今回は熱交換器の最適化について取り上げます。熱交換器の設計において、高温側流体条件と低温側流体条件を設定すれば、それを満足するように仕様を決定します。仕様としては、型式と伝熱面積でしょうか。多管式熱交換器の型式については、以前このブログでも「化工計算ツール No.26 多管式熱交換器のシェル径」で取り上げました。で、その型式ですが TEMA の分類から適切なものを選択すれば良いですね。例えば、固定管板型 BEM とか Uチューブ型 BEU が一般的でしょうか。また、伝熱面積については 一般的な設計手法を適用して設計計算を実施すれば良いですね、一応は。それほど大規模なものでなければ、設計ソフトウェアを使わずとも 自分で設計出来ますね。んで、今回は冷却水 出口温度の最適化について計算してみます。因みに、元ネタはいつもお世話になっている「熱交換器設計ハンドブック」ですね。
実務では熱交換器の設計はやりましたが、最適化まではなかなか手が出ませんね~。と言うのも、例えば 冷却水については 入口-出口温度 25 → 30 [℃] で温度差 5[℃] 一定とかにしますよね。冷凍水であれば 1 → 3 [℃] で温度差 2 [℃] とか。んでも、本当はその条件下での最適な冷却水 出口温度がある筈ですね。
最適 冷却水温度 Optimized Cooling Water Temp.
✔ 経済的 最適冷却水温度 Economical Optimum CW Temp.
最適化ってのは もちろん経済的観点からの最適化なので、お金の勘定が絡んでくるんですね。基本的な考え方ですが、 冷却水をドカ~ンと大量に使うと出口温度はほぼ入口温度と同じになりますね。そうすると、高温側流体との温度差 ΔT を最大に出来ますね。一方、交換熱量Q は総括伝熱係数U と伝熱面積A 、そして温度差 ΔT の積です。 Q と U が一定で ΔT が最大であれば 結果として 伝熱面積 A は最小となります。つまり、熱交換器サイズが小さくなるので、購入する際の値段がお安くなりますね。んじゃ、それで良いじゃんとなりますが、冷却水もタダでは無いので、ドカ~ンと流すとその分コストがかさみますよね。と考えると、冷却水出口温度を変化させれば、どっかに最適なポイントがあるのでは?となりますね。 で、計算式は以下のとおりです。
✔ 計算式 Calculation Equations
熱交換器における交換熱量は式①で計算されますね。冷却水側の温度変化によって交換熱量が計算されますし、一方 高温側流体から冷却水への熱移動による交換熱量も計算されます。当然、交換熱量は同じです。また、向流熱交換器における温度差として対数平均温度差を使用します (式②)。で、熱交換器の固定費や冷却水の単価と言ったコストに関する条件、そして年間稼働時間を用いると、熱交換器の年間必要コストが式③によって計算されます。で、冷却水出口温度 t2 を変化させると、式③の値も変化しますね。そして、その値が最小になるときの t2 が最適冷却水温度となります。また、最適冷却水温度をより厳密に求めるには、式③を微分して イコール ゼロとすれば良いですね。それが式④となります。式④の右辺と左辺のどちらにも 最適冷却水温度 t2,opt が含まれていますが、右辺=左辺となるように 試行錯誤法とかで計算すれば良いですね。
計算例 examples
✔ 計算条件 conditions
早速計算してみますが、計算条件は以下のとおりです。これは、「熱交換器設計ハンドブック」に記載されている計算例ですね。そこそこ熱いプロセス流体を常温付近まで冷やす感じでしょうか。冷却水入口温度は 32 [℃] ですね。まあ、これは冷却塔 出口温度って感じでしょうか。んで、年間稼働時間 8,000 [hr] は一般的な値ですね。24時間稼働のケミカルプラントでは333日に相当しますね。で、残りの32日は何で必要なのか?ですが、所謂 メンテナンス期間及び諸々ですよね。機器をバラして補修したりするのであれば、なんだかんだでコレくらいは必要かなと。もちろん、シャットダウンしてサクッとメンテして、すぐにスタートアップすれば ダウンタイムを削減出来ますので、それなりにコストメリットになるとは思うんですけど。また、何らかのトラブルで急遽 プラントをシャットダウンするってのも無い訳でも無いので、年間 8,000 [hr] ってのは 普通かなと。因みに、年間稼働時間 8,160 [hr] とすると ちょうど 340日となり、ダウンタイムは 25日となりますね。韓国ではこれが普通でした。「生産 命!」って感じだったので。
また、熱交換器の単位伝熱面積当たりの価格、冷却水単価は「熱交換器設計ハンドブック」に記載されている値です。さすがに現在ではだいぶ変わっているとは思いますけど。交換熱量とかも計算してみたいので、高温側流体の流量と比熱についてもそれっぽい値を設定しています。
- 高温側流体 入口-出口温度 140 → 44 [℃]
- 高温側流体 流量 9,000 [kg/hr]
- 高温側流体 比熱 2,000 [J/kg K]
- 年間稼働時間 8,000 [hr/yr]
- 熱交換器 価格 20,000 [¥/m2]
- 熱交換器 年償却率 0.25
- 冷却水 入口温度 32 [℃]
- 冷却水価格 0.01 [¥/kg]
- 冷却水 比熱 4,200 [J/kg K]
- 総括伝熱係数 200 [W/m2 K]
✔ 最適冷却水温度 Optimum CW Out Temp.
計算してみると以下のようになりました。冷却水出口温度は 結構高いですよね。
- 最適冷却水温度 98.78 [℃]
- 交換熱量 480 [kW]
- 対数平均温度差 23.68 [℃]
- 必要伝熱面積 101.36 [m2]
- 必要冷却水量 6,161 [kg/hr]
で、せっかくなので条件を変えて計算してみた結果が下図です。冷却水価格と熱交換器 価格を変えて計算しています。熱交換器 価格が高くなると、最適冷却水温度は低下しますね。一方、必要な冷却水流量は増加します。つまり、冷却水を大量に使って温度差を大きくし、伝熱面積を削減する事になりますね。
熱交換器の価格と冷却水価格の両方を変化させて場合の計算結果は下図のとおりですね。見て分かるように、冷却水価格が高くて 熱交換器価格が安いほど、冷却水 出口温度は高くなりますね。一方、冷却水が安くて熱交換器が高いほど出口温度は低くなりますね。
✔ 年間コスト Annual Cost
とまあ、結果は前記のとおりなんですが、せっかくなんで年間コストはどれくらいなのかを計算してみます。で、そのコストですが 熱交換器の償却費が固定費となり、冷却水費用が変動費となりますね。冷却水出口温度を変えて それぞれの費用を計算してみると下図のとおりとなりますね。冷却水 出口温度が 40 [℃] だとものすごい流量が必要となるので、冷却水コストはすごくかかりますね。で、出口温度を上げていくと 80 [℃] くらいで 頭打ちとなりますね。一方、熱交換器 償却費は 出口温度 90 [℃] 辺りからグイーっと増加しますね。結果として、最適値は 98.78 [℃] って事になるんですね。
この結果から、この熱交換器を経済的に運用するには 冷却水出口温度が高めになるように運転するのが良いとなりますね。冷却水出口温度を敢えて低めになるように運転する事も可能ですが、ものすごく費用がかかって よろしくは無いとなりますね。まあ、この計算例では高温側流体の入口温度が 140 [℃] と高いのでこうなりますね。これが、高温側流体 入口温度が 例えば 80 [℃] とかであれば、また違った結果となりますね。と、計算してみると 最適冷却水出口温度は 64.86 [℃] となりますね。
この結果から、この熱交換器を経済的に運用するには 冷却水出口温度が高めになるように運転するのが良いとなりますね。冷却水出口温度を敢えて低めになるように運転する事も可能ですが、ものすごく費用がかかって よろしくは無いとなりますね。まあ、この計算例では高温側流体の入口温度が 140 [℃] と高いのでこうなりますね。これが、高温側流体 入口温度が 例えば 80 [℃] とかであれば、また違った結果となりますね。と、計算してみると 最適冷却水出口温度は 64.86 [℃] となりますね。
まとめ Wrap-Up
今回取り上げた 熱交換器の最適 冷却水出口温度ですが、なかなか面白い結果ですね。特に温度の高い流体を冷却する場合、出口温度を下げすぎない事が経済的に良いとなりますね。これまでの熱交換器の設計では、冷却媒体として冷却水を使う場合、入口-出口温度は 25 → 30[℃] としてましたね。まあ、設計したと言っても せいぜいパイロットプラントとかに設置する熱交換器なんで購入価格自体もたかが知れてますし、製作費も材料費とかよりは工賃の方がほとんどなのかな~と。シェルとかもいちいち作るんじゃなくて、適当な配管用ステンレス管をぶった切って使ったりするのが普通ですしね。
また、熱交換器の最適化ですが、熱交換器設計ハンドブックには別の最適化の例もあって、そちらは 熱回収用熱交換器についてですね。廃熱を熱回収しますが、デカい熱交換器を設置すれば ガッツリと熱回収出来てコストメリットがありますが、一方で熱交換器 購入費がかさみますね。と言う事はやはりどっかに最適値がある、となりますね。こちらについては、また別の機会にでも取り上げたいと思います。
※ 上記ラフタークレーン、トラックの3Dデータについては、CADデータ共有サイト CAD-Data.com よりダウンロードさせて頂きました。
参考書籍 References
- 「熱交換器設計ハンドブック 増訂版」 工学図書株式会社 1974年刊
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