今回は回転真空ろ過器 Rotary Vacuum Drum Filter について取り上げます。ろ過 filtration は固液分離操作 Solid - Liquid Separation ですが、スラリーをろ布、ろ紙、金網、膜等に通過させて ろ液と固体粒子とに分離します。気体中の固体粒子を分離する場合にもろ過と言う場合もありますが、こちらは集塵 Dust Collection と呼ぶ方が一般的かなと。粉体工学用語辞典によれば、固体濃度 1 [vol%] 以上の場合は ケークろ過 Cake Filtration で、0.1 [vol%] の場合は清澄ろ過 Clarifying Filtration となります。
んで、この回転真空ろ過器ですが、粉体工学会の粉体工学用語辞典には以下のように記載されています。
連続ろ過器(濾過器)の中で最も広く利用されている多室円筒型真空ろ過器(多室円筒型真空濾過器)の一種。連続ろ過器の元祖であり,はじめ選鉱関係で使用された。周囲が多数の小ろ過室に分割されたろ過円筒を液面が一定に保たれた原液槽に浸して回転させ連続真空ろ過を行う。円筒の回転数は通常 1/3 〜 3 rpm 程度である。
まあ、構造は後述しますが なかなか良く考えられていますね。ろ過って言うとバッチ式を思い浮かべますが連続式にする事で処理量を大幅に増加出来ますし、操作もラクになります。勿論、スラリーの供給やらケークのハンドリングやら面倒臭い事はあるんでしょうけど。
回転真空ろ過器 Rotary Vacuum Drum Filter
✔ 構造と機能 Structure and Function
まあ、ネットを見ると それこそ山のように関連記事が見つかりますね。製作しているベンダーさんも多いですね。とは言っても一応は構造と機能について見ておきます。
下図はろ過器の断面図ですね。回転円筒の表面にろ布が張ってありますね。下図は多室型で円筒がいくつかのろ過室に分けられています。ろ過室が1つしか無い単室型もありますね。で、そのろ布が張られた円筒がスラリーが溜まった容器に1/3くらい浸った状態で回転しています。で、各ろ過室は減圧状態になったり加圧状態になったり出来る構造となっています。
ろ布がスラリーに浸っている時、そのろ過室は減圧状態になります。なので、スラリー中の懸濁固形分がろ布表面に堆積しますね (定圧ろ過)。で、更に回転していくと スラリーから空気中に露出します。そうなるともうろ過は行なわれませんが、ここでケークをスプレー水で洗浄します。この時も減圧状態ですね。で、更に進むと 今度はろ過室内は加圧状態となりろ布表面からケークが剥離され、その先にはスクレーパーが有るのでケークは剥ぎ取られ 無事ろ過終了となりますね。即ち、円筒1回転で ろ過 → 水洗 → 脱水 → 剥離が行なわれるんですね。うーん、良く考えられています。構造についてはもっと細かくイロイロと有りますが、まあ基本的な構造はこんな感じかなと。各ろ過室を回転位置に応じて減圧と加圧を切り替えるところが肝なのかなと思います。このタイプのろ過器は オリバーフィルター Oliver Filter と呼ばれます。因みに、回転円筒を回転円板にしたろ過器もありますね。これはアメリカンフィルター American Filter と呼ばれますね。
✔ 設計 計算式 Design Calculation Equations
設計に使用する計算式ですが、このろ過器では定圧ろ過を行なうので Ruth のろ過速度式 Ruth's Filtration Rate Equation を適用する事が出来ます。いろいろと前提やら何やら有りますが、結局は以下のとおりです。
下図上段部分は一般的なろ過速度式です。単位面積当たりのろ過流量 q は式①で表わされます。見て分かるように微分方程式になってますね。なので、ある時間θ 経過した時のろ液量 V は式①を積分する事によって得られますね。
で、下図下段部分は 定圧ろ過の場合ですが、ケークの平均ろ過比抵抗 α と 湿乾質量比 m のどちらも一定の条件で式①を積分すると式③が得られますが、これが Ruth のろ過速度式です。で、この式③を見ると Vm が含まれていますが、これはろ材の抵抗に相当するケークの抵抗となります。また、式④には平均ろ過比抵抗 α が含まれています。で、Vm と α はろ過実験して決定する必要が有りますね。確かに、密度とか粘度とかの物性は分かってますし、付加する圧力とかも自分で決定出来ますね。で、不明なのがろ材の抵抗とかケークの抵抗なんで こればっかりは実験的に決定する必要が有る、と言う事でしょうか。
で、普通の定圧ろ過であればこれで良いですが、回転ろ過器なのでその辺りを考慮した形にしておく必要があります。回転式なのでドラムがドボンとスラリーに浸ってからジャバっと出てくるまでの時間においてろ過が進行しろ液が得られます。この場合のろ過時間θ は式⑥となりますが、これは定圧ろ過速度式③に基づいています。式⑥には A・F が含まれますが F はドラムの浸せき比率です。全部浸ってる訳では無いので、ドラム面積に比率Fを掛け算して実ろ過面積とします。
また、式⑥中に含まれるVm はろ材抵抗 Rm と式⑦に示す関係に有ります。この式⑦を式⑥に代入して式⑧が得られます。これで、ろ過時間とろ液量との関係が計算出来ます。ですが、ドラムは回転しているので 回転数 N を考慮すれば単位時間当たりのろ液量を計算する 式⑧が得られます。
計算例 Examples
✔ 計算条件 conditions
- ろ過面積 0.008 [m2]
- ろ液量 ろ過開始から5分間で 250 [mL]、続く 5分間で 150 [mL]
そして、実機ろ過器の運転条件・仕様は以下のとおりです。この条件に基づいて必要なろ過面積を求めます。
- 回転数 0.2 [rpm]
- 浸せき比率 0.3 [ - ]
- ろ過圧力 66.7 [kPa]
- ろ液 水 20 [℃]
- ろ液量 2.0 [m3/hr]
✔ 定圧ろ過係数 K 、ろ材抵抗 Rm Constant Press. Filtration Coefficient K, Media Resistance Rm
まずは、試験結果からろ過係数とろ材抵抗の定数部分を計算します。定圧ろ過速度式③に値を代入して解けば良いですね、EXCEL で。得られた Vm と K の値は以下のとおりです。まあ、この値だけを見ても大きいのか小さいのかピンとこないですね・・・。
- ろ材抵抗に相当する仮想ろ液量 Vm 1.75×10^-4 [m3]
- ろ過抵抗係数 K 7.81×10^-6 [m3/s]
✔ ろ過面積 Filtration Area
そして、上記の値を使ってろ過面積を計算しますが、式⑩に代入すれば良いですね。なんですが、式中には Rm が有りますが 得られているのは Vm なので式⑦を使って 変換する必要が有ります。今回は、ろ過試験における圧力p は同じですし、更にろ液も水で同じなんで粘度 μ も同じですね。なので、この部分については特に考慮する必要は無いですね。で、最終的にろ過面積は 以下のように求められます。で、例えば直径 1500 [mm] のドラムを想定すると以下の寸法となりますね。ドラム L/D は 1.89 と少し細長い感じですが、こんなもんでしょうか。
- ろ過面積 A 13.3 [m2]
- ドラム径 D 1,500 [mm]
- ドラム長 L 2,830 [mm]
- ドラム比 L/D 1.89 [ - ]
図にしてみると下図のとおりです。ネットで見る画像もこんな感じなんであまりおかしくは無いのかな~と。
✔ 回転数の影響 Effect of Rotation Speed
せっかくなんで回転数を変えて計算してみました。処理能力が上がるので必要なろ過面積は減少するとは思いましたが、それほどには影響は無いんですね。この場合がそうなのか、それとも一般的にこんなものなのかは分かりませんけど。既設ろ過器の処理量を一時的に上げて対応するってのは出来そうですけど、そうするとケークの水洗が不十分になったりとか、ケークの回収が影響を受けたりとかが有るのかなと思いますね。
まとめ Wrap-Up
今回は連続式ろ過器である回転真空ろ過器について計算してみました。ろ過試験の結果を使ってろ過面積が決定出来ますね。ろ過面積が決まれば上記のようにドラムの寸法なども決定できますね。まあ、プラントに設置するような規模の大きなろ過器であれば 専門メーカーに仕様決定・製作と据付までを依頼する事になるのかなと思いますね。ろ過とかなるとそれなりに大変そうですしね。ろ過しやすいモノであれば良いですがコロイド状であるとか圧縮性が強くケークが形成されるようであれば、そうそう簡単には行かないのかなと。
冒頭でも触れたようにろ過装置については実務でもほとんどやった事は無いですね~。ポリマーフィルターの仕様検討と言っても、要は圧力損失計算でしたし。んでも、ポリマープロセスでも乳化重合とかであれば 相当量の排水が出てきますし、その排水中には凝集物なども含まれているんでろ過器でろ過してたのかなとは思いますが、付帯設備については検討した事は無いですね。排水と言えば、韓国企業に居た際には活性汚泥設備には行ったことが何回かありましたね。ちゃんと担当者が居て汚泥の状態を管理してました。まあ、当たり前でしょうけど。プラントの裏手と言うか割りかし外れの方に位置していましたが、そこら辺に行くとやはりニオイがするんですね。だいぶ対策などもして、勤務している間には臭気についてはだいぶ改善されたように感じていましたけど。
参考書籍・文献 References
- 「第3版 化学工学 解説と演習」 槇書店 2006年刊
- 「化学工学 II」 岩波書店 1963年刊
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