さて、今回は撹拌に関する内容として、ダブルヘリカルリボン インペラ Double Helical Ribbon Impeller の混合性能について取り上げます。このタイプのインペラですが、このブログでは 2022年6月19日 重合反応器「撹拌その5」において、主要な仕様について説明しています。クリアランス c、ピッチ s、リボン幅 w くらいでしょうか。ただし、これら主要寸法の絶対値では無く、槽内径 D とか インペラ径 d に対する比率として定義しますね。例えば、クリアランスであれば c/D としますね。ただ、これだと槽内径に対するインペラの広がり具合についてピンと来ないので、インペラ径 d を使って d/D とする場合が多いかなと思います。まあ、どっちにしても結果は同じなんですけど。
- インペラ径/槽径比 d/D = 0.95 ~ 0.97 (c/D = 0.025 ~ 0.015)
- インペラピッチ / インペラ径比 s/d = 1
- リボン幅/インペラ径比 w/d = 0.1
なんですが、主要寸法の影響を検討した参考文献が有りますね。撹拌分野では著名な高橋 幸司先生の論文、"Effects of Geometrical Variables of Helical Ribbon Impellers on Mixing of Highly Viscous Newtonian Liquids" 1982年発表 です。と言うわけで、この文献に記載されている方法で混合性能について計算してみようかなと。
DHR 混合性能 推算式 Estimation Equations for DHR Mixing Performance
✔ DHR インペラ仕様 DHR Impeller Spec.
✔ 混合過程 Mixing Process
下図下段は、クリアランスの大小によってこれらの流れがどのように影響を受け、最終的にどのような合成流れが形成されるのかを示しています。例えば、クリアランスが狭いと 一次流れは槽内全体を循環します。一方、二次流れはどうかと言うと槽壁が近いせいで 流れがグッと押し付けられる格好となり、それほどには発達しません。結果として、一次流れが混合の進行を支配する感じとなります。
では、クリアランスが広いとどうかと言えば、一次流れは槽壁付近には形成されませんね。距離があるので。そして、二次流れは槽壁の影響をあまり受けないので、発達しますね。結果として、二次流れが混合過程を支配するようになりますが 底部や上部に渦が形成されたりします。これは所謂デッドスペースなので 好ましくは無いですね。
結局、混合を速やかに進行させるには 一次流れと二次流れの双方がバランス良く形成される中間のクリアランスが最適と言う事になりますね。
✔ 混合性能 計算式 Mixing Performance Estimation Equations
さて、次に一連の計算式ですが それほど複雑では無いのですけど、なかなか面倒臭いです。特に、槽内に形成される一次流れ の流量を計算する部分ですね。サクッと条件を代入して得られる様にはなってないですね。
✔ 循環流量 Qz Circulation Flow Rate Qz
そうするとある流量Qが得られる訳ですが、この流量は行きっぱなしでは無くて戻りますよね。そうしないと循環流れにならないので。引きずり流れが上向きであれば天板にぶち当たりますが、流れがせき止められるので圧力が上昇します。とすると、天板から底板に向かって圧力勾配が形成され、これによって下向きの圧力流れが発生します。この流れを同心二重円管内の層流流れと考えると、速度分布を求めるには式⑬が使えます。圧力勾配 dp/dx については式⑭を用いて、流量Q を与えると求められますね。
で、槽内には上向き流れ(+)と下向き流れ(-) が同時に存在しますが、それらを足し合わせれば 実際の速度分布が得られるって事です。図にあるように、上向き部分と下向き部分を有する速度分布となるんですね。そして、上向き流れの速度分布だけを半径方向で積分すれば、得られた流量が 循環流量 Qz となりますね。面倒臭いですが、すごく分かり易いですね。
計算例 Examples
✔ 各部寸法比の影響 Influence of Geometrical Variables
う~ん、計算 出来ない条件が有るんですね。交換流量 Qe の値がマイナスになるので 無次元混合時間もマイナスになるので、明らかにおかしいですね。Q1 の計算がおかしいのであれば、その元になっている Qz の計算結果がおかしいのかな~と。寸法比の影響とかも有るのかなと見てみると、ピッチ/槽径比 s/D が大きい場合と小さい場合ですね。
それ以外の条件では、まあ多少の差異はありますが そこそこ合ってるかなと。
因みに、DH3とDH7 では実測された無次元混合時間がズゴーんと突き抜けていますが、これはデッドスペースが発生した為、混合時間を無限大としている為です。 DH3 は d/D = 0.827 なんで クリアランスがすごく広いです。なので、循環流れが弱いんですね。DH7 については s/D =1.8 なのでリボンがだいぶ縦長です。つまり巻きが緩いので、ポンピング作用が小さくて やはり循環流れが弱いんですね。
✔ クリアランスの影響 Influence of Clearance
まあ、極端な寸法比で無ければ使えそうなんで クリアランス比の影響を計算してみます。ピッチと槽径の比率 s/D = 1.0 で固定、リボン幅と槽径の比率 w/D = 0.1 で固定します。で、クリアランスと槽径の比率 c/D を変えて計算してみると以下のようになりました。c/D だとイマイチ ピンと来ないので d/D としてあります。
下図を見てのとおり、クリアランス比には最適値が有るんですね~。EXCELで計算してますが、無次元混合時間が最小となるクリアランス比をソルバーでエイッと求めてみると d/D = 0.889 でした。この値よりもクリアランスが広くなってしまうと無次元混合時間は急激に増加しますし、逆に狭くしても やはり大幅に増加していますね。何でなんかな~と思って、Q1 と Qe との変化をプロットしてみたのが下図 下段のグラフですね。Q1 は クリアランスが狭くなるのに伴い単調に増加しますが、Qe はピークを持ちますね。これによって無次元混合時間も最小値を持つ事となります。これは前述の一次流れ、二次流れ そして 交換流れが相互に影響した結果なんですね。同じような事が、ピッチやリボン幅においても有ると参考文献には有りますね。
それと、下図上段の無次元混合時間のグラフには 簡便に無次元混合時間を求める推算式による計算結果を併せてプロットしています (ピンク色実線)。まあ式を見ても分かるように、最小値は出てこないですね。ですが、今回の計算による最小値は簡便式による値とは下図の一点でドンピシャ 一致しているんですね。まあ、どちらもキチンとした実験結果に基づいて得られた推算方法ですので、どっかで一致するのは極めて当たり前ですね。にしても、面白いですね。
✔ 無次元混合時間 最小値 Minimum Dimensionless Mixing Time
で、結局 ダブルヘリカルリボンインペラの混合性能の最大値、即ち 最小の無次元混合時間ってのはどれくらいなのか? が知りたいですよね。参考文献では、寸法条件 DH10 における無次元混合時間が 最小となっており、その値は 実験値 33.0 で推算値 33.9 となっています。両者はほぼ一致しているので、推算もすごく良い線行ってるって事ですね。で、その時の主要寸法条件ですが、以下のとおりです。
- インペラ径/槽径比 d/D = 0.902 (c/D = 0.0490)
- インペラピッチ / 槽径比 s/D = 0.901
- リボン幅/槽径比 w/D = 0.152
まあ、これはこれで良いんですが インペラ径/槽径比 d/D は良いとしても、ピッチとリボン幅は やはりインペラ径基準としたいですね、ずっとそれでやってきましたし。ピッチとリボン幅は、やはりインペラに関する主要な寸法ですし、であれば 槽径よりはインペラ径を基準とすべきなのかなと考えますね。 と言う訳で、インペラ径基準で 書き直してみるとこんな感じですね。
- インペラ径/槽径比 d/D = 0.902 (これは同じ)
- インペラピッチ / インペラ径比 s/d = 0.999
- リボン幅/インペラ径比 w/d = 0.169
✔ 槽内 速度分布 Velocity Profile inside Vessel
せっかくなので、Qz 計算の根拠となる槽内速度分布 について以下に示します。せっかくなので、無次元時間 最小である DH10 の寸法比条件とします。上向き流れと下向き流れの境目は、この場合だとリボンの内側とほぼ同じ位置ですね。こんなのも、CFDとかで計算してみると、より鮮明により自然な感じで得られますね。ですが、この文献が発表されたのは 1982年で 実に 42年前ですから、まだまだ CFD も一般的では有りませんでしたよね。にも関わらず、十分に使える結果が得られていますから これはこれで意味が有るな~と思いますね。
✔ 形状の比較 Comparison Geometrical Shape
まとめ Wrap-Up
この計算ですけど 20何年かぶりにやってみましたが、やはり何かと大変でしたね。まあ、当時も既に EXCEL が有ったんで、それなりに計算は出来たんですけど。んでも、ダブルヘリカルリボンインペラの混合性能については、層流域において無次元混合時間 33 ってのが鉄則と言うか、ずーっとそれを使ってましたね。これは永田 進治 先生が発表された値ですね。ですが、今回 改めて計算してみると 寸法比で結構 差異が有りますよね。まあ、ベスト・オブ・ベストって値なんでしょうか。それと、見た目のバランスが悪いと、混合性能もイマイチって感じでしょうかね。やはり、見た目がシュッとしているのが混合性能も良いですね。また、これまでずーっと使ってきた設計方針ではリボン幅が小さめだったのかな~と。まあ、特に問題は無かったので結果オーライなのかなとは思いますけど。
ダブルヘリカルリボンインペラの寸法と混合性能との関係については、この文献以外にはまず見たことが無いですね~。かろうじて 下記 参考文献 4) では CFD 手法などを適用して検討されていますが、シャフト無しのダブルヘリカルリボンインペラなんですね。なので、最適寸法も少し異なっています。シャフトが無い替わりに、フレームによってリボンブレードを支持する構造になっているんで、一般的なダブルヘリカルリボンとは少し異なります。これは神鋼環境ソリューションさんの ログボーン® ですね。
で、前述のとおり 一般的なシャフト有りのダブルヘリカルリボンの無次元混合時間は 33 って言うのが まあ定番と言うか基本と言いますか。日本企業に居た時分に、実際にモデル槽とインペラを使って、脱色法で混合時間を実測した事もありますが、まあ 大体 これくらいの数字になりますね。もちろん、層流域だけですが。その後、遷移域に差し掛かると流れがバラけると言うか循環流れが弱くなりますね。結果、混合時間はグイーっと増加しますね。つまりは、混合性能は悪化します。そして、乱流域になると ほぼほぼ一定になるような感じだったかなと。まあ、その時の実験では そんなに沢山の種類のインペラを作ったりは出来なかったんで、主に液粘度の影響を見るような感じだったんですけどね。ここいら辺は実際に実験したんで、結構 記憶に残ってますね。思わぬ箇所にデッドスペースが出来たりしたんですね~。
また、この文献の著者である高橋 幸司先生とは何回か実際にお会いしたことが有りますね。最初にお会いしたのは もう30年も前になりますが、山形大学 工学部 米沢キャンパスの研究室にお邪魔して、いろいろとご相談しましたね。その夜はガッツリと地酒などを飲み、翌日は当然二日酔いでしたが、激ウマの米沢ラーメン屋さんに連れて行って頂きましたね。懐かしいです。その後も何回かお会いする機会も有りました。韓国に居る時分に、済州島で開催された ACOM, Asian Conference of Mixing に参加したんですが、そこで再会したんですね。山形大学退官後は鶴岡高専校長を歴任され、今は山形大学 名誉教授のようですが、お元気なのかな~と。
参考文献・書籍 References
- "Effects of Geometrical Variables of Helical Ribbon Impellers on Mixing of Highly Viscous Newtonian Liquids"
Journal of Chemical Engineering of Japan Vol.15 No.3 1982 - "An Extended Power Correlation for Anchor and Helical Ribbon Impellers"
Journal of Chemical Engineering of Japan Vol.15 No.1 1982 - 「高粘度液の撹拌に関する研究」
化学工学 第21巻 第5号 1957年 - 「ダブルヘリカルリポン翼の流動・混合特性におよぼす翼幅, 翼ピッチ およびフレーム寸法の影響」
化学工学論文集 第25巻 第6号 1999年
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