化工計算ツール No.73 ダブルヘリカルリボンの混合性能 Mixing Performance of DHR Impeller

 さて、今回は撹拌に関する内容として、ダブルヘリカルリボン インペラ Double Helical Ribbon Impeller の混合性能について取り上げます。このタイプのインペラですが、このブログでは 2022年6月19日 重合反応器「撹拌その5」において、主要な仕様について説明しています。クリアランス c、ピッチ s、リボン幅 w くらいでしょうか。ただし、これら主要寸法の絶対値では無く、槽内径 D とか インペラ径 d に対する比率として定義しますね。例えば、クリアランスであれば c/D としますね。ただ、これだと槽内径に対するインペラの広がり具合についてピンと来ないので、インペラ径 d を使って d/D とする場合が多いかなと思います。まあ、どっちにしても結果は同じなんですけど。

  • インペラ径/槽径比           d/D = 0.95 ~ 0.97 (c/D = 0.025 ~ 0.015)
  • インペラピッチ / インペラ径比  s/d = 1
  • リボン幅/インペラ径比         w/d = 0.1




まあ、インペラ仕様の設計においてはこれらを適用するんですが、撹拌動力自体については各種の推算式を使って求める事が出来ます。そして、単位体積当たりの撹拌動力 Pvの値がそれなりに消費されているようであれば、まあ良しとする感じでしょうか。ですが、混合性能については良く分からないってのが正直なところですね。更に、主要寸法が混合性能にどのように影響するのかは、これまた不明です。

なんですが、主要寸法の影響を検討した参考文献が有りますね。撹拌分野では著名な高橋 幸司先生の論文、"Effects of Geometrical Variables of Helical Ribbon Impellers on Mixing of Highly Viscous Newtonian Liquids" 1982年発表 です。と言うわけで、この文献に記載されている方法で混合性能について計算してみようかなと。



DHR 混合性能 推算式 Estimation Equations for DHR Mixing Performance


✔ DHR インペラ仕様  DHR Impeller Spec.

まずは、DHR インペラの各部仕様についておさらいしておきます。形状と各部名称は下図のとおりですね。文献において検証されたインペラの各部寸法は図中の表のとおりですね。また、槽ですが底板は平板です。そして、天板も平板です。多くの文献では、天板は無くて所謂自由液面の場合が多いですが、この文献では有りますね。つまり、槽内に満タンに液を張り込んでいるとなりますね。




✔ 混合過程 Mixing Process


参考文献には DHR インペラの混合過程について下図のように説明されています。まず、下図上段ですが、槽内液には ブレードの動きによって 一次流れ Primary Flow が形成されます(赤実線)。軸方向の流れですね。と同時に、遠心力によって槽中心から壁面に向かう二次流れ Secondary Flow が形成されます (青色破線)。そして、これらの合成された流れによって混合が進行するものと考えます、と文献には有りますね。

下図下段は、クリアランスの大小によってこれらの流れがどのように影響を受け、最終的にどのような合成流れが形成されるのかを示しています。例えば、クリアランスが狭いと 一次流れは槽内全体を循環します。一方、二次流れはどうかと言うと槽壁が近いせいで 流れがグッと押し付けられる格好となり、それほどには発達しません。結果として、一次流れが混合の進行を支配する感じとなります。
では、クリアランスが広いとどうかと言えば、一次流れは槽壁付近には形成されませんね。距離があるので。そして、二次流れは槽壁の影響をあまり受けないので、発達しますね。結果として、二次流れが混合過程を支配するようになりますが 底部や上部に渦が形成されたりします。これは所謂デッドスペースなので 好ましくは無いですね。
結局、混合を速やかに進行させるには 一次流れと二次流れの双方がバランス良く形成される中間のクリアランスが最適と言う事になりますね。





✔ 混合性能 計算式 Mixing Performance Estimation Equations


さて、次に一連の計算式ですが それほど複雑では無いのですけど、なかなか面倒臭いです。特に、槽内に形成される一次流れ の流量を計算する部分ですね。サクッと条件を代入して得られる様にはなってないですね。

で、まずは前半部分ですが、無次元混合時間 N・tm を計算する為の一連の計算式は以下のとおりです。式①で最終的に N・tm を求めます。動力特性 NpRe やインペラ径と槽径との比率 d/D が含まれています。で、Q1 は循環流れの流量ですが、これは一次流れの流量 Qz に基づくもので式②で求めます。また、Qe は交換流れ流量 Exchange Flow Rate とされています。式⑥で計算されますが、式中には Q1 と Q2 が含まれています。Q2 は二次流れの流量ですね。Q2 自体は式③を用いて、各部寸法のみから得られます。式⑥に Q1 と Q2 が含まれている事から分かるように、交換流れってのは 一次流れと二次流れとの間に形成される流れなんですね。と言うわけで、「一次流れ流量」と「一次流れと二次流れとの交換流れ流量」によって、混合特性が決まるって事ですね。まあ、それ以外にも動力特性とか寸法比も影響しますが、これらは平方根の中に入っているので 効きが弱いですよね。仮に値が2倍となっても、実際には √2 = 1.414 倍でしか効いてこないです。一方、Q1 とか Qe が2倍となれば、そのまま2倍で効きますよね。




✔ 循環流量 Qz  Circulation Flow Rate Qz


と、話はここで終わりませんね。前記の一連の計算式で不明なのが 循環流量 Qz です。これについては、別途計算する必要が有ります。これが大変です。そして、説明するのも大変ですが、まあ下図を見て貰うと良いかと。ブレードによる引きずりで流れが形成されますが、以下の式⑩、⑪、⑫で計算されます。で、その流速を半径方向で全部積分します。まあ、EXCEL で図積分すれば良いですね。

そうするとある流量Qが得られる訳ですが、この流量は行きっぱなしでは無くて戻りますよね。そうしないと循環流れにならないので。引きずり流れが上向きであれば天板にぶち当たりますが、流れがせき止められるので圧力が上昇します。とすると、天板から底板に向かって圧力勾配が形成され、これによって下向きの圧力流れが発生します。この流れを同心二重円管内の層流流れと考えると、速度分布を求めるには式⑬が使えます。圧力勾配 dp/dx については式⑭を用いて、流量Q を与えると求められますね。

で、槽内には上向き流れ(+)と下向き流れ(-) が同時に存在しますが、それらを足し合わせれば 実際の速度分布が得られるって事です。図にあるように、上向き部分と下向き部分を有する速度分布となるんですね。そして、上向き流れの速度分布だけを半径方向で積分すれば、得られた流量が 循環流量 Qz となりますね。面倒臭いですが、すごく分かり易いですね。





計算例  Examples


✔ 各部寸法比の影響   Influence of Geometrical Variables 


やっと 計算例にまでたどり着きました・・・。まずは文献記載の条件で計算してみます。前述の寸法一覧表にある条件ですね。
う~ん、計算 出来ない条件が有るんですね。交換流量 Qe の値がマイナスになるので 無次元混合時間もマイナスになるので、明らかにおかしいですね。Q1 の計算がおかしいのであれば、その元になっている Qz の計算結果がおかしいのかな~と。寸法比の影響とかも有るのかなと見てみると、ピッチ/槽径比 s/D が大きい場合と小さい場合ですね。
それ以外の条件では、まあ多少の差異はありますが そこそこ合ってるかなと。
因みに、DH3とDH7 では実測された無次元混合時間がズゴーんと突き抜けていますが、これはデッドスペースが発生した為、混合時間を無限大としている為です。  DH3 は d/D = 0.827 なんで クリアランスがすごく広いです。なので、循環流れが弱いんですね。DH7 については s/D =1.8 なのでリボンがだいぶ縦長です。つまり巻きが緩いので、ポンピング作用が小さくて やはり循環流れが弱いんですね。






✔ クリアランスの影響  Influence of Clearance 


まあ、極端な寸法比で無ければ使えそうなんで クリアランス比の影響を計算してみます。ピッチと槽径の比率 s/D = 1.0 で固定、リボン幅と槽径の比率 w/D = 0.1 で固定します。で、クリアランスと槽径の比率 c/D を変えて計算してみると以下のようになりました。c/D だとイマイチ ピンと来ないので d/D としてあります。

下図を見てのとおり、クリアランス比には最適値が有るんですね~。EXCELで計算してますが、無次元混合時間が最小となるクリアランス比をソルバーでエイッと求めてみると d/D = 0.889 でした。この値よりもクリアランスが広くなってしまうと無次元混合時間は急激に増加しますし、逆に狭くしても やはり大幅に増加していますね。何でなんかな~と思って、Q1 と Qe との変化をプロットしてみたのが下図 下段のグラフですね。Q1 は クリアランスが狭くなるのに伴い単調に増加しますが、Qe はピークを持ちますね。これによって無次元混合時間も最小値を持つ事となります。これは前述の一次流れ、二次流れ そして 交換流れが相互に影響した結果なんですね。同じような事が、ピッチやリボン幅においても有ると参考文献には有りますね。

それと、下図上段の無次元混合時間のグラフには 簡便に無次元混合時間を求める推算式による計算結果を併せてプロットしています (ピンク色実線)。まあ式を見ても分かるように、最小値は出てこないですね。ですが、今回の計算による最小値は簡便式による値とは下図の一点でドンピシャ 一致しているんですね。まあ、どちらもキチンとした実験結果に基づいて得られた推算方法ですので、どっかで一致するのは極めて当たり前ですね。にしても、面白いですね。




✔ 無次元混合時間 最小値  Minimum Dimensionless Mixing Time

で、結局 ダブルヘリカルリボンインペラの混合性能の最大値、即ち 最小の無次元混合時間ってのはどれくらいなのか? が知りたいですよね。参考文献では、寸法条件 DH10 における無次元混合時間が 最小となっており、その値は 実験値 33.0 で推算値 33.9 となっています。両者はほぼ一致しているので、推算もすごく良い線行ってるって事ですね。で、その時の主要寸法条件ですが、以下のとおりです。


  • インペラ径/槽径比      d/D = 0.902 (c/D = 0.0490)
  • インペラピッチ / 槽径比  s/D = 0.901
  • リボン幅/槽径比          w/D = 0.152

まあ、これはこれで良いんですが インペラ径/槽径比 d/D は良いとしても、ピッチとリボン幅は やはりインペラ径基準としたいですね、ずっとそれでやってきましたし。ピッチとリボン幅は、やはりインペラに関する主要な寸法ですし、であれば 槽径よりはインペラ径を基準とすべきなのかなと考えますね。 と言う訳で、インペラ径基準で 書き直してみるとこんな感じですね。

  • インペラ径/槽径比                  d/D = 0.902 (これは同じ)
  • インペラピッチ / インペラ径比   s/d =  0.999
  • リボン幅/インペラ径比              w/d = 0.169

なるほど、ピッチについては ほぼ s/d =1.0 なんで これまでの設計方針と同じですね。 ですが、リボン幅についてはそれなりに大きめですね。リボン幅を大きくする事によってポンピング作用が増加し、それによって循環流量が増加するって事ですね。う~ん、これまでの設計よりはもう少し幅広にした方が良かったのかな~と。


✔ 槽内 速度分布  Velocity Profile inside Vessel


せっかくなので、Qz 計算の根拠となる槽内速度分布 について以下に示します。せっかくなので、無次元時間 最小である DH10 の寸法比条件とします。上向き流れと下向き流れの境目は、この場合だとリボンの内側とほぼ同じ位置ですね。こんなのも、CFDとかで計算してみると、より鮮明により自然な感じで得られますね。ですが、この文献が発表されたのは 1982年で 実に 42年前ですから、まだまだ CFD も一般的では有りませんでしたよね。にも関わらず、十分に使える結果が得られていますから これはこれで意味が有るな~と思いますね。




✔ 形状の比較  Comparison Geometrical Shape


 せっかくなんで、形状を図に描いてみます。クリアランスが極端に広いとか、ピッチが大きい 即ち リボンの巻きが緩いとかは、やはり混合性能が良くないですね。一方、リボン幅が広いとか リボンをギューッと詰め込んでるタイプの混合性能は良いんですね。






まとめ  Wrap-Up

この計算ですけど 20何年かぶりにやってみましたが、やはり何かと大変でしたね。まあ、当時も既に EXCEL が有ったんで、それなりに計算は出来たんですけど。んでも、ダブルヘリカルリボンインペラの混合性能については、層流域において無次元混合時間 33 ってのが鉄則と言うか、ずーっとそれを使ってましたね。これは永田 進治 先生が発表された値ですね。ですが、今回 改めて計算してみると 寸法比で結構 差異が有りますよね。まあ、ベスト・オブ・ベストって値なんでしょうか。それと、見た目のバランスが悪いと、混合性能もイマイチって感じでしょうかね。やはり、見た目がシュッとしているのが混合性能も良いですね。また、これまでずーっと使ってきた設計方針ではリボン幅が小さめだったのかな~と。まあ、特に問題は無かったので結果オーライなのかなとは思いますけど。

ダブルヘリカルリボンインペラの寸法と混合性能との関係については、この文献以外にはまず見たことが無いですね~。かろうじて 下記 参考文献 4) では CFD 手法などを適用して検討されていますが、シャフト無しのダブルヘリカルリボンインペラなんですね。なので、最適寸法も少し異なっています。シャフトが無い替わりに、フレームによってリボンブレードを支持する構造になっているんで、一般的なダブルヘリカルリボンとは少し異なります。これは神鋼環境ソリューションさんの ログボーン® ですね。

で、前述のとおり 一般的なシャフト有りのダブルヘリカルリボンの無次元混合時間は 33 って言うのが まあ定番と言うか基本と言いますか。日本企業に居た時分に、実際にモデル槽とインペラを使って、脱色法で混合時間を実測した事もありますが、まあ 大体 これくらいの数字になりますね。もちろん、層流域だけですが。その後、遷移域に差し掛かると流れがバラけると言うか循環流れが弱くなりますね。結果、混合時間はグイーっと増加しますね。つまりは、混合性能は悪化します。そして、乱流域になると ほぼほぼ一定になるような感じだったかなと。まあ、その時の実験では そんなに沢山の種類のインペラを作ったりは出来なかったんで、主に液粘度の影響を見るような感じだったんですけどね。ここいら辺は実際に実験したんで、結構 記憶に残ってますね。思わぬ箇所にデッドスペースが出来たりしたんですね~。

また、この文献の著者である高橋 幸司先生とは何回か実際にお会いしたことが有りますね。最初にお会いしたのは もう30年も前になりますが、山形大学 工学部 米沢キャンパスの研究室にお邪魔して、いろいろとご相談しましたね。その夜はガッツリと地酒などを飲み、翌日は当然二日酔いでしたが、激ウマの米沢ラーメン屋さんに連れて行って頂きましたね。懐かしいです。その後も何回かお会いする機会も有りました。韓国に居る時分に、済州島で開催された ACOM, Asian Conference of Mixing に参加したんですが、そこで再会したんですね。山形大学退官後は鶴岡高専校長を歴任され、今は山形大学 名誉教授のようですが、お元気なのかな~と。


参考文献・書籍  References

  1. "Effects of Geometrical Variables of Helical Ribbon Impellers on Mixing of Highly Viscous Newtonian Liquids"
    Journal of Chemical Engineering of Japan  Vol.15 No.3 1982
  2. "An Extended Power Correlation for Anchor and Helical Ribbon Impellers"
    Journal of Chemical Engineering of Japan  Vol.15 No.1 1982
  3. 「高粘度液の撹拌に関する研究」
    化学工学 第21巻 第5号 1957年
  4. 「ダブルヘリカルリポン翼の流動・混合特性におよぼす翼幅, 翼ピッチ およびフレーム寸法の影響」
    化学工学論文集 第25巻 第6号 1999年



 






   

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