身のまわりの化学工学 No.3 気温33℃は暑く水温33℃は冷たい理由 Why 33℃ air is hot and 33℃ water is cold?

 今回は「身のまわりの化学工学」シリーズの3回目として、「何故 気温33℃は暑く水温33℃は冷たいのか?」について取り上げてみます。前回 No.61「風が吹くと涼しいわけ」では風が吹くと境界層が薄くなり、結果として皮膚表面温度が下がるのがその理由でした。で、今回は皮膚に触れている流体の種類が、空気と水ではどんな違いが生じるのかについて、やはり伝熱工学の視点から考えてみます。
まあ、日常生活においても両者の違いは容易に分かりますよね。 気温 33[℃] であれば、これはもう暑いですよね。まあ、最近は 35[℃]とかも普通ですが・・・。で、水温 33 [℃] であれば冷たいな~って温度ですよね。まあ、サウナの水風呂はもっと温度が低いですけど。






暑いのか寒いのか・・・  Hot or Cold... 

ヒトが暑いとか冷たいとかをどのように感じるについてですが、元ネタである伊東 章 先生の記事には以下のように説明されています。


✔ METs とは  What's METs?

METs は Metabolic Equivalents の事ですが、「運動強度の単位で、安静時を1とした時と比較して何倍のエネルギーを消費するかで活動の強度を示したもの」とあります。歩くとか軽い筋トレなどは 3 METs で、ゆっくりとしたジョギングでは 6 METs 、ランニングや重い荷物を運ぶなどは 8 METs だそうです。因みに、この METs と時間を掛け算したものが 「エクササイズ」となるそうです。運動強度×運動時間=運動活動量となるんですね。 
※ 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット 他

まあ、これだけ書くと 暑い・冷たいとどんな関係が有るのか?となりますね。ですが、ヒトは食べた食物をエネルギーに変えて その結果として体温を維持していますが、1 METs の時には暑くも寒くも感じない熱的平衡状態にある訳なんですね。で、以下でその辺りを計算してみます。


✔ 空気への放熱量  Heat Loss to Air 


計算式自体は前回  No.61 「風が吹くと涼しいわけ」で既出なので、詳細はそちらを参照ください、と言うのもアレなんで主要な計算式は以下の通りですね。平板における層流熱伝達における一連の計算式ですよね。





で、空気中における皮膚表面の温度と放熱量を計算してみると以下のようになりますね。 ただし、平板前縁からの距離は 10 [mm] としています。空気主流温度 28 [℃] での計算結果を見ると、皮膚表面温度は 34.8 [℃] となり、放熱量は 2196 [kcal/day] となります。実際には熱流束 62.6 [W/m2] ですが、ここにヒトの一般的な体表面積 1.7 [m2] を掛け算すると放熱量106.43 [W] となります。で、この値を変換すると 2196 [kcal/day] となりますね。うーん、これはヒトの1日当たり代謝量と同程度なのが分かりますね。 

で、この状態が前述の熱的平衡状態な訳で、これよりも放熱量が小さくなると ヒトは 「暑い!」と感じ、一方 放熱量が大きくなると 「寒い!」と感じる訳なんですね。元ネタ記事によると、1METs は 58.2 [W/m2] に相当するんだそうです。この値よりも大きいか小さいかが大事なんですね。で、計算結果では以下のようになってますね。

  • 空気温度 28 [℃]  放熱 熱流束 62.6 [W/m2]
  • 空気温度 33 [℃]  放熱 熱流速 23.4 [W/m2]




空気と水  Air & Water  

さて、次は 流体が空気と水の場合を計算して、両者の違いを明らかにしてみます。ここが今回の投稿の肝部分ですね。


✔ 水への放熱量  Heat Loss to Water 


まずは空気と水の温度分布ですが、明らかに違いが有りますね~。この違いは境界層の厚みの違いに起因していますね。水の方が1桁小さい事が分かります。で、皮膚表面温度の違いは 2.77 [℃] くらいなんですね。




更に、放熱量ですが下図のとおりです。こちらは結構な違いが有りますね。値は 6.5倍ほど違います。コレくらい違うと「冷たい!」と感じる訳なんですね。


  • 空気 33 [℃] 放熱量    23.48 [W/m2] 
  • 水  33 [℃] 放熱量  153.29 [W/m2]


とまあ結果はこんな感じなんですが、その理由は空気と水の熱物性の違いに起因しているんですね。伝熱工学的に言うとプラントル数 Prandtl Number の違いとなりますね。伝熱工学における代表的な無次元数で Pr = (Cp×μ)/k となります。分子は比熱容量と粘度の積で、分母は熱伝導率ですね。物理的な意味合いは、対流伝熱と伝導伝熱の比率とでもなるんでしょうか。対流伝熱と言っても流速の値は含まれないので、あくまでも物性から見たポテンシャルの違いと言う事なのかなと。ある流体が有って、伝熱が伝導のみで行なわれる場合と対流によって行なわれる場合の比率って感じでしょうか。因みに、33[℃]であれば空気と水のプラントル数は以下のようになりますね。


  • 空気 Pr = 0.72
  • 水      Pr = 5.10

 
で、平板における熱伝達係数は レイノルズ数とプラントル数によって決まりますが、各々以下のような結果です。水のほうが圧倒的にデカいですよね(200倍くらい)。とは言っても、熱伝達係数の違いが そのまま放熱量の違いでは無いところが面白いですね。

  • 空気  h =  13.7 [W/m2 K]
  • 水   h = 2867 [W/m2 K]




応用編 サウナの温度


で、伊東 先生の記事では 最後に宿題が有って、それは以下のようなものです。

お風呂の温度からすると熱い方は42℃くらいまでは大丈夫のようです。これから考えてサウナでは何度の空気温度まで入っていられると推定できますか?


なるほど、この問題は皮膚表面温度が 42[℃]に到達する際の空気主流温度を求める、と言う事ですよね。以下のような結果になりますね。これまでは放熱する方向ですが、この計算では入熱しますね。まあ、サウナなんで当然ですね。で、答えは 77 [℃] くらいまでは 頑張れるのでは? です。合ってますでしょうか、伊東先生!? 実際のサウナの温度もこれくらいでは無いかと思いますけど・・・。と、公益社団法人 日本サウナ・スパ協会のホームページを見てみると、「サウナ室内温度は低いところで摂氏 70~80℃、高いところでは 90℃くらいになります」と記載されています。おおっ、なかなか良い感じですね。まあ、ヒトの耐えられる温度になるように設定されてるんでしょうね。お湯であれば、完全に火傷ですよね。で、ザブーンと水風呂に入って体の温度を下げるんですが、これは水で無くては駄目ですよね。これが冷たい空気ではいつまで経っても温度が下がらないので、のぼせますよね。



まとめ Wrap-Up

今回は、平板における対流伝熱を使って、流体物性の違いによって皮膚表面温度がどれくらい違うのかを計算してみました。この結果から、同じ流体温度であっても、空気と水では暑いか それとも 冷たいかが変わるんですね。こんな感じで伝熱工学は結構身近なところで関係してるんですね。

余談ですが、 サウナでは熱波師さんなる方が居て、タオルを振り回して熱波 (熱風ですよね) を送る役割をしてますよね。それによって、より暑くと言うか熱く感じる訳ですが、この行為はまさに 皮膚表面の空気流速を上げる事で 境界層を薄くする事に他なりませんね。んで、熱波師さんのパフォーマンスを見ていて思うのは、うーん サウナ室に強力な扇風機でも設置して熱風を送れば良いのでは無いのかな~と・・・。

サウナ室では無いですが、実務でも熱風炉についてやった事が有って、内蔵電気ヒーターで300 [℃] くらいまで炉内ガス温度を上げるんですね。温度が高いので炉内は完全に窒素雰囲気です(酸化防止)。シロッコファンみたいな送風機で内部の窒素をガンガン循環させてましたね。さすがに送風機の電動機は炉外に設置してました。なので、駆動軸の貫通部が有るんですが まあ窒素が漏れる事もほとんど無く、普通に運転してました。それなりに気は使いますけど。であれば、サウナ室の天井にファンとかを設置してブワーッと空気を循環させれば良いのかな~とか思うんですが(下図参照)。んでも、やはり熱波師さんのパフォーマンスの方がよりエモい!って事なんでしょうか。まあ、確かに天井扇よりはお手軽ですし、より融通が利くのかな~と。





参考文献・書籍 Lit.

  1. 「身のまわりの化学工学 第5回 空気と水の伝熱係数のはなし」 化学工学会誌 第73巻 第4号 2009年


ウェブサイト web site

  1. 公益社団法人 日本サウナ・スパ協会
    https://www.sauna.or.jp/index.html
  2. 厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/



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