身のまわりの化学工学 No.8 洗濯におけるすすぎと脱水 Rinsing and Dehydration in Washing

 今回も「身のまわりの化学工学」シリーズとして 洗濯に関する内容を取り上げます。前回は洗濯における「洗い」についてでした。まあ、洗濯しないと見た目が良くないですし、何より着心地が悪くなりますね。で、洗ったら 次にすすいで脱水しますね。そして、乾かしてお終いとなりますね。なので、今回は「すすぎ」 Rinsing と 「脱水」 Dehydration について考えてみます。


元ネタは前回と同様、中西 茂子先生の「洗剤と洗浄の科学」ですね。そして、すすぎですが洗液中の汚れが衣類に再付着するのを防ぐ為に行ないますね。十分にすすぎが出来ていないと、再付着した汚れや界面活性剤が残留した衣類を着る事になるんですね。また、衣類に付着している界面活性剤が残留していると黄ばみの原因ともなります。で、すすぎについてはこのブログでも既に取り上げていますね。 No.35 リンス方式 回分, 連続操作 


また、脱水ですが ビショビショのままで乾燥すると時間がかかるのは容易に考えられますね。出来るだけ水分を切った上で乾燥すると時間も短くて済みます。特に乾燥機で乾燥する場合には加熱して水分を蒸発させますが、水の蒸発潜熱は大きいのでそれなりの熱量が必要になります。熱量が必要と言う事は相応の投入エネルギーが必要ですし、電気代や燃料代がかさむので経済的では無いですね。それと、すすぎにも影響が有るんですね。と言うのも、例えば「溜めすすぎ」を行なう際には、1回のすすぎが終了した時点で汚れや界面活性剤を含んだ水を十分に脱水しておけばより効率的にすすぎが進行しますね。




すすぎ Rinsing


さて、参考書籍には、「すすぎは洗いの段階で落ちた汚れと洗剤成分を含む洗液を新しい水と取り替え、再び洗濯物に付着しないよう流し去る操作である」と書かれています。そして、すすぎ方式として以下の3つが挙げられており、実験結果も記載されています。

① 同じ液での溜めすすぎ
② 水を換えての溜めすすぎ
③ 水を張った後オーバーフローする連続すすぎ

参考書籍にもグラフが載ってますが、元文献にはより詳細に記載されているの そちらを使ってグラフを作成してみました。で、衣類に残留する洗剤成分の濃度ですが、すすぎ液中の濃度では無くて衣類に残留する濃度を測定しています。参考文献によれば、生地から洗剤成分をエタノール抽出し、メチレンブルー比色法 (Abbott 法)  により定量していますね。洗剤成分は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム Sodium Linear Alkyl benzene Sulfonate, LAS-Na、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム Sodium Alpha-Olefin Sulfonate,  AOS-Na です。


✔ 溜めすすぎ Batch Rinsing 


まずは同じ水でずーっと溜めすすぎした場合の衣類に残留する洗剤濃度とすすぎ液中の洗剤濃度の時間変化です。単位が [ppm owf] とか [ppm ows] となっていますが、これは on the weight of fiber と on the weight of solution の事だそうです。繊維とか染色業界で使われるようです。

で、この結果をみると溜めすすぎをするにしても、あまり長くやっても意味が無いですね。まあ、3~5分程度でしょうか。



✔ 水を換えての溜めすすぎ Batch Rinsing with water change


さて次は水を換えてする溜めすすぎですが、下図のような濃度変化となります。衣類上濃度はすすぎ回数とともに減少します。これは前述の単純な溜めすすぎと同じですね。一方、すすぎ液中の濃度も同じ様に単調に減少します。まあ、すすぎ液を換えるたびに洗剤濃度はゼロとなり洗剤成分がすすぎ液中に蓄積する事は無いので、こうなりますね。で、まあ3回くらいすすぎを実施すればOKって感じでしょうか。



✔ 連続すすぎ  Continuous Rinsing


最後に連続すすぎですが、これは槽にまず所定量の水を張り、その後はずーっと水を流しっぱなしにします。注水すすぎとも言いますね。参考文献には溜めすすぎと比較した結果があるので、その結果からグラフを作成してみました。条件は以下のとおりです。


  • 溜めすすぎ 1回のすすぎで水 30 リットルを使用し 繰り返す
  • 連続すすぎ まず 水 30 リットルを張りこみ、その後 毎分 10 リットル注水する


で、すすぎ方法が違っても両者を比較するために、使用する水量を用いてみます。下図グラフの横軸が水量です。参考文献には溜めすすぎ (青色実線) と連続すすぎ (オレンジ色実線) が書いてありました。で、この結果を見ると 連続すすぎの方がより少ない水量で衣類上の洗剤濃度が低下しています。

前回 リンス方式について取り上げた際には、「溜めすすぎの方がより効率的」と書いていましたが、この結果は違いますね~。で、その理由を考えてみると 最初に張り込んだ水量を考慮するのか しないのか、に起因しているのかなと。溜めすすぎの水量 = 1回の張り込み水量 × すすぎ回数ですね。一方、連続すすぎであれば、水量 = 経過時間 × 時間当たりの水量となります。が、最初の張り込み水量も考慮する必要が有りますね。で、その初期水量を考慮して、水量と洗剤濃度を描き直してみると グラフのオレンジ色破線となりました。溜めすすぎより洗剤濃度は少しですが高いですね。となると、やはり溜めすすぎの方が少しですが効率的と言えるのかなと。下図 下段グラフは拡大したものですが、まあ溜めすすぎの方が洗剤濃度が低いですね。ですが、そこまで大きな差異では無いですね。

加えて、以前取り上げた際の計算はあくまでも理論的な計算による結果であり、今回取り上げたのは実験結果です。実際には、この程度の違いしか無いって事なんでしょうかね~。更に、以前の計算はあくまでも すすぎ液中の洗剤濃度ですが、今回は衣類上の洗剤濃度そのものズバリですね。そこいらの違いは有るのかな~と思いますね。まあ、そんな感じですが 溜めすすぎでも連続すすぎでも水量が多くなってくると ほぼほぼ同じ洗剤濃度になりますよね。




✔ 温度の影響  Effect of Water Temperature

参考書籍では、すすぎ時の水温についても言及されていて、「水の温度が高いほうがすすぎ後の洗剤濃度が低くなる」との事です。本洗いで温水を使っても、すすぎの時にも使うってのはなかなか考えつきませんね。ですが、参考書籍の実験結果を見ると明らかに温水すすぎの方が洗剤濃度が低いですね。温水の方が洗剤溶解度が高いとか、洗剤成分の拡散係数が大きいとかが有るのかなと思いますね。

✔ 節水方法 Water Amount Saving


参考書籍にはすすぎにおける節水方法についても触れられていますね。それによると、「同じ水量ですすぐ場合、1回で全水量を使うよりも 何回かに分けてすすぐ方が良い」と言うものです。簡単に計算してみると下図のとおりですね。ただし、ここでの無次元濃度は すすぎ液中の洗剤濃度です。前述の濃度は全部 衣類上の洗剤濃度なんで厳密には違いますね。ですが、すすぎ液中の洗剤濃度は衣類上の洗剤濃度と同じ傾向を示すので、間接的では有りますが分割による効果の程度を把握出来ますね。そして、何故 複数回に分けてすすぐ方が良いかと言えば、その都度 汚れた水を全部 捨ててしまうからですね。そして、新たにキレイな水を投入しますから効率良くすすぎが出来ると言う訳です。




脱水  Dehydration 


前述のように、脱水の効果については以下の3つが有るとされています。脱水と言うと、乾燥する前に出来るだけ水を絞っておくって事なのか?と思えますが、すすぎにも影響が有るんですね。

① すすぎ後の汚れや洗剤成分を出来るだけ脱水しておくのが効果的
② 溜めすすぎでは液を換えるたびに脱水するのが効果的
③ 最後の脱水は乾燥の速さや仕上がりに影響する


✔ 脱水の方法  Dehydration Method


で、脱水方法ですが 簡単なのが手で絞るですね。それ以外であれば、ローラー絞りや遠心脱水があります。それらの脱水方法の効果については、参考書籍に記載されています。含水率の上下限をグラフにしてみました。

  • 押し絞り  Press Squeeze
  • ねじり絞り Twisted Squeeze
  • 包み絞り  Wrapping & Squeeze
  • ゴムローラー手動  Manual Rubber Roller 
  • 家庭用 遠心脱水機 1500 [rpm] Home Centrifugal Dehydrator
  • 工業用 遠心脱水機 1450 [rpm] Industrial Centrifugal Dehydrator 

まあ、遠心脱水機を使用するほうが脱水後の含水率は低いですね。因みに、ここでの含水率は 100[%] を超えているので乾量基準だと分かります。遠心脱水機でグイーっと脱水しても、木綿 95[g] は 水分 43 [g] ほどを含みますね。これ以上は乾燥によって水分を除去する必要がありますね。因みに、木綿 95 [g] はどれくらいの面積になるのかと思ってネットで調べてみました。生地の単位体積当たりの重量は、「目付け」と言うそうです。調べた範囲では、木綿だと 100 ~ 200 [g/m2] くらいでした。となると、面積は 0.95 ~ 0.475 [m2] ですね。生地の形状を正方形とすると □ 975 ~ 689 [mm] ですね。更に因みに 目付けの単位として 「オンス パー スクエア ヤード」 [oz/yd2] も使われるようですね、例えば Tシャツとかだと。100 [g/m2] は 2.95 [oz/yd2] ですが、これは薄手のTシャツ生地なんだそうです。う~ん、繊維業界の用語なども欧米から来たのが多いので、こんな単位になるんですかね。21世紀なので SI単位で統一して欲しいですね。  





また、脱水時間ですが 遠心脱水では 30秒から1分間で含水率は急激に低下し、その後はあまり変化しないとの事です。なので、それ以上 やってもあまり意味が無いですね。
それと、絹や毛などはタオルなどの吸水性の良い布で包んで押しつけて水分をタオルに移行させる方法が良いとの事です。ポリエステルなどの疎水性の布では脱水はしやすいですが、あまり脱水させるとシワになります。なので、ある程度で脱水を止めて乾燥させるほうがシワになりにくいそうです。


まとめ  Wrap-Up

今回は洗濯におけるすすぎと脱水について取り上げました。洗濯と言うと、本洗いと乾燥が特に注目されますが、すすぎと脱水も結構 大事ですね。すすぎの方法は節水の観点から重要ですし、溜めすすぎ時における脱水の有無は 速やかにすすぎを行なう上でも重要ですね。また、脱水については次の乾燥に要する時間にも大きく影響しますね。特に乾燥機を使用する場合には、エネルギー消費量の大小を左右しますね。脱水機については、ケミカルプラントにおいても時々見かけますね。例えば、スクリューデカンターとか。まあ、大型の量産用機器となれば専門のメーカーさんに機種選定やら設計を依頼しますけども。

韓国に住んでいた際には毎週洗濯をしてましたんで、もちろんすすぎとか脱水もしますよね。まあ、洗濯機まかせでは有ったんですが。で、「すすぎにも温水を使うほうが良い」ってのは何となく思ってましたね。基本 各家庭にはオンドル用のそれなりの容量のLNGボイラが設置されており、洗濯機にも冷水と温水が供給可能となっています。そんな訳で、本洗いもすすぎも冷水と温水の同時供給でした。真冬でもあっても、まあ ぬるま湯くらいでしょうか。確かすすぎは2回だったと思いますが、本洗い → 排水 → 溜めすすぎ 1回目 → 排水・脱水 → 溜めすすぎ 2回目 → 排水・脱水 と言う流れでしたね。すすぎ 2回目 で十分にすすぎ液はキレイな感じでしたね。洗濯後にはベランダで干しますが、洗剤残りがしている感じは有りませんでしたね。まあ、柔軟剤とかを投入しているんで その匂いはするんですけども。そんな感じで今にして思えば、温水すすぎはそれなりに効果は有ったんだな~と思います。

それはそれで良いんですが、真冬に温水を使う訳なんですが、洗濯機スペース (半畳ほど)の壁とか窓に結構 結露するんですね。んで、壁にコンセントが有って洗濯機の電源プラグをさしてますが、「大丈夫かな~」とか思ってました。さすがに漏電するような事はありませんでしたけども、黒カビが発生するんですね 特に壁のカドの部分とかに。カビキラー的なもので対策してましたが結構面倒くさかったですね。などと言う事をふと思い出しました・・・。


参考書籍・文献  References

  1. 「洗剤と洗浄の科学」 中西 茂子 コロナ社 1995年刊
  2. 「実用洗たくにおけるすすぎに関する研究」 繊維製品消費科学 第12巻 第7号 1971年











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