今回が2023年最後の投稿となりますが、まあ淡々と行きましょう。今回取り上げるのは、バルブの圧力損失です。ケミカルプラントはもちろん一般の工場などでも、工業用水、スチームや圧空 などの配管が有れば、必ず配管系と言うか配管コンポーネントが有りますね。この辺りについては、以前の投稿 No.53 ケミカルプラントにおける配管 Piping in Chemical Plant でも触れましたね。
さて、配管系において何が重要かと言えば、やはり圧力損失がどの程度なのか?でしょうか。それによって、例えばポンプの仕様が左右されますし。で、配管については、呼び径とスケジュール(内径)、長さ そして表面粗さが分かればどの程度の圧力損失なのかを見積もる事が出来ますね。ですが、配管系を構成するのは配管だけでは無くて、エルボやティーなどの継ぎ手類 そして 流量制御や遮断の為に用いるバルブ類も当然含まれます。なので、これらの圧力損失がどの程度なのかを知っておく必要があります。
と言う事で、今回はバルブの圧力損失がタイプによってどの程度なのかを計算してみようかなと。特にバルブ開度の影響について見てみようかと思います。この辺りはなかなか載ってる書籍も少ないですね。
圧力損失 計算式 Press. Drop Calculation Equations
✔ バルブの種類 Valve Types
まあ、言わずもがなですが 一応一般的なバルブの種類は以下のとおりかなと。これら以外にもニードル弁とかアングル弁とか逆止弁などがありますけど。まあ、構造や仕組みの詳細については書籍やネットなどをご参照ください (手抜き)。
- 玉形弁 Globe Valve
- 仕切弁 Gate Valve
- ボール弁 Ball Valve
- バタフライ弁 Butterfly Valve
✔ 圧力損失 計算式 Pressure Drop Calculation Equations
バルブの圧力損失ですが、以下の2つの計算法が有るのかなと。まあ、どちらの方法でも結果は同じになる筈ですね。書籍によってどちらも有りますね。例えば、化学工学便覧 改訂6版では 管挿入物の相当長さ L/d の表が載っています。また、別の参考書籍では抵抗係数 K の値が一覧表として載っています。個人的に言えばどっちも使ってましたね。さすがに両方を混ぜて使うことはしませんでしたけど。
また、たびたび計算していたポリマー移送配管ですが、バルブの圧力損失とかは全く考慮しませんね、よほどの事が無い限り。流速がすごーく遅いのですから。なので、相当長さにしても抵抗係数にしても、適用されるのは 管内レイノルズ数が 乱流 の場合なんですね。
- 相当長さ L を用いる方法 (実際には 管内径d で無次元化して L/d)
- 抵抗係数 K を用いる方法
さて、この相当長さの値と抵抗係数の値を参考書籍から抜粋して整理したのが下図です。式①はファニング式ですが この式中に L/d が含まれており、これがまあ相当長さですね。式②は 抵抗係数 K による圧力損失計算式です。参考書籍中の L/d と K の値をグラフにしたのが下図 上段グラフです。まあ当然ですが、L/d が増加すれば K も増加します。
また式②を見ると、抵抗係数 K は ファニング式の動圧部分以外を エイッとまとめたものですね。なので、式①と②を比較すると式③が得られ、相当長さと抵抗係数との関係となります。この式③を見ても L/d が増加すると K も増加するのが分かります。で、この関係が有れば 相互に変換出来るんですね。L/d だけが分かっている場合でも、式③によって K に変換可能です。ただし、その際には 摩擦係数 f が必要です。参考書籍中には配管呼び径における摩擦係数の値が載せてありました。それが、下図 下段グラフです。ですが、このグラフに依らずとも計算出来ますね。以前にも紹介した Swamee - Jain式 が適用可能です。粗度を考慮して摩擦係数をサクッと計算出来ますね。ここで、市販鋼管の粗度値を用い、管内レイノルズ数 10万として摩擦係数を計算すると、グラフ中の破線となります。書籍中の値と良く一致していますね。このことから、書籍中の摩擦係数値は粗度を考慮した高レイノルズ数における摩擦係数なんだと分かりますね。 そんなこんなで 計算された摩擦係数値を用いて、抵抗係数を求める事が可能なんですね。
計算例 Examples
で、早速計算してみようかと思いますが、今回は抵抗係数K を使ってみます。ですが、バルブは グローブ、ゲート、ボール そしてバタフライの4種類だけですね。で、前述のとおり全開 Full Open なので開度 100%です。となると、4つ計算してお終いになるんですね・・・。それだけだと寂しいので、開度の影響を見てみようかなと。あまり、その辺りの情報が載っている書籍とかは少ないんですが、無い訳でも無いですね。
✔ グローブバルブ Globe Valve
参考書籍に開度と抵抗係数とのグラフが有ったので、そこから読み取りました。まあ、結構面倒ですね。で、以下の結果となりました。片対数グラフになってますが、グイーっと締め切ると抵抗係数は急激に増加しますね。次に、30[℃] の水を管内平均流速 3.0 [m/sec] で流した場合の圧力損失を計算しています。バルブ開度が 0.7 以上だと 19 [kPa] となりほぼ一定ですね。まあ、グローブバルブなので内部流路が屈曲しているので、それなりに圧力損失は大きいですね。因みに、抵抗係数による圧力損失計算式は物性値である密度と平均流速しか使いません。見て分かるように圧力損失には流速が自乗で効いてくるので、ケチって細い配管とか小さいバルブにするのは考えものですね。やはり、慣用流速(標準流速) にしておくのが無難だと思います。
また、開度と抵抗係数の関係を多項式近似していますが、生データではうまく行きませんでした。なので、抵抗係数の自然対数をとってやると 5次式でうまくフィッティング出来ました。まあ、こんな感じで地道に手持ちのデータを増やしていく作業が大事ですね。
✔ ボールバルブ Ball Valve
次はボールバルブですが、同じように参考書籍のグラフから読み取りました。また、日本機械学会 JSME の書籍には角度ごとの抵抗係数値が表として載っていたので、それらの値をプロットしています。青色の実線はフルボアタイプのボールバルブです。フルボアは配管内径とボール貫通部内径が同じですね。流路が所謂「ツライチ」になるって事ですね。一方、破線の方はボール貫通部の面積が配管断面積に対して 0.7 との事なので、少し絞ってある感じですね。そして、◯ が JSME のデータです。これを見ると破線と大体一致しているので、JSME のデータは絞ってあるタイプのボールバルブなのかなと思います。
で、抵抗係数はボール角度でものすごく変化します。なので、圧力損失も同じようにものすごく変化しますね。角度 90度であれば 圧力損失は 0.22 [kPa] とほとんど無視出来るほど小さいですが、これを 50度とすると 32.16 [kPa] となりますので、約146倍まで増加します。まあ、ボールバルブは中途半端な角度で使用するようなタイプのバルブでは無いので、絞って使うのはアレですよね。と言いながら、パイロットプラントでは絞って使ってましたね。
✔ ゲートバルブ Gate Valve
最後にゲートバルブについて計算してみます。まあ、やり方はこれまでと同じですね。参考書籍のグラフからデータ点を読み取りました。やはり、面倒が臭いです・・・。で、日本機械学会のデータについても併せてプロットしています。4インチのデータが合ってる感じですね。1インチだとズレが有りましたが。
抵抗係数も開度(リフト量の内径に対する比率) によって、ボールバルブほどでは無いですけど、グローブバルブよりは変化しますね。結果として、圧力損失もそんな感じでしょうか。
✔ バルブ 圧力損失の比較 Comparison
せっかくなんで3つのバルブで圧力損失を比較すると以下のようになりました。開度 100% 付近ではグローブバルブの圧力損失が大きいですが、開度が小さくなってくるとボールバルブの圧力損失がすごく大きいですね。下図に簡単な絵を描いてますが、ボールがまっすぐであれば流れはストレートですね。これが、ボールの角度が大きくなると流路がグイーっと狭まりますね。流れの急縮小と急拡大が発生しますね。
※ バタフライバルブについてもやろうかと思いましたけど、あまり経験も無いのでまた別の機会にでも (手抜き)。
まとめ Wrap-Up
今回、初めてバルブ開度と圧力損失との関係を計算してみました。まあ、絞れば圧力損失は上がりますね、当然ですけど。 実務においても配管系の圧力損失計算はそれこそ何十回も実施しましたが、バルブについては開度100% フルオープンとして計算してきました。まあ、バルブを設置するにしても、敢えて開度を 50%とかに指定するような事はしませんよね。そもそも、ボールバルブとかゲートバルブであれば Close / Open のどちからですし。グローブバルブであれば絞って使うような場面も無い訳では無いでしょうけど、仮にそのような状況であったとすれば 相応の圧力損失が発生していた事になりますね。バルブを絞って使うってのは故意に圧力損失を発生させる訳であって、それによって流量を落とす訳ですよね。まあ、所望の流量が出ればそれはそれで良いんでしょうけど、圧力損失ってのは結果エネルギーの損失なので結局 ポンプの電気代が無駄になってる事になりますよね。
その辺りを敢えてやってるのは調節弁 Control Valve とかでしょうか。大抵は グローブバルブですよね。弁棒の上にアクチュエータのダイアフラムがドカんと載っかっているスタイルですね。例えば、熱媒システムでは高温熱媒と低温熱媒のヘッダー配管が有り、ここから各ユーザーの配管ループに熱媒を供給します。所謂、ゾーンポンプ方式ですが、このシステムにはそれこそ沢山の調節弁が設置されていて、計装用エアーのプシューって音が常にしてましたね。じーっと見てると弁棒が微妙に上下に動くんですよね(まあ前後左右には動きません)。熱媒ジャケットの温度をセンサーがひろって、設定値との差異に応じて高温/低温熱媒の調節弁が開閉するんですね。温度が高ければ低温熱媒を導入しますし、逆に温度が低ければ高温熱媒を導入します。
熱媒系を設計する際には、熱収支計算によって各ユーザーの加熱負荷が大体分かってますから、これくらいの高温熱媒を導入する必要が有るよってのは計算出来ますね。なので、その流量に見合うだけの調節弁を選定すれば良いんですね。さすがに流量不足ですってのは NG です。で、当然 熱媒系の圧力損失ってのも各ユーザー配管はもちろん、ヘッダー配管についても全部計算してみます。そんな時でも、調節弁の圧力損失ってのはそこまで気にした事は無いですね。ずっとギューっと絞った状態で調節弁を使うってのは無いですからね。特に新規に設計するのであれば、必要かつ十分な流量の調節弁を選定出来ますしね。まあ、既設の熱媒系でこれまでとは毛色の違う製品を生産するんで熱収支もだいぶ異なるよ、って事になればそれはまた話が変わってきますけど。ですが、それはボトルネックが発生している訳なんで、きちんと技術的に検討してデボトルネックして問題を解消しておく必要がありますね。熱媒系配管のサイズとか調節弁の容量の見直しとかでしょうか。まあ、これもお金が絡む話になるとチャチャッと改造する訳にもいかないってのは会社あるあるでしょうか。となると、あーだこーだと様々にケーススタディをする事になり、いつまでも帰れなくなってブラックになる訳なんですね・・・。
全くの余談ですが、絵を描くのが面倒であれば AI に描いてもらえば良いじゃない!と思って、Microsoft Edge に搭載されている Image Creator に描いてもらいました。「グローブバルブ、ボールバルブ、ゲートバルブの画像を作成してください。背景は不要です」と入力したところ、下図が作成されました・・・(周辺のボカシは自分でしました)。まあ、確かに Globes ってのは「地球儀」の事なんですけど、バルブについてはまだまだ発展途上なんですね。んでも、ものの20秒ほどでこんな画像が作成されますんで、それはそれで大したもんだなと思います。と、こんな事をしているうちに 2023年の大晦日は暮れていくんですね~。
参考書籍 References
- 「内部流れシステム」 原著者 D.S.Miller 訳者 西山 御民、原 眞 発行 ベストテック 2011年刊
- 「管路・ダクトの流体抵抗」 日本機械学会編 DVD-ROM版 2017年刊
- 「配管技術ノート」 工業調査会 2004年刊
- 「化学工学便覧 改訂6版」 丸善 1999年刊
- 「入門 化学プラント設計」 培風館 1998年刊
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