸にしています。こうした方が速度分布っぽくなりますんで。そして、流体物性(密度と粘度)、バルク流速 及び 平板先端からの距離の値を決めると 無次元距離を実距離に変換する事が出来ます。また、無次元速度は実速度とバルク速度との比になっているだけなので、実速度はサクッと計算出来ます。まあ、実距離と実速度に変換しても、速度分布の形は似たようなものになりますね。で、速度境界層の厚みですが 7mm くらいでしょうか。別の参考書籍に記載されている式でも計算してみましたけども、ほぼ同じ値となりました。



✓ 温度分布・濃度分布   Temp. & Conc. Distribution 


そして、速度分布が分かりましたけども、その結果を用いて 温度分布と濃度分布を計算する事も出来ます。で、速度分布の場合と同じ様な式が得られますね。式⑨と⑩は無次元温度と無次元濃度の定義式となりますし、式⑪と⑫が温度と濃度の境界層方程式となります。最終的に得られる 式⑬と⑭が温度分布と濃度分布の計算式となりますが、速度分布の場合と同じですご~く複雑です。式⑮と⑯は プラントル数とシュミット数となります。





参考書籍には濃度分布の計算例が記載されているので、その方法に基づいて計算してみると下図のようになります。この計算結果ですが シュミット数 = 2 の場合となります。無次元速度分布と無次元濃度分布を同じ図に描いていますけども、濃度分布の方が速度分布よりも下側になっています。結果として濃度境界層は速度境界層よりも薄くなっているのが分かります。これはシュミット数が 2 である為で、もし これが 1 であれば 濃度分布は速度分布と一致します。そして、シュミット数が  1 以下であれば 濃度分布は速度分布よりも上になります。

それと、この濃度分布の計算ですが 式⑭に基づいて計算しますが EXCEL で割と簡単に計算出来ますね。式⑭を見ると シュミット数 Sc が含まれていますけども、Sc = 2 とすれば簡単化されます。んで、実際の計算ですが 無次元距離 η と無次元流れ関数 F との関係は前述のとおり、Howarth の数値解として与えられています。まず、式a. を用いて I1 (η) を計算します。下図では赤枠で囲っていますが、η = 0.4 と 0.8 における F の値を加算して 2 で除して、更に Δη (=0.4) を乗じています。この操作をずーっと実施し、得られた値を積算しています。で、得られた I1 (η) の値を用いて 式b. から I2(η) を計算します。今度は、この I2(η) の値を用いて I3(η) を計算しますが、式 c. は式 a. と同じ操作となっています。で、得られた I3(η) の値を見ると、η が大きくなるにつれて ほぼ一定値となっていて、η = 6.8 では I3(η) = 2.35566 です。で、この 2.35566 を使って I3(η) の値を除す事によって 無次元濃度 θc が得られます。η = 0.8 だと θc = 0.33611 となります。こうやって説明すると面倒くさいですが、EXCEL であればサクッと計算出来ますね。




高物質流束効果  High Mass Flux Effect 


✓ 熱伝達・物質移動 相関式   Heat and Mass Transfer Correlations


高物質流束効果について触れる前に 層流 平板流れにおける 熱伝達・物質移動 相関式を示しておきます。局所と平板全体の両方が有りますが、まあ普通は 平板全体の相関式を使いますね。



✓ 高物質流束効果  High Mass Flux Effect


さて、いよいよ高物質流束効果ですが 結果だけを示すと以下のとおりです。トランスファーナンバー Transfer Number ってのが肝なんですね。で、式㉔と㉕に示すように簡単に計算出来ます。熱伝達におけるトランスファーナンバーは比熱・温度差・蒸発潜熱から計算されますし、物質移動については 界面とバルクの濃度のみが必要となります。そして、このトランスファーナンバーを用いて 高物質流束効果を見積もる事が出来るんですね。ただし、トランスファーナンバーから得られる 関数 g(B) が必要となりますけども、それは式㉘で示される相関式から計算可能です。




✓ 計算例   Examples


それでは計算してみますが参考書籍に記載されている計算例は以下の条件となっています。空気中にヘキサン蒸気が混在しており、これを冷却面に接触させて凝縮させる状況となります。

  • 空気中ヘキサン蒸気濃度   30%
  • バルク温度         34 ℃
  • バルク流速         0.5 m/s
  • 冷却面サイズ        長さ 0.2 m 、幅 0.05 m
  • 冷却面温度         21 ℃

計算に必要な物性は以下のとおりです。バルクと冷却面表面でヘキサン濃度と温度が違うので物性も違ってきます。

  • バルク ヘキサン濃度     0.560
  • バルク 気体密度       1.83 kg/m3
  • バルク 気体粘度       1.98 × 10^-5 Pa s 
  • 冷却面 ヘキサン蒸気圧    16.83 kPa
  • 冷却面 ヘキサン濃度     0.372
  • 冷却面 気体密度       1.56 kg/m3
  • 冷却面 気体粘度       2.00 × 10^-5 Pa s
  • ヘキサン 拡散係数      7.26 × 10^-6 m2/s

で、物質流束の計算結果ですが 下図のようになります。高物質流束効果によって 物質流束が 1.3倍程度 増加している事が分かります。この計算例の場合、シュミット数は 1.77 となっているので、前述の濃度分布計算例における シュミット数 2.0 と同程度です。なので、前述の図に有るように濃度分布がギューッと圧縮されている状態にあると言う事になるのかなと。んでも、物質流束が 1.3倍になるのであれば それによる潜熱流束も増加しますよね。潜熱流束は潜熱の寄与によって顕熱流束よりも 大幅に大きいので、例えば熱交換器の冷却負荷が増加するって事も考えられるのかなと。であれば、熱交換器の仕様とか 冷却水の使用量とかにも影響が有りそうです。





そして、次に 冷却面温度を変えて 物質流束を計算してみた結果が下図となります。バルク気体温度は 307 K ですが、冷却面温度を下げていくと 物質移動の駆動力である ヘキサン分圧差が増加します。結果として 物質流束が大きくなりますし、高物質流束効果もより強く効いてくる事になります。下図の計算結果では ズルをして物性は一定としています・・・。組成も温度も変わるので ホントは物性も変わってきますよね。

まあ、当然と言えば当然ですが 冷却面温度を下げていくと 物質流束は増加します。加えて、高物質流束効果もより強く効いてくるようになるので、高物質流束効果有りと無しの場合の物質流束の差異は拡大していきます。ただし、これはあくまでも計算値なので 実際の現象においてもこうなるのかは少し疑問では有ります。計算しておいて言うのもアレですけども。




まとめ   Wrap-Up


今回は物質移動における高物質流束効果について取り上げて、ヘキサン - 空気系における物質流束を計算してみました。この効果自体は知ってましたけども、実際に計算してみると 結構 影響は大きいんだな~と思います。凝縮とか蒸発が該当するんですけども、蒸発潜熱が絡むので 潜熱流束は大きくなりますよね。

それと、この高物質流束効果ですが いつでも起こると言う訳では無いようです。参考書籍には 高物質流束効果が起こる限界と言うのが記載されています。下図のとおりですが、トランスファーナンバーとシュミット数から計算されるパラメータ値の絶対値が 0.1 よりも大きくなる場合に高物質流束効果が発現するって事らしいです。そして、液相の場合 シュミット数は 1000 のオーダーなので  B/Sc^(2/3) の絶対値は 大抵の場合 0.1 以下となります。即ち、液相における物質移動においては 高物質流束効果は起こり得ないって事らしいです。


まあ、確かに 気相と液相では 密度が圧倒的に違いますし、拡散してきた物質で境界層の形まで変わってしまうってのは 液相では無いんだろうな~とは思いますけど。


参考書籍・文献  References


  1. 「物質移動論」 共立出版 1976年刊
  2. 「物質移動の基礎と応用」 丸善 2004年刊
  3. 「改訂6版 化学工学便覧」 丸善 1999年刊















コメント